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第3曲 quartetto ―四重―
3-3(2)
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その間にも奴は通常の煙玉を俺の周囲に放ち、俺の動きを封じようとしていた。慌てて口元を覆うが、全身の力が抜けていくように感じる。
「貴様ガ剣ノ達人トイウコトハ分カッテイル。ダガコレデ暫クハ動ケマイ」
嬉しそうに話す奴の声が近づき、片手で首を鷲掴みにされた俺の体が宙に浮く。かろうじて剣は握っているが、振り上げる力が入らない。
まずい、このままじゃ本当に殺されちまう。
その時、耳を疑う台詞が聞こえてきた。
「変化!」
それは和泉の声だった。
じわじわと首を絞められながら、俺は視線だけをアイツの方に向けた。まだ戦闘の経験もないのに、彼女は震える手で弓を構えていた。
「ば……」
馬鹿か、逃げろ。
そう言いたくても声は出ない。
すると同じく和泉の様子を伺っていたメストは、フンと鼻で笑うと唐突に首から手を放し、俺は地面に落とされた。解放はされたが、まだ睡魔と息苦しさに襲われて咽せることしかできない。くそ、早く覚醒しろ!
「ソノ弓……貴様、総長ノ和泉ダナ?」
「だ、だったら何? ああああんたなんて、これで封印してあげるわよ!」
自分に迫り寄ってくるメストに威勢良く強がっている和泉だが、その声は思いっきり怯えている。
無茶に決まってるだろ、大体アイツがメストを封印するには呪文が必要なのだ。お前はまだそれを知らないだろうが……!
<ちゃんと和泉を守ってくれよ、日向。彼女に傷の1つでもつけたら、僕が許さないからな>
分かってる。俺だって……和泉を死なせたくはねぇんだよ!
和泉が矢を一本放った。だがその矢には勢いがなくメストに届くことなく地へ落ちた。当たり前だ、弓すら扱ったこともないだろうに。
どんどん近寄ってくるメストを前にして、彼女はついにへたり込んだ。俺は剣を杖代わりにして立ち上がろうとするが、まだ足にも力が入らない。メストが腕を振り上げる姿を目にして背中が凍り付く。
「やめ……」
止めろ! と叫びかけたが、俺がその声を上げることはなかった。
何か大きな影が飛んできて、メストが呻き声を上げたかと思うと、和泉の姿がそこから消えたのだ。一瞬のことで目が追いつかなかったが、メストから離れた場所で砂埃が舞い上がりそこに視線を移すと、和泉ともう一人別の人物の姿があった。
まさか安芸か? そう思ったが人影はアイツよりも背が高いように見えた。顔は見えなかったが、その人物が握る湾曲した剣と紫がかった黒い髪は、蘇った記憶の中に見覚えがある。
「何者ダ!?」
恐らくあの人物に切りつけられたであろうメストは、そいつに向かって叫んだ。すると奴は手にしていた剣を肩に担いで相手を睨み、こう言った。
「日向のアホ面は知ってて、俺の顔は知らないのか。調べが甘いぞクソメスト」
……んだとコラ。
俺が言うのも何だが、この口の悪さは間違いねぇ。
愛用の湾刀――サーベルを振りかざして和泉を救ったのは、ブリッランテの一人である近江だった。
「貴様ガ剣ノ達人トイウコトハ分カッテイル。ダガコレデ暫クハ動ケマイ」
嬉しそうに話す奴の声が近づき、片手で首を鷲掴みにされた俺の体が宙に浮く。かろうじて剣は握っているが、振り上げる力が入らない。
まずい、このままじゃ本当に殺されちまう。
その時、耳を疑う台詞が聞こえてきた。
「変化!」
それは和泉の声だった。
じわじわと首を絞められながら、俺は視線だけをアイツの方に向けた。まだ戦闘の経験もないのに、彼女は震える手で弓を構えていた。
「ば……」
馬鹿か、逃げろ。
そう言いたくても声は出ない。
すると同じく和泉の様子を伺っていたメストは、フンと鼻で笑うと唐突に首から手を放し、俺は地面に落とされた。解放はされたが、まだ睡魔と息苦しさに襲われて咽せることしかできない。くそ、早く覚醒しろ!
「ソノ弓……貴様、総長ノ和泉ダナ?」
「だ、だったら何? ああああんたなんて、これで封印してあげるわよ!」
自分に迫り寄ってくるメストに威勢良く強がっている和泉だが、その声は思いっきり怯えている。
無茶に決まってるだろ、大体アイツがメストを封印するには呪文が必要なのだ。お前はまだそれを知らないだろうが……!
<ちゃんと和泉を守ってくれよ、日向。彼女に傷の1つでもつけたら、僕が許さないからな>
分かってる。俺だって……和泉を死なせたくはねぇんだよ!
和泉が矢を一本放った。だがその矢には勢いがなくメストに届くことなく地へ落ちた。当たり前だ、弓すら扱ったこともないだろうに。
どんどん近寄ってくるメストを前にして、彼女はついにへたり込んだ。俺は剣を杖代わりにして立ち上がろうとするが、まだ足にも力が入らない。メストが腕を振り上げる姿を目にして背中が凍り付く。
「やめ……」
止めろ! と叫びかけたが、俺がその声を上げることはなかった。
何か大きな影が飛んできて、メストが呻き声を上げたかと思うと、和泉の姿がそこから消えたのだ。一瞬のことで目が追いつかなかったが、メストから離れた場所で砂埃が舞い上がりそこに視線を移すと、和泉ともう一人別の人物の姿があった。
まさか安芸か? そう思ったが人影はアイツよりも背が高いように見えた。顔は見えなかったが、その人物が握る湾曲した剣と紫がかった黒い髪は、蘇った記憶の中に見覚えがある。
「何者ダ!?」
恐らくあの人物に切りつけられたであろうメストは、そいつに向かって叫んだ。すると奴は手にしていた剣を肩に担いで相手を睨み、こう言った。
「日向のアホ面は知ってて、俺の顔は知らないのか。調べが甘いぞクソメスト」
……んだとコラ。
俺が言うのも何だが、この口の悪さは間違いねぇ。
愛用の湾刀――サーベルを振りかざして和泉を救ったのは、ブリッランテの一人である近江だった。
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