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番外編)ネス湖の問題点

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 これは、俺達が結婚するずっと前の、ある暑い日のお話し。

「ふむ…税収は順調っと。んで、マチルダ。何か困った事はあるか?」
 この地の政務関係を任せていたマチルダに、領地内での問題点を訊ねてみた。
「ええ、幾つかございます。これはメリル様達ともお話しなければならないのですが…」
 何か言い難そうだな。
「まあ、とにかく言ってみて。すぐに解決できる事なら、さっさとやっちゃった方がいいだろう?」
「ええ、そうですね…では、まず1点。ネス湖に関する住民の要望です」
 ほぇ?
「ネス湖? 女神の存在が邪魔だとか、神事を行う鳥居が景観を損ねる…とかなの?」 
「いえ、そうではありません。実は、遊泳区域の関する事なのです」
 このネス湖には、ごく一部なのだが遊泳区域として、陸地から土を積み上げて湖の一部を隔離している。
 言ってみれば、堤防で囲った湖の一部を、遊泳区域として開放しているわけなんだが…
「えっと…もしかしなくても、狭いって事?」
「仰る通りです」
 なるほど。確かに依然と比べて、俺の領地への人の流入が激しくなっているのは確かだ。
 加えて俺や父さんの領地の景気は急上昇傾向にあって、懐に余裕のある人たちで溢れかえっている。
 とどめに俺が強力に推進している週休二日制によって、その余った金の使い道を探している人々が増えた。
 それ自体は非常に良い事だし、他の領主たちが俺の領地の見学にやって来るぐらい、他領の手本にもなっている。
 懐に余裕のある領民達は、俺と父さんの領地を繋ぐ長いトンネルを、家族で通行料金を払ってでもやって来て、スパリゾートで散財し、ネス詣でで金を落とし、宿泊施設に泊まり、お土産まで勝って帰ってくれる。
 売る上げ倍増で税収もうなぎ上がり! で、良い事づくめなのだが…その弊害が出たって事なのか?

「はい。この地に来る人々が、我が王国では非常に珍しいデザインである水着を購入するのは良いのですが、それを着用して遊ぶ場所が限られているというクレームが、非常に増えております」
 うむ、それは大問題だな。ビキニで浜辺を駆け周る揺れるおっぱぃ…もとい美しい女性たちを愛でれないなど、あってはならない事である!
「うむ、それは一大事だな。早急に対処せねば!」
 俺がそう宣言した瞬間、何故かとても冷たい目になったマチルダさん…ヤメテ! その目は怖いから!
「…まあ、遊泳区域が狭いのは確かですから…早急に対応が必要ですが…」
「んん? 他にも何かあるのか?」
「今、トール様は、浜辺を駆け周る真っ赤なビキニの女性…特に揺れるおっぱいを想像しましたね?」
 ぐっ…こやつ、何故に俺の思考を読めるのだ? 
「そ、そんな事は無いぞ! 俺にはやましい気持ちなど、これっぽっちも無いからな!」
「……嘘ですね。ですが、まあ、今回だけはメリル様達への報告は止めておきましょう。ところでトール様は、あそこで泳いだことはありますか?」
 とてもとても冷たい目でした。ホント、ヤメテ!
「そう言えば、ネス湖で泳いだことは無いなあ…」
「そうでしょうね。実は問題は浜辺の方なのです」
「浜辺?」
 え、何か問題あったっけ?
「ええ、浜辺です。人魚さん達の住む海を覚えておいででしょうか?」
「あ、ああ…綺麗な真っ白い砂浜と椰子の木の立ち並ぶ、綺麗な場所だったよなあ」
 水平線に沈む夕日は綺麗だった。もちろん、白い砂浜を彩る色とりどりの華たる婚約者~ずも、実に良い目の保養になった。
「ええ、確かに美しい場所でした…が、その人魚さん達の海辺とネス湖の畔の違いをご存知ですか?」
 ネス湖では泳いだこともないし、そもそも最初にネス湖を創った時に同時におまけで創った遊泳区域だから、あんまり覚えてないなあ…
「ごめんなさい……分りません」
 あからさまにマチルダが、俺に向かって盛大にため息をついた。
「はぁ…でしょうねぇ。いいですか? ネス湖の畔の浜辺は、砂浜では無いんです」
「ん?」
「つまり、ただの土なんですよ。砂などありません。もちろんネス湖の中もです。そもそも、裸足でなんて歩けません! それでビキニで揺れるおっぱいなど見る事が出来るとでも?」
 がーーーーーーーーーーん! めっちゃ盲点だった! そうだ、砂浜なんて創ってないよ! そうだよ、何で忘れてたんだよ! 精霊さんに頼んでネス湖を造ってもらった時、山間を切り拓いただけだった!
「確かにネス湖は異常なまでに水が浄化される美しい湖です。透明度はきっと世界一でしょう。湖の中に捨てたはずのゴミですら、翌日には綺麗さっぱりと消えているほどですから。ですが、あの湖で楽しく泳ぐ為には、一手間も二手間もまだかける必要があるという事に、お気づきでは無かったという事ですか?」
「おっしゃる通り、気付いていませんでした…ごめんなさい!」
「領主として、怠慢です! ちゃんと視察してください!」
「あい…ご説ごもっともです…」
「もしもですよ? あの湖畔に美しい真っ白な砂浜が出来れば、露天商などももっと立ち並ぶでしょう。水着などを販売する商店も、大々的に店舗展開を始めるはずです。そうなればこの領地の税収は、まだまだ伸びるのです! そして、トール様ご希望の、浜辺でビキニ! 揺れるおっぱい! ポロリもあるよ? 的な展開も大いにあり得るのです!」
「お…お! おお? おおおおおおおおおお!!!」
 それは確かに! むき出しの地面の上を裸足で駆けて行くビキニ美女などいまい! 確かに浜辺は必要だ! いや、砂浜が必要だ!
「でかしたマチルダ! 確かに言う通りだ! すぐにでも改良にかからねば!」
 興奮する俺とは対照的に、どんどん冷たい目になるマチルダ。ねえ、何で?
「やっぱり、やましい気持ちでしたね? 私は税収が目的でしたが…」
「え? あ!」
 しまった! これは迂遠なマチルダの引っ掛けか!

「みなさーーーん! 入ってきてくださーーーい! 大説教タイムのお時間ですよーーー!」
 マチルダが振り返り、執務室の扉に向かって叫ぶと、途端になだれ込む婚約者~ずの面々。
『お待たせしました、トール様~! お説教のお時間で~す!』
 ちょ! 俺は全然待ってねーよ! 
「ちくそう、マチルダめ! 嵌めやがったな!」
「いえ。ヘタレのトール様には、まだ嵌めてもらってませんが? ねえ、みなさん」
『そうそう! トール様はヘタレですからね~!』
 そっちの嵌めるじゃねーわ! 
 おい、俺の肩を掴むな! 誰だ、俺の膝の後ろをカックンさせたのは! ちょ、土下座した俺の頭を踏んだのは誰だ!
 
 その後のお説教タイムは、とてもとても人様にお見せできる物では無かったとだけ、記録しておこうと思う。
 もちろん、遊泳区域を人工海浜公園として大々的に拡大するのと、それに伴い白い砂浜を湖の畔と湖の中にまで広げる追加工事のために、サラと延々と話し合ったのは言うまでもない。
 今回は、なんとかネスが分解できない物質構成を割り出し、砂粒の大きさまで細かくしたものを敷き詰めたのだが、これが手に取って良く見るとまるで星の様だという事になり、星の砂として我が領の新たな名物となったとかならなかったとか。
 俺という尊い犠牲の上に、今のアルテアン領トールヴァルド地区の揺れるおっぱい天国は成り立っているのであった。

 おしまい。
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