公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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 ハリネズミくんが部屋を飛び出したあと、キツネの魔獣が戻ってきた。
 小柄だけど一際賢そうな魔獣で、他の小型や中型の魔獣たちに指示をだしている。この部屋に戻ってくるときも、二匹の中型の魔獣を従えていた。

 天輝さんをどこかに隠してきたのだろう。
 感覚でおおよその位置はわかるけど、心眼は届かないのでどんな場所に隠されてしまったのかはわからない。

 一方、私の視界は、天輝さんが補助してくれない上に、変に力を入れてしまったせいか、めちゃくちゃなことになっていた。
 1カメがレトラスと二匹の大型の魔獣の戦いを映していて、2カメが私の周囲を把握していて、3カメは初めてのおつかい風にアングルを変えながらハリネズミくんをチェック、4カメがハリネズミくんを上空から追跡中だ。3カメがいらない。

 人間の視界とは違うので、ちょっとムズムズする。
 もうちょっとどうにかならないだろうか、と思ったら画面が四つに分割されたテレビ風の画面になってくれた。

 これでよし、よくない。

 ハリネズミくんはミントくんのお父さんであるルバーブさんを目指して、裏口から屋敷に入る。
 しかし、屋敷の中には中型の魔獣たちがたくさんうろついていた。

 ハリネズミくんはコソコソと進むけど、犬の魔獣にその姿を発見されてしまった。

 お犬さまはハリネズミくんの方に走ってくる。
 ピンチ、と思ったら犬の魔獣はパッと前足を挙げると、挨拶をして通り過ぎていった。

 気さくな魔獣みたいだ。
 ハリネズミくんも私もホッと息を吐くと、そのままルバーブさんのいる屋敷の中心部へと向かっていく。

 なんとかなりそうだ。
 そう思っていたら、私の部屋の方で動きがあった。

 キツネの魔獣が何かにハッと気づいたように私に近寄ってくる。
 そして、尖った鼻先で私の袖口をつついた。しっとりした鼻の感触が気持ちいい。

 キツネさんは私の手元に紙がないことに気づいたようだ。
 焦ったように「コン!」と鳴いた。

 それから、私の袖口をクンクンと嗅ぐと、犯人の匂いを嗅ぎ取ってしまったらしい。
 その目が鋭いものに変わる。

「クォォオン!(お前たち何をやっていた、と言ってる気がする)」

 キツネさんは私に寄り添ってすやすや眠る小型の魔獣たちを一喝した。

 魔獣たちは飛び起きると、キツネさんが怒っているのに怯えて、キューキューと泣いた。
 怯えてるせいか、私にまとわりつくパワーもあがって気持ちいい。

 キツネさんは怯える小型の魔獣たちに、少しの間、小言を言ったあと、部屋をでていった。

 これはまずいかもしれない……

 ハリネズミさんが屋敷の廊下をひっそりと進んでいく中、キツネさんが裏口の扉をバタンと開けて登場する。
 近くにいた犬の魔獣が何事、と目を丸くしてる中、キツネの魔獣は口を開き、無音の遠吠えをあげた。たぶん、人間の耳では聞き取れない声だ。

 それを聞いた瞬間、屋敷にいた魔獣たちの様子が変わる。

 今まではどこか呑気に屋敷をうろついているだけだったのが、鋭い目をして誰かを探し始めた。
 もちろん、気のせいでなければ、それはハリネズミくんだ。

 ハリネズミくんもキツネさんの声が届いていたらしい。その体の針が、恐怖に一瞬逆立つ。

 キツネさんの指示に従って、中型の魔獣のハリネズミくん追跡網は動きはじめていた。

 魔獣たちは屋敷を駆け回り、顔を合わせるたび鳴き声で情報を交換し、鼻の効くものは匂いをたどり、じわじわと捜索域をハリネズミくんに近づけていく。ハリネズミくんも小さな体を生かして、うまくやり過ごしているけど、これではルバーブさんのところに行くどころではない。それどころか、徐々に追い詰められてきている。

 追跡を避けるために、1階の廊下まで戻ってきてしまったハリネズミくん、そんなハリネズミくんの背後にその匂いを辿る犬の魔獣が現れた。匂いをたどっている分その動作は鈍く、まだハリネズミくんの姿は見られていなかった。
 ハリネズミくんは彼から遠ざかろうと、歩みを早める。しかし、廊下の向こう側からも別の魔獣たちがやってくる。

 運がわるいことに、その場所は一本道で分岐はない。
 万事休す!

 私もハリネズミくんもそう思ったとき……

「ホー」

 そんな声が響いた。
 ハリネズミくんの近くの扉がパタンと開く。

 ハリネズミくんがその扉に駆け込むと、あのミミズクがいた。ハリネズミくんがりんごをあげたミミズクさんだ。
 扉はすぐにパタンと閉まる。

 魔獣たちは匂いをおって、ハリネズミくんが部屋に入ったのに勘づいた。
 そのドアを前足で器用にガチャガチャと開けようとする。普通ならそれで開くはずだった。

 ハリネズミくんも終わった……、という顔をしている。
 しかし、いくら前足を動かしても扉が開くことはなかった。

 ミミズクさんは落ち着いた表情で毛繕いをしている。

 魔獣たちもおかしいと気づいたらしい。
 1匹を残して、他の魔獣たちが仲間を呼びにいく動きを見せた。

 一応、捕まるのは避けられたけど、ピンチなのは変わってない。

 私はため息をついた。
 この状況、ハリネズミくんではどうしようもなくなってしまった気がする。

 私が助けに行ってあげたい。

 でも、いくら立ちあがろうとしても、もふもふに包まれた体は動かすことができなかった、それと心地よかった。

 私に……この拘束を脱出する力があれば……
 ごめんよ、ハリネズミくん、そう心の中で謝ろうとしたとき。

"力が欲しいか……?"

 部屋にそんな声が響いた気がした。

「どちらさまですか⁉︎」

 不思議なことに、その声は小型の魔獣たちには聞こえてないようだった。
 突然、何かしゃべりだした私を、魔獣たちは不思議そうにつぶらな瞳で見つめた。

"我はアースウォーカー……"

 その声は言った。

"力が欲しければ……くれてやろう……!"

 ガシャーン、と倉庫の窓が割れる。
 窓から飛び込んできたのは……

「モサモフさん⁉︎」

 大量のモサモフさんたちだった。
 驚く私を差し置いて、モサモフさんはそのモフっとしつつも、モサっとした毛を生かし、私とモフモフの間に滑り込んでくる。

(これは……!)

 私はすぐにもさもふさんの意図を察した。
 もさもふさんがモフモフの間に体を滑り込ませ、私を包み込んだことにより、モフモフの牢獄に囲まれていた私の周りに、新たにモサモフ圏とも呼ぶべき領域ができあがる。
 これにより、小型のモフモフ魔獣たちを安全に、体から引き離すことに成功した。

「ふんっ!」

 モサモフの鎧を纏った私は立ち上がる。
 どうやらモサモフさんが力を貸してくれているみたいだ。身体能力も若干向上しているのが感じる。

「こ、この力があれば……!」

 小型の魔獣たちは立ち上がった私を見て焦る。

「キュッキュウっ!」

 鳴き声をあげて散開し、そこから私を目がけて突撃してくる。
 オールレンジ攻撃。またモフモフの牢獄を作る気なのだ。

「悪いけど、今の私には効かないよ!」

 私はモサモフさんのモサっとした毛を利用して、その攻撃を平和的に叩き落としていった。
 小型魔獣たちの包囲網が崩れる。

"いつも弁当をくれる娘よ、我が力でこの状況を打破してみせよ"
「はい! 天輝さんを解放して、ハリネズミくんを助けてみせます!」

 モサモフさんの力を借りた私は倉庫を飛び出した。



※あとがき
更新遅い作品ですが、読んでくださっている人に感謝です。
今年もありがとうございました。
感想いただいているのですがちょっと今は年末からお正月にかけて更新のモチベーションが左右されるのが怖いのであとで目を通して、お返しをしたいと思っています。
あとこのサイトの感想なのですが、私が承認を押さないと公開されない仕組みになっていて(設定で変えられるんでしょうか……?)、投稿してもすぐに表示されないのでご容赦ください。
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