上 下
1,251 / 1,457

そんなものは無い

しおりを挟む
「ふぅ…完成…」
 ここは薄暗い室内の隅っこ。
 その床にぺたんと座り込みながら、何やら先程から一心不乱に作業をしていた女性が、額の汗を拭いつつ、そうぽつりと呟いたぬぐった。
 モニターの様な物の光によって照らし出されたその女性…モフレンダの顔は、実に満足気であった。
「ついに完成したのかや?」
 そんなモフレンダの背後から音もなく近づき、そのモニターの様な物をのぞき込むボーディ。
 振り返りもせず、モフレンダはコクリと頷くことでそれに応えた。
「ふむ…なるほど。確かに妾の出した要求と定義の仕様は全て満たされておるな。流石じゃ」
 ボーディの称賛を聞いても、表情をピクリとも動かさないモフレンダ。
「ん? じゃが、ここは少々妾の要求に対して過剰では?」
 手にした紙の束と、覗き込んだモニターの様な物の中を上から下へと流れる文字列の中の一点を指さし、ボーディがモフレンダに問いかけた。
「ん…ここは強化した方が良い。裏切りは許さない」
 ちょっとモフレンダの目つきがおかしい。
「し、しかしじゃな…これはやりすぎ…じゃないか…のぉ…?」
 そんなモフレンダの様子に戸惑いを見せるボーディ。
「これぐらいがいい。裏切った場合、肉体が跡形も残らず爆散。ついでに魂はブラックホールに吸い込まれる。転生も出来ずに永遠に闇の中をさ迷えばいい」
「か、過激すぎやせんか」
「大丈夫。裏切らなきゃいいだけの事」
 瞳孔全開なうえ、恍惚とした表情のモフレンダ。
 完全にヤバい薬でもキメてるようだ。
「う、あ、お…おぅ…それはそうじゃが…もちっと要件を緩くしてやらぬか? ちと可哀そうじゃぞ?」
 モフレンダが強化した部分…ダンジョンマスター及びトールヴァルド関係者に対し、全ての命令を完全無条件で受け入れる事。返事は『イエス』と『はい』しか認めない…。
 これではどこぞの小説やら漫画に出てくる隷属の契約と大差ないのではないだろうか。
 しかも、もしこれを破る事があれば、5秒後に肉体は内部から爆散する…。
 一子相伝の暗殺拳で秘孔を突かれた敵じゃないんだから、ボーディでもこれは酷いと感じた様だ。
「…そう? それじゃ10秒後に調整」 
 それでは、寿命が5秒伸びただけである。  
「えっと…10秒以内に何らかの方法で爆…散を止める方法はあるんじゃよな?」
「そんなものは無い。爆発はロマン! ゆえに起爆装置に停止スイッチなど無い!」

 あかん…これはあかんヤツや…ボーディは心の中でそう呟いた。
 あの2人の魂を、この肉体に移しかえさせてはいけない!
 こんな薄暗い空間で、毎日ずっと休みも無く作業していたモフレンダの気が狂ったに違いない!
 モフレンダと仲が良いモフリーナに説得してもらおう!
 そうしよう、そう決めた!
 ボーディが心の中でそう決めた時、
「さて、それじゃ2人を呼んでこようかな…」
 モフレンダが立ち上がった。
「ちょっと待て! 待つのじゃモフレンダ! そ、そうじゃ、完成したボディの最終チェックを、モフリーナにもしてもらおうぞ! きっとモフリーナも満足して、お主を褒めてくれると思うぞ!」
 ボーディ必死である。
「…頭…なでなでしてくれる?」
「お、おぉ…おお! もちろんじゃ! 頭だけでなく、全身わしゃわしゃしてくれるぞい!」

 サラとリリアは元は敵とはいえ、今は管理局にも切り捨てられ、こちらに協力してくれているのだ。
 まさか、そんな一言言い間違えただけで10秒後に絶対に爆散するような、超危険なボディを使わすなんて、あまりにも良心が痛む。
 ここでモフレンダのご機嫌を取り、何としてでもモフリーナの口からこの恐ろしい仕様を変更するように
モフレンダを言いくるめ…言い含め…説得してもらわねば!
 ボーディは、ダラダラと滝のように流れ落ちる汗を拭いもせず、必死にモフレンダのご機嫌を取りつつ、この後の段取りを必死になって考えるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...