上 下
62 / 135
第六章

6-3 人違い

しおりを挟む
 建物の中に入ると、正面には受付カウンターがずらりと並んでる。今まで見てきた町の冒険者ギルドでは、多くても3つしかなかったカウンターがここでは10近くもある。

 「ここは中級から上級の冒険者の為のギルドだ。他の二つの建物は初心者向けと、採集依頼用になっている」
 ジャウマさんの説明を聞きながら、建物内を見回した。
 
 壁際に据えてある依頼掲示板もかなり大きい。その大きな掲示板に熟練らしい冒険者たちが群がっている。
 代わりにというか、他の町の冒険者ギルドにはあったような、テーブル席がとても少ない。
 ふた回りほど見回して気がついた。このギルド内では飲食をしている人がいないんだ。どうやらここは仲間との打ち合わせをしたり、人を待ったりする為だけの席らしい。

 他のたくましい冒険者たちに混ざって掲示板を眺めるジャウマさんとヴィーさんから少し離れて、待ちのテーブルに着くと、クーも足元に大人しく身を伏せた。


 しばらく待っていると、ジャウマさんたちは一枚の依頼票を持ってやってきた。
「今日は無理をせず、俺たちが何度か入ったことのあるダンジョンに潜ろう」
「は、はい!!」
 見せられた紙を見ると、目的地にダンジョンの名前が書いてあるが、討伐対象の魔獣の名前は無い。
「ああ、ここではどの魔獣討伐も調査という名目になっているんだ」

 町や村などの人の住む場所の近くに出現する魔獣と違い、ダンジョンに生息する魔獣が人の生活を脅かす心配はない。しかもダンジョンの魔獣がそこから出てくることはほとんどないのだそうだ。
 だからダンジョンの魔獣を狩るのは『討伐』なのでなく『調査』という理由になっているのだと。
 そしてその『調査』の対象は『ダンジョン内の全ての魔獣』。だから、対象名は不要なのだそうだ。


「よお! 新しいダンジョンを見にいったと聞いていたが、もう戻っていたのか。どうだった?」
 依頼票を覗き込んでいた僕らに、声がかかった。でも知らない声だ。
 その声の主である戦士風の男に肩を叩かれたジャウマさんが振り返ると、彼はやけに驚いたような顔をした。
「あ、ああすまん! 人違いだった。てっきり俺の友人かと思って……」

「こいつと間違えるとはな。でもそのダチは流石にこんな筋肉ダルマじゃねえだろう?」
 慌てる男にむけて、ヴィーさんが笑って言ってみせる。
「ヴィー、筋肉ダルマとは失礼な言いぶりだな」
「本当のことじゃねえか」
「お前がひ弱でひょろいだけだろう?」

 二人はそう言い合うけれど、ジャウマさんの筋肉はダルマなんていうほどには付きすぎてはいないし、むしろ逞しくてかっこいい。ヴィーさんも決してひ弱ではなくて、洗練された筋肉がついている感じだ。ひ弱というのなら、それは僕のことだろう。

「あっはっは。いやすまん。でも背格好はよく似ているし、そいつも赤毛だからなぁ」
「なるほど、そりゃあ間違えても仕方ねえよな」
 ヴィーさんとそんな風に笑い合っていた戦士風の男は、何かに気付いたように手を挙げた。
「お、カルロ! こっちだ!!」
 その声に呼ばれた男がこちらに歩いてくる。確かに…… これは見間違えても仕方ないだろう。

 カルロと呼ばれた赤毛の戦士の背格好は、確かにジャウマさんとほぼ変わらない。そして彼もジャウマさんと同じ赤毛で、比べるなら彼の方がちょっと髪が短い。
 気のせいか、顔つきもなんとなく似ている気がする。年頃も同じくらいだろう。付き合いのある人なら間違うことはなくても、久しぶりに会った人なら戸惑ってしまうだろう。

「さっき、俺がカルロと間違えてちまってさ。えーっと……」
 男はそう言って、ジャウマさんの方を見た。
「ジャウマだ。こいつらはヴィジェスとラウル。今日この町に着いたばかりだ」
「俺はブラド。んでこっちがカルロだ」
 互いに握手を交わす。僕も二人に倣って握手をする。皆と違って僕の手だけ小さくて弱弱しくて、ちょっとだけ気恥ずかしくなった。

「やっぱ似てんな。実は親戚だったりしないか?」
 面白がったヴィーさんとブラドさんが、二人を並べて立たせている。

「ああ、俺は孤児だったからな。家族や親類はわからないんだ」
 ジャウマさんが笑うように、軽く言う。
「そうなのか。じゃあ、もしかするかもしれないな」
 カルロさんは、笑ってジャウマさんの肩を叩いた。

「ところで、カルロはガタイがいいわりに軽装だな。前衛じゃねえのか?」
 ヴィーさんがカルロさんの装備をじろじろと見回しながら言う。
 それは僕も思った。どちらかというと、カルロさんよりもブラドさんの方が前衛らしい重装備をしている。
「ああ、俺は魔法戦士なんだ」

 魔法戦士は、魔法による攻撃と武器による攻撃を駆使して戦うのだと、聞いたことがある。ことがある、というのは、見るのは初めてだからだ。ただ魔法も使える戦士、というだけでは魔法戦士とはいえない。魔法戦士の適性がある者は本当に少ないらしい。

「体を動かすのも得意なんだが、生まれつき魔力が高くてな。周りの勧めで、魔法も習得したんだ」
 話の終わり際、カルロさんを呼ぶ声が聞こえ、彼はそちらの方を見た。
「と、しばらくこの町にいるんだろう? また会おう」
「ああ、またな」
 カルロさんとブラドさんが去り際に挙げた手に、ジャウマさんは同じように手を挙げて応えた。


「よっし、俺らもダンジョンに行こうぜ!」
 ヴィーさんの声で、僕らも冒険者ギルドを後にする。
 冒険者ギルドを出る時になんとなく気になって後ろを振り向くと、向こうの壁際で他の人たちと談笑しているカルロさんたちの姿が目に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

処理中です...