上 下
472 / 1,457

何かおかしいぞ?

しおりを挟む
 騒がしい一日を過ごした俺達は、いつものアルテアン領へと帰って来た。
 俺の家へと続くトンネルを抜けた先にある、ネス湖の水面に反射する朝日が眩しいぜ。
 こっちの時間では夜通しのお仕事となっていたはずなので、待ち構える嫁達が怖いのだが…

『お帰りなさい、トールヴァルド様!』
 屋敷に着いた俺の前には、ずらっと並んだ嫁達とユズユズ、そしてドワーフメイド衆…おまけでブレンダー、クイーン、そしてノワール君。はて、全員集合とは、一体何事?
『お疲れでしたでしょう? お食事になさいますか? それともお風呂に? それとも…わ・た・し?』
 何故に全員で声を揃えて、そんなネタを…ユズカ、くすくす笑ってるとこを見るに、お前が教えたな?
 ま、その気持ちは決して嫌いじゃない。人生で一度は言われてみたいセリフの1つではある。
 だが惜しい! 裸エプロンなら、評価は100点満点中200点は行っただろう。
 って、男のユズキが居る前では出来るはずも無いか。
 ならば、やはりここは、
「本当に疲れてるんだ…風呂に入ってひと眠りしたいんだけど…」
 これ1択だろう。誰がこんだけ疲れてるのに、嫁達を相手に更なる疲労感を味わいたいというのだ。
『はい。すぐには入れる様になっております。どうぞ、ごゆっくり』
 全員が妙に大人しい…絶対に何か企んでるぞ、コレ。
 後ろで控えるサラとリリアさんも、かなり困惑顔。
 一体、嫁達に何があったというのだ? とは思いつつも、疲れた体を癒すために風呂へと続く廊下をてくてくと進むトール君なのであった。

「ふぃ~いい湯だぁ~」
 かっぽ~ん! と音が響きそうなトール君自慢の半露天風呂。
 この音って、桶の音だっけ? 鹿威しの音だっけ? まあ、どっちでもいいけど。
 頭に乗せた畳んだタオルを手に取り、顔に浮かんだ汗とも湯ともとれる何かを拭う。そっと半露天風呂の入り口の方へと目を向けてみるが、嫁達が乱入する様子も無い。あの超肉食系女子が、この無防備な俺に対して何もしないなんて、どういう風の吹き回しだ?
 いや、のんびり出来てこれはこれでいいのだが、物足りないと感じてしまうのは、俺が最近の嫁達の攻勢になれてしまったからか?
 嫌な慣れだなあ。
 だが、これぞスローライフ! このゆったりと流れる時間が最高だ!
 ひと眠りした後は書類仕事も溜まってるだろうし、人魚さん達の妊活パーティー(いやなネーミングだな)の手配も必要。
 休む暇も無いけど、今のこの時間だけはゆっくりしたい。
 
 この自慢の半露天風呂は、もちろん男湯と女湯に別れている。いや、急遽ちゃんと別けさせた。
 具体的には、10人一緒に入っても足を伸ばせるほど贅沢に広く作った木製の湯船を、半分でぶった切った。
 ドワーフ職人さんが丹精込めたこの湯船を、むりやり1日で竹っぽい植物で作った仕切りで分けただけだし、男湯は俺とユズキだけなんで狭くしたんだが、それでも十分に広い。
 眼前のネス湖の湖畔を望む眺めは変わってないので、狭いが開放感は残ってるのだ。
 地球で生きてた頃では考えられない贅沢に、俺の心の緊張感はゆっくりと解されていった。
 十分に体が暖まったところで、名残惜しいが湯船から出る。
 いつまでも入っていたくなる気にさせるお風呂とは、なかなかやりおる。
 しかし、体がほぐれれば眠気もやって来ると言う物。
 体を拭いたら、軽く食事をして睡眠をとろう…と、着替え終わった俺は食堂へと足を向けた。

 食堂には、これまた何故か嫁達を含めた全員が、メイド服で俺を出迎えた。
「えっと…何で?」
 ついつい、そんな言葉が俺の口から漏れた。
「野菜とハムなどを挟んだパンをご用意しております。お休み前ですので、味付けを押さえた野菜スープと共に、お召し上がってください」
 ミルシェの堂に入った給仕を受けた俺は、いつものお誕生日席に着く。
 いや、ミルシェは元々メイドさんだったんだから、慣れてるのは当たり前だけど…全員が一斉にお辞儀って怖いんだけど。
「じゃ、じゃあ、頂こうかな…」
 しわぶき1つ聞こえない食堂で、ただただ俺の咀嚼音とスープをすする音だけが響いていた。
「ご、ごちそうさま…」
『お粗末さまでした』
 全員が微妙に視線を合わさない様にしているのは、メイド教育によるものなんだろうか?
 だが、睡魔はもうすぐそこまで来ている…
「それじゃ、ちょっと部屋で眠るから…お昼過ぎに起こしてくれるかな…」
『かしこまりました、ご主人様』 
 まてまてまて! 絶対に何か企んでる! 間違いない!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...