システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

貴重なショット

　穏やかな陽光が差し込む午後の執務室。
　午前中の執務を終え、和やかな昼食を終えた俺は、さあもうひと踏ん張り頑張ろう！　っと、執務机に向かい腕まくりをした。
　その瞬間…、いきなりドカーン！　と執務室の扉が爆発したかの様な轟音と共に開け放たれた。
「ネス湖よ！　私は帰ってきた！」
　まるで漫画の様に両目から止めどなく涙をあふれ流しながら、両手を天へと伸ばしてサラが叫んだ。
「あんたは、アナ〇ル・ガトーか！」
　そんなサラの後ろ頭を、続いて入って来たリリアが平手で思いっきり叩いた。
　え～っと…俺がツッコミ入れる隙が無いんだけど…。
　どうやらサラとリリアさんとダンジョンマスター達との話し合いは、何とか上手くいった様だ。
　何だか締まらないけど、取りあえず2人の寿命問題は、もう大丈夫かな？

「ドタバタしてしまい、申し訳ありませんでした」
　執務室に備え付けの応接セットに向かい合って座ったリリアさんは、そう言って頭を下げた。
「いや、無事に戻って良かったよ」
　リリアの横では、リリアに後頭部を全力で叩かれたサラがノックダウンしていた。
「まあ、無事といえば無事ではあるのですが…」
「ん？　何かあったのか？」
　何か奥歯にものが挟まった様な物言いだなぁ。
　ちなみに奥歯にものが挟まるってのは、俺の経験上、肉類の筋とかだったりするけど、本当は何が挟まる事なんだろう？
「いえ、そのぉ…実は…」
「実は？」
「私達が戻って来ても良いのかと思ってしまって…」
　どういう事かな？
「私達は、身体の隅々まで徹底的に検査をされました」
　まあ、そりゃそうだろう。
　今のボディの情報を元にして新しいボディを造るんだろうからな。　
「そして、私達は管理局と完全に離別するために、投薬されました」
　ああ、あの薬か…。
「そして解放されたのですが…。本当にこんな簡単に私達を開放しても良かったんですか？」
「いいんじゃね？」
　それの何処に問題が？
「いえ、私達は貴女の事をずっと監視していたんですよ？　管理局の回し者…もっと言えば、敵認定されてもおかしくない存在です！　そんな私達を、こんな簡単に信用しても良いんですか！？」
　えっと…今さら？
「いや、そんなのずっと前から知ってたけど？」
「え？」　　　　
　まさか、管理局の正体に俺達が気付いているって事に、こいつらは気付いて無かったのか？
　ああ、そういえば俺達も薬を飲んでいるから、ずっと管理局やこの２人には情報が渡って無かったんだったな。
「そう、俺達はずっと前から管理局の事に気付いてたよ」
「ま、まさか…」
「局長が、俺達の存在するこの世界…いや、この世界を含む全次元世界を内包する世界以外に、新たな世界を創り上げようとしている事も」
「えっ、局長が新しい世界を…創り上げる？」
　あれ？　
「もしかして…君達も局長のやろうとしている事…知らないの？」
　ありゃま、びっくり。
「し、知りません！　全然知りません！　何ですか、それは！？　そんな事をしたらこの世界は…」
「崩壊するね」
「んなっ！？」
　ありゃりゃ、本当に知らなかったのね。
「この世界の寿命が近いってのに、２人のボディの事なんて、些細な事だよ。それに２人が服用したっていう薬は、すでにこのアルテアン領では全員が服用している。今はこの大陸中に住む半数の人が服用済み。まあ、色々と小細工はしたけどね」
「…………」
　リリアさんが口をあんぐり開けて呆けてるなんて、貴重なショットだな。
「そろそろパンゲア大陸では、全員服用完了するはずだ」
　あ、白目むいて気絶してる…。