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わしのランキング 2

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 わしの悲鳴を聞きつけて、フェニ子が飛んできた。

「どうしたんですか、長(おさ)さま!?」

 フェニ子がかけつけたときには、わしは台所のテーブルに突っ伏し、顔をおさえ男泣きしていた。

「うっ……うっ…。わしの……わしの使い魔ランキングが」

 わしは涙ながらに月刊TUKAIMAを前足で広げて、フェニ子に見せる。

「43位も下がっておったんじゃー!」

 わしがフェニ子に開いて見せたページでは、安っぽい白黒用紙になっている紙面にぎっしり書かれた小さな文字の中に、『クロト』『種族:黒猫』『使い魔ランキング10万1436位』と書かれていた。

 わしの悲痛な嘆きに対して、フェニ子のリアクションは冷淡だった。
 もってきてしまった読みかけの小説のページに指をはさんだまま、半眼であきれた表情をつくりため息をはいた。

「なんだ。尻尾ふまれたメスネコみたいな悲鳴あげて何かと思ったら、またそれですか」
「なんだとはなんじゃあ!」

「わしのライバルのタルチーノ殿なんて、今月は5位もランキングをあげておったのじゃぞ!」
「その使い魔、勝手に長(おさ)さまがライバル視してるだけで、会ったこともない赤の他人じゃないですかぁ。勝手にライバルにしないでほしいです。先方にも迷惑です」

 うるさい、わしとタルチーノは終生のライバルだと(わしが)決めたんじゃ!
 だというのに、今回でランキングは大きく引き離されてしまった……。

「この前まではわしとタルチーノ殿はおなじ10万1390位代だったんじゃ。
 これではライバルとしてのわしの顔が立たぬ!タルチーノ殿だってきっとわしが追いつくのを待ってるはずじゃ!ランキングをあげたいのじゃ!」

 わしは床に突っ伏し、足をばたばたさせ、男泣きを続けた。
 しかし、フェニ子の反応はにべもなかった。

「はぁ……。そのランキング、いい加減なことでわたしたちの間じゃ有名じゃないですか。そんなのに右往左往してどうするんです。
 ほら、ムー子なんて種族ポイントだけで、常にランキング10位以内に入ってるんですよ。こんなランキング、気にしなくていいんですよ」

 フェニ子がそうやってぱらぱらめくったページのほぼ最前面のほうでは、カラーになったページで、大きく1ページまるごとつかってムー子の写真がのっていた。
 ちなみに人化状態である。黒いロングの髪の美少女じゃが、ポーズと笑顔からどうにもアホっぽさがにじみ出てる。

「もたざるものの気持ちは、もっているものにはわからぬのじゃ!
 知っておるぞ!フェニ子は今月は19位でトップ20入り、セイ子もつねに100位いないに入っておる。ほかの使い魔も200位以内からはでたことがない!
 ぬしらはみんな上位のものばかりじゃ!ランキング上位のものが気にしなくていいなんていっても、何の説得力もないのじゃ!」

 わしがめくっていったページにはフェニ子やセイ子たち、ソーラの使い魔たちがカラー写真でかっこよくのっていた。

「あー、もうめんどくさいですねぇ」
「わ……わしだって10位以内にはいって、出会う使い魔たちから、すごいとか、かっこいいとか、すてきでダンディーなおじさまネコとかいわれたい!」
「無駄にのぞみが贅沢ですね。しかも、最後のはたぶんぜったい無理です」

 なんでじゃ……。
 なんでわしだけ10万1436位なんて、まわりの使い魔たちと桁の違う低い状況なのじゃ……。

 いや、原因はわかっておる。
 使い魔ランキングは種族ポイント、魔力ポイント、魔法ポイント、依頼ポイントで構成されている。

 種族ポイントは文字通り、使い魔である生物自身の種族で決まるポイントじゃった。これは生まれながらのもので、ほとんど動かない。
 たまにレア種族だったことが発覚して、一気にポイントをあげるものもいるが。
 魔力ポイントと魔法ポイントは似ているが、魔力ポイントの方は魔力の大きさ。魔法ポイントは使える魔法の難易度によるポイントである。
 依頼ポイントは、主(あるじ)が引き受けた依頼や、自分で引き受けた依頼を解決したときに入るポイントじゃ。

 ムー子は真竜のさらにレア種バハムートということもあって、種族ポイントがぶっちぎっていた。
 さらに真竜種のせいか魔力自体はかなりあるので、そこのポイントもたかい。
 魔法はアホだから使えんから0ポイント。
 依頼ポイントは、頭を少しでもつかう任務ではからっきしだめじゃが、破壊力だけが必要な任務では衣無縫の働きをしおる。なのでそこそこ稼いでる。
 その成果が今月の9位、若手いちばんの使い魔の称号じゃった。

 一方のわしはめずらしくもない、むしろ使い古されすぎてもはやローエンドとすらよべる黒猫の使い魔で、種族ポイントはわずか3ポイント。
 まともな依頼を解決したのははるか数年前のことで、クエストポイントはとっくに失効してしまって0ポイントになっていた。
 そこで魔法と魔力を鍛え、地道にポイントを稼ぐ作戦にでていた。
 しかし、魔法も魔力も鍛えるには、才能の限界がある。わしの魔法関係についてののびしろは、もうほぼ限界だった……。
 涙ぐましい努力でなんとかたどり着いたのが、10万1400代近辺のランキングという数字だったが、もうこれ以上ポイントをのばせないので、まわりが依頼ポイントを稼ぐとどんどん引き離されていく……。

「とにかく毎月毎月、ランキング見るたび、泣いたり嬌声あげるのやめてくださいです。おちおち本もよめないです」
「ぐぬぬぅ……、そんなこといったって」

 気になるものは気になるんじゃ。
 活躍したいのじゃ。

 あきらめきれず犬歯で下あごをかむわしの気持ちが伝わったのか、フェニ子はあきれながらも、仕方ないなぁという感じでアドバイスしてきた。

「もう~、仕方ないですねぇ。それじゃあ、自分で依頼ポイントかせいでいくのはどうですか?」
「そうはいっても、わしに依頼がこないのじゃ」

 有名な使い魔には、使い魔自身にも依頼がくるが、わしには誰もこない。
 有名になるために依頼がほしいのに、依頼がこないから有名にはなれないという詰んだ状況だった。

「だったら自分で宣伝してみたらどうですか?依頼引き受けますって。なんでも屋を開くんです」
「しかし、わしは基本的に家の近くにいろと言われておるからのう」

 別に魔法でなにか制限されているわけじゃないが、首輪にGPSみたいなものが仕込まれていて、あまり勝手に遠出するとソーラの機嫌を損ねる。

「じゃあ、学校の周辺限定でやればいいじゃないですか」
「それじゃあ、ほとんど依頼者がおらんではないか」

 学校でなんでも屋をひらいても、くるのは生徒と先生と、ごく少数の大人たちぐらいだった。

「それでも何もしないよりはましでしょう?
 いちおう、人がいて依頼はもらえるわけですから」

 確かに……。

「むむぅ……、やって……、みるかのう?」

 どーんと大きな依頼を解決して、一気にランキングを駆け上がりたいが、いまはそんなこといってられない状況だった。
 1ポイントでも依頼ポイントがほしい。
 タルチーノ殿に追いつくためにも!

「それにこつこつやってれば、いずれ話もひろまって、大きな依頼がきて、有名になれるかもしれませんよ?」

 フェニ子がそういって指を立て、わしにあかるい未来を提示する。
 わしも明るい未来を想像して、胸がどきどきしてきた。

「ほ、ほんとに有名になれるかのう……?」
「それは、長さまの努力しだいです」
「ゆ、有名になったら、女の子たちから勇者さまとか呼ばれて、モテモテになれるかのう?」
「死ね、発情バカメスネコじじい」

 夢を語ったら、ひどいこといわれて蹴り飛ばされた……。
 せっかく異世界に転生したのに、勇者でもなく、モテモテでもなく、ハーレムじゃないほうがおかしいのじゃあ……。

 そういうわけでわしは看板をつくって、庭にテーブルと椅子を設置してなんでも屋をひらいておった。
 看板には、もちろんなんでも屋と書かれてある。
 ぜんぶ、日曜大工で作った。

「誰も来んのう……」

 当然だが、誰も来ない。
 まあ、うちの庭じゃからのう……。

 なぜわざわざ庭で開いておるかというと、フェニ子からしばらく主(あるじ)からの外出禁止令がでてることを勧告されたからじゃった……。
 一週間ほどの禁止令じゃが、あの模擬戦のせいみたいじゃった。

 しかし、いくらなんでもうちの庭でなんでも屋ひらいて、客なぞくるわけもない。
 ただうららかな日差しに照らされた午後の庭で、老ネコがお茶を飲みながら、外でひなたぼっこしてるだけの光景になっていた。

(これでは何もやらんのと一緒ではないか……)

 そう思っていたら、遠くから自転車のキコキコなる声が聞こえた。

 あ、郵便屋さんじゃ。

「夕刊を届けにきましたー。あ、クロトさん何をしてらっしゃるんですか?」

 そういいながら、郵便屋さんはわしがつくった看板を読み上げる。

「へぇ、なんでも屋さんですか~」
「そうなのじゃ。何か依頼したいことはないか?なんでも解決してやるぞ、学校の周辺までのことなら!いや……、今週はうちの庭までじゃが……」

 それを聞くと、郵便屋さんは何か考えたあと、何かおもいついたようににこっとわらって、かばんからひとつ手紙をとりだした。

「じゃあ、これを預かって、ソーメリン先生にわたしておいてもらえますか?今日はこの家の前の小道を散歩すると思うので」
「お、おお、わかった」

 すぐに依頼がくると思ってなかったわしは、びっくりしながらその手紙を受け取る。
 それから郵便屋さんはポケットをごそごそ探ると、わしのもう片方の肉球に小銭をのせた。

「はい、これがお駄賃です。それじゃあ、よろしくおねがいしますね~」

 そういって郵便屋さんは自転車にのって、手を振って去っていった。

 郵便屋さんが去ったあと、わしは手の中の小銭と手紙を見返しながら思った。

「これは、ただのおつかいじゃ……」

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