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第八章

閑話10 収穫祭と精霊様(ハロウィン閑話)(前編)

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※この閑話の時系列は本編より前で、三章のと四章の間くらいになります。ご承知おきください。

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 秋は収穫の季節だ。この時期に祭りをする風習のある国は多い。
 ただ、ジャウマさんたちによると、今回訪れたこの国の収穫祭は、他の国の収穫祭とは一風変わっているのだそうだ。

 国中のそれぞれの町の中心部に飾られるのは、野菜で作った案山子だ。これは恵みの神のモチーフで、その年の収獲で一番大きく実った野菜や果実が頭に使われる。大抵はカボチャかカブになる。
 そしてその収穫祭飾りを目掛けて、恵みの神の眷属けんぞくである精霊たちが町に集まってくる。この精霊たちを驚かせないようにもてなすのが、収穫祭のもう一つのメインイベントなのだそうだ。

 収穫祭の日、昼間は収穫祭飾りを中心に屋台が広げられ、その年の収穫物を皆で味わって楽しむ。
 精霊たちが遊びにやってくるのは、夕方薄暗くなってからだ。
 子供の背丈ほどしかない精霊様は、人間に正体がバレることを好まない。なので夕方以降、町の子供たちは全員が仮装をする。ある子は仮面をかぶり、ある子は顔がわからなくなるほど化粧をする。
 そして正体を隠した子供たちは、グループになって町中を周り、住人の家の扉を叩くのだ。

 この時、グループの人数を数えてはいけない。こっそり精霊様が混ざっているから、知らんぷりをしないといけない。
 扉を叩かれた家の者は、訪れた子供たちに平等に菓子を振る舞わなくてはいけない。子供たちの中にこっそりと混ざっている本物の精霊様にお供えのお菓子を渡せるように。


 なるほど。だから先日の町で、新しくアリアちゃんの服を選んでいたのか。そう思ったら、選んでいたのはアリアちゃんの服だけではなかったらしい。

「はい、ラウルおにいちゃんはこれね!」
 アリアちゃんはニコニコと笑いながら、僕にカラフルな服を差し出した。
「ええ? 僕も?」

「ああ、去年まではアリア一人じゃ家巡りに参加させられなくってなー。でも今年はラウルが居るもんな」
 ねーと顔を見合わせて笑う、アリアちゃんとヴィーさん。

「ええ?? でも、僕はもう成人してますから、子供じゃあないですよ」
「ちょっと大きい子供が付き添いで参加するのはよくあることだから気にするな。それに、ラウルは16歳には見えねえしな!」
 ……それは少なくとも褒め言葉じゃあない。

 でもまあ、アリアちゃんはかなり楽しみにしていたようだし、ここで断ってアリアちゃんを泣かせる方が嫌だ。
 そう思って、そのカラフルな服を手に取った。

 * * *

「……本当にこれで行くの?」
 僕の身を包むのは、カラフルなゆったりとしたツナギの衣装。さらに首に緑色のスカーフを巻かれ、ヴィーさんの手で笑い顔のような化粧を施された。
 恥ずかしいので仮面をかぶりたいという要望は却下された。収穫祭のルールで、外部からの参加客は仮面などで完全に顔を隠すのはダメなんだそうだ。

 対してアリアちゃんの衣装はものすごく可愛い。黒と紫色の配色のフリルたくさんのドレスを着ていて、さらに猫の耳と尻尾を付けている。兎の耳と猫の耳が並んでいるけれど、可愛いので気にならない。さらに、肩に猫のぬいぐるみを載せ、手にしているのは魔法の杖らしい。


 夕方の鐘の音を合図に、町の中央の収穫祭飾りの周りに子供たちが一度集まる。皆、仮面をしているか化粧をしていて、誰が誰だかわからない。
 案内役の大人が、子供たちをある程度の人数でグループにして、順に町へと送り出していく。僕たちは三番目のグループに入れられた。

 グループ毎に回る地域が決まっているそうで、僕らのグループは一番門に近い地域だった。
 慣れた様子で、仮面を被った子供が割り当ての家を目指す後から付いていく。家の扉をノックすると、子供たちは「こんばんはー」と可愛く声をそろえた。

 その声を待ち構えていたかのように、内から扉が開けられる。
「こんばんは、精霊さんたち」
 優しそうな夫人はそう言うと、手にした大きめの籠から、可愛い模様の袋に入れられた菓子を、子供たちに順に手渡していく。

 他の子と同じようにアリアちゃんにも手渡すと、最後に僕にも差し出した。
「あ、いや! 僕はこの子の付き添いなので」
 そう言って断ると、一瞬きょとんとした夫人はすぐににっこりとまた笑顔になった。
「旅人さんね。いいのよ、ここに居るのは皆が精霊さんかもしれない方々なんだから。同じようにお菓子を受け取って。付き添いだとか、正体がわかることを言っちゃダメよ」
 そうして、僕の手にお菓子の袋を置いた。

 ああ、そうだった。そういうお祭りだったっけ。お礼を言って受け取った。本当はもう子供じゃないし、ちょっと恥ずかしい。でも町の大人たちの、子供たちへの優しさがほっこり温かく、胸に染みた。
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