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それはきっと、夜明け前のブルー
夜明け③
しおりを挟む「俺、北野が文通相手だって、かなり前から知ってたんだ」
「えっ、前から?」
びっくりして、つい大きな声が出てしまう。
私が知ったのは夏祭りの夜だから、かなり前というと、それ以前なんだろうか。
「ん、ばあちゃんがブルーの首輪に手紙をつけて、誰かと文通してるのを知って、騙されてんじゃねぇかって心配になってブルーのあとをつけたんだ」
たしかに……猫に仲介してもらって文通しているなんて、怪しまれても仕方ない。
話を聞いてうなずきながら、予想どおり黒崎くんが花さんの孫だとわかって、私はちょっと嬉しくなった。
「結局、そのときは北野の家のあたりで見失ってわからなかったんだけど、遠足の帰りに送った時に北野の家を知って、もしかしてってなって」
「遠足……」
「ほら、英語の授業のノートを教科書に挟んでくれてただろ。そのあとの手紙と字を見て、間違いないなって確信した」
名探偵黒崎……。
そんな前から知られていたことに、驚きと一緒に恥ずかしさがこみ上げる。
よく考えれば、いっぱい悩みも書いたし恋についての質問までした。
もうひとりの花さんが黒崎くんだとわかってはいたけれど、改めて思い返してみるとすごく恥ずかしい。
黒崎くんは、私が書いた手紙をどう思って読んでいたんだろう。
さすがにそれは聞けなくてもごもごしていると、黒崎くんはそれを少し違うふうに解釈したらしく、申し訳なさそうに頭を下げた。
「黙っていてごめん。ばあちゃんが手紙をすごく楽しみにしていたし、北野は俺を怖がっていたから、言い出せなくて……というか、俺も楽しみだったから」
ちょっと照れたように口元をゆるませる仕草に、きゅうんと胸が甘い音を立てて軋む。
私もあわてて謝って、夏祭りの夜に知ったことを打ち明けた。
話しながら、彼の『楽しみにしていた』の言葉を心の中で何度も繰り返して噛み締める。
黒崎くんも同じように思ってくれていたことが、すごく嬉しかった。
「あの、青い便せんは、黒崎くん……?」
「ん、ああ。ガラじゃねぇなって思ったけど……手紙の色をかえて、気づいてくれたらなって思ってた」
ぶっきらぼうな口調は、きっと照れ隠しだ。それがわかって、胸の奥がきゅうっと甘い音を立ててくぼむ。
黒崎くんは海の方に視線を泳がせてから、また私をふり向いて口の端を少しだけ上げた。
「納得した?」
少し首をかしげて覗き込むように私を見つめる瞳がとても優しい。
私は嬉しいのに泣きたいような不思議な気持ちになって、うなずくことしかできなかった。
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