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番外)王都の練兵場

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 ここはトール達がホワイト・オルター号の発着場として、自由気ままに使っている、王城横の練兵場。 
 ざっと縦300m、横は700mにもなろうかという、かなり大きなグラウンドだ。
 普段は騎士や衛士、兵士達が鍛錬や訓練に使用をしているが、それでも全体を使う事など滅多になく、練兵場の1/3程度で事足りている。
 本日はそんな練兵場の半分近くが、汗臭さでむせ返る様な男達がひしめき合って鍛錬に勤しんでいた。
 いや、失礼…3割ほどは女性も混じっていた。
 しかし、全員が汗だくになり、一心不乱に剣を振ったり、模擬戦をしたりしており、男女問わずもの凄い熱気である事には間違いない。

「一同、止めーーーい!」
 そんな熱気あふれまくる集団に向かい、声がかけられた。
 その声は大きく張りがあり、ワイングラスにでも向かって声を掛ければ、ものの見事に割れる事間違いなしという程の声量である。
 今まで脇目もふらず鍛錬に勤しんでいた者達は、その一声でピタリと止まり、
「全員、集合ーー!」
 続く号令で、その声の主の元へと駆け寄った。
 その間、誰一人として無駄口を叩く者などいない。
 号令をかけた男を中心に、額を流れる汗すら拭わず、全員が綺麗に整列した。
「うむ! 諸君の普段の鍛錬が見える様だ! 見事な練度であるぞ!」
 大声の主にそう讃えられ、心なしか集まった者達の表情も幾何か弛む。
「我らの使命は、この王国の法を守り生きる善良なる民を守る事である! そこに貴民も勲民も無い! 等しく王国の民なのだ!」
 先程よりも少しばかり声量は抑えられてはいるが、それでも凛とした声は隅々までよく通った。
「さて…そんな諸君に、本日は私が直接指導を行おうと思う。我こそはと思う者は、私の前に並ぶが良い! 何人でも構わぬぞ?」
 その言葉に、場が微かに騒めく。
「諸君らは真剣で構わぬし、無論私もこの剣を使おう。但し、手心など加えぬから、互いに怪我をする事は覚悟するように。休憩の為、1刻ほど後より始める。では、これより休憩とする、解散!」
 そう言い残し、大剣を背負った男…その名もご存知、ヴァルナル・デ・アルテアン侯爵は、集団に背を向け練兵場の隅へと歩いていく。
 集団はその場に腰を下ろしたり、水分補給やトレイに走る者など、様々であった。
 そんな中、練兵場の隅へと歩いていたヴァルナルは、背負っていた剣を手にすると、無言でその大剣で素振りを始めた。
 離れていてもその剣が風邪を切る音が聞こえる程で、その場で腰を下ろして休憩に入っていた物は、無意識に身体が震えはじめるほどの素振りであった。


「ふぅ…」
 もう少しで夜の帳が下りようという頃、ヴァルナルによる模擬戦闘訓練は漸く終わりを告げた。
 途中、2度ほど軽い休憩を挟んだものの、ヴァルナルは立った1人で数百名にも及ぶ騎士や衛士、兵士達との模擬戦闘をやりきった。
「閣下、お疲れ様です」
 溢れる汗を袖口で拭っていたヴァルナルにタオルをそっと差し出したのは、彼の副官を勤めるブラウリオ・デ・アリケスという男爵だ。
「おお、これはすまぬな」
 一言だけ返し、ヴァルナルはタオルを受け取ると、額を流れる汗を拭った。
「しかし、流石は我が国が誇る英雄ですな…。まさか、1人で全員を相手にするとは思いませんでしたぞ」
 そう言ってブラウリオ男爵が見つめるのは、死屍累々の練兵場。
 無論、模擬戦が開始頃に倒れた者はすでに回復しているが、それでもまだまだ多くの者が大地に大の字で倒れたままである。
「まあ、まだまだ若い者には負けておれんよ」
「普通、上に立つ者であっても、ここまでは出来ませんよ…」
 ヴァルナルの言葉に、半ばあきれ顔で言葉を返すブラウリオ。

 彼がそう言うのも当然で、一般的に侯爵という役職は、かなり高齢になってようやく手が届くような爵位である。
 この王国全体を会社…いや家族経営の会社として考えれば分かり易い。
 侯爵位は、一般的に部長職…それも本部の部長と同等と考えれば間違いない。
 それ以上の爵位や肩書は、創業者一家、もしくは親族で占められており、肩書=実力ではない事が多い。
 なので、ヴァルナルの持つ侯爵位というのは、実質的に王族以外でなる事が出来る最高位の爵位となるのである。
 多くの部下を持ち重責ある立場でもある侯爵といえば、それ相当の年月をかけて功績を積み上げて初めて至る事が出来る爵位であるが、ヴァルナルは史上最年少でそれを賜る事となった。
 そう、はっきり言ってまだ若いのである。
 この国には10人の侯爵が存在するのだが、ヴァルナル以外は皆、気が若くとも老境に入っていると言っても過言でない。
 彼等がヴァルナルの様に実験を振り回して2百を超える兵達と模擬戦が出来るかというと、まず不可能だ。
 いや、多少武術の心得があったとしても、出来る事では無い。

「卿にそう言ってもらえるのは嬉しいが、我が家には私に匹敵する猛者がゴロゴロしているからなぁ…」
 仲間に手を差し伸べられて起こされる兵達を眺めながら、ヴァルナルが呟く。
「それは、トールヴァルド伯爵の事ですかな?」
 王国の誰もが知る有名人であり、彼の嫡子でもあるトールの名を男爵が出すと、
「ああ、あれもそうだが、トールの嫁達や使用人、娘達もかなり強いぞ」
「なんと!」
 ヴァルの言葉に驚くブラウリオ。
「まあ、一番強いのはウルリーカなのだが…」
「…それは我が家も一緒ですな…」
 嫁が一番強いというヴァルナルの言葉に、素直に頷くブラウリオであった。
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