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第六章
6-3 人違い
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建物の中に入ると、正面には受付カウンターがずらりと並んでる。今まで見てきた町の冒険者ギルドでは、多くても3つしかなかったカウンターがここでは10近くもある。
「ここは中級から上級の冒険者の為のギルドだ。他の二つの建物は初心者向けと、採集依頼用になっている」
ジャウマさんの説明を聞きながら、建物内を見回した。
壁際に据えてある依頼掲示板もかなり大きい。その大きな掲示板に熟練らしい冒険者たちが群がっている。
代わりにというか、他の町の冒険者ギルドにはあったような、テーブル席がとても少ない。
ふた回りほど見回して気がついた。このギルド内では飲食をしている人がいないんだ。どうやらここは仲間との打ち合わせをしたり、人を待ったりする為だけの席らしい。
他の逞しい冒険者たちに混ざって掲示板を眺めるジャウマさんとヴィーさんから少し離れて、待ちのテーブルに着くと、クーも足元に大人しく身を伏せた。
しばらく待っていると、ジャウマさんたちは一枚の依頼票を持ってやってきた。
「今日は無理をせず、俺たちが何度か入ったことのあるダンジョンに潜ろう」
「は、はい!!」
見せられた紙を見ると、目的地にダンジョンの名前が書いてあるが、討伐対象の魔獣の名前は無い。
「ああ、ここではどの魔獣討伐も調査という名目になっているんだ」
町や村などの人の住む場所の近くに出現する魔獣と違い、ダンジョンに生息する魔獣が人の生活を脅かす心配はない。しかもダンジョンの魔獣がそこから出てくることは殆どないのだそうだ。
だからダンジョンの魔獣を狩るのは『討伐』なのでなく『調査』という理由になっているのだと。
そしてその『調査』の対象は『ダンジョン内の全ての魔獣』。だから、対象名は不要なのだそうだ。
「よお! 新しいダンジョンを見にいったと聞いていたが、もう戻っていたのか。どうだった?」
依頼票を覗き込んでいた僕らに、声がかかった。でも知らない声だ。
その声の主である戦士風の男に肩を叩かれたジャウマさんが振り返ると、彼はやけに驚いたような顔をした。
「あ、ああすまん! 人違いだった。てっきり俺の友人かと思って……」
「こいつと間違えるとはな。でもそのダチは流石にこんな筋肉ダルマじゃねえだろう?」
慌てる男にむけて、ヴィーさんが笑って言ってみせる。
「ヴィー、筋肉ダルマとは失礼な言いぶりだな」
「本当のことじゃねえか」
「お前がひ弱でひょろいだけだろう?」
二人はそう言い合うけれど、ジャウマさんの筋肉はダルマなんていうほどには付きすぎてはいないし、むしろ逞しくてかっこいい。ヴィーさんも決してひ弱ではなくて、洗練された筋肉がついている感じだ。ひ弱というのなら、それは僕のことだろう。
「あっはっは。いやすまん。でも背格好はよく似ているし、そいつも赤毛だからなぁ」
「なるほど、そりゃあ間違えても仕方ねえよな」
ヴィーさんとそんな風に笑い合っていた戦士風の男は、何かに気付いたように手を挙げた。
「お、カルロ! こっちだ!!」
その声に呼ばれた男がこちらに歩いてくる。確かに…… これは見間違えても仕方ないだろう。
カルロと呼ばれた赤毛の戦士の背格好は、確かにジャウマさんとほぼ変わらない。そして彼もジャウマさんと同じ赤毛で、比べるなら彼の方がちょっと髪が短い。
気のせいか、顔つきもなんとなく似ている気がする。年頃も同じくらいだろう。付き合いのある人なら間違うことはなくても、久しぶりに会った人なら戸惑ってしまうだろう。
「さっき、俺がカルロと間違えてちまってさ。えーっと……」
男はそう言って、ジャウマさんの方を見た。
「ジャウマだ。こいつらはヴィジェスとラウル。今日この町に着いたばかりだ」
「俺はブラド。んでこっちがカルロだ」
互いに握手を交わす。僕も二人に倣って握手をする。皆と違って僕の手だけ小さくて弱弱しくて、ちょっとだけ気恥ずかしくなった。
「やっぱ似てんな。実は親戚だったりしないか?」
面白がったヴィーさんとブラドさんが、二人を並べて立たせている。
「ああ、俺は孤児だったからな。家族や親類はわからないんだ」
ジャウマさんが笑うように、軽く言う。
「そうなのか。じゃあ、もしかするかもしれないな」
カルロさんは、笑ってジャウマさんの肩を叩いた。
「ところで、カルロはガタイがいいわりに軽装だな。前衛じゃねえのか?」
ヴィーさんがカルロさんの装備をじろじろと見回しながら言う。
それは僕も思った。どちらかというと、カルロさんよりもブラドさんの方が前衛らしい重装備をしている。
「ああ、俺は魔法戦士なんだ」
魔法戦士は、魔法による攻撃と武器による攻撃を駆使して戦うのだと、聞いたことがある。ことがある、というのは、見るのは初めてだからだ。ただ魔法も使える戦士、というだけでは魔法戦士とはいえない。魔法戦士の適性がある者は本当に少ないらしい。
「体を動かすのも得意なんだが、生まれつき魔力が高くてな。周りの勧めで、魔法も習得したんだ」
話の終わり際、カルロさんを呼ぶ声が聞こえ、彼はそちらの方を見た。
「と、しばらくこの町にいるんだろう? また会おう」
「ああ、またな」
カルロさんとブラドさんが去り際に挙げた手に、ジャウマさんは同じように手を挙げて応えた。
「よっし、俺らもダンジョンに行こうぜ!」
ヴィーさんの声で、僕らも冒険者ギルドを後にする。
冒険者ギルドを出る時になんとなく気になって後ろを振り向くと、向こうの壁際で他の人たちと談笑しているカルロさんたちの姿が目に入った。
「ここは中級から上級の冒険者の為のギルドだ。他の二つの建物は初心者向けと、採集依頼用になっている」
ジャウマさんの説明を聞きながら、建物内を見回した。
壁際に据えてある依頼掲示板もかなり大きい。その大きな掲示板に熟練らしい冒険者たちが群がっている。
代わりにというか、他の町の冒険者ギルドにはあったような、テーブル席がとても少ない。
ふた回りほど見回して気がついた。このギルド内では飲食をしている人がいないんだ。どうやらここは仲間との打ち合わせをしたり、人を待ったりする為だけの席らしい。
他の逞しい冒険者たちに混ざって掲示板を眺めるジャウマさんとヴィーさんから少し離れて、待ちのテーブルに着くと、クーも足元に大人しく身を伏せた。
しばらく待っていると、ジャウマさんたちは一枚の依頼票を持ってやってきた。
「今日は無理をせず、俺たちが何度か入ったことのあるダンジョンに潜ろう」
「は、はい!!」
見せられた紙を見ると、目的地にダンジョンの名前が書いてあるが、討伐対象の魔獣の名前は無い。
「ああ、ここではどの魔獣討伐も調査という名目になっているんだ」
町や村などの人の住む場所の近くに出現する魔獣と違い、ダンジョンに生息する魔獣が人の生活を脅かす心配はない。しかもダンジョンの魔獣がそこから出てくることは殆どないのだそうだ。
だからダンジョンの魔獣を狩るのは『討伐』なのでなく『調査』という理由になっているのだと。
そしてその『調査』の対象は『ダンジョン内の全ての魔獣』。だから、対象名は不要なのだそうだ。
「よお! 新しいダンジョンを見にいったと聞いていたが、もう戻っていたのか。どうだった?」
依頼票を覗き込んでいた僕らに、声がかかった。でも知らない声だ。
その声の主である戦士風の男に肩を叩かれたジャウマさんが振り返ると、彼はやけに驚いたような顔をした。
「あ、ああすまん! 人違いだった。てっきり俺の友人かと思って……」
「こいつと間違えるとはな。でもそのダチは流石にこんな筋肉ダルマじゃねえだろう?」
慌てる男にむけて、ヴィーさんが笑って言ってみせる。
「ヴィー、筋肉ダルマとは失礼な言いぶりだな」
「本当のことじゃねえか」
「お前がひ弱でひょろいだけだろう?」
二人はそう言い合うけれど、ジャウマさんの筋肉はダルマなんていうほどには付きすぎてはいないし、むしろ逞しくてかっこいい。ヴィーさんも決してひ弱ではなくて、洗練された筋肉がついている感じだ。ひ弱というのなら、それは僕のことだろう。
「あっはっは。いやすまん。でも背格好はよく似ているし、そいつも赤毛だからなぁ」
「なるほど、そりゃあ間違えても仕方ねえよな」
ヴィーさんとそんな風に笑い合っていた戦士風の男は、何かに気付いたように手を挙げた。
「お、カルロ! こっちだ!!」
その声に呼ばれた男がこちらに歩いてくる。確かに…… これは見間違えても仕方ないだろう。
カルロと呼ばれた赤毛の戦士の背格好は、確かにジャウマさんとほぼ変わらない。そして彼もジャウマさんと同じ赤毛で、比べるなら彼の方がちょっと髪が短い。
気のせいか、顔つきもなんとなく似ている気がする。年頃も同じくらいだろう。付き合いのある人なら間違うことはなくても、久しぶりに会った人なら戸惑ってしまうだろう。
「さっき、俺がカルロと間違えてちまってさ。えーっと……」
男はそう言って、ジャウマさんの方を見た。
「ジャウマだ。こいつらはヴィジェスとラウル。今日この町に着いたばかりだ」
「俺はブラド。んでこっちがカルロだ」
互いに握手を交わす。僕も二人に倣って握手をする。皆と違って僕の手だけ小さくて弱弱しくて、ちょっとだけ気恥ずかしくなった。
「やっぱ似てんな。実は親戚だったりしないか?」
面白がったヴィーさんとブラドさんが、二人を並べて立たせている。
「ああ、俺は孤児だったからな。家族や親類はわからないんだ」
ジャウマさんが笑うように、軽く言う。
「そうなのか。じゃあ、もしかするかもしれないな」
カルロさんは、笑ってジャウマさんの肩を叩いた。
「ところで、カルロはガタイがいいわりに軽装だな。前衛じゃねえのか?」
ヴィーさんがカルロさんの装備をじろじろと見回しながら言う。
それは僕も思った。どちらかというと、カルロさんよりもブラドさんの方が前衛らしい重装備をしている。
「ああ、俺は魔法戦士なんだ」
魔法戦士は、魔法による攻撃と武器による攻撃を駆使して戦うのだと、聞いたことがある。ことがある、というのは、見るのは初めてだからだ。ただ魔法も使える戦士、というだけでは魔法戦士とはいえない。魔法戦士の適性がある者は本当に少ないらしい。
「体を動かすのも得意なんだが、生まれつき魔力が高くてな。周りの勧めで、魔法も習得したんだ」
話の終わり際、カルロさんを呼ぶ声が聞こえ、彼はそちらの方を見た。
「と、しばらくこの町にいるんだろう? また会おう」
「ああ、またな」
カルロさんとブラドさんが去り際に挙げた手に、ジャウマさんは同じように手を挙げて応えた。
「よっし、俺らもダンジョンに行こうぜ!」
ヴィーさんの声で、僕らも冒険者ギルドを後にする。
冒険者ギルドを出る時になんとなく気になって後ろを振り向くと、向こうの壁際で他の人たちと談笑しているカルロさんたちの姿が目に入った。
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