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朝の鍛錬
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はっ! ふっ! せいやっ! すぅ~~~~…… はぁ~~~~……
拳が脚が空を切り、気合と息吹が、静かな湖畔の俺の屋敷の裏庭に響く。
前世で子供の頃から死ぬ時まで続けた空手の型を、その動きを、ゆっくりとなぞる様に身体を動かす。
型とも形とも言うが、どちらでも個人的には構わないと思っている。
まあ、一般人から見たら単なる決まった動きをするだけの、一種の踊りににも舞にも見えるかもしれない。
道場に入門したての、ちょっと腕に覚えのある初心者も、型なんて実戦で何の役にも立たないだろうと言ったりもする。
ま、これが普通の人の考えだろうな。普通というよりも、素人…かな。
ボクシングでもシャドーをするが、あれは相手を想定して1人で練習する、いわば空手の型と同じ。
相手を想定し、姿勢、目くばせ、足運び、受け、攻撃…全ての要素を凝縮した物が、空手の型の挙動だ。
カンフー映画でも同じような物を見る事が出来るだろう。
空手の型は、その意味を理解する事が最も重要なんだ。
だから俺は前世から続くこの毎朝の型の鍛錬を止めることは無い。
一突き、一蹴り、身体中の筋肉の関節の動きにまで細心の注意を払い、集中して型をなぞっていく。その挙動の先に、いつか現れるかもしれない敵を見据えて。
まだ日が昇りきる前のこの時間、ネス湖から立ち上る朝靄が屋敷の裏庭へと漂っていた。
この世界の夏はそこまで暑くはないのだが、季節が廻りほんの少しだけ肌寒さを感じるこの時間帯に、たっぷりと水分を含んだ朝靄は、季節の移ろいをより強く実感させるに十分な働きをしていた。
毎朝の習慣となっている鍛錬で火照った身体が冷えすぎないようにと、朝早くから傍に控えるミルシェが、汗を拭うためにタオルを手渡してくれる。
ミルシェがこうやってタオルを手渡してくれるのも、子供の頃からの慣習になってしまっている。
初めてダンジョンが父さんの領地に出現し、魔物が溢れ出した事件の後から、ずっと続いている。
ここは、ファンタジーではあるが、どこかリアリスティックな部分も多い世界。
魔法が存在するけれども、大多数の人々はそれを使えない。
異世界物のラノベ定番の、地球の中世ヨーロッパに似た世界ではあるが、どこかが少し違う。
魔物も亜人も存在するが、俺が知ってるラノベの世界の設定とは大きく違う。
俺は転生したが勇者じゃなかった。
すごいスキルとかレベルとか貰えなかった。
聖剣だって持ってない…そもそも魔王が悪じゃなかったし。
ラノベの世界に憧れる奴には、物足りないどこか牧歌的な世界だろう。
だけど人は日々を必死に生きようとあがき続け、一部の権力者はそういった人々を食い物にしようと企み、国という大きな単位でもそれは行われている。
力無き者は、誰かの傘の下に入らなければ生きてはいけない、何かに縋ってしか生きられない…結局、地球での世界と同じ、リアルな世界、これが現実。
転生したけどチートな勇者じゃない…まあ、おまけというか粗品というか便利グッズを使えるのと、前世の知識を持ったまま転生したのは、この世界の人々からしたら十分にチートなんだが。
転移者である、ユズキユズカは、記憶以外何もないからな。
チートぐらい付けてやったって良かったんじゃね? ちょい可哀相な気がする。
それを考えたら、俺がこの状況に不平不満を言うのは贅沢って物だろうな。
魔法をバンバン使って、何かに覚醒してすごい能力を発揮したり、すごいスキルで無双したり、美少女とパーティーを組んで、魔物を倒してレベルアップしたり、魔王を倒す旅に出て…最後には王女様とか美少女にモテモテになったり…
そんな定番のファンタジーな世界では無い…ここは。
あ、一応…って言っちゃ悪いが、王女様が嫁にはなるんだった、俺。
でも、転生したからといってラノベとかアニメで夢見た世界じゃないなんて、当然と言えば当然だよな。
星の数ほど…は居ないかもしれないけど、どの作家さんのどの作品見ても、異世界物なんて、ほとんどワンパターンな内容だった。
あれが多くの人が夢見る異世界転生、あれが現実世界から逃げ出したい人の願望なんだろうな。
そう考えたら、やっぱ俺って恵まれてる方だなあ。
いや、話が脱線した…つまりはガチャ玉なんてものは貰ったが、特別な力は貰えなかった俺だが、当然ながら他の奴の力には屈したくないので、この世界でもガキの頃から鍛錬は続けてるわけだ。
前世では、空手一筋だったから、当然この世界でも空手の鍛錬。
そもそも、空手を始めたきっかけは、子供の頃に見たアニメだった。
俺の子供の頃は、武道や格闘技のアニメとか漫画が溢れていたんだよ。
空手、柔道、剣道、プロレス、ボクシング…そうそうキック・ボクシング物もあったなあ。そうそう、TVだってプロレスやボクシングを、バンバン放送してたしな。
当時の週刊漫画雑誌なんて、後ろの方のページや裏表紙に、トレーニング機器の通販とか載ってたし。
あ、たまに日ペンの美〇ちゃんなんてのも有ったな(笑)
とにかく、そういった漫画やアニメの中で一番俺が心惹かれたのは空手だった。
実際に道場を見学させてもらったのだが、当時から実戦派を謳っていたフルコンタクト系は美しくなかった。強さに美しさなんて関係ないように思えるが、俺には絶対に譲れない一線。
ただ体格や筋力だけで相手を圧倒するなんて、俺の美学(笑)に反する。
かのブルース先生だって、あの体格で敵をなぎ倒してたじゃないか!
やはり技だよ、技! 世の達人と言われた方達は、その技術で強者を圧倒してきたんだからな。
いや、もちろん基礎体力の向上は必須だけど。
そんな訳で、いくつかの道場を見学して、最終的に入門したのはとある歴史ある流派だった。
毎日毎日、道場で習った型を動きを、繰り返し繰り返し反復練習。
中学に上がるころには、そこそこ強くなってた。もちろん帯の色も黒くなった。
成人し結婚しても、空手は続けた。
ある時なんかは、ボクシング経験者を含む5人と喧嘩になったが、無傷で倒せた。
ああ、俺は強くなったんだと実感できたもんだ。
そしてまた空手にのめり込む生活…仕事と空手に夢中になりすぎて、家庭を省みない生活…それが離婚の原因の一つになってたかもしれないんだが…
おっと、また話が逸れた。
兎に角、転生して動けるようになった子供の頃から、ずっと鍛錬を続けていたわけだが…15歳にして、前世の全盛期の頃と遜色ない動きができるようになってきた。
この世界の人々の肉体は、地球と比べてやっぱ高性能って事かな?
身長も前世の成人した頃と変わらぬ、175~6cmぐらいまで伸びたし、腹筋だってバッキバキ!
体脂肪率10%切ってるな、コレ。
…父さんにはまだ身長は追いつかないが、遺伝子が確かなら将来は180cm超えるかな? 母さんの遺伝子の方が強い気もするが…
『はて? 伯爵様の遺伝子なら…息子も立派になるはずですが…』
そうかな? もっと大きくなるかな?
『でもまだまだ可愛いですよね』
おい、サラ…その息子って、もしかして意味が違わんか?
『もうすぐ結婚ですから、息子のお披露目も近いですね』
何でそんな所をお披露目しなきゃならんのだ!
『いえ、少なくとも5人にはお披露目しますよね?』
…そうも言えなくはない…な。
『可愛い♡ って言われないといいですね!』
……すんごい精神的ショックを受けそうだな…
おかしい。真面目に色々と考えていたのに、最後は下ネタで終わるのか…
『グダグダなのは、毎度のことです!』
………そうとも言う。
ええい! そんな訳でこんな訳でどういう訳だかしらないが、俺は今でも鍛錬を続けている。この手で大切な人を護るため鍛え続ける。
そう、この身が大地へ還るまで、ずっとずっと…今度こそ家族も大切にしよう。
それが俺の役目だから。
拳が脚が空を切り、気合と息吹が、静かな湖畔の俺の屋敷の裏庭に響く。
前世で子供の頃から死ぬ時まで続けた空手の型を、その動きを、ゆっくりとなぞる様に身体を動かす。
型とも形とも言うが、どちらでも個人的には構わないと思っている。
まあ、一般人から見たら単なる決まった動きをするだけの、一種の踊りににも舞にも見えるかもしれない。
道場に入門したての、ちょっと腕に覚えのある初心者も、型なんて実戦で何の役にも立たないだろうと言ったりもする。
ま、これが普通の人の考えだろうな。普通というよりも、素人…かな。
ボクシングでもシャドーをするが、あれは相手を想定して1人で練習する、いわば空手の型と同じ。
相手を想定し、姿勢、目くばせ、足運び、受け、攻撃…全ての要素を凝縮した物が、空手の型の挙動だ。
カンフー映画でも同じような物を見る事が出来るだろう。
空手の型は、その意味を理解する事が最も重要なんだ。
だから俺は前世から続くこの毎朝の型の鍛錬を止めることは無い。
一突き、一蹴り、身体中の筋肉の関節の動きにまで細心の注意を払い、集中して型をなぞっていく。その挙動の先に、いつか現れるかもしれない敵を見据えて。
まだ日が昇りきる前のこの時間、ネス湖から立ち上る朝靄が屋敷の裏庭へと漂っていた。
この世界の夏はそこまで暑くはないのだが、季節が廻りほんの少しだけ肌寒さを感じるこの時間帯に、たっぷりと水分を含んだ朝靄は、季節の移ろいをより強く実感させるに十分な働きをしていた。
毎朝の習慣となっている鍛錬で火照った身体が冷えすぎないようにと、朝早くから傍に控えるミルシェが、汗を拭うためにタオルを手渡してくれる。
ミルシェがこうやってタオルを手渡してくれるのも、子供の頃からの慣習になってしまっている。
初めてダンジョンが父さんの領地に出現し、魔物が溢れ出した事件の後から、ずっと続いている。
ここは、ファンタジーではあるが、どこかリアリスティックな部分も多い世界。
魔法が存在するけれども、大多数の人々はそれを使えない。
異世界物のラノベ定番の、地球の中世ヨーロッパに似た世界ではあるが、どこかが少し違う。
魔物も亜人も存在するが、俺が知ってるラノベの世界の設定とは大きく違う。
俺は転生したが勇者じゃなかった。
すごいスキルとかレベルとか貰えなかった。
聖剣だって持ってない…そもそも魔王が悪じゃなかったし。
ラノベの世界に憧れる奴には、物足りないどこか牧歌的な世界だろう。
だけど人は日々を必死に生きようとあがき続け、一部の権力者はそういった人々を食い物にしようと企み、国という大きな単位でもそれは行われている。
力無き者は、誰かの傘の下に入らなければ生きてはいけない、何かに縋ってしか生きられない…結局、地球での世界と同じ、リアルな世界、これが現実。
転生したけどチートな勇者じゃない…まあ、おまけというか粗品というか便利グッズを使えるのと、前世の知識を持ったまま転生したのは、この世界の人々からしたら十分にチートなんだが。
転移者である、ユズキユズカは、記憶以外何もないからな。
チートぐらい付けてやったって良かったんじゃね? ちょい可哀相な気がする。
それを考えたら、俺がこの状況に不平不満を言うのは贅沢って物だろうな。
魔法をバンバン使って、何かに覚醒してすごい能力を発揮したり、すごいスキルで無双したり、美少女とパーティーを組んで、魔物を倒してレベルアップしたり、魔王を倒す旅に出て…最後には王女様とか美少女にモテモテになったり…
そんな定番のファンタジーな世界では無い…ここは。
あ、一応…って言っちゃ悪いが、王女様が嫁にはなるんだった、俺。
でも、転生したからといってラノベとかアニメで夢見た世界じゃないなんて、当然と言えば当然だよな。
星の数ほど…は居ないかもしれないけど、どの作家さんのどの作品見ても、異世界物なんて、ほとんどワンパターンな内容だった。
あれが多くの人が夢見る異世界転生、あれが現実世界から逃げ出したい人の願望なんだろうな。
そう考えたら、やっぱ俺って恵まれてる方だなあ。
いや、話が脱線した…つまりはガチャ玉なんてものは貰ったが、特別な力は貰えなかった俺だが、当然ながら他の奴の力には屈したくないので、この世界でもガキの頃から鍛錬は続けてるわけだ。
前世では、空手一筋だったから、当然この世界でも空手の鍛錬。
そもそも、空手を始めたきっかけは、子供の頃に見たアニメだった。
俺の子供の頃は、武道や格闘技のアニメとか漫画が溢れていたんだよ。
空手、柔道、剣道、プロレス、ボクシング…そうそうキック・ボクシング物もあったなあ。そうそう、TVだってプロレスやボクシングを、バンバン放送してたしな。
当時の週刊漫画雑誌なんて、後ろの方のページや裏表紙に、トレーニング機器の通販とか載ってたし。
あ、たまに日ペンの美〇ちゃんなんてのも有ったな(笑)
とにかく、そういった漫画やアニメの中で一番俺が心惹かれたのは空手だった。
実際に道場を見学させてもらったのだが、当時から実戦派を謳っていたフルコンタクト系は美しくなかった。強さに美しさなんて関係ないように思えるが、俺には絶対に譲れない一線。
ただ体格や筋力だけで相手を圧倒するなんて、俺の美学(笑)に反する。
かのブルース先生だって、あの体格で敵をなぎ倒してたじゃないか!
やはり技だよ、技! 世の達人と言われた方達は、その技術で強者を圧倒してきたんだからな。
いや、もちろん基礎体力の向上は必須だけど。
そんな訳で、いくつかの道場を見学して、最終的に入門したのはとある歴史ある流派だった。
毎日毎日、道場で習った型を動きを、繰り返し繰り返し反復練習。
中学に上がるころには、そこそこ強くなってた。もちろん帯の色も黒くなった。
成人し結婚しても、空手は続けた。
ある時なんかは、ボクシング経験者を含む5人と喧嘩になったが、無傷で倒せた。
ああ、俺は強くなったんだと実感できたもんだ。
そしてまた空手にのめり込む生活…仕事と空手に夢中になりすぎて、家庭を省みない生活…それが離婚の原因の一つになってたかもしれないんだが…
おっと、また話が逸れた。
兎に角、転生して動けるようになった子供の頃から、ずっと鍛錬を続けていたわけだが…15歳にして、前世の全盛期の頃と遜色ない動きができるようになってきた。
この世界の人々の肉体は、地球と比べてやっぱ高性能って事かな?
身長も前世の成人した頃と変わらぬ、175~6cmぐらいまで伸びたし、腹筋だってバッキバキ!
体脂肪率10%切ってるな、コレ。
…父さんにはまだ身長は追いつかないが、遺伝子が確かなら将来は180cm超えるかな? 母さんの遺伝子の方が強い気もするが…
『はて? 伯爵様の遺伝子なら…息子も立派になるはずですが…』
そうかな? もっと大きくなるかな?
『でもまだまだ可愛いですよね』
おい、サラ…その息子って、もしかして意味が違わんか?
『もうすぐ結婚ですから、息子のお披露目も近いですね』
何でそんな所をお披露目しなきゃならんのだ!
『いえ、少なくとも5人にはお披露目しますよね?』
…そうも言えなくはない…な。
『可愛い♡ って言われないといいですね!』
……すんごい精神的ショックを受けそうだな…
おかしい。真面目に色々と考えていたのに、最後は下ネタで終わるのか…
『グダグダなのは、毎度のことです!』
………そうとも言う。
ええい! そんな訳でこんな訳でどういう訳だかしらないが、俺は今でも鍛錬を続けている。この手で大切な人を護るため鍛え続ける。
そう、この身が大地へ還るまで、ずっとずっと…今度こそ家族も大切にしよう。
それが俺の役目だから。
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