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19 すごいのは
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文化部が賞状をもらうのは珍しいらしく、私はそれから色んな先生に何度か声を掛けられた。
来週の月曜の朝礼で、全校生徒の前で賞状を受け取ることになっているようで、それを何度も言われて、なんとなく気恥ずかしい気持ちにもなった。
秋穂と凛子が一緒にいるときにも、何度か言われたのだけど、そのたびに秋穂は口を尖らせた。
「やっぱ、穂乃花はズルい」
「まあまあ、気持ちはわかるけど」
苦笑しながら凛子が言うので、私は首を傾げる。
「なに? なにかあるの?」
「なんでもない!」
そう言って秋穂がそっぽを向いてしまい、凛子は苦笑するばかりだったので、私はそれ以上は何も聞けなかった。
けれども、その理由は、月曜の朝礼のときに判明する。
賞状を受け取る人は前に出るように言われ、朝礼台の近くで立っていると、後ろから背中を指でつつかれる。
振り向くと、ネクタイが目に入った。そのまま視線を上に移す。
「せ、先輩」
「俺も、賞状」
小倉先輩がそう言って、にやりと笑った。
先週、県大会があったらしい。何人かの運動部の人が、先輩の後ろに並んでいる。
さすがに朝礼中にそれ以上は話ができなくて、私はどぎまぎしながら、名前を呼ばれるのを待っていた。
先輩は、県で二位の成績だったらしい。拍手を受ける先輩は堂々と胸を張っていた。
それをぼうっと眺めているうち、名前を呼ばれ、慌てて朝礼台の前に向かう。途中、少し躓いてしまって、前のほうに並んでいた人たちにくすくすと笑われ、顔から火が出そうになった。
そんな感じで、私の最初で最後であろう表彰状授与は落ち着かなくて、とてもかっこよいものとは言えないものになってしまった。
けれども列に戻っても、手の中の賞状が気になった。朝礼が終わってすぐ、賞状を開く。私の名前。審査員奨励賞の文字。
そこでやっと、本当にあの絵が入賞したのだと、実感できた。
バラバラと皆が教室に戻っていく中、私だけがそこに佇んでいた。すぐに、凛子が大きな声で「おめでとう」と言いながら、後ろから抱き付いてきた。
秋穂は幾分、不満そうな表情をしていたけれど、それでも少し笑って、「おめでとう」とつぶやくように言ってくれた。
「ありがと。でも、奨励賞なんだけど……」
「十分だって! すごいじゃん。なんか、肘井高校が近くにあるから難しかったって先生たちも言ってたよー」
「うん、ありがと」
「よう」
背後から話しかけられる。振り向くと、賞状を丸めて、それでぽんぽんと肩を叩きながら、小倉先輩が歩み寄ってきていた。
秋穂と凛子は二人して、「ええー、なによ、なにすんのよー」「まあ今日はいいじゃないの」なんて言いながら、じゃれあいながらその場を去っていく。
「すごいじゃん、それ」
私の賞状を指差して、先輩は言った。
私はその言葉にふるふると首を横に振る。
「や、先輩のほうがすごいです。県で二位って、すごすぎです」
「うんまあ、一位じゃないけど」
「でも、すごいです」
そう言うと、先輩は満足そうに微笑んだ。それから少し屈んで、私のほうに顔を近付けてきた。
あんまり顔が近くて、私はどぎまぎしてしまう。
「俺、すごくね?」
「え、はい。すごいです」
「いや、つーか、その絵」
そう言って、私の賞状を指差す。
「俺がモデルなんだろ? 今日の賞状のうち、二枚も俺が関わってんのって、すごくね? しかも運動部と文化部だよ。これって珍しいよな」
「……ああ、そうです。そうですね」
先輩がいたから、描けたんだ。
「先輩がすごかったから、私は賞状を貰えたんだと思います」
そう言うと、おっ、と先輩は声を出して、それから左手を私の頭の上に乗せると、わしわしと撫でた。
「きゃっ」
「カワイイこと言うねー、お前」
それだけ言うと、先輩はくるりと背中を向けて去っていく。少ししてもう一度振り向いて、言った。
「今度、完成品を見せろよ?」
「あ……は、はいっ」
私の返事を聞くと、また背中を向けて、賞状を持った右手を上げてひらひらと振ると、立ち去っていく。
私はぐしゃぐしゃになった髪はそのままに、先輩の背中を見送った。
秋穂には申し訳ないけれど、私はとても幸せで暖かな気分でいっぱいになった。
来週の月曜の朝礼で、全校生徒の前で賞状を受け取ることになっているようで、それを何度も言われて、なんとなく気恥ずかしい気持ちにもなった。
秋穂と凛子が一緒にいるときにも、何度か言われたのだけど、そのたびに秋穂は口を尖らせた。
「やっぱ、穂乃花はズルい」
「まあまあ、気持ちはわかるけど」
苦笑しながら凛子が言うので、私は首を傾げる。
「なに? なにかあるの?」
「なんでもない!」
そう言って秋穂がそっぽを向いてしまい、凛子は苦笑するばかりだったので、私はそれ以上は何も聞けなかった。
けれども、その理由は、月曜の朝礼のときに判明する。
賞状を受け取る人は前に出るように言われ、朝礼台の近くで立っていると、後ろから背中を指でつつかれる。
振り向くと、ネクタイが目に入った。そのまま視線を上に移す。
「せ、先輩」
「俺も、賞状」
小倉先輩がそう言って、にやりと笑った。
先週、県大会があったらしい。何人かの運動部の人が、先輩の後ろに並んでいる。
さすがに朝礼中にそれ以上は話ができなくて、私はどぎまぎしながら、名前を呼ばれるのを待っていた。
先輩は、県で二位の成績だったらしい。拍手を受ける先輩は堂々と胸を張っていた。
それをぼうっと眺めているうち、名前を呼ばれ、慌てて朝礼台の前に向かう。途中、少し躓いてしまって、前のほうに並んでいた人たちにくすくすと笑われ、顔から火が出そうになった。
そんな感じで、私の最初で最後であろう表彰状授与は落ち着かなくて、とてもかっこよいものとは言えないものになってしまった。
けれども列に戻っても、手の中の賞状が気になった。朝礼が終わってすぐ、賞状を開く。私の名前。審査員奨励賞の文字。
そこでやっと、本当にあの絵が入賞したのだと、実感できた。
バラバラと皆が教室に戻っていく中、私だけがそこに佇んでいた。すぐに、凛子が大きな声で「おめでとう」と言いながら、後ろから抱き付いてきた。
秋穂は幾分、不満そうな表情をしていたけれど、それでも少し笑って、「おめでとう」とつぶやくように言ってくれた。
「ありがと。でも、奨励賞なんだけど……」
「十分だって! すごいじゃん。なんか、肘井高校が近くにあるから難しかったって先生たちも言ってたよー」
「うん、ありがと」
「よう」
背後から話しかけられる。振り向くと、賞状を丸めて、それでぽんぽんと肩を叩きながら、小倉先輩が歩み寄ってきていた。
秋穂と凛子は二人して、「ええー、なによ、なにすんのよー」「まあ今日はいいじゃないの」なんて言いながら、じゃれあいながらその場を去っていく。
「すごいじゃん、それ」
私の賞状を指差して、先輩は言った。
私はその言葉にふるふると首を横に振る。
「や、先輩のほうがすごいです。県で二位って、すごすぎです」
「うんまあ、一位じゃないけど」
「でも、すごいです」
そう言うと、先輩は満足そうに微笑んだ。それから少し屈んで、私のほうに顔を近付けてきた。
あんまり顔が近くて、私はどぎまぎしてしまう。
「俺、すごくね?」
「え、はい。すごいです」
「いや、つーか、その絵」
そう言って、私の賞状を指差す。
「俺がモデルなんだろ? 今日の賞状のうち、二枚も俺が関わってんのって、すごくね? しかも運動部と文化部だよ。これって珍しいよな」
「……ああ、そうです。そうですね」
先輩がいたから、描けたんだ。
「先輩がすごかったから、私は賞状を貰えたんだと思います」
そう言うと、おっ、と先輩は声を出して、それから左手を私の頭の上に乗せると、わしわしと撫でた。
「きゃっ」
「カワイイこと言うねー、お前」
それだけ言うと、先輩はくるりと背中を向けて去っていく。少ししてもう一度振り向いて、言った。
「今度、完成品を見せろよ?」
「あ……は、はいっ」
私の返事を聞くと、また背中を向けて、賞状を持った右手を上げてひらひらと振ると、立ち去っていく。
私はぐしゃぐしゃになった髪はそのままに、先輩の背中を見送った。
秋穂には申し訳ないけれど、私はとても幸せで暖かな気分でいっぱいになった。
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