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27 春雷③
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行為後、気だるい体をぐったりと横たえていた。布団一枚に二人で寝るのは狭く、俺の片足は畳の上へ放り出されている。
「あー……雷……」
夜空が一瞬真昼のように白んだかと思うと、荒々しい雷鳴が轟く。
「うるせぇ。眠れねぇ……」
桐葉は舌打ちをして寝返りを打つ。
セックス中、突如として雷が鳴り始めた。始めは遠くで鳴っていたのに、いつのまにか近所まで雷雲がやってきていたらしい。休む間もなく閃光が空を切り裂き、地鳴りのような轟音が窓ガラスを震わせる。
俺は眠るのを諦め、縁側に座って窓越しに外を眺めた。磨いたばかりの透明ガラスの向こう、煙るような春雨が草木を濡らしている。
「霧雨の時ってさ」
そぼ降る雨を見て、不意に中学の頃のことを思い出した。
「霧雨って小雨に見えるからさ、いつも合羽着るか着ないか迷ってたんだけど、でも合羽って面倒だろ? だから大体着ないでチャリかっ飛ばしちまうんだけど、でも見た目よりも結構降ってるもんだから、いっつもびしょびしょに濡れちゃってさ」
馬鹿だよなぁ、と過去の自分を振り返って自嘲する。
「ああ、そんな時もあったな」
「お前もそんな馬鹿やってたの」
「違う。お前が、雨の中合羽も着ずにうちに来たことあっただろ」
そんなことあったっけ、と首を捻る。
「あった。放課後、びしょびしょに濡れたお前がうちに転がり込んできたんだ。その日もこんな風な霧雨で、お前は合羽も着なければタオルを被るでもなく、ただ雨の中を強行突破してきたんだ。ばあちゃんがバスタオルを貸してやってた」
ふわふわの毛がぺしゃんこに潰れて、まるで無理やり風呂に入れられた犬みたいに貧相になっていて……と、当時を思い出して桐葉は笑う。
「お前ン家の方が近いのに、なんでわざわざうちに来たんだ? 何か深い訳でもあったのか」
「さぁ……全然思い出せねぇ」
「あの時のお前ときたら、雨に打たれて弱ってる子犬みたいだったぜ。面倒がらずに合羽を着りゃあいいのにと思ったっけ」
やっぱり、いくら記憶を辿っても思い出せない。しかし、家に帰りたくない理由があったのだろうとは思う。例えば、両親が絶賛喧嘩中であるとか。
あの頃、いや、物心ついた頃からずっと、うちの両親の仲はよろしくない。親父は頻繁にお袋を叩いたし、お袋は頻繁に家出をしていた。大きくなってからわかったが、互いに不倫をしていたのである。現在どうなっているかよく知らないのだが、おそらく離婚はしていないし、まだあの家に住み続けているはずだ。
「明日、お前の実家にも寄るか?」
桐葉が問うが、俺は首を振った。
「お前のこと、何て紹介すりゃいいんだよ」
「普通に友達だって言えばいい」
「そんな嘘を言うために帰る必要ねぇじゃん」
しとしとと降る雨音ばかりが夜の闇に消えていく。雷はいつのまにか遠のいた。西の空には星がちらついている。この分ならじきに雨も止むだろう。
「俺の実家なんか寄らなくていいよ。どうせ、帰ろうと思えばすぐ帰れる距離にいるんだし」
俺は布団に戻って桐葉を背後から抱きしめ、眠った。どんなに強く抱いても、今夜は一切拒否されなかった。
「あー……雷……」
夜空が一瞬真昼のように白んだかと思うと、荒々しい雷鳴が轟く。
「うるせぇ。眠れねぇ……」
桐葉は舌打ちをして寝返りを打つ。
セックス中、突如として雷が鳴り始めた。始めは遠くで鳴っていたのに、いつのまにか近所まで雷雲がやってきていたらしい。休む間もなく閃光が空を切り裂き、地鳴りのような轟音が窓ガラスを震わせる。
俺は眠るのを諦め、縁側に座って窓越しに外を眺めた。磨いたばかりの透明ガラスの向こう、煙るような春雨が草木を濡らしている。
「霧雨の時ってさ」
そぼ降る雨を見て、不意に中学の頃のことを思い出した。
「霧雨って小雨に見えるからさ、いつも合羽着るか着ないか迷ってたんだけど、でも合羽って面倒だろ? だから大体着ないでチャリかっ飛ばしちまうんだけど、でも見た目よりも結構降ってるもんだから、いっつもびしょびしょに濡れちゃってさ」
馬鹿だよなぁ、と過去の自分を振り返って自嘲する。
「ああ、そんな時もあったな」
「お前もそんな馬鹿やってたの」
「違う。お前が、雨の中合羽も着ずにうちに来たことあっただろ」
そんなことあったっけ、と首を捻る。
「あった。放課後、びしょびしょに濡れたお前がうちに転がり込んできたんだ。その日もこんな風な霧雨で、お前は合羽も着なければタオルを被るでもなく、ただ雨の中を強行突破してきたんだ。ばあちゃんがバスタオルを貸してやってた」
ふわふわの毛がぺしゃんこに潰れて、まるで無理やり風呂に入れられた犬みたいに貧相になっていて……と、当時を思い出して桐葉は笑う。
「お前ン家の方が近いのに、なんでわざわざうちに来たんだ? 何か深い訳でもあったのか」
「さぁ……全然思い出せねぇ」
「あの時のお前ときたら、雨に打たれて弱ってる子犬みたいだったぜ。面倒がらずに合羽を着りゃあいいのにと思ったっけ」
やっぱり、いくら記憶を辿っても思い出せない。しかし、家に帰りたくない理由があったのだろうとは思う。例えば、両親が絶賛喧嘩中であるとか。
あの頃、いや、物心ついた頃からずっと、うちの両親の仲はよろしくない。親父は頻繁にお袋を叩いたし、お袋は頻繁に家出をしていた。大きくなってからわかったが、互いに不倫をしていたのである。現在どうなっているかよく知らないのだが、おそらく離婚はしていないし、まだあの家に住み続けているはずだ。
「明日、お前の実家にも寄るか?」
桐葉が問うが、俺は首を振った。
「お前のこと、何て紹介すりゃいいんだよ」
「普通に友達だって言えばいい」
「そんな嘘を言うために帰る必要ねぇじゃん」
しとしとと降る雨音ばかりが夜の闇に消えていく。雷はいつのまにか遠のいた。西の空には星がちらついている。この分ならじきに雨も止むだろう。
「俺の実家なんか寄らなくていいよ。どうせ、帰ろうと思えばすぐ帰れる距離にいるんだし」
俺は布団に戻って桐葉を背後から抱きしめ、眠った。どんなに強く抱いても、今夜は一切拒否されなかった。
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