33 / 135
第四章
4-1 ラウル、攫われる
しおりを挟む
ガタガタと荷台が揺れる。
道が悪い所為もあるだろう。でも定期的に揺れを感じるのは、荷馬車の車軸か車輪に不具合でもあるんじゃないのか。まあ、攫った子供たちを運ぶのに、わざわざ良い荷馬車は用意しないだろう。
はーっと一つため息を吐き、その音に耳と気持ちを委ねながら、膝を抱いた。
油断したお前が悪い。そう言われても仕方ない。うん、わかっている。これは僕自身のミスだ。
この荷馬車に乗せられているのは僕だけじゃない。僕よりももっと幼い子供を中心に、10人ほど。
というか…… 僕はもうすぐ17歳で一応成人はしているから、子供ではない。
でも、脅せば素直に言うことを聞く小柄で気弱な僕は、連中にとっては子供とさほどかわらないのだろう。そういえば捕らえられた時に、可愛い顔をしているとか、そんなことも言われたっけ。
まあ子供たちを守るどころか自分の身すら守れなかったのだから、自分のことを立派な大人だなんて言えやしない。
……これから、どうなるんだろう。
元はと言えば、休憩時間にいつものように薬草集めをしていて、つい皆から離れすぎてしまったのが原因だ。
薬草を探して足元ばかり見ていて、連中が近づいて来たのに気が付かなかった。なんて馬鹿なんだろう。
どこかで攫ってきたらしい子供たちの乗った荷馬車に、僕を無理やり押し込めたのは、何かの血がこびりついた刃物を手にした破落戸たちだった。あんな物を見せつけられたら、子供たちは言うことを聞くしかできないだろう。
この荷馬車には窓が一つもない。でも古い所為か板壁の隙間が広くなっていて、そこから外の陽が差し込んできている。その光に、さっきよりも影が混ざる様になっていた。その隙間から、そっと外を窺う。
どうやら山道を逸れて、さらに森に入ったようだ。
森にはいってからは、山道を走っていた時よりも周囲の音が聞こえてくる。風で木々が揺れる音、森の虫が鳴く声、鳥の羽ばたき、遠くから獣の鳴き声も聞こえてくる。
その合間から、荷馬車の周りの男たちが互いに掛け合う声も聞こえてきた。あいつらのアジトが近いのかもしれない。
ぐすりと、誰かが鼻をすする音が聞こえた。
「おうちに帰りたい……」
耐えられなくなったのだろう。その声を皮切りに荷馬車のあちこちからすすり泣く声が聞こえ始めた。
「泣かないで、大丈夫だよ、きっと助けが来てくれるから」
馬車の外の男どもに聞こえないよう、小さな声で子供たちを慰める。
大丈夫だ。きっと、ジャウマさんたちが助けに来てくれる。
でも彼らを頼るばかりでなく、本当なら自分でもどうにかできるようにならないと。
僕も彼らの仲間で、あんなふうに獣の姿になれるのだそうだ。
戦うことのできない弱い僕だって、獣の姿になれれば彼らのように強い力を得て戦えるようになるかもしれない。
ても今すぐにその獣の姿になれたり、強くなれたりなんて、都合のいいことが起こるはずはない。
ガタンッ!!
「うわっ!!」
荷馬車が大きく揺れて、体勢が崩れる。ずっと走っていた荷馬車が急に止まった。
「なんだこいつは!?」
「おい、こっちだ!」
「早く武器を持ってこい!」
外から聞こえる声が騒がしい。何が起きたんだろうか。
「くそっ!! なんでこんな所にドラゴンが…… ぐはっ!!」
その言葉に、ハッと息を呑んだ。
ドラゴンってことは、きっとジャウマさんだ。獣化したジャウマさんが暴れているのだろう。
僕を見つけてくれたんだ……
ガタッ!!
今度は屋根の上から大きな物音がした。
「待たせたな」
これはヴィーさんの声だ。
外の騒がしさに、今にもまた泣き出しそうな子供たちに声をかける。
「もう大丈夫だよ。助けが来てくれたから」
僕の言葉で、強張った子供たちの表情が少しだけ緩んだ。
外の喧騒はすぐに静かになった。気付くと、誰かが荷馬車の壁をガリガリとひっかいている。
「待てよ、焦んなって」
ヴィーさんの声に続き、ガタガタと荷馬車の戸が小刻みに揺れる。
開けようとしてくれているけれど、何かで固定されているのか全く開く様子はない。
「ちょっと荒っぽくなるからそっから離れていろよー」
その声に、子供たちを反対側の壁に集まるように誘導する。
バキッと大きな音がして、荷馬車の戸がそのままの形で外される。その隙間から何かが荷馬車の中に飛び込んできた。
「きゃあ!!」
銀毛の魔獣の姿に、また子供たちが怯え、悲鳴を上げる。その若い月吠狼は、真っすぐ僕のところに駆け寄り、嬉しそうに飛びついて来た。
「お前がいなくなったって、クーが大騒ぎしてなあ」
その後から入って来たヴィーさんがニヤニヤと笑いながら言う。でもその笑い方が、さっきの破落戸連中と同じような悪人顔で、それを見て子供たちがさらに怯えたように青ざめた。
「おいおい。俺はお前らを助けに来たんだぞ?」
ヴィーさんが困った顔で首を傾げる。
「ラウルも他の者たちも、皆無事か? 怪我などはしていないか?」
もう人の姿に戻ったジャウマさんが、ヴィーさんの後ろから荷馬車を覗き込む。ジャウマさんの穏やかな笑顔と優しい声に、ようやく子供たちが張っていた肩を落とした。
道が悪い所為もあるだろう。でも定期的に揺れを感じるのは、荷馬車の車軸か車輪に不具合でもあるんじゃないのか。まあ、攫った子供たちを運ぶのに、わざわざ良い荷馬車は用意しないだろう。
はーっと一つため息を吐き、その音に耳と気持ちを委ねながら、膝を抱いた。
油断したお前が悪い。そう言われても仕方ない。うん、わかっている。これは僕自身のミスだ。
この荷馬車に乗せられているのは僕だけじゃない。僕よりももっと幼い子供を中心に、10人ほど。
というか…… 僕はもうすぐ17歳で一応成人はしているから、子供ではない。
でも、脅せば素直に言うことを聞く小柄で気弱な僕は、連中にとっては子供とさほどかわらないのだろう。そういえば捕らえられた時に、可愛い顔をしているとか、そんなことも言われたっけ。
まあ子供たちを守るどころか自分の身すら守れなかったのだから、自分のことを立派な大人だなんて言えやしない。
……これから、どうなるんだろう。
元はと言えば、休憩時間にいつものように薬草集めをしていて、つい皆から離れすぎてしまったのが原因だ。
薬草を探して足元ばかり見ていて、連中が近づいて来たのに気が付かなかった。なんて馬鹿なんだろう。
どこかで攫ってきたらしい子供たちの乗った荷馬車に、僕を無理やり押し込めたのは、何かの血がこびりついた刃物を手にした破落戸たちだった。あんな物を見せつけられたら、子供たちは言うことを聞くしかできないだろう。
この荷馬車には窓が一つもない。でも古い所為か板壁の隙間が広くなっていて、そこから外の陽が差し込んできている。その光に、さっきよりも影が混ざる様になっていた。その隙間から、そっと外を窺う。
どうやら山道を逸れて、さらに森に入ったようだ。
森にはいってからは、山道を走っていた時よりも周囲の音が聞こえてくる。風で木々が揺れる音、森の虫が鳴く声、鳥の羽ばたき、遠くから獣の鳴き声も聞こえてくる。
その合間から、荷馬車の周りの男たちが互いに掛け合う声も聞こえてきた。あいつらのアジトが近いのかもしれない。
ぐすりと、誰かが鼻をすする音が聞こえた。
「おうちに帰りたい……」
耐えられなくなったのだろう。その声を皮切りに荷馬車のあちこちからすすり泣く声が聞こえ始めた。
「泣かないで、大丈夫だよ、きっと助けが来てくれるから」
馬車の外の男どもに聞こえないよう、小さな声で子供たちを慰める。
大丈夫だ。きっと、ジャウマさんたちが助けに来てくれる。
でも彼らを頼るばかりでなく、本当なら自分でもどうにかできるようにならないと。
僕も彼らの仲間で、あんなふうに獣の姿になれるのだそうだ。
戦うことのできない弱い僕だって、獣の姿になれれば彼らのように強い力を得て戦えるようになるかもしれない。
ても今すぐにその獣の姿になれたり、強くなれたりなんて、都合のいいことが起こるはずはない。
ガタンッ!!
「うわっ!!」
荷馬車が大きく揺れて、体勢が崩れる。ずっと走っていた荷馬車が急に止まった。
「なんだこいつは!?」
「おい、こっちだ!」
「早く武器を持ってこい!」
外から聞こえる声が騒がしい。何が起きたんだろうか。
「くそっ!! なんでこんな所にドラゴンが…… ぐはっ!!」
その言葉に、ハッと息を呑んだ。
ドラゴンってことは、きっとジャウマさんだ。獣化したジャウマさんが暴れているのだろう。
僕を見つけてくれたんだ……
ガタッ!!
今度は屋根の上から大きな物音がした。
「待たせたな」
これはヴィーさんの声だ。
外の騒がしさに、今にもまた泣き出しそうな子供たちに声をかける。
「もう大丈夫だよ。助けが来てくれたから」
僕の言葉で、強張った子供たちの表情が少しだけ緩んだ。
外の喧騒はすぐに静かになった。気付くと、誰かが荷馬車の壁をガリガリとひっかいている。
「待てよ、焦んなって」
ヴィーさんの声に続き、ガタガタと荷馬車の戸が小刻みに揺れる。
開けようとしてくれているけれど、何かで固定されているのか全く開く様子はない。
「ちょっと荒っぽくなるからそっから離れていろよー」
その声に、子供たちを反対側の壁に集まるように誘導する。
バキッと大きな音がして、荷馬車の戸がそのままの形で外される。その隙間から何かが荷馬車の中に飛び込んできた。
「きゃあ!!」
銀毛の魔獣の姿に、また子供たちが怯え、悲鳴を上げる。その若い月吠狼は、真っすぐ僕のところに駆け寄り、嬉しそうに飛びついて来た。
「お前がいなくなったって、クーが大騒ぎしてなあ」
その後から入って来たヴィーさんがニヤニヤと笑いながら言う。でもその笑い方が、さっきの破落戸連中と同じような悪人顔で、それを見て子供たちがさらに怯えたように青ざめた。
「おいおい。俺はお前らを助けに来たんだぞ?」
ヴィーさんが困った顔で首を傾げる。
「ラウルも他の者たちも、皆無事か? 怪我などはしていないか?」
もう人の姿に戻ったジャウマさんが、ヴィーさんの後ろから荷馬車を覗き込む。ジャウマさんの穏やかな笑顔と優しい声に、ようやく子供たちが張っていた肩を落とした。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる