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第一章
1-6 4人の関係
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森の木々が途切れた先に小さな川があった。おあつらえむきに川岸が荷物を広げるのにいい具合の広場になっている。その広場を囲うように、魔獣除けの魔導具を配置した。
「うん? 何をしているんだ?」
僕の手元を覗き込んで、ジャウマさんが不思議そうに言った。
「何って、魔獣除けですよ。ジャウマさんたちは使っていないんですか?」
「そういや、冒険者だった頃には使っていたな。久しぶりだから忘れていた」
「だった? 今も冒険者でしょう?」
そう訊くと、ジャウマさんは複雑そうな顔になった。
「ああ、そう言えばそうだったな」
なんだか歯切れが悪い言葉が返ってくる。でも、確かに彼らほどの強さがあれば、魔獣除けなんていらないのだろう。
「これはあくまでも魔獣除けですから。盗賊などは効きません。その時は頼りにしています」
「まあでも、盗賊はこんな森の中にまでは来ねえよな」
フォローのつもりで言った言葉に、ヴィーさんが口を挟んだ。
「そうなんですか?」
「こんな森の奥にまで来るよりも、街道沿いで旅人を襲う方が割がいいからなぁ」
確かに。盗賊に襲われた話は、殆どは街道沿いかそれに近い場所での出来事だ。
「ヴィーさん、お詳しいですね」
「まあ、蛇の道は蛇ってやつだな」
そう言ってハハハと笑って行ってしまった。蛇の道って…… どういう意味だろうか?
気を取り直して食事の準備にとりかかる。
ここまでの道中で、食べられる野草と木の実をいくつか見つけて採集しておいた。この野草は爽やかな風味があるので、塩気の多いソーセージとよく合う。
魔法で起こした火を使って、切り目を入れたパンとソーセージを炙る。パンに先ほどの野草とソーセージを一緒に挟み込んだ。
木の実はそのままチーズに添える。
ジャウマさんが捌いてくれたボアの肉は一口大に切った。臭みが強いので塩コショウと一緒に臭み消しのスパイスをもみ込んでおいた。あとは串に刺して焼くだけだ。
せっせと食事の準備をする僕の隣で、アリアちゃんが一生懸命に手伝ってくれている。
男3人もアリアちゃんを気にするように近くに寄ってくるが、そのたびにアリアちゃんが追い払った。どうしてだろう?
* * *
「え? 普段はアリアちゃんが料理しているの?」
「だって、パパたち料理できないんだもん」
大きなサンドイッチを両手にもって、アリアちゃんが可愛い頬をぷぅと膨らせて言った。
3人の顔を見まわすと、セリオンさんは聞こえないふりをして静かにパンを食べている。ヴィーさんは頭を掻いて笑っていて、ジャウマさんは気まずそうに視線を逸らせた。
なるほど…… だからさっきアリアちゃんは3人を追い払ったのか……
「誰でも得手不得手はあるだろう?」
不貞腐れたように、ジャウマさんが言う。
「まあ、肉を焼くくらいなら、俺でもできるぞ」
「ヴィーパパがやると、お肉が真っ黒になるから嫌っ!」
アリアちゃんの言葉に、ヴィーさんはがっくりと肩を落とした。
「ラウルおにいちゃんの作ったご飯は美味しいね。またご飯作ってくれる?」
アリアちゃんは期待をするように僕の顔をじーっと見上げる。
また……なんて機会はもう無いだろう。でも……
「うん、また今度ね」
そう答えると、アリアちゃんは目をキラキラとさせて微笑んだ。
* * *
お腹が膨れて眠くなってきたのか、歩きながらアリアちゃんは大きなあくびをしている。
「ほら、アリア」
ジャウマさんが両手を広げると、アリアちゃんはこくりと頷いて、彼の首にしがみつく。アリアちゃんを抱きあげてまた歩きはじめると、すぐに寝息が聞こえてきた。
その様子はなんだか本当の親子のようで。自分の家族を、妹を思い出した。
「不思議に思っているだろう」
不意にセリオンさんに話しかけられ、心臓が飛び跳ねた。
「えっ? な、何が…… ですか?」
「私たちの関係についてだ」
「いやっ、別に……」
「誤魔化さなくてもいい。普通なら気になるものだろう」
それはそうだけど。でも……
「……僕と妹は孤児でした。引き取ってくれた両親は僕と同じ人間でしたが、僕とは髪の色も瞳の色も違っていて。妹はアリアちゃんと同じく獣人で。だから、そういう家族もあるんだろうなって思って……」
そこまで言って、どう言葉を続けていいのかわからなくなった。
「あの、だから…… 何か理由があるのなら、無理には……」
そんな僕をみて、セリオンさんはふっと笑った。
「確かに私たちとアリアとは血は繋がっていない。親というか、保護者のようなもので、3人でアリアを守っている。私たちが出会った時にはアリアには親はいなかったし、もちろん父親がいたこともない。でもアリアは私たちをまるで家族のように慕ってくれている」
道中この4人を見ていて、不思議には思っても、変だと思ったり悪い気持ちを抱いたりしたことはない。
ジャウマさんはいつでもアリアちゃんが頼れるように、ヴィーさんはアリアちゃんを甘やかして、セリオンさんも静かにアリアちゃんを見守っている。その光景は、僕にはなんだか温かくて、微笑ましくて。
でも、仲間も家族もいない一人ぼっちの自分が、少し寂しくなった。
「うん? 何をしているんだ?」
僕の手元を覗き込んで、ジャウマさんが不思議そうに言った。
「何って、魔獣除けですよ。ジャウマさんたちは使っていないんですか?」
「そういや、冒険者だった頃には使っていたな。久しぶりだから忘れていた」
「だった? 今も冒険者でしょう?」
そう訊くと、ジャウマさんは複雑そうな顔になった。
「ああ、そう言えばそうだったな」
なんだか歯切れが悪い言葉が返ってくる。でも、確かに彼らほどの強さがあれば、魔獣除けなんていらないのだろう。
「これはあくまでも魔獣除けですから。盗賊などは効きません。その時は頼りにしています」
「まあでも、盗賊はこんな森の中にまでは来ねえよな」
フォローのつもりで言った言葉に、ヴィーさんが口を挟んだ。
「そうなんですか?」
「こんな森の奥にまで来るよりも、街道沿いで旅人を襲う方が割がいいからなぁ」
確かに。盗賊に襲われた話は、殆どは街道沿いかそれに近い場所での出来事だ。
「ヴィーさん、お詳しいですね」
「まあ、蛇の道は蛇ってやつだな」
そう言ってハハハと笑って行ってしまった。蛇の道って…… どういう意味だろうか?
気を取り直して食事の準備にとりかかる。
ここまでの道中で、食べられる野草と木の実をいくつか見つけて採集しておいた。この野草は爽やかな風味があるので、塩気の多いソーセージとよく合う。
魔法で起こした火を使って、切り目を入れたパンとソーセージを炙る。パンに先ほどの野草とソーセージを一緒に挟み込んだ。
木の実はそのままチーズに添える。
ジャウマさんが捌いてくれたボアの肉は一口大に切った。臭みが強いので塩コショウと一緒に臭み消しのスパイスをもみ込んでおいた。あとは串に刺して焼くだけだ。
せっせと食事の準備をする僕の隣で、アリアちゃんが一生懸命に手伝ってくれている。
男3人もアリアちゃんを気にするように近くに寄ってくるが、そのたびにアリアちゃんが追い払った。どうしてだろう?
* * *
「え? 普段はアリアちゃんが料理しているの?」
「だって、パパたち料理できないんだもん」
大きなサンドイッチを両手にもって、アリアちゃんが可愛い頬をぷぅと膨らせて言った。
3人の顔を見まわすと、セリオンさんは聞こえないふりをして静かにパンを食べている。ヴィーさんは頭を掻いて笑っていて、ジャウマさんは気まずそうに視線を逸らせた。
なるほど…… だからさっきアリアちゃんは3人を追い払ったのか……
「誰でも得手不得手はあるだろう?」
不貞腐れたように、ジャウマさんが言う。
「まあ、肉を焼くくらいなら、俺でもできるぞ」
「ヴィーパパがやると、お肉が真っ黒になるから嫌っ!」
アリアちゃんの言葉に、ヴィーさんはがっくりと肩を落とした。
「ラウルおにいちゃんの作ったご飯は美味しいね。またご飯作ってくれる?」
アリアちゃんは期待をするように僕の顔をじーっと見上げる。
また……なんて機会はもう無いだろう。でも……
「うん、また今度ね」
そう答えると、アリアちゃんは目をキラキラとさせて微笑んだ。
* * *
お腹が膨れて眠くなってきたのか、歩きながらアリアちゃんは大きなあくびをしている。
「ほら、アリア」
ジャウマさんが両手を広げると、アリアちゃんはこくりと頷いて、彼の首にしがみつく。アリアちゃんを抱きあげてまた歩きはじめると、すぐに寝息が聞こえてきた。
その様子はなんだか本当の親子のようで。自分の家族を、妹を思い出した。
「不思議に思っているだろう」
不意にセリオンさんに話しかけられ、心臓が飛び跳ねた。
「えっ? な、何が…… ですか?」
「私たちの関係についてだ」
「いやっ、別に……」
「誤魔化さなくてもいい。普通なら気になるものだろう」
それはそうだけど。でも……
「……僕と妹は孤児でした。引き取ってくれた両親は僕と同じ人間でしたが、僕とは髪の色も瞳の色も違っていて。妹はアリアちゃんと同じく獣人で。だから、そういう家族もあるんだろうなって思って……」
そこまで言って、どう言葉を続けていいのかわからなくなった。
「あの、だから…… 何か理由があるのなら、無理には……」
そんな僕をみて、セリオンさんはふっと笑った。
「確かに私たちとアリアとは血は繋がっていない。親というか、保護者のようなもので、3人でアリアを守っている。私たちが出会った時にはアリアには親はいなかったし、もちろん父親がいたこともない。でもアリアは私たちをまるで家族のように慕ってくれている」
道中この4人を見ていて、不思議には思っても、変だと思ったり悪い気持ちを抱いたりしたことはない。
ジャウマさんはいつでもアリアちゃんが頼れるように、ヴィーさんはアリアちゃんを甘やかして、セリオンさんも静かにアリアちゃんを見守っている。その光景は、僕にはなんだか温かくて、微笑ましくて。
でも、仲間も家族もいない一人ぼっちの自分が、少し寂しくなった。
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