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第四章
4-7 また巻き込まれる
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今日はこれから、町の路地裏の探検に行くそうだ。子供たち20人ほどが集まっている。
アリアちゃんも楽しそうにしているし仕方ない。子供たちの邪魔をしないよう、一番後ろから僕も付いていくことにした。
入り組んだ路地裏は子供にとっては巨大な迷路だ。僕も子供の頃に路地裏で遊んだ覚えがある。
しかも子供には遠慮がない。知らぬ家の裏庭でも、どこかの工房の脇道でも、壊れた荷馬車の置き場でも、どこでも通り抜けられる所であれば、彼らの通り道となる。
そう言えば、先頭を行くのは以前僕にぶつかった子供だ。あの時のことといい、おそらく行動力のある子供なんだろう。行動力があるのはいいんだけれど、遊んでいた公園からだいぶ離れてしまっている。さすがに戻った方がいいんじゃないだろうか?
そろそろ子供たちを止めないとと思いつつ、先を行く集団を追って古びた倉庫に入り込んだ。
「皆、そろそろ――」
バタン!!
僕の声を遮るように、大きな音がして倉庫の扉が閉まった。
「お前ら、大人しくしていろよ」
野太い声がして、振り向いた。
扉の前にガラの悪そうな3人の男たちが立ちふさがっている。その男たちの手には物騒なナイフが握られていた。
……しまった。
僕が付いていながらこんなことになるなんて。町中だからと油断をしていた。もっと早く子供たちに引き返す様に言うべきだったのに……
子供たちが不安げな声を上げながら、僕の周りに集まってくる。唯一の大人の味方である僕を頼ってくれている。
でも僕は戦う手段を持っていない。僕にできるのは結界魔法で守ることだけだ。しかもここにいる全員を守る結界を張る力もない。せめてアリアちゃんだけでも守らないと……
そう思った僕の手をが誰かがぎゅっと握る。見ると、いつの間にアリアちゃんが僕の隣に来ていた。
(ラウルおにいちゃん、まほーも、からい袋もダメだよ)
……思っていたことを、悟られていたらしい。
僕の結界魔法は特別な魔法で、誰にでも使えるわけじゃあない。確かに、この魔法のことが悪党に知られるのは良くない。からい粉の袋も、こんな狭い倉庫の中で使ったら、子供たちも僕らも無事では済まないだろう。
でも――
(パパたちが来てくれるよ。だいじょーぶ)
こっそりと、アリアちゃんが僕にだけ聞こえる声で言った。
そう言えば、いつの間にかクー居ない。どこかから抜け出したのか、入る前に逃れたのか…… なら、きっとクーがジャウマさんたちを呼んできてくれるだろう。
僕らにできるのは、それまであいつらを刺激せずに大人しく待っているだけだ。
アリアちゃんの手を、ぎゅっと握り返した。
* * *
板作りのかび臭い倉庫の中で、僕らは壁際の隅に集められた。
さっきの男たちは、ナイフを手にしたまま、扉の前と僕らの前とに座り込んだ。おそらく見張り役だろう。
こっそり周りを見回して、他の出入り口がないかを探してみる。でも見た感じ、壁板の大きな隙間や、穴があったような場所は、全て塞がれているようだ。おそらく予めここに子供たちを誘いこむつもりで用意されていたんだろう。
……ついこの間、同じような経験をしたばかりなのに。また同じようなヘマをした自分の成長のなさに、自分で呆れてしまう。しかも今回は自分だけでなく、アリアちゃんまで一緒に危険な目に合わせてしまった。
一番子供たちに近い場所に座り込んでいた男が、ナイフをポンポンと手で遊ばせながら、近くに居た女の子を睨みつけた。
「ああ? 何見てやがるんだよ?」
低い声で脅す様に言う。それだけで、子供たちは今にも泣きそうな顔になった。
そのことが気に入らなかったのか、その男はさらにすごんでみせる。
「ああ!? 何見てるんだって、聞いてるんだよ!」
そう言いながら、傍らにあった古い木箱をガンッと蹴とばした。
「ふ、ふええ……」
脅された女の子が泣きだそうとしたその時――
「おにいちゃーーん、こわいよーー!!」
僕の隣にいたアリアちゃんが両の手を顔に当てて、大きな声で泣きだした。
その声で、あの女の子を脅していた男がこちらを向いた。
「おい! お前! そいつを黙らせろ!!」
「ごっ、ごめんなさい!! アリアちゃん、大丈夫だよ。泣かないで……」
アリアちゃんの背中をさすって、一生懸命になだめた。
……でも、なんか変だ。さっきアリアちゃんは、僕に向かって大丈夫だと言っていたのに、なんで急に泣きだしたんだ?
アリアちゃんに釣られて、とくに幼い子たちはしくしくと泣きだしている。
「何騒いでいやがるんだ!?」
他の男たちも扉の前から離れてこちらにやってきた。
「こ、こいつらが泣きだしちまって……」
「お前が脅かしたんじゃないのか?」
どうやら扉の前にいた男の方が偉いらしい。そいつは僕とアリアちゃんの方を睨みつけてきた。
「おにいちゃん、こわいよおおお!!」
大声で泣きながら、アリアちゃんが僕にしがみついた。でも少し言い方がわざとらしい。
「うるせえ! 騒ぐんじゃねえ!!」
女の子を脅していた男も僕らの方へ近づいてくる。
「あのおじちゃんの顔がブサイクでこわいいいいい」
「な、なんだと! てめえ!!」
アリアちゃんに指を差された男は、怒って顔を真っ赤にさせた。
……やっぱり。
アリアちゃんは怯えているというより、わざとあいつらを煽るような言い方をしている。
さっきあの女の子相手にすごんでいた男も、今はアリアちゃんを黙らせようと必死になっている。
そうだ。あいつらの矛先が、今は全部アリアちゃんに向いている。アリアちゃんは、他の子供たちを庇っているんだ。
「おにいちゃん、おにいちゃん~~ きゃあ!!」
泣きながら僕にすがるアリアちゃんの兎耳を、男が掴んで引っ張った。
「やめろ!! その子を離せ!!」
僕が叫んで、精一杯睨みつけると、男はさらに怖い顔をしてこちらを睨み返してきた。
その時、かすかに鳥が羽ばたく音が聞こえた。
アリアちゃんも楽しそうにしているし仕方ない。子供たちの邪魔をしないよう、一番後ろから僕も付いていくことにした。
入り組んだ路地裏は子供にとっては巨大な迷路だ。僕も子供の頃に路地裏で遊んだ覚えがある。
しかも子供には遠慮がない。知らぬ家の裏庭でも、どこかの工房の脇道でも、壊れた荷馬車の置き場でも、どこでも通り抜けられる所であれば、彼らの通り道となる。
そう言えば、先頭を行くのは以前僕にぶつかった子供だ。あの時のことといい、おそらく行動力のある子供なんだろう。行動力があるのはいいんだけれど、遊んでいた公園からだいぶ離れてしまっている。さすがに戻った方がいいんじゃないだろうか?
そろそろ子供たちを止めないとと思いつつ、先を行く集団を追って古びた倉庫に入り込んだ。
「皆、そろそろ――」
バタン!!
僕の声を遮るように、大きな音がして倉庫の扉が閉まった。
「お前ら、大人しくしていろよ」
野太い声がして、振り向いた。
扉の前にガラの悪そうな3人の男たちが立ちふさがっている。その男たちの手には物騒なナイフが握られていた。
……しまった。
僕が付いていながらこんなことになるなんて。町中だからと油断をしていた。もっと早く子供たちに引き返す様に言うべきだったのに……
子供たちが不安げな声を上げながら、僕の周りに集まってくる。唯一の大人の味方である僕を頼ってくれている。
でも僕は戦う手段を持っていない。僕にできるのは結界魔法で守ることだけだ。しかもここにいる全員を守る結界を張る力もない。せめてアリアちゃんだけでも守らないと……
そう思った僕の手をが誰かがぎゅっと握る。見ると、いつの間にアリアちゃんが僕の隣に来ていた。
(ラウルおにいちゃん、まほーも、からい袋もダメだよ)
……思っていたことを、悟られていたらしい。
僕の結界魔法は特別な魔法で、誰にでも使えるわけじゃあない。確かに、この魔法のことが悪党に知られるのは良くない。からい粉の袋も、こんな狭い倉庫の中で使ったら、子供たちも僕らも無事では済まないだろう。
でも――
(パパたちが来てくれるよ。だいじょーぶ)
こっそりと、アリアちゃんが僕にだけ聞こえる声で言った。
そう言えば、いつの間にかクー居ない。どこかから抜け出したのか、入る前に逃れたのか…… なら、きっとクーがジャウマさんたちを呼んできてくれるだろう。
僕らにできるのは、それまであいつらを刺激せずに大人しく待っているだけだ。
アリアちゃんの手を、ぎゅっと握り返した。
* * *
板作りのかび臭い倉庫の中で、僕らは壁際の隅に集められた。
さっきの男たちは、ナイフを手にしたまま、扉の前と僕らの前とに座り込んだ。おそらく見張り役だろう。
こっそり周りを見回して、他の出入り口がないかを探してみる。でも見た感じ、壁板の大きな隙間や、穴があったような場所は、全て塞がれているようだ。おそらく予めここに子供たちを誘いこむつもりで用意されていたんだろう。
……ついこの間、同じような経験をしたばかりなのに。また同じようなヘマをした自分の成長のなさに、自分で呆れてしまう。しかも今回は自分だけでなく、アリアちゃんまで一緒に危険な目に合わせてしまった。
一番子供たちに近い場所に座り込んでいた男が、ナイフをポンポンと手で遊ばせながら、近くに居た女の子を睨みつけた。
「ああ? 何見てやがるんだよ?」
低い声で脅す様に言う。それだけで、子供たちは今にも泣きそうな顔になった。
そのことが気に入らなかったのか、その男はさらにすごんでみせる。
「ああ!? 何見てるんだって、聞いてるんだよ!」
そう言いながら、傍らにあった古い木箱をガンッと蹴とばした。
「ふ、ふええ……」
脅された女の子が泣きだそうとしたその時――
「おにいちゃーーん、こわいよーー!!」
僕の隣にいたアリアちゃんが両の手を顔に当てて、大きな声で泣きだした。
その声で、あの女の子を脅していた男がこちらを向いた。
「おい! お前! そいつを黙らせろ!!」
「ごっ、ごめんなさい!! アリアちゃん、大丈夫だよ。泣かないで……」
アリアちゃんの背中をさすって、一生懸命になだめた。
……でも、なんか変だ。さっきアリアちゃんは、僕に向かって大丈夫だと言っていたのに、なんで急に泣きだしたんだ?
アリアちゃんに釣られて、とくに幼い子たちはしくしくと泣きだしている。
「何騒いでいやがるんだ!?」
他の男たちも扉の前から離れてこちらにやってきた。
「こ、こいつらが泣きだしちまって……」
「お前が脅かしたんじゃないのか?」
どうやら扉の前にいた男の方が偉いらしい。そいつは僕とアリアちゃんの方を睨みつけてきた。
「おにいちゃん、こわいよおおお!!」
大声で泣きながら、アリアちゃんが僕にしがみついた。でも少し言い方がわざとらしい。
「うるせえ! 騒ぐんじゃねえ!!」
女の子を脅していた男も僕らの方へ近づいてくる。
「あのおじちゃんの顔がブサイクでこわいいいいい」
「な、なんだと! てめえ!!」
アリアちゃんに指を差された男は、怒って顔を真っ赤にさせた。
……やっぱり。
アリアちゃんは怯えているというより、わざとあいつらを煽るような言い方をしている。
さっきあの女の子相手にすごんでいた男も、今はアリアちゃんを黙らせようと必死になっている。
そうだ。あいつらの矛先が、今は全部アリアちゃんに向いている。アリアちゃんは、他の子供たちを庇っているんだ。
「おにいちゃん、おにいちゃん~~ きゃあ!!」
泣きながら僕にすがるアリアちゃんの兎耳を、男が掴んで引っ張った。
「やめろ!! その子を離せ!!」
僕が叫んで、精一杯睨みつけると、男はさらに怖い顔をしてこちらを睨み返してきた。
その時、かすかに鳥が羽ばたく音が聞こえた。
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