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本編 鮮血の姫君
1 白昼夢
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「ルナ・・・ルナ!!ルナっ!!」
俺は目の前で驚いているルナの顔を見つけると、ソファーから飛び起きそばに駆け寄った。
確かに、さっきルナは死んだ。
感触があった。
生暖かい血液が体にまとわりつく感じ。
死にゆく者の独特の臭い。
そして、柔らかくも、冷たくなった体温を感じた肌。
そして、生々しい声。
どれをとっても疑いようのないくらい鮮明な記憶だ。現実との境界線が分からない。
ピンクにうっすらと赤らんだ頬に手を当ててみる。
いつも通り、柔らかい。
いい匂いのする美しい銀色の髪。
大きく、丸い青い瞳。
そこにいたのはいつもと変わらないルナの姿だった。
俺はルナを上から下まで全身傷や怪我がないか確認すると、自然と安堵のため息が出た。
「はぁ・・。よかった。無事か」
「は、はい・・。その・・。だいじょうぶですか?」
「どうしたの?お兄ちゃんがそんな慌てるなんて」
リアが椅子に座りおやつを食べている。
様子を見る限り、昼過ぎだろうか。俺が昼寝とは・・・。なんとも妙なものだな。寝なくても大丈夫な不死の体が居眠りをするとは。
「すまん。俺としたことが昼寝をして寝ぼけていたらしい」
「いえ、それはいいんですけど・・・」
「ちょっと!!あんたいつまでお姉ちゃんの腰に手を回してるつもりよ!!」
「なっ!!・・こ、これは・・その、すまん。夢中だったせいで」
「わ、私は別に・・そこまで気にしなくても」
「うちが気にするのよ!!このエロオヤジ!!」
俺の手からルナを取り上げるように奪うと、マナは『ベーっ』っと、舌を出して怒っていた。
マナとは、前回の幽霊騒動があってから距離が縮んだように思ったのだが、今でもたまに俺を邪魔者扱いすることがある。
それでも、殴ったりと暴力が減ったおかげで多少は楽だ。なんといっても女神のパンチは死霊にしてみればいつでもクリティカルヒットだからな。普通のダメージの何倍もある。
「ちょ、ちょっとマナ、そんな強く引っ張ったら痛いわよ。大丈夫、別にどこにもいかないから」
「うち、お姉ちゃんがいなくなっちゃったら・・・どうにかなっちゃうかも知れない」
「またまた、大げさよ」
姉の胸に顔をうずめてギューッと抱きしめるマナ。
ルナはあまり相手にしていないようだが・・・。いや、きっとそいつは何かする。きっとしでかすぞ。
姉よ、妹を理解してもう少し調教するのだ。躾がなっていないぞ。もし殴られているのが俺ほど魔力をまたぬ死霊ならすでに何回浄化されていることか・・・。
【でも、ほんとにどうしたの?あんたが焦るなんて珍しい。今日はなにか起きるのかしら?】
2人のやり取りを見ていると、頭の中にリアの声が響いてくる。
変態サキュバスが幼女に姿を変えているのがこのリア。れっきとした悪魔だ。同じ魔族として、今は俺の眷属になっている。眷属とはテレパシーが使えるのだ。魔族同士なら誰でもいいわけではない。
【何かが起こっては困るのだがな。できれば何事もなく過ごしたいのだ】
【冗談よ、でも、本当に何かあったの?また敵?】
【いや・・・。夢、なのだろうか。妙に現実的だったが】
【魔王軍最強の男も、夢でうなされて女の子にしがみつくのね】
お菓子を頬張りながらニコニコと微笑むリア。
こいつ、俺が悩んだり困ってる時に見て楽しむとはいい眷属だな。
「どうしたの?リアちゃん、なんか楽しそうね」
「ほんと、どうしたの?」
「うんうん。お兄ちゃん甘えんぼだなぁ~って思ってぇ」
横目で見る視線が痛い。
2人の女神の視線も痛く感じる。ルナにも笑われてしまったではないか!なんだ!?あいつはどっちの見方なんだ?いっそのことあいつの心臓を握りつぶして・・・。
「ほんと、だらしないヴァンちゃんでちゅねぇ?うちのお姉ちゃんはママではないでちゅよー?今ミルクでも買ってきてあげまちゅからねー?」
「いや、俺はだな。純粋にルナを心配してだな。」
額に怒りマークが浮き出てそうなひきつった笑顔でマナは俺に笑いかけてきた。
全く嬉しくない。
しかし、そんな彼女は俺の言葉を聞くと怒りマークが弾けたように声を上げた。
「うちはあんたがいつお姉ちゃんを襲うのか心配よ!このクズ!!ゴミ人間!!神に手を出すとは信じられないわ!あんたなんて地獄行きよ!!私があんたの魂を選定するときは如何なる善行もまぁっっっっくろに塗りつぶして二度と輪廻できないくらいの地獄へ叩き落としてやる!!」
「ま、まぁまぁ。マナ、落ち着いて」
「いや、少しでも見直したうちが甘かったのよ!!お姉ちゃん、やっぱりあいつは危ないわ!!リアちゃ
ん!お買い物行くわよ!甘えんぼさんにミルク買ってあげなくちゃ!!」
隣でなだめようとしているマナをよそに、ルナは怒りが溢れ出してきた。
こうなると、この娘は止まらない。何を言っても自分の意見を押し通すのだ。
し、しかし職権乱用にもほどがあるぞ。いかなる善行もなかったことにするとは・・。コイツが死んだらどんな罰が下るんだ?
「ちょ、ちょっと!!」
「わーい!おっでかっけーおっでかっけー」
強引にルナの手を引っ張り外に出ていく。ルナは最後まで困ったような顔をしていたが、妹の力に逆らえずそのまま玄関から消えていった。
リアもご機嫌で鼻歌交じりに玄関を出ていく。
「あっ、いい子に待っててね?甘えんぼさん」
口元に手を当てながら笑うその姿は完全に俺を馬鹿にしていた。
「うるさいっ!!お前、こないだ漏らしたこと・・・」
バンッ!!
勢いよく扉は閉ざされ俺の言葉は途中で掻き消えた。
窓の外には3人の姿。
マナは、俺のことを見ようとしない。
ルナは、手を振ってくれている。
俺も軽く振り返すと、その間にリアが割って入り『ベー』っと舌を出している。
【お前、今夜覚えてろよ】
【なぁに?今度は幼女に手を出すのかしら??】
【お前が言うと卑猥にしか聞こえん!!俺はそんな意味で言ったのではない!!】
【・・・】
俺のテレパシーにリアからの返事はなかった。
聞こえているのか、聞こえていないのか。返事をしないと分からないのが難点だな。
1人静かになった家の中で、俺はソファーにもたれながら脱力していた。
とりあえず、3人とも無事なようだ。もう魔王軍と戦うなんてコリゴリだからな。
俺は目の前で驚いているルナの顔を見つけると、ソファーから飛び起きそばに駆け寄った。
確かに、さっきルナは死んだ。
感触があった。
生暖かい血液が体にまとわりつく感じ。
死にゆく者の独特の臭い。
そして、柔らかくも、冷たくなった体温を感じた肌。
そして、生々しい声。
どれをとっても疑いようのないくらい鮮明な記憶だ。現実との境界線が分からない。
ピンクにうっすらと赤らんだ頬に手を当ててみる。
いつも通り、柔らかい。
いい匂いのする美しい銀色の髪。
大きく、丸い青い瞳。
そこにいたのはいつもと変わらないルナの姿だった。
俺はルナを上から下まで全身傷や怪我がないか確認すると、自然と安堵のため息が出た。
「はぁ・・。よかった。無事か」
「は、はい・・。その・・。だいじょうぶですか?」
「どうしたの?お兄ちゃんがそんな慌てるなんて」
リアが椅子に座りおやつを食べている。
様子を見る限り、昼過ぎだろうか。俺が昼寝とは・・・。なんとも妙なものだな。寝なくても大丈夫な不死の体が居眠りをするとは。
「すまん。俺としたことが昼寝をして寝ぼけていたらしい」
「いえ、それはいいんですけど・・・」
「ちょっと!!あんたいつまでお姉ちゃんの腰に手を回してるつもりよ!!」
「なっ!!・・こ、これは・・その、すまん。夢中だったせいで」
「わ、私は別に・・そこまで気にしなくても」
「うちが気にするのよ!!このエロオヤジ!!」
俺の手からルナを取り上げるように奪うと、マナは『ベーっ』っと、舌を出して怒っていた。
マナとは、前回の幽霊騒動があってから距離が縮んだように思ったのだが、今でもたまに俺を邪魔者扱いすることがある。
それでも、殴ったりと暴力が減ったおかげで多少は楽だ。なんといっても女神のパンチは死霊にしてみればいつでもクリティカルヒットだからな。普通のダメージの何倍もある。
「ちょ、ちょっとマナ、そんな強く引っ張ったら痛いわよ。大丈夫、別にどこにもいかないから」
「うち、お姉ちゃんがいなくなっちゃったら・・・どうにかなっちゃうかも知れない」
「またまた、大げさよ」
姉の胸に顔をうずめてギューッと抱きしめるマナ。
ルナはあまり相手にしていないようだが・・・。いや、きっとそいつは何かする。きっとしでかすぞ。
姉よ、妹を理解してもう少し調教するのだ。躾がなっていないぞ。もし殴られているのが俺ほど魔力をまたぬ死霊ならすでに何回浄化されていることか・・・。
【でも、ほんとにどうしたの?あんたが焦るなんて珍しい。今日はなにか起きるのかしら?】
2人のやり取りを見ていると、頭の中にリアの声が響いてくる。
変態サキュバスが幼女に姿を変えているのがこのリア。れっきとした悪魔だ。同じ魔族として、今は俺の眷属になっている。眷属とはテレパシーが使えるのだ。魔族同士なら誰でもいいわけではない。
【何かが起こっては困るのだがな。できれば何事もなく過ごしたいのだ】
【冗談よ、でも、本当に何かあったの?また敵?】
【いや・・・。夢、なのだろうか。妙に現実的だったが】
【魔王軍最強の男も、夢でうなされて女の子にしがみつくのね】
お菓子を頬張りながらニコニコと微笑むリア。
こいつ、俺が悩んだり困ってる時に見て楽しむとはいい眷属だな。
「どうしたの?リアちゃん、なんか楽しそうね」
「ほんと、どうしたの?」
「うんうん。お兄ちゃん甘えんぼだなぁ~って思ってぇ」
横目で見る視線が痛い。
2人の女神の視線も痛く感じる。ルナにも笑われてしまったではないか!なんだ!?あいつはどっちの見方なんだ?いっそのことあいつの心臓を握りつぶして・・・。
「ほんと、だらしないヴァンちゃんでちゅねぇ?うちのお姉ちゃんはママではないでちゅよー?今ミルクでも買ってきてあげまちゅからねー?」
「いや、俺はだな。純粋にルナを心配してだな。」
額に怒りマークが浮き出てそうなひきつった笑顔でマナは俺に笑いかけてきた。
全く嬉しくない。
しかし、そんな彼女は俺の言葉を聞くと怒りマークが弾けたように声を上げた。
「うちはあんたがいつお姉ちゃんを襲うのか心配よ!このクズ!!ゴミ人間!!神に手を出すとは信じられないわ!あんたなんて地獄行きよ!!私があんたの魂を選定するときは如何なる善行もまぁっっっっくろに塗りつぶして二度と輪廻できないくらいの地獄へ叩き落としてやる!!」
「ま、まぁまぁ。マナ、落ち着いて」
「いや、少しでも見直したうちが甘かったのよ!!お姉ちゃん、やっぱりあいつは危ないわ!!リアちゃ
ん!お買い物行くわよ!甘えんぼさんにミルク買ってあげなくちゃ!!」
隣でなだめようとしているマナをよそに、ルナは怒りが溢れ出してきた。
こうなると、この娘は止まらない。何を言っても自分の意見を押し通すのだ。
し、しかし職権乱用にもほどがあるぞ。いかなる善行もなかったことにするとは・・。コイツが死んだらどんな罰が下るんだ?
「ちょ、ちょっと!!」
「わーい!おっでかっけーおっでかっけー」
強引にルナの手を引っ張り外に出ていく。ルナは最後まで困ったような顔をしていたが、妹の力に逆らえずそのまま玄関から消えていった。
リアもご機嫌で鼻歌交じりに玄関を出ていく。
「あっ、いい子に待っててね?甘えんぼさん」
口元に手を当てながら笑うその姿は完全に俺を馬鹿にしていた。
「うるさいっ!!お前、こないだ漏らしたこと・・・」
バンッ!!
勢いよく扉は閉ざされ俺の言葉は途中で掻き消えた。
窓の外には3人の姿。
マナは、俺のことを見ようとしない。
ルナは、手を振ってくれている。
俺も軽く振り返すと、その間にリアが割って入り『ベー』っと舌を出している。
【お前、今夜覚えてろよ】
【なぁに?今度は幼女に手を出すのかしら??】
【お前が言うと卑猥にしか聞こえん!!俺はそんな意味で言ったのではない!!】
【・・・】
俺のテレパシーにリアからの返事はなかった。
聞こえているのか、聞こえていないのか。返事をしないと分からないのが難点だな。
1人静かになった家の中で、俺はソファーにもたれながら脱力していた。
とりあえず、3人とも無事なようだ。もう魔王軍と戦うなんてコリゴリだからな。
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