上 下
527 / 1,457

朝の鍛錬

しおりを挟む
 翌日、いつもの様に朝日が昇る時間に目が覚めたのだが、どうも、こう…頭が重いというか、気だるいというか…
 簡単に着替え、重たい瞼と頭を冷たい水で顔を洗う事でリセットして、これまたいつもの如く裏庭で鍛錬鍛錬。
「イネス、慌てない。剣を振るのは、最初は大きくゆっくりで良いから丁寧に。常に正しく刃を立てる事を意識して確認して」
「はい! ゆっくり大きく…丁寧に…」
 まるでナメクジが這う様な、子供でも余裕で避けられる様なスピードで剣を動かすイネス。
「うん、そうそう。そこから、だんだんと動きを小さしつつ、剣速を上げる事」
「少しずつ、少しずつ…」
 イネスの持つ剣が、だんだん早くなり、風を切る音が少しずつ大きくなっていく。
「コラ! 剣先にばかり集中しない、足元に注意! 足運びは一番大事だ。それだけで動きがガラッと変わるんだぞ!」
「っ! は、はい!」
 いつも同じ場所で鍛錬しているイネスの足元には、何度も何度も繰り返した足さばきの所為で、下草は生えなくなり、地面がむき出しになっている。無論、俺も同じだ。
「そうだ! それでいい!」
「はいっ!」

 すり足ってのを勘違いしている人が多いんだけど、最初はイネスもそうだった。
 ズリズリと足を引きずるのをすり足だと思ってた様で、一から俺が修正したんだ。
 足の裏、親指の根本近くにある拇趾丘を軸に、前進であれば前に軽く重心を置いて足をスライド。後進なら逆という風に、常に姿勢というかバランスを崩さず、体の中に一本の芯が通っていて、それが地面と常に垂直にある様にする事が大事。
 練習で出来ない事が、実戦で出来るはずが無い。
 これが出来る様になって、初めて前傾、超前傾にならざるを得ない様な速度域でも、自らの身体と姿勢をコントロール出来るようになるわけだし、相対する敵のバランスというか、重心も見えて来る。
 別にこれは徒手空拳だけでなく、武器術でも応用は幾らでも出来るのだ。
 だからこそ、ただ力いっぱい飛び込んで力任せに剣を振るなんていう、変なクセが付いたイネスを見て手ほどきをしたんだ。
 まあ、父さんは野生の勘というか野生その物というか、俺が子供の頃に見たスタンピードの時には既に完成されてて驚いたんだけどな。

 まあ、こんな感じで、俺の鍛錬に付き合い続けてきたイネスに細かく指導をしながら、自分の身体の動きが頭の中のイメージとずれていないかチェックしながら、時折全力で型稽古を行う。
 特に体調に問題はないと思うのだが、朝の倦怠感は何だったんだろうか。
 実は5~6年ほど前から、あんな事が度々あるんだが、もしかして俺って病気でも罹ったのかな?
 う~~ん…戦争行く前に、ちょっと魔族のお医者さんに見てもらうとしますかね。
 お薬か魔法で治ればいいけど…

 そろそろ朝食の時間が迫って来た頃合いで、俺とイネスは汗を流して着替えに戻る。
 ちなみに、早朝の鍛錬に出ようとした俺とイネスを見て、父さんも一緒に行きたそうに扉を半分開けて顔を出していたのだが、その襟首をぬっと出てきた嫋やかな白い手が、ガッシと掴んで室内に引きずり込んだのを、俺とイネスは見なかった事にした。
 母さん、それはホラーだよ…怖いから止めてね。
 ちなみに、ここって俺の屋敷だから。
 朝から夫婦生活を頑張らなくてもいいよ…ドワーフメイドさんの洗濯が大変だから、自分達の屋敷でお願いします。

 さて、汗も流しお着換えも済ませ、しっかり朝食を食べた後は恒例のミーティングのお時間です。
 食堂に集まった、いつものメンバー + 両親と妹達と妖精達&ペット。
「では、恒例のミーティングです。この後は、各自荷物を持って裏庭に集合してください。すでに宿屋には、ドワーフメイドさんに行って貰い、騎士さん達に集合を掛けてもらってます」
 俺の言葉を、ふんふんと頷きつつ黙って聞く一同。
「今回は、ナディア達妖精一同とブレンダー達も連れて行きます。屋敷の事は、申し訳ないけどドワーフさん達、お願いします」
 俺が言葉を投げかけると、コクンと頷いてくれるメイドさん達。
「ユズキ、ユズカ。呪法具の仕様書は完成した?」
「はい。昨日、何故か閃きまして、完璧な物が出来上がりました」
 閃きって大事だよね、うんうん。
「了解。それじゃ父さん屋敷にユズキとユズカ降ろすので、街の職人さん達と打ち合わせをして、大至急量産体制に入って欲しい。アルテアン伯爵家の…いや、侯爵家での最優先事項だと言って構わない。現在抱えている全ての仕事を止めてでも、何人投入してでも構わない。モフリーナにも、必要な数だけ魔石は用意させるから、何としても期日までに数を揃える様に。必要経費は俺が用意する」
「はい、わかりました」
「あ、後で出来てる仕様書はチェックするから。え、ここに持って来てるの? うん、ちゃんと見るから」
 ユズキ、準備いいな…どれどれ…っと、それは後回しだった。
「父さんは、騎士さん達が来たら、裏庭に整列させておいて。コルネちゃんとユリアちゃんは、母さんとナディア達と行動を共にする様に」
 父さんは無言で頷き、
「「は~い!」」
 コルネちゃんとユリアちゃんは、元気いっぱいのお返事。
 うんうん、可愛い可愛い。
「2人の事は、母さんに任せなさい」
 母さんが可愛い分けじゃないからね。コルネちゃんとユリアちゃんの事だからね。
「…トールちゃん?」
 あ、いや…母さんは、可愛いというよりも、美しいです…はい。

「よし、連絡事項は以上。では、各自準備してください、解散!」
 俺の号令で、皆が食堂から準備の為に、各々の部屋へと向かっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。

大前野 誠也
ファンタジー
ー  子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。  しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。  異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。  そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。  追放された森で2人がであったのは――

処理中です...