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 運動場の中央に私とエルフィスちゃんがいて、その周りをクラスメイトたちが囲んでいる。

 なんでこんなことになってしまったのか。一対一の決闘なんて危ないし気が進まない。
 こんなことになって先生は止めてくれないのか。

「よーし、エトワがんがんいけー! 転校生も負けるなー!」

 まったく止めてくれない!

 剣の先生に何か期待するのをやめた私は、エルフィスちゃんと向き合うことになる。

「負けるな? 当たり前でしょ。私が負けるわけないじゃない。エトワ、あんたから攻撃させてあげる。私からのハンデよ」

 クラスメイトたちがそんな私をちょっと無責任に応援してくれた。

「エトワちゃん、がんばってー!」
「そんな奴に負けるなー」
「だいたい剣で名の知れた商家ってなんだよ。剣士の家系なのか、有名な商家なのか意味わかんねーよ!」

 あ、それ私も思った。

「うるさいわね! 剣の腕が立つことでも有名で、生計は商売の方で立ててる家系なのよ!」

 それを言った子供に、エルフィスちゃんが顔を真っ赤にして怒鳴った。
 ちょっと気にしてたらしい。

 しかし、こちらから攻撃か。どうしたものか。とりあえずエルフィスちゃんが怪我しないようにしないとね。
 私は木の棒を握る腕をちょっとだけ振り上げた。

 まずはかるく。かるーく。

「えいっ」

 スパッ。

 私が木の棒を振るとそんな軽い音がして、それを受け止めたエルフィスちゃんの棒の先が切れる。

 え、なにこれ。

「おぉぉおおぉぉぉぉ」

 見てる子たちからどよめきがあがる。

『スキル斬鉄を獲得しました』

 なに、この天輝さんとはちがうシステムメッセージみたいな声!?

『ふむ、スキルを獲得したらしいな』

 ええ、こんな風になってるの!?
 この世界に生まれて8年ぐらい経つけど全然知らなかったよ!

『硬度の低い物質で、より硬度の高い物質などを切り裂くスキルらしい。取得条件は達人の域の脱力から剣を振るうことだそうだ。正直力を解放した状態では使いどころがないがあって損はない。よかったな』

 よくない! 全然よくない!
 こんなのいらない!

 あぶなすぎる!

「ひぃ……」

 エルフィスちゃんが青ざめた顔で先端が切断された棒を見る。
 これはもう、中止だよね……。

 そう思った矢先。

「エトワちゃんすごーい!」
「これはもうエトワの勝ちだろう」

 クラスメイトたちがそういった瞬間、エルフィスちゃんの目に闘志が湧き上がってきた。

「な、なによ、びびらせて。こんなのちょっと棒がぼろかっただけでしょ」

 いやいや、現実見ようよ!
 絶対、自然に壊れたのとは違う鋭利な切り口してるよ!

「エトワ、ガイダー志望だったからやる気がないのかと思ってたが、まさかこんな力を隠していたとはな! 見事だ!」

 先生も止めてよ!

 エルフィスちゃんが若干短くなった棒を握って切りかかってくる。
 なかなかの鋭い一撃。

 それを受けた私の木の棒は、またエルフィスちゃんの棒を切り裂いた。

「ひっ……!?」
「ひぃぃぃぃ!?」

 切りかかった方も、それを受け止めた方も、お互い悲鳴を漏らす変な光景が繰り広げられる。

 危ない。危ないぃぃぃ。

 天輝さんどうやったら、止められるの!? このスキル!!
 オンになったんだから、オフにする方法もあるはずだ。

『本来なら自分でコントロールできるはずだが』

 わかんないよ、そんなこと言われても!

『ふむ、修行不足だな。よく考えると、強力な魔族やアンデューラでのシミュレーションなど手加減のいらない状況ばかりで、加減のいる弱い相手にはろくに攻撃を仕掛けたことがなかった』

 そんな修行不足のパターンいらない!
 もっとステータスが低下するとか、そんな方向性でお願いします!

『待っていろ、私の方でオフにする』

 お願いします。なるべく早く。

 エルフィスちゃんは維持になってこちらに切りかかってくる。
 そのたびに、斬鉄の効果が発動して、悲鳴をあげている。怖ければ切りかかってこなければいいのに。

 私も若干涙目で、エルフィスちゃんが怪我しないように攻撃を受け止める。
 こっちだって怖い。鋭利な包丁もってる状態で、子供が飛び掛ってくるんだもん!

『おかしい。お前が非解放状態で取得したスキルのせいか、うまくこちらで接続できない』

 えぇぇええ、じゃあどうするのこれ!
 どうするのぉぉぉ!

 ねぇ! ねぇ! どうするのぉぉおおお!

『うるさい。少しの間、静かにしていろ。今、対策を考えているところだ』

 天輝さんに思考会話から叩き出された、私はエルフィスちゃんを言葉で止める。

「も、もうやめよ!? エルフィスちゃん!?」
「うるさい! うるさい! 私があんたなんかに負けるわけないんだから!」

 しかし、ムキになったエルフィスちゃんは止まってくれない。

『よし! わかった! 私の力でお前をお前の精神の中にダイブさせる! あとはお前が斬鉄スキルのスイッチを切って来い! 触れるだけでもいい!』

 何その漫画とかRPGの終盤にある主人公用のイベントみたいなノリ!
 そういうのやるタイミングじゃないよね。

『いいからやるのか。やらないのか』

 やります! お願いします!

 そして数分後――。

「ぜぇぜぇ……」
「ハァハァ……」

 ようやく心の中から斬鉄のスイッチを切ることができ、戻ってきた私がいた。
 精神的疲労で顔は真っ青で、息も荒い。

 一方、エルフィスちゃんも何度も私に攻撃を繰り返したせいか肩で息をしていた。
 ちなみに防御は無意識にやってくれるらしい。

 剣の先生が感動したように頷いて呟く。

「うむ、すばらしい勝負だ……」

 すばらしいじゃねぇよぉ!!
 危険だったんだよぉ!! 先生が止めてくれたらこんな苦労しなくてすんだんだよぉ!!!

 こんな大人になるなら私は絶対剣士なんか目指さない!

 私は心に決めた。

「なによ……なんでこんなっ……あんたみたいなぼけーっとしたやつに……」

 あらゆる攻撃をすべて受け止められ、歯が立たなかったせいか、エルフィスちゃんは涙目だった。
 ちょっと心が痛むけど、いい加減決着をつけなければならない。
 もうさすがに私も疲れた――。

 私は一度地面を切って、斬鉄の効果が切れてることを確認すると、地面を蹴りエルフィスちゃんの後ろに回りこむ。

「はやっ!?」
「すごいっ!!」

 そして背後から気絶させるために木の棒を振るった。
 正面を向いたまま私を見失い、呆然とするエルフィスちゃんに私の一撃が決まる。

 今度は加減も上手くできたのか、ばさっと気絶してくれた。

「おぉー!」
「エトワちゃんの勝ちだー!」

 ポムチョム小学校の子たちが無邪気に歓声をあげる。

 剣の授業の先生――名前をウォードマンという――がうんうんと頷きながら私に言った。

「いい勝負だった。2人とも素晴らしい才能のある若人だ。立派な剣士に育てて見せるぞ」

 先生、次回から私この授業出ませんから。

 
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