上 下
1,352 / 1,457

タマタマ

しおりを挟む
 翌日、結構早い時間にメリルは長男君を連れて王城からやって来た。
 まあ、大勢の騎士さん達がぞろぞろと馬車の周囲を警戒していた事に、何か怖い予感もしたんだけれども、王族ならこれが普通らしい。
 普段は俺達が一緒だから、その必要も無いと思われてたそうだけど、今回は王家の血をひく赤ちゃんも一緒だからと、特に陛下が念入りに護衛を増員させたとか。
 馬車2台が余裕ですれ違えるほどの道幅を騎士さん達が埋め尽くす警護って、幾らなんでもやりすぎだと思いますけど。
 そんな大勢の護衛に周囲を固められた馬車から降りたメリルは、父さんの邸の応接室で、アルテアン家勢揃いでお茶を飲んでいた。
 しばらく無言でお茶を飲んでいたメリルだが、どうやら落ち着いたらしく、大きなため息を吐きながら愚痴を吐いた。
「お父さまが孫可愛さにこちらまで付いて来ると五月蠅かったので、尻を蹴っ飛ばしてきました。爺馬鹿もいい加減にして欲しいですわ!」
 母となったメリルは、最近かなり強くなった様です。
 そんなメリルを他の嫁ーずが、『まぁまぁ』と宥めすかし、漸く落ち着いた所で、昨晩のエド君に関する考察を話して来かえる事となったのだ。

「なるほど、その様な事情だったんですね」
 俺の話を、黙って一通り聞いていたメリルだったが、
「でも不思議ですわねぇ。トールさまの前世では、ほとんどの方がお住いの星の名前をご存知だったのですわよね?」
 少し考えた後、何かに気付いた様に俺に問いかけて来た。
「まあ、地球って言葉は、小学生…えっと、6歳ぐらいだったら、大体知ってると思うけど…どうして?」
「いえ、そこがどうしても引っかかるのです。前世では大人であったエドワード君が、それを知らなかったというのは、かなりおかしいのではないでしょうか?」
 まあ、そこは俺もおかしいと感じたな。
「そして、トールさまの前世の名前に聞き覚えがある…と?」
「うん、確かにそう返事をしたはず」
 それは間違いないと思うよ?
「う~~~ん…………」
「どうした、メリル?」
 何をそこまで考え込んでるんだ?
「いえ、ナディアさんの的確な質問には驚かされました。まさか身体は男性でも魂が女性だったなんて、私がその場に居たとしても、考えもつきませんでした」
 うん、確かにあれはナイスな質問だった。
 そのおかげで色々と考える事が出来たしね。
「前世の記憶を持って転生すると、赤子の内に光る事があるという点に気が付いたのも、性別が時折変わっている事に気が付いた点も、流石はナディアさんです」
 …俺じゃ考えつかなかったかもね…。
「そして、あの虹色の玉との関連性について注目したのも、素晴らしいの一言です」
 ナディア、喜べ! メリルがお前の鋭い着眼点を絶賛してるぞ!
「しかし、根本的な部分を見落としていますね」
「えっ?」
「エドワード君の前世は…人なんでしょうか?」
 メリルの衝撃的なこの発言に、居合わせた全員が、
『あっ!』
 そう声をあげずには居られなかった。
「トールさまは、先程幼い子供でも住んでいる星が地球という名前で呼ばれている事を知っていると言われました。ならばトールさまの前世の名前を知っているというエドワード様の前世は、まずトールさまの前世と同じ国かと。で、あれば…尚更成人しているのに、星の名前を知らないという事は無いのではないでしょうか?」
「う、うん…」
「そうすると、星の名前を知らない大人…トールさまの周囲で、そんな方は前世でいらっしゃいましたか?」
「居なかったと思う…」
「ですよね。そうなると、星の名前など関係ない生活をしていた方…。そしてトールさまの前世に近しい存在…。それって、人では無いのではないでしょうか?」
 その可能性は、完全に頭から抜けとったわ!
「もしかすると、エドワード君の中に入り込んだのは人ではない何か…まあ、可能性としては、トールさまの前世での飼育されていた動物か?」

 飼育していた動物って事は、ペット?
 前世は男だったって事は、オスのペットって事だよな。
 しかも成人しているって事は、動物なら生後数年もすれば子供を産んだりできるって事だから…ちょと待てよ?
 前世で関わった事があるはずの個人の名前は何故か思い出せないんだけど、今不意にとあるペットの名前を思い出したぞ?
 それはオスの茶トラの猫で、名前はプチ。
 俺の元に来た時は、本当に小さな猫だったんで、プチって名付けたんだ。
 家に来て手術可能なまで成長して、すぐに去勢手術してからは、ホルモンバランスが崩れたからか知らないけれど、どんどん太りまくって、立派なデブ猫になった。
 最終的には、体重は10kg近くにまでなってた。
 20年近く生きたけど、最後は老衰で天に召されたプチ…通称プッちゃん。
 愛称の方が長いって、どうよ?
 確かにタマタマは取っちゃったけど、性別は変更してない。
 ちょい下品だけど、ニューハーフさんなら、竿有り玉無しって事かな?
 それに、言われてみたら当たり前のことだけど、猫に地球なんて分かるはず無い。
 おいおい…、これって、もしかしたらもしかするのか?

「まさか…エド君…いや、お前…プッちゃんなのか?」
「にゃ~ぅ」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...