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それはもう二十年以上前の話。
入学式の日。
ダリアは念入りにレミニーに髪を梳かしてもらっていた。
「ダリアさま、馬車の準備ができたそうです」
「やめておくわ。入学前の見学のときも、馬車でいって恥をかいたのよ」
レミニーの提案に、ダリアはぷくーっと頬を膨らませた。
自由参加の学校見学のときに『皆、馬車で通ってます』と言われて、馬車で行ったのだ。すると、誰も馬車で来ていなかった。おかげで自分だけが恥をかいてるみたいになってしまったのだ。
レミニーに手伝ってもらい、制服に着替えて家をでる準備をする。
朝の食卓に向かうと、自分ひとりだけだった。
「お父さまとお母さまは?」
「中等部の入学式でディリーさまが挨拶をされるそうで、一緒に学校に向かうと家を出られました」
「そう……」
ディリーはダリアの兄だった。
魔法の才能がダリアよりも優れていて、ケルビン家の嫡子になっている。跡継ぎの子供の教育に熱が上がりすぎて、次の子供への対応がおろそかになることは、貴族ではありがちなことだった。だからダリアも別に悲しくはない。別に普段から無視されてるわけではないし、こういう大事なイベントのとき兄の方が優先されるだけだ。
朝から一緒に学校に行くのはちょっと異常だと思うけど。
そもそも入学式でも親が来ない子は結構いる。親が貴族としての仕事で忙しかったり、そもそもルヴェントにはいなかったり、だから寂しくもない。
そんなことより――
ダリアは椅子を降りて、廊下に置いてある鏡の前に立って微笑んで見せた。
ふわふわの金色の髪にグリーンに輝く宝石みたいな瞳。
誰が見ても文句つけようのないほど可愛らしく、それでいて少し儚げな雰囲気のある美少女が鏡の向こうで微笑んでいる。
自分は魔法の才能は兄よりはないかもしれないけど、こんなにも可愛らしい美貌があるのだ。絶対にいい夫を捕まえて、誰よりも幸せになってみせるわ。
ダリアはそう心の中でつぶやいて、胸を張った。
***
徒歩で学校に向かい、校門を潜ると、社交界で顔見知りだった少女たちが集まってきた。
「ダリアさま! おはようございます!」
「ええ、おはよう、サリル、メイア」
「あの……はじめましてダリアさま……!」
見知らぬ少女も一人いた。
「あ、こちらはドディール子爵家のフィーレットです。私たちと一緒のクラスなんです」
「そう、よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします、ダリアさま」
緊張した様子のフィーレットにダリアは笑顔で挨拶をする。
下々の身分の者でも邪険にすることはない。そういう子たちに親切にしておけば、自分の力になってくれると知ってるからだ。
顔見知りの子たちとその場で話してると、校門の方からぱかぱかと馬の蹄の音が聞こえてきた。
全員の視線がそちらに向く。
サリルとメイアが校門に向かってくる馬車を見て、くすくす笑った。
「あらあら、どこの家の方かしら」
「毎年いらっしゃるんですよね、馬車で来られる高貴な御方。今はみんな徒歩でくるのが普通ですのに」
ダリアはその少女たちと何度も話したことがあったが、そういった事情は教えてもらえてなかった。
この二人はあまり信用しないようにしようと心の中で呟く。
学校見学に参加していなかったらしく、学校に馬車で乗り付けてしまった生徒。
それを見るほかの子供たちの視線も、サリルやメイアと同じような雰囲気だった。
あからさまにバカにするほどではないが、ちょっとおかしそうにくすくす笑っている。
高位貴族ほど犯しがちなこのミスは、下位の者たちにとっては、ちょっとした楽しいイベントになってるのかもしれない。
しかし、その馬車の家紋が目に入る位置までくると、全員の表情が変わった。
「し、シルフィール家の馬車よ」
「じゃあ……クロスウェルさまが……!」
「シルウェストレの君たちも一緒に……!?」
周囲の視線が小馬鹿にするようなものから、憧れの視線に一気に変わる。
シルフィール公爵家のクロスウェル――その名前はダリアも知っていた。
今年はいる一年生の中で、最も身分の高い生徒。いや、少なくとも小等部生の中では一番の身分だった。
王国の守護者と呼ばれる風の公爵家の嫡子であり、その後継者の証として、侯爵家の中でも特別なシルウェストレ五侯の子供たちに守られている。
その存在は王国でも特別であり、別の派閥でも彼らにあこがれるものは多い。
水の派閥と風の派閥は社交界で一緒になることも少ないので、ダリアは顔を見たことはなかったが、噂では何度も聞いていた。
校門前に止まった馬車の扉が開く。
全員の視線が見守る中、馬車から子供が降りてきた。
まずでてきたのは赤い髪の少年。全員の視線がこちらに向いてることにすこし驚いた表情をすると、眉をハの字にして頭を掻いた。
「なんか目立ってしまってますね。みなさん歩いて来ているし、馬車で登校したのがまずかったかなぁ……」
次に銀色の髪の美少年が降りてきて、腕を組んで大きな笑い声をあげた。
「はっはっは、登校初日から注目の的だな! 僕たち!」
その後も三人の少年が降りてきて、注目の的になってることにそれぞれの反応を見せたあと、最後の一人が馬車から降りてきた。
少年たちの見麗しさに、騒々しくなっていた生徒たちが、一瞬、しんと静まり返った気がする。
馬車から降りてきたのは、少女と見紛うような美しい少年だった。
亜麻色の髪は貴族にしては少し地味だけど、白く透き通った肌と、整った造形はそれを補って有り余る。
自らを美少女と自認するダリアすら一瞬見惚れてしまった、そんな少年だった
(あれがクロスウェル……さま)
クロスウェルは透き通った灰色の瞳で、観衆たちをちらっと見たあと、特に動揺することなく、平静な声で言った。
「行こう」
その言葉につき従いながら、赤い髪の少年がため息を吐く。
「馬車で登校して目立ってしまった件については何もなしですか……」
「はっはっは、何事にも動じないのがクロスウェルさまのいいところだ」
そのため息に楽しそうに、銀髪の少年が応じる。
赤髪の少年はもう一度ため息を吐き。
「世間知らずなだけだと思うんですけどね……」
そう呟いた。
***
ルーヴ・ロゼでは最高のプラチナクラスの教室。
もちろん高貴な家柄と魔法の才能を持つダリアはその教室にいた。
そしてクロスウェルも当然、同じ教室にいる。
クロスウェルが座る席はクラス中の女子の視線を集めていた。入学式で堂々と新入生代表の挨拶を勤めたクロスウェル自身が一番に注目を浴びているし、その周りにいるシルウェストレの君たちも似たように視線を集めている。
誰もが彼らとお近づきになりたいと思っている。
家を継がない者は、他の貴族の家の配偶者になるのが普通のことだ。それに貴族の子供たちはとても早熟だから。
もちろんダリアだってその一人だ。
公爵家に嫁ぐとなれば、派閥が違ったって貴族の娘として大金星である。
桜貴会で一緒になるだろうから焦ることはない。けれど、その前に顔と名前ぐらいは知られておきたい。同じ会の仲間なんて立ち位置になってしまえば、恋愛対象からは遠ざかってしまう。
他の女子たちはクロスウェルさまと仲良くなりたくても手をこまねいて見ているだけ。
でも自分は違う。普通に挨拶して顔見知りになればいいのだ。ダリアも侯爵家の娘なのだから、十分にその資格がある。
自信を持った表情で席を立ち、クロスウェルたちに近づこうとしたダリアの前に、誰かが立ちふさがった。比較的珍しい風の魔力が発現した緑色の髪に同じ色の瞳の少女。
その視線は、結構あからさまにダリアに敵意を向けていた。
ダリアはその少女のことを知っていた。
「あら、はじめまして……えっと、ゾラフィ……ザルフィード侯爵家のエレメンタさんでしたっけ」
家名を間違えかけて言い直したことによって、目の前の相手、エレメンタの眉がピクッと引き攣った。
別に申し訳ないとダリアは思わなかった。だってわざとだもの。
「ええ、ええ、ザルフィード・エレメンタよ。ケルビン侯爵家のダリアさん……」
風の派閥で侯爵の爵位を持つのは、シルウェストレの五つの家ばかりではない。ただ五つの家の威光が強すぎて、はっきり言って目立ってなかった。
「それで私に何か御用かしら、エレメンタさん?」
「それは私のセリフよ。あなたこそ何をしようとしていたのかしら」
「クロスウェルさまにご挨拶しようとしただけだけど」
さらりと言うダリアに、エレメンタは目に篭る敵意を強くして言う。
「やっぱり……。言っておくけど、あの方たちは私やあなたでさえ、おいそれと近づいていい存在ではないわ。とても高貴な方たちなの!」
ダリアのほうこそ「やっぱりね……」と言う感じだった。
最初から敵意満点だったことで予想はついていたけど、面倒な存在なのだ。風の派閥でのシルウェストレ以外の侯爵家の存在と言うのは……。
彼らはシルフィール家とその護衛役となる家への強い忠誠心とコンプレックスを同時に持っている。そんなだから、公爵家とシルウェストレの君たちを神格化し、周りにもそれを押し付けるような態度を取ることは有名だった。
おまけに記憶によれば、目の前のエレメンタはダリアと同じく家督を継ぐ資格は持ってない。
つまりライバルということだった。
エレメンタの態度は尊敬もあるだろうが、周りから敵を排除しようとする行動だというのも見透かせる。とにかく、邪魔な存在だ。
「そんな挨拶するだけですのに」
ダリアは心の中で舌打ちしながらも、この場では穏健な態度を取った。
クロスウェルたちへの印象を悪くしたくないからだ。
「挨拶なら桜貴会に入ってからでもすればいいでしょう」
ダリアとエレメンタの周囲だけピリピリした空気が流れ、それに気付いたクラスメイトたちが緊張した面持ちで見つめていた。
ダリアもエレメンタも家格としては一緒の位置ぐらいにある。
クロスウェルたちを除けば最高位の家格で、女子の中心的立場になることは決まっている。
(当面、一番の邪魔者はこの女ね……)
結局、その休み時間はクロスウェルさまたちに挨拶に行けなかった。
※お知らせと告知※
いつものことながら、更新が安定せず進捗も遅くてすみません。
こんな状態ですが、告知させていただきたいことがありまして……。
『公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を受けましたが今日も元気にいきています』の3巻が今月末、発売されます。
出荷予定は8/29(木)なので書店に並ぶのは少しあとになるかと思います。
まず、3巻をだせたのはみなさまが買ってくれたり、WEBで応援してくださるおかげです。本当にありがとうございます。
そして話の取り下げなどあるので、もう少し早く告知すればよかったと思ってます。
小説の状態をもう少しよいときに発表したいと欲がでてしまいましたが、泥沼でした……。
また他にも読者さんに謝らなければならないことがあります。
収録内容なのですが『エトワにお願い券のエピソード』『Sランク冒険者のガイダーを務める話』『魔王(ハナコの父)と初めて会う話』そして『アンデューラとカシミアくんの話』
となってるのですが、気付かれる方もいると思うのですが『パイシェン先輩と貴族襲撃事件を解決する話』が抜けています。
アンデューラのエピソードがひたすら分量が多くて、収録しきれませんでした。
パイシェン先輩のエピソードはもし4巻がでるなら、そこに収録させていただこうかと思ってます。
そしてもうひとつ謝罪しなければならないことが、そんなページに余裕のな状態だったので、書き下ろしエピソードもないことです。
本当にすみません。こんなことなら1巻のページ数に余裕があるときにがんばっておけばよかったと思います。
買ってくださる読者さんに報いられている作品になってるのかなと、自分の行動を迷うときもあります。でもすみません、わがままですけど続けられる限りは続けたい気持ちが強く、次巻でページに余裕があったら、書き下ろしを書いてお礼したいです。本当にありがとうございます。
また3巻の発売により、取り下げがあります。
取り下げる箇所は、『132話までを引き下げ(ただし今回収録していない89~93話は除く)』といった感じです。
この点のご連絡まで遅くなってしまって本当にすみません。
小説の更新も私のメンタルもぐだぐだな状態で、信じられないかもしれないのですが、売上については意外と好調だったりします。
といっても、ここから売上下がっちゃうとって感じで、そこまで余裕があるわけではないのですが。
この小説を買ってくださってる方のおかげです。本当に感謝の念でいっぱいです。
3巻をだせたのは私が書いた小説の中で最高記録です。
3巻が今までと同じぐらい売れてくれたら、私が小説を書いてきた中でのひとつの夢が叶うかもしれません。
もし良かったら、新規の方も買ってくださったら嬉しいです。そんな期待がかかる三巻告知がぐだぐだで本編もこの有様ですみません。
このエピソードをなんとか終わらせて、次はソフィアちゃんと冒険者として事件を解決する話を書こうかと思います。
ちなみに過去話に突入しましたが、どう早期脱出するか悩んでます。わりと早く現代描写につなげたいです。
エトワが15歳になるまでの物語。粗忽者な作者ですが、もう少しお付き合いいただけたらと思います。
※追記※ お待たせしてしまっているわたふたなんですが、なろうの方の活動報告に現状の報告と、ちょっとですが書き溜め分を掲載させていただきました。
入学式の日。
ダリアは念入りにレミニーに髪を梳かしてもらっていた。
「ダリアさま、馬車の準備ができたそうです」
「やめておくわ。入学前の見学のときも、馬車でいって恥をかいたのよ」
レミニーの提案に、ダリアはぷくーっと頬を膨らませた。
自由参加の学校見学のときに『皆、馬車で通ってます』と言われて、馬車で行ったのだ。すると、誰も馬車で来ていなかった。おかげで自分だけが恥をかいてるみたいになってしまったのだ。
レミニーに手伝ってもらい、制服に着替えて家をでる準備をする。
朝の食卓に向かうと、自分ひとりだけだった。
「お父さまとお母さまは?」
「中等部の入学式でディリーさまが挨拶をされるそうで、一緒に学校に向かうと家を出られました」
「そう……」
ディリーはダリアの兄だった。
魔法の才能がダリアよりも優れていて、ケルビン家の嫡子になっている。跡継ぎの子供の教育に熱が上がりすぎて、次の子供への対応がおろそかになることは、貴族ではありがちなことだった。だからダリアも別に悲しくはない。別に普段から無視されてるわけではないし、こういう大事なイベントのとき兄の方が優先されるだけだ。
朝から一緒に学校に行くのはちょっと異常だと思うけど。
そもそも入学式でも親が来ない子は結構いる。親が貴族としての仕事で忙しかったり、そもそもルヴェントにはいなかったり、だから寂しくもない。
そんなことより――
ダリアは椅子を降りて、廊下に置いてある鏡の前に立って微笑んで見せた。
ふわふわの金色の髪にグリーンに輝く宝石みたいな瞳。
誰が見ても文句つけようのないほど可愛らしく、それでいて少し儚げな雰囲気のある美少女が鏡の向こうで微笑んでいる。
自分は魔法の才能は兄よりはないかもしれないけど、こんなにも可愛らしい美貌があるのだ。絶対にいい夫を捕まえて、誰よりも幸せになってみせるわ。
ダリアはそう心の中でつぶやいて、胸を張った。
***
徒歩で学校に向かい、校門を潜ると、社交界で顔見知りだった少女たちが集まってきた。
「ダリアさま! おはようございます!」
「ええ、おはよう、サリル、メイア」
「あの……はじめましてダリアさま……!」
見知らぬ少女も一人いた。
「あ、こちらはドディール子爵家のフィーレットです。私たちと一緒のクラスなんです」
「そう、よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします、ダリアさま」
緊張した様子のフィーレットにダリアは笑顔で挨拶をする。
下々の身分の者でも邪険にすることはない。そういう子たちに親切にしておけば、自分の力になってくれると知ってるからだ。
顔見知りの子たちとその場で話してると、校門の方からぱかぱかと馬の蹄の音が聞こえてきた。
全員の視線がそちらに向く。
サリルとメイアが校門に向かってくる馬車を見て、くすくす笑った。
「あらあら、どこの家の方かしら」
「毎年いらっしゃるんですよね、馬車で来られる高貴な御方。今はみんな徒歩でくるのが普通ですのに」
ダリアはその少女たちと何度も話したことがあったが、そういった事情は教えてもらえてなかった。
この二人はあまり信用しないようにしようと心の中で呟く。
学校見学に参加していなかったらしく、学校に馬車で乗り付けてしまった生徒。
それを見るほかの子供たちの視線も、サリルやメイアと同じような雰囲気だった。
あからさまにバカにするほどではないが、ちょっとおかしそうにくすくす笑っている。
高位貴族ほど犯しがちなこのミスは、下位の者たちにとっては、ちょっとした楽しいイベントになってるのかもしれない。
しかし、その馬車の家紋が目に入る位置までくると、全員の表情が変わった。
「し、シルフィール家の馬車よ」
「じゃあ……クロスウェルさまが……!」
「シルウェストレの君たちも一緒に……!?」
周囲の視線が小馬鹿にするようなものから、憧れの視線に一気に変わる。
シルフィール公爵家のクロスウェル――その名前はダリアも知っていた。
今年はいる一年生の中で、最も身分の高い生徒。いや、少なくとも小等部生の中では一番の身分だった。
王国の守護者と呼ばれる風の公爵家の嫡子であり、その後継者の証として、侯爵家の中でも特別なシルウェストレ五侯の子供たちに守られている。
その存在は王国でも特別であり、別の派閥でも彼らにあこがれるものは多い。
水の派閥と風の派閥は社交界で一緒になることも少ないので、ダリアは顔を見たことはなかったが、噂では何度も聞いていた。
校門前に止まった馬車の扉が開く。
全員の視線が見守る中、馬車から子供が降りてきた。
まずでてきたのは赤い髪の少年。全員の視線がこちらに向いてることにすこし驚いた表情をすると、眉をハの字にして頭を掻いた。
「なんか目立ってしまってますね。みなさん歩いて来ているし、馬車で登校したのがまずかったかなぁ……」
次に銀色の髪の美少年が降りてきて、腕を組んで大きな笑い声をあげた。
「はっはっは、登校初日から注目の的だな! 僕たち!」
その後も三人の少年が降りてきて、注目の的になってることにそれぞれの反応を見せたあと、最後の一人が馬車から降りてきた。
少年たちの見麗しさに、騒々しくなっていた生徒たちが、一瞬、しんと静まり返った気がする。
馬車から降りてきたのは、少女と見紛うような美しい少年だった。
亜麻色の髪は貴族にしては少し地味だけど、白く透き通った肌と、整った造形はそれを補って有り余る。
自らを美少女と自認するダリアすら一瞬見惚れてしまった、そんな少年だった
(あれがクロスウェル……さま)
クロスウェルは透き通った灰色の瞳で、観衆たちをちらっと見たあと、特に動揺することなく、平静な声で言った。
「行こう」
その言葉につき従いながら、赤い髪の少年がため息を吐く。
「馬車で登校して目立ってしまった件については何もなしですか……」
「はっはっは、何事にも動じないのがクロスウェルさまのいいところだ」
そのため息に楽しそうに、銀髪の少年が応じる。
赤髪の少年はもう一度ため息を吐き。
「世間知らずなだけだと思うんですけどね……」
そう呟いた。
***
ルーヴ・ロゼでは最高のプラチナクラスの教室。
もちろん高貴な家柄と魔法の才能を持つダリアはその教室にいた。
そしてクロスウェルも当然、同じ教室にいる。
クロスウェルが座る席はクラス中の女子の視線を集めていた。入学式で堂々と新入生代表の挨拶を勤めたクロスウェル自身が一番に注目を浴びているし、その周りにいるシルウェストレの君たちも似たように視線を集めている。
誰もが彼らとお近づきになりたいと思っている。
家を継がない者は、他の貴族の家の配偶者になるのが普通のことだ。それに貴族の子供たちはとても早熟だから。
もちろんダリアだってその一人だ。
公爵家に嫁ぐとなれば、派閥が違ったって貴族の娘として大金星である。
桜貴会で一緒になるだろうから焦ることはない。けれど、その前に顔と名前ぐらいは知られておきたい。同じ会の仲間なんて立ち位置になってしまえば、恋愛対象からは遠ざかってしまう。
他の女子たちはクロスウェルさまと仲良くなりたくても手をこまねいて見ているだけ。
でも自分は違う。普通に挨拶して顔見知りになればいいのだ。ダリアも侯爵家の娘なのだから、十分にその資格がある。
自信を持った表情で席を立ち、クロスウェルたちに近づこうとしたダリアの前に、誰かが立ちふさがった。比較的珍しい風の魔力が発現した緑色の髪に同じ色の瞳の少女。
その視線は、結構あからさまにダリアに敵意を向けていた。
ダリアはその少女のことを知っていた。
「あら、はじめまして……えっと、ゾラフィ……ザルフィード侯爵家のエレメンタさんでしたっけ」
家名を間違えかけて言い直したことによって、目の前の相手、エレメンタの眉がピクッと引き攣った。
別に申し訳ないとダリアは思わなかった。だってわざとだもの。
「ええ、ええ、ザルフィード・エレメンタよ。ケルビン侯爵家のダリアさん……」
風の派閥で侯爵の爵位を持つのは、シルウェストレの五つの家ばかりではない。ただ五つの家の威光が強すぎて、はっきり言って目立ってなかった。
「それで私に何か御用かしら、エレメンタさん?」
「それは私のセリフよ。あなたこそ何をしようとしていたのかしら」
「クロスウェルさまにご挨拶しようとしただけだけど」
さらりと言うダリアに、エレメンタは目に篭る敵意を強くして言う。
「やっぱり……。言っておくけど、あの方たちは私やあなたでさえ、おいそれと近づいていい存在ではないわ。とても高貴な方たちなの!」
ダリアのほうこそ「やっぱりね……」と言う感じだった。
最初から敵意満点だったことで予想はついていたけど、面倒な存在なのだ。風の派閥でのシルウェストレ以外の侯爵家の存在と言うのは……。
彼らはシルフィール家とその護衛役となる家への強い忠誠心とコンプレックスを同時に持っている。そんなだから、公爵家とシルウェストレの君たちを神格化し、周りにもそれを押し付けるような態度を取ることは有名だった。
おまけに記憶によれば、目の前のエレメンタはダリアと同じく家督を継ぐ資格は持ってない。
つまりライバルということだった。
エレメンタの態度は尊敬もあるだろうが、周りから敵を排除しようとする行動だというのも見透かせる。とにかく、邪魔な存在だ。
「そんな挨拶するだけですのに」
ダリアは心の中で舌打ちしながらも、この場では穏健な態度を取った。
クロスウェルたちへの印象を悪くしたくないからだ。
「挨拶なら桜貴会に入ってからでもすればいいでしょう」
ダリアとエレメンタの周囲だけピリピリした空気が流れ、それに気付いたクラスメイトたちが緊張した面持ちで見つめていた。
ダリアもエレメンタも家格としては一緒の位置ぐらいにある。
クロスウェルたちを除けば最高位の家格で、女子の中心的立場になることは決まっている。
(当面、一番の邪魔者はこの女ね……)
結局、その休み時間はクロスウェルさまたちに挨拶に行けなかった。
※お知らせと告知※
いつものことながら、更新が安定せず進捗も遅くてすみません。
こんな状態ですが、告知させていただきたいことがありまして……。
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出荷予定は8/29(木)なので書店に並ぶのは少しあとになるかと思います。
まず、3巻をだせたのはみなさまが買ってくれたり、WEBで応援してくださるおかげです。本当にありがとうございます。
そして話の取り下げなどあるので、もう少し早く告知すればよかったと思ってます。
小説の状態をもう少しよいときに発表したいと欲がでてしまいましたが、泥沼でした……。
また他にも読者さんに謝らなければならないことがあります。
収録内容なのですが『エトワにお願い券のエピソード』『Sランク冒険者のガイダーを務める話』『魔王(ハナコの父)と初めて会う話』そして『アンデューラとカシミアくんの話』
となってるのですが、気付かれる方もいると思うのですが『パイシェン先輩と貴族襲撃事件を解決する話』が抜けています。
アンデューラのエピソードがひたすら分量が多くて、収録しきれませんでした。
パイシェン先輩のエピソードはもし4巻がでるなら、そこに収録させていただこうかと思ってます。
そしてもうひとつ謝罪しなければならないことが、そんなページに余裕のな状態だったので、書き下ろしエピソードもないことです。
本当にすみません。こんなことなら1巻のページ数に余裕があるときにがんばっておけばよかったと思います。
買ってくださる読者さんに報いられている作品になってるのかなと、自分の行動を迷うときもあります。でもすみません、わがままですけど続けられる限りは続けたい気持ちが強く、次巻でページに余裕があったら、書き下ろしを書いてお礼したいです。本当にありがとうございます。
また3巻の発売により、取り下げがあります。
取り下げる箇所は、『132話までを引き下げ(ただし今回収録していない89~93話は除く)』といった感じです。
この点のご連絡まで遅くなってしまって本当にすみません。
小説の更新も私のメンタルもぐだぐだな状態で、信じられないかもしれないのですが、売上については意外と好調だったりします。
といっても、ここから売上下がっちゃうとって感じで、そこまで余裕があるわけではないのですが。
この小説を買ってくださってる方のおかげです。本当に感謝の念でいっぱいです。
3巻をだせたのは私が書いた小説の中で最高記録です。
3巻が今までと同じぐらい売れてくれたら、私が小説を書いてきた中でのひとつの夢が叶うかもしれません。
もし良かったら、新規の方も買ってくださったら嬉しいです。そんな期待がかかる三巻告知がぐだぐだで本編もこの有様ですみません。
このエピソードをなんとか終わらせて、次はソフィアちゃんと冒険者として事件を解決する話を書こうかと思います。
ちなみに過去話に突入しましたが、どう早期脱出するか悩んでます。わりと早く現代描写につなげたいです。
エトワが15歳になるまでの物語。粗忽者な作者ですが、もう少しお付き合いいただけたらと思います。
※追記※ お待たせしてしまっているわたふたなんですが、なろうの方の活動報告に現状の報告と、ちょっとですが書き溜め分を掲載させていただきました。
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※カクヨム様にも投稿しています。
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