上 下
43 / 135
第四章

閑話3 アリアのおねだり(後編)

しおりを挟む
 テラスにある丸テーブルを、アリアちゃんとヴィーさんと僕との3人で囲むように座った。ここから見える光景の素晴らしさと、これから食べるケーキへの期待で、アリアちゃんはずっとニコニコとしっぱなしだ。

 ヴィーさんとアリアちゃんが、一つのメニューを覗き込んでいるのを見て、僕もメニューを広げた。
 といっても、ご馳走になる身だし、遠慮してほどほどにしないとな。そう思っていた僕の心配を余所よそに、二人はあれこれと、僕の分も含めて注文するものを決めていく。尋ねられたのは紅茶にミルクを使うかどうかくらいだった。

 しばらくして、給仕の女性が2人がかりで持ってきた皿を見て、ついごくりと唾を飲み込んだ。
 目の前に置かれた白い皿には、ふわっふわのパンケーキが。その上にたっぷりのクリームとベリーの赤いソースがかかっている。
 隣の皿に載っているのはチョコレートのケーキだ。これには酒が使ってあるそうで、アリアちゃんの前には代わりにイチゴのタルトが置いてある。
 3人で食べる分だろう、テーブルの真ん中に置かれたのは果物の盛り合わせだ。見たことが無い果物まで盛ってある。

 目の前で注いでくれた紅茶に砂糖を入れようとして、ヴィーさんに止められた。
「ケーキを食べてからの方がいいかもしれないぜ」
 クリームをたっぷり載せたパンケーキをほおばる。口に甘さが広がった所で、まだ少し熱い紅茶をふぅと吹いて口に少し注いだ。

 なるほど。パンケーキはもちろん美味しいのだけれど、たくさんのクリームの甘さが口の中に絡みつく。そこでストレートの紅茶を含んで口の中の甘さを馴染ませると、次の一口も甘さを楽しめる。
 ヴィーさんが紅茶に砂糖を入れるのを止めたのはこういう理由かと、納得した。

「今日はいつもより、たくさんだねぇ」
 アリアちゃんは口の横にベリーのソースをつけたまま、フォークに刺したパンケーキをもう一口頬張った。
「そうだなあ」
 ヴィーさんは、ニコニコと笑いながら一言だけ答えた。

 いつもなら、やけに雄弁なヴィーさんがそれだけしか言わなかったのが、ちょっとだけ気になった。

 * * *

 夜、ヴィーさんはいつものように酒場に飲みに出かけた。アリアちゃんが風呂で席を外しているタイミングで、セリオンさんに話しかける。

「今日はありがとうございます。すみません、僕までごちそうになってしまって」
「ああ、本当にいいんだ。気にするな」
 セリオンさんはそう答えてから、少し考えるようにして、もう一度僕の方を見た。

「実はこういう時の為に、ジャウマからアリアの分の金を預かっている」
「へっ!?」
 驚いて、ジャウマさんの方を見る。壁際で装備の手入れをしていたジャウマさんは、顔をあげて答えた。

「ああ、その通りだ。アリアの買い物をするのは大抵はヴィーの役目になるからな。でも最初からアイツに金を渡しておくと、全部飲み代で使ってしまう」
 ああ、それはよくわかる。きっとその通りだ。

「でもって、アイツはふところが軽くなると、アリアをダシにしてセリオンに金をせびるんだ」
「まあ、いつものことだな。二人と違って、私は夜の酒場には行かないので、金を余らせていると思われているらしい」
「だから、最初からその分を見越して、セリオンに余計に金を渡してある。だから、あれはちゃんと元からアリアの為の金だ。アリアが望んで、アリアが喜んだのならそれでいいんだ」

 二人の話を聞いて、合点がてんがいった。
 朝にはヴィーさんのことを調子よく上手くやってるもんだなあと思っていた。でも違った。ジャウマさんとセリオンさんの方が何枚も上手うわてだ。

 セリオンさんがふっと軽く鼻で笑ってから言う。
「といっても、飲み代や自分の為の金を私にねだってくるようなことはしない。求めてくるのはいつもアリアの為に使う金だ。まあ、ヴィジェスなりにそこはきちんとラインをひいているのだろう」

 その時、扉の開く音がして、風呂上がりで濡れ髪のアリアちゃんが部屋に飛び込んできた。
「なあにー? アリアの話ー?」
「ああ、今日のケーキの話をしていた。美味しかったか?」
 そう尋ねるジャウマさんに、アリアちゃんが嬉しそうにしがみつく。
「うんー、おいしかったーー」

「アリア、髪が塗れたままだと風邪をひく。乾かしてやるから、こちらに来なさい」
 その言葉に、今度はセリオンさんの膝にちょこんと座る。セリオンさんもほんの少しだけど、表情をゆるめている。

 ジャウマさんたちパパ3人のアリアちゃんへの接し方はそれぞれ違っている。でも3人ともが、皆アリアちゃんを大切に思っていることを、僕は良く知っている。

 そう言えば、アリアちゃんは僕のことを「ラウルおにいちゃん」と呼ぶ。でも僕のことを「兄」だと思っているわけではないみたいだ。
 アリアちゃんにとって、僕はいったい何なんだろう……

 セリオンさんが風魔法でアリアちゃんの髪を乾かしている様子を見ながら、ふとそんなことを考えた。

====================

ギルバート様(@Gillbert1914)より


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

処理中です...