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第四章

4-8 少年の目指す将来

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「うん? なんか寒くねえか?」
 あいつらの一人が、ふと気付いたように言った。
 見ると、扉や板壁の隙間から、白いもやのようなものが入り込んできている。その靄はアリアちゃんの兎耳をつかんでいる男の腕にまとわりついた。

「な、何だこりゃ…… いってえ!!!」
 男の腕が白く凍り、アリアちゃんを手放した。
「アリアちゃん!! こっちに!!」
 僕の声を聞いて、兎耳の少女がふところに飛び込んできた。今度は本当の涙目になっている少女をぎゅっと抱きしめる。
 これはきっと、セリオンさんの仕業だ。来てくれたんだ。

 と、その時、まるで爆発のような大きな音がして、倉庫の扉が外側から無数の木片となって弾け散った。
「皆、無事か?」
「ジャ、ジャウマさん……」
 いつもの頼りがいのある笑顔を見て、張りつめていた気持ちがようやく緩んだ。

「まったく、乱暴な真似をして内側にいる子供たちが怪我をしたらどうするんだ」
 ジャウマさんの後ろから入って来たのはセリオンさんだ。

「クゥ!!」
 セリオンさんの足元から、銀毛の狼が走り込んでくる。銀吠狼ルナファングのクーはナイフを持った男に飛び掛かり押し倒す。そのままナイフを持つ腕に牙を立てると、男は叫び声を上げてナイフを落とした。

「くそっ! こいつら!!」
 一番のボスらしい最後の一人が、ナイフを振りかざしてジャウマさんたちに襲いかかる。ジャウマさんは器用にナイフを避けると、そいつの腕をむんずとつかんで背中で持ち上げる。その勢いで思いっきり地面に叩きつけた。
 地面が揺れたんじゃないかと思うほどの重い音が響き、そいつはそのまま動かなくなった。

「くそっ!」
 片腕に氷をつけた男が、慌てて逃げ出そうと出口に向かって駆けだす。が、その瞬間、つんのめって顔面から地面に倒れた。
 男の足に蹴りを食らわせたのは、子供たちの先頭を歩いていたあの少年だ。少年は男をキッとにらみつけると、子供たちに叫んだ。
「今だ! 皆で捕まえるんだ!」
 少年の号令で、泣いていなかった元気な子供たちが次々とが男の上にのしかかる。それを見て、慌てて僕もその男の両腕を縛ろうと落ちていた縄を拾った。

「さてと、俺らの可愛い娘を泣かせた大馬鹿者はどいつだ? ……って、あれ?」
 聞き覚えのある声がして、扉の方を見た。最後に入って来たヴィーさんが複雑そうな顔をして立っている。

 悪党の一人はジャウマさんの背負い投げで気絶させられている。もう一人はクーが押さえつけた上で牙をいて威嚇いかくしている。もう観念していて反撃する気はないようだ。腕が凍っている男は子供たちに押さえつけられ、僕が縄で両腕を後ろで縛るところだった。

「うー、俺の出番を少しくらいは残しておいてくれよなー」
 そう言いながら、ヴィーさんはがっくりと肩を落とした。

 * * *

 ジャウマさんたちが悪党3人全員を縄で縛りあげると、ようやく笑顔になった子供たちが、ジャウマさんの周りを取り囲んだ。

「す、すっげーーー!!」
「兄ちゃんたち! カッコいい!!」
「俺、お兄ちゃんたちみたいな冒険者になる!!」
「わんちゃん、ありがとーー」
 子供たちは次々とジャウマさんたちへの賞賛を口にしている。今のジャウマさんたちは、子供たちにとって憧れの英雄のようなものなんだろう。

 子供たちに全く囲まれなかったヴィーさんが、何かに気付いたように一人の少年の方に歩いていった。ヴィーさんはその少年を伴って子供たちから離れ、並んで腰を下ろす。
 そのまま何か話をしているようだ。彼は、さっき男に蹴りを入れた少年だ。

「ラウルくん」
 セリオンさんから声が掛けられ、二人から視線を外した。でも逆にセリオンさんは、あの二人をじっと見ている。
「なるほど、彼が手引きをしたのか。ラウルくん、私は自警団を呼んでくる。ここは任せた」
「えっ、任せるって?」

 僕がまごまごとしている内に、セリオンさんは倉庫を出ていってしまった。
 とりあえず、あの悪党3人を見張っていようと、離れた場所に腰を下す。

 3人は後ろ手に縛られ、項垂うなだれている。
 僕らは人買いに売られるところだったんだろう。さっき、こいつらは夜になったら僕たちをどこかに連れて行こうと話していた。多分、そこに彼らの仲間が居る。そうだとしたら、こいつらだけ捕まえてもダメだ。他の仲間もどうにかしないといけない。

 そんなことを考えていると、隣にヴィーさんがやって来た。
 見ると、さっきの少年は今は一人で座っている。もう話は終わったようだ。
「あいつらの仲間になるのは止めて、将来は俺らみたいな冒険者になるってよ。まあ冒険者になったからって、楽な生活ができるわけじゃねえけどさ。危険も多いしな。でも悪いことに手を染めるよりはずっといいよなあ」

 あの少年の話だろう。
「すみません…… ヴィーさんに言われて、子供たちの様子を見ていたはずなのに、気付けなくって」
「いいや、俺が悪い。最初にちゃんと言えば良かったんだ。でもまあ、こうして結果的には丸く収まったしいいんじゃないか?」
 そう言って、へへへと笑う。

「別に偉そうな顔をするつもりはねえけどさ、アレはいい思い出じゃねえからさ……」
 だから、あの少年にもそういう嫌な思いをさせたくないのだと、そう思ってのことだったんだろう。ヴィーさんは意外に優しい人なんだなと、そう思った。

「連れて来たぞ」
 扉の方から、セリオンさんの声が聞こえた。その後から、自警団らしき人たちが次々と倉庫に入って来た。
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