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故郷へ向かう旅
Ep.2 ラントの町/(2)
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ひとまず乾杯をし、喉を潤す。
こういった店はわからないからと、料理を選ぶのを任されたので、定番の品から人気の品まで種類を多めに頼んでおいた。貴族さん方の口に合うのかとちょっと心配したが、二人とも美味しそうに食べているようで安心した。
皆、町を見て回るうちにすっかり敬語も無くなったし、愛称で呼び合うのも慣れてきたようだ。
クリスとルイを見ると、それぞれ別のヤツと話している。不安も解けてきたのだろう。さりげなく混ざって話しかけてみる。
「そういや、酒は飲まないのか?」
さっき、酒ではないものを、と頼んでいたのが気になっていた。
「飲んだ事がなくて。まだ二十歳になったばかりだから」
「今までも飲んでなかったのか?」
「ああ。私の国ではお酒が飲めるのは二十歳からなんだ」
「へぇー。この国じゃ15でも飲むぜ」
「まぁ、これも充分に美味しいよ」
そう言って、葡萄のジュースの入ったコップを掲げて見せる。てか二十歳か。俺と同い年なのにもっと若いように見えるな。
「まぁ、女だてらに強い酒を浴びてるようなヤツもいるけどな」
「可愛げがないとか言いたそうだな」
別の方向から、笑いながらもトゲのあるセリフが、視線と一緒に飛んできた。しっかり聞かれていたらしい。
「あんたはとびっきりの美人なんだから、それでいいんだよ」
声が来た方を見遣りながらそう言ってニッと笑って見せると、一瞬きょとんとした様な表情をした顔が緩やかに崩れた。
「お前は口が上手いな」
目を細めて笑みを浮かべながら火酒を口元に運ぶ仕草に、少しだけ胸の鼓動が高鳴った。
「初心者向けの酒はあるかい??」
リーダーが給仕を呼んで尋ねている。さっきの会話を聞いていたらしい。
「お酒に慣れない方には甘めのワインなどをお勧めしますね。あと丁度出来たばかりのヤマモモのお酒がありますよ」
ヤマモモの酒は聞いたことがない。曰く、良く家庭で漬けられる甘い果実酒で、酒屋などではあまり売られないので見かけないのだろうと。この店では店主の手製のヤマモモ酒が振る舞われるが、無くなったら仕舞いの、この時期だけのものだそうだ。
「いいね。無理強いはしないが、試してみないかい?」
皆も一緒にと、ちょっと遊び心を込めるように、リーダーが言った。
給仕が氷の入った7人分のコップと、それぞれヤマモモ酒と水の入った水差しを持ってきた。好みの濃さになるように、水で割って飲むらしい。
試しにそのままで少し飲んでみる。コップを口元に持っていくと、それだけでヤマモモの甘い香りが上がってくる。口に含むととろけるような甘さが広がった。
甘さも強いが酒精もそれなりに強い。俺にはこの酒精がちょっと強く、それでもこの甘さで飲み過ぎてしまいそうで危険だ。
「……これは、大分甘いな……」
甘い酒は苦手なのだろうか。アッシュは少し眉をしかめた。メルはむしろ気に入ったのか、氷を入れただけのヤマモモ酒の香りをひとしきり愉しんでいるようだ。
「これは割った方がいいぜ」
他のメンバーには水で割ったものを渡し、自分のコップにも水を差した。
今さら割っても酒精の量は変わらないが、一口で飲み過ぎてしまうような事は少しは避けることが出来る。
程よい甘さの酒はおおむね好評だったようだ。女たちはヤマモモ酒を買って帰りたいらしく、アッシュが皆の分を頼みに店主の元に話しに行き、希望者分の革水筒を手に戻って来た。
* * *
料理も酒も美味かったし、皆との会話も楽しかった。今日だけでこの面子とは、大分仲良くやれるようになったんじゃないかと思う。昨日の顔合わせの時を思うと、皆の表情が全然違うしな。
宿に向かう路程で、気付かぬうちに横に来ていた紅榴石の瞳が俺を横目で見て小声で言った。
「今日はありがとうな」
……ずりぃな。不意打ちだ。胸に何かがこみ上げる。何と返事していいかわからず、ただ頭を掻きながら余所に視線をずらし、照れ臭い風を装った。
俺はここにいる皆ほどは強くはない。闘技大会でも4位の成績で、このパーティーに選ばれるにはぎりぎりの成績だった。
「サポーターとして彼はとても優秀です。この旅では必要な人材だと思います」
そう進言して俺を選んでくれたのはこの人だ。
強敵に立ち向かうような時には、俺は皆ほど役に立たないかもしれない。でも旅に必要なのはそれだけじゃないと、そう言ってくれた。
だから俺は俺のできる事を精一杯しようと思う。その為にここに居ると思っている。俺が皆の間でムードメーカーを演じた事も、これが俺の役目だと思ってやった事だ。
でもまた今日もちゃんと俺の事を見ていてくれた。
ああ、もう! こいつは本当にバカじゃねぇのか? 俺なんかを喜ばせても何もないだろうに!
「今日は楽しくて、ちょっと飲み過ぎたかもなぁ」
視線を逸らせたまま、そう呟いて見せる。夜の風が熱い頬にあたる。顔が赤くなっていたら酒の所為にしよう。
「早く宿に戻って、明日の為にしっかり休もうぜ」
そう言いながら少し歩を早めると、そうだなと言う声と一緒にくすりと笑ったのが耳に届いた。
それには気付かない振りをしておいた。
====================
(メモ)
お酒の飲める歳(#13)
こういった店はわからないからと、料理を選ぶのを任されたので、定番の品から人気の品まで種類を多めに頼んでおいた。貴族さん方の口に合うのかとちょっと心配したが、二人とも美味しそうに食べているようで安心した。
皆、町を見て回るうちにすっかり敬語も無くなったし、愛称で呼び合うのも慣れてきたようだ。
クリスとルイを見ると、それぞれ別のヤツと話している。不安も解けてきたのだろう。さりげなく混ざって話しかけてみる。
「そういや、酒は飲まないのか?」
さっき、酒ではないものを、と頼んでいたのが気になっていた。
「飲んだ事がなくて。まだ二十歳になったばかりだから」
「今までも飲んでなかったのか?」
「ああ。私の国ではお酒が飲めるのは二十歳からなんだ」
「へぇー。この国じゃ15でも飲むぜ」
「まぁ、これも充分に美味しいよ」
そう言って、葡萄のジュースの入ったコップを掲げて見せる。てか二十歳か。俺と同い年なのにもっと若いように見えるな。
「まぁ、女だてらに強い酒を浴びてるようなヤツもいるけどな」
「可愛げがないとか言いたそうだな」
別の方向から、笑いながらもトゲのあるセリフが、視線と一緒に飛んできた。しっかり聞かれていたらしい。
「あんたはとびっきりの美人なんだから、それでいいんだよ」
声が来た方を見遣りながらそう言ってニッと笑って見せると、一瞬きょとんとした様な表情をした顔が緩やかに崩れた。
「お前は口が上手いな」
目を細めて笑みを浮かべながら火酒を口元に運ぶ仕草に、少しだけ胸の鼓動が高鳴った。
「初心者向けの酒はあるかい??」
リーダーが給仕を呼んで尋ねている。さっきの会話を聞いていたらしい。
「お酒に慣れない方には甘めのワインなどをお勧めしますね。あと丁度出来たばかりのヤマモモのお酒がありますよ」
ヤマモモの酒は聞いたことがない。曰く、良く家庭で漬けられる甘い果実酒で、酒屋などではあまり売られないので見かけないのだろうと。この店では店主の手製のヤマモモ酒が振る舞われるが、無くなったら仕舞いの、この時期だけのものだそうだ。
「いいね。無理強いはしないが、試してみないかい?」
皆も一緒にと、ちょっと遊び心を込めるように、リーダーが言った。
給仕が氷の入った7人分のコップと、それぞれヤマモモ酒と水の入った水差しを持ってきた。好みの濃さになるように、水で割って飲むらしい。
試しにそのままで少し飲んでみる。コップを口元に持っていくと、それだけでヤマモモの甘い香りが上がってくる。口に含むととろけるような甘さが広がった。
甘さも強いが酒精もそれなりに強い。俺にはこの酒精がちょっと強く、それでもこの甘さで飲み過ぎてしまいそうで危険だ。
「……これは、大分甘いな……」
甘い酒は苦手なのだろうか。アッシュは少し眉をしかめた。メルはむしろ気に入ったのか、氷を入れただけのヤマモモ酒の香りをひとしきり愉しんでいるようだ。
「これは割った方がいいぜ」
他のメンバーには水で割ったものを渡し、自分のコップにも水を差した。
今さら割っても酒精の量は変わらないが、一口で飲み過ぎてしまうような事は少しは避けることが出来る。
程よい甘さの酒はおおむね好評だったようだ。女たちはヤマモモ酒を買って帰りたいらしく、アッシュが皆の分を頼みに店主の元に話しに行き、希望者分の革水筒を手に戻って来た。
* * *
料理も酒も美味かったし、皆との会話も楽しかった。今日だけでこの面子とは、大分仲良くやれるようになったんじゃないかと思う。昨日の顔合わせの時を思うと、皆の表情が全然違うしな。
宿に向かう路程で、気付かぬうちに横に来ていた紅榴石の瞳が俺を横目で見て小声で言った。
「今日はありがとうな」
……ずりぃな。不意打ちだ。胸に何かがこみ上げる。何と返事していいかわからず、ただ頭を掻きながら余所に視線をずらし、照れ臭い風を装った。
俺はここにいる皆ほどは強くはない。闘技大会でも4位の成績で、このパーティーに選ばれるにはぎりぎりの成績だった。
「サポーターとして彼はとても優秀です。この旅では必要な人材だと思います」
そう進言して俺を選んでくれたのはこの人だ。
強敵に立ち向かうような時には、俺は皆ほど役に立たないかもしれない。でも旅に必要なのはそれだけじゃないと、そう言ってくれた。
だから俺は俺のできる事を精一杯しようと思う。その為にここに居ると思っている。俺が皆の間でムードメーカーを演じた事も、これが俺の役目だと思ってやった事だ。
でもまた今日もちゃんと俺の事を見ていてくれた。
ああ、もう! こいつは本当にバカじゃねぇのか? 俺なんかを喜ばせても何もないだろうに!
「今日は楽しくて、ちょっと飲み過ぎたかもなぁ」
視線を逸らせたまま、そう呟いて見せる。夜の風が熱い頬にあたる。顔が赤くなっていたら酒の所為にしよう。
「早く宿に戻って、明日の為にしっかり休もうぜ」
そう言いながら少し歩を早めると、そうだなと言う声と一緒にくすりと笑ったのが耳に届いた。
それには気付かない振りをしておいた。
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(メモ)
お酒の飲める歳(#13)
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