(Imaginary)フレンド。

新道 梨果子

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18 奨励賞

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「よくやった!」

 ある日、美術室に行くと、いきなり横山先生にそう言われた。

「……はい?」

 先生は、チョコプレッツェルをくわえることもなく、ただただ、「よーしよし」と何度も言っていた。

「……なんでしょう」
「あれ! 小倉描いたヤツ! 審査員奨励賞だって!」
「えっ」
「さっき電話があったんだよ。やったよね、これはよくやった! 肘井高校からも結構出品してたんだよ。県内の話だし、最優秀とか優秀賞とかじゃないけど、これはもう充分よくやった!」

 やたら先生が興奮しているので、私は興奮しそびれてしまった。
 ……奨励賞。あの、絵が。
 いまいち事態が飲み込めなくて、呆然と立ち尽くす私に、先生は拍子抜けしたように言った。

「なに? もっと喜ぶかと思ったんだけど」
「いえ……嬉しい……んですけど、なんか実感が沸かないというか……。いや、というか、先生があんまり喜んでいるので、喜べないというか……」
「あっ、そう? ごめんごめん。嬉しくてさあ」

 そう言って、先生は脇に置いてあった、いつものチョコプレッツェルを私に差し出した。

「ご褒美。今日は一箱あげる」
「……じゃ、いただきます。ありがとうございます」

 差し出された箱を受け取って、封を開いた。そしてチョコプレッツェルを一本差し出すと、「あげます」と先生に渡した。
 先生は満足げにそれを受け取ると、いつものようにくわえる。
 そして興奮気味に言い募った。

「いやあ、まさか入賞するとはねえ」
「あのお、入賞するつもりもなかったのに、出品させたんですか?」

 そもそも、部員勧誘のために入賞を目指してがんばる、という話ではなかったのだろうか。

「あわよくば、とは思ってたよ。そりゃもちろんそうだよ。でも、僕としてはさ」

 そしてチョコプレッツェルを一本全部食べてしまってから、こちらに振り向いた。

「絵を楽しく描いて欲しかったわけ」
「……楽しく」
「そうだよ。いっつもつまんなそうだったから、目新しい道具がいいのかな、とか、目標があったほうがいいのかな、とかさ。これでもいろいろ考えたんだよ」

 マイペースな先生が、そんなことまで考えていたとは露ほども知らず、私は辞めたい辞めたいとばかり考えていた。

「スミマセン……」
「いやいや、楽しく描いてくれたら、それで満足。楽しかった?」
「……はいっ」
「そりゃよかった」

 私の返事に、先生は満足そうにうなずいた。
 それから私の手元を指差して、「もう一本ちょうだい?」と言った。
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