幼馴染を追いかけて

小貝川リン子

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第五章 里帰りと置き土産

4 夜、お風呂で

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 夜の九時過ぎ。木枯らしが窓を叩く。カタカタと小刻みに窓が揺れる。

 遼真はいまだ帰らない。今日はなるべく定時で上がってお土産にケーキを買ってきてくれると言っていたのに、連絡すら寄越さない。でも仕方ないのかもしれない。年の瀬はどこも忙しいのだ。

 一服するなどして十時まで待ち、それでも帰ってこないので、馨は先に風呂に入った。普段ならいくら遅くても気長に待つのだが、今夜は期待していたせいで余計に寂しさが募る。

 真冬の夜でも、風呂は変わらず温かい。一人で入れば広くて良い。たっぷりのお湯にゆったりと体を沈め、馨は溜め息を漏らした。

 もくもくと立ち昇る白い湯気をぼんやり眺める。窓があれば、開けて露天風呂気分に浸れるのに、残念ながらこのマンションは浴室に窓がない。天井から湯気が滴り、水面に波紋を描く。

 馨はそっと自分の胸を撫でた。取り留めもなく、漫然と撫で回す。ふと、グミのような弾力ある突起が指の間に引っ掛かった。撫でるほどに固く尖ってくる。指先で摘まんで捏ね回し、先端を押し潰すように引っ掻く。左胸だけじゃ物足りなくなり、右胸にも手を這わした。両方の胸を手で押さえ、親指と人差し指で挟んでくりくりと弄り回す。

 馨は目を瞑って妄想を膨らませた。今自分は遼真と二人で風呂に入っている。遼真に後ろから抱きかかえられ、不埒な悪戯をされている。いやいや言いながら、その実全く嫌ではない。もっと過激なことをしてほしい。もっと、下も触ってほしい。もっともっと奥の方まで来てほしい。

「……りょーま」

 けれど、妄想と現実は乖離している。今馨は一人ぼっちだし、体を撫で回している手も自分のものだ。思えば、遼真の手は馨のそれとは大分違う。遼真の手はもっと大きく、指はすっきりと細長く、表面は滑らかな感じがした。それに、爪は常に短く切り揃えられ、清潔に保たれている。

「ん……」

 なんだか虚しいような気がしないでもないが、火のついた体は治まらない。張り詰めた中心ではなく、それよりももっと奥の秘められた箇所に指を沈めた。

「ふ……んん……」

 やはり遼真の指とはまるで違う。いいところにうまく当たらない。普段、遼真はどんな風に愛撫してくれているんだっけ。目を瞑って思い出しながら指を動かしてみるが、弄れば弄るだけ切なくなってくる。腹の奥の方が切なく疼く。前に一人でした時はこんな風にはならなかったのに。体がどんどん作り替えられているみたいだ。

「はぁ、ん……りょーま……」

 馨は膝立ちになって浴槽の縁に齧り付いた。尻側から手を這わせ、夢中で指を抜き差しする。動く度、ちゃぷちゃぷと波が立つ。湯気の滴る音と換気扇の回る音と、余裕のない息遣いが反響する。

「んぅ……ぅぅ、りょ、まぁ……どういて、はぁ、どういて、帰ってこないがじゃ……りょーまぁ」
「……ただいま」

 ドアの方から声がした。馨は固く閉じていた双眸を目一杯見開く。泣きたくなるほど待ち焦がれた想い人の姿がそこにはあった。

「ごめん、遅うなって……」

 気まずさと申し訳なさが入り混じったような声音。しかしその瞳は確かに熱を孕んでいた。

「僕を待って、一人でしよったの?」
「ぁ、ち、これは……」

 馨ははっとして指を抜いた。

「けど、僕の名前呼びよったろう。僕にされる妄想でもしよった?」
「ち、ちが……」

 あまりの恥ずかしさから、馨は遼真を直視できない。それなのに体温はぐんぐん上昇していく。顔も体も、既に十分火照っていたはずなのに際限なく熱くなっていく。

 遼真はおもむろに服を脱ぎ始めた。ベルトを外し、ネクタイを解き、裸になって浴室に踏み入る。腰のものは猛々しくそびえ、太い血管が力強く浮き出ている。馨はごくりと喉を鳴らした。

「りょ、ま……」
「馨ちゃん……いいよね?」

 ついに背後を取られ、馨は期待に胸を膨らませる。

「ちゃんとこっちにお尻向けて」

 引けてしまった腰を強引に掴まれ抱き寄せられた。切望した熱い大きな手に触れられ、限界まで性感が高まる。心臓が狂ったように早鐘を打つ。どきどきしすぎて気が狂う。

「っ、待っ……」

 蕾に先端が押し当てられる。熱くて、それだけで溶けてしまいそうだった。ああ、もう来る。入ってきてしまう。くる、くる、きて――

「挿れるね」

 指の数十倍はあろうかという肉の塊に、ズドンと貫かれた。水面が大きく波打った。

「ひぃ゛ッ――!?」

 馨は歓喜に震えた。指では届かなかった気持ちいいところを、ピンポイントで真っ直ぐに突かれる。すると、まるで圧迫されて押し出されるかのように、鈴口からとろとろと精液が漏れ出た。

「ひっ!? あッ、ぁぐ、や、ぁ、あぅ゛っ、」

 突かれる度、とろりとろりと精液が溢れる。初めての感覚に混乱するが、体は勝手に快感を拾って跳ねる。抑え切れない嬌声と、激しく腰を打ち付ける音、いやらしい水音とがやたらと反響してうるさく、それらを興奮材料に馨はますます昂っていく。

「馨ちゃん、挿れただけでイッたが? ほんま、かわいらし……」
「んゃ゛ッ、ぃ、言いなやぁ、あ゛ッ」
「はあ、初めて、ナマでしてもうた……まっこと気持ちえい、馨ちゃん……」

 ああそうか。普段と何か違うのは、避妊具を着けていなかったせいか。道理で、体の内側から焼かれるような思いがする。溶けた鉄の棒と紛うほど熱いそれが、馨の中を出入りする。腹の奥を穿たれ、そしてまた精を漏らしてしまう。

「あぅ、っ……ぁ、あつい、りょーまぁ、あつぃ」
「ん……僕も、もう……」
「あぅ、あッ、ぁ、りょーまぁ……」

 内側の熱さも然ることながら、ここはとにかく蒸し暑い。白い湯気が頭の中にまで立ち込め、視界が白くぼやけていく。頭がくらくら、足元はふらふら、意識までがだんだん遠のいていく。

 突然、中を埋めていた熱い肉棒が抜けていく。馨は一抹の寂しさを覚えたが、息つく間もなく尻に温かな液体が放たれた。温かくて柔らかくて、心地よかった。馨はうっとりと腰を震わせた。

 遼真は息を切らし、背後から馨を抱きしめる。髪の毛をよけて首筋に噛み付くようなキスをする。馨も振り向いて唇を寄せ、しばらく舌を絡め合った。
 
 *
 
「ほいたら、わしゃ飯の準備しゆうき。おまんもしゃんしゃんしぃや」

 疲れ果てたように湯船に沈んだ遼真を残し、馨は先に風呂を出た。

 遅い夕食を済ませ、お待ちかねのホールケーキを切り分ける。馨の期待通りのものを、遼真は買ってきてくれた。しっとり焼けたスポンジと、口当たり滑らかなホイップクリーム、甘酸っぱいイチゴのバランスが絶妙で、これなら無限に食べられそうな気がした。
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