すまん、いちばん最初の使い魔のわしがいらない子ってマジ?

小択出新都

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わしと主(あるじ)とバトロワ 5

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 ついに模擬戦がはじまった。

 わしとミーフィアはまず適当に森を歩いてみる。

 役割分担は魔力は小さいが知覚に優れるわしが索敵、魔力に優れるミーフィアが戦闘を担当することにした。

「ふむ、向こうから来るのう」

 わしの人間より優れた聴覚に、足音が聞こえてきた。

「足音の数はふたつ。こちらに向かってくる。向こうもわしらに気づいてるようじゃ」 
「どうしましょう」
「もちろん、こちらも正面から応戦じゃ」

 わしはネコという性質のせいか隠蔽系の魔法は得意じゃし、森では不意をついたほうが圧倒的に有利。

 しかし、これは実戦的な訓練とはいえ、あくまで訓練。
 あまり有利に戦いすぎても意味がない。

 わしの役目はサポートであり、あくまでメインはミーフィアなのじゃ。

「しょ、正面からですか?」
「うむ、今のなんじならできる!」
「はい!クロトさん」

 思い通りに魔法が使えたということは、ミーフィアに良い自信をもたらせてくれたようじゃった。
 正面からの応戦という言葉に最初は怯んだものの、わしが彼女の目を見て頷くと、いい表情で頷きかえしてくれた。

 森の向こうから、生徒とその使い魔が姿をあらわす。
 背の高い男子生徒と、犬型の使い魔。
 全身が赤黒い毛に覆われ、とても体が大きい。
 そのわずかに開いた口の中からは、メラメラと炎が揺らめくのが見える。
 地獄の猟犬、ヘルハウンドじゃ。

 わしらの姿を見ると、男子生徒はにやりと笑った。

「よし、最初はミーフィアか。楽に勝てそうだぜ」

 簡単な相手とみた男子生徒は、すぐにこちらにかかってくる。

「いけ、ヘルハウンド!ヘルブレスだ!」

 ヘルハウンドが口を開くと、その中の炎がだんだんと大きくなっていく。

「大丈夫じゃ。落ち着いて水の結界を張るんじゃ」
「はい!」

 わしの指示にしたがってミーフィアが魔法を詠唱しはじめる。

「へっ、俺のヘルハウンドのブレスを、ミーフィアのヘボ魔法なんかで防げるかよ!」

 ヘルハウンドの炎が、その口の限界まで大きくなった。

「いけ!ヘルブレス!」

 ヘルハウンドの口から、炎が放たれる。

「アクアウォール!」

 同時にミーフィアの魔法も完成した。
 巨大な水の壁が、わしらとヘルハウンドの間に生じる。
 ヘルハウンドが放った炎は、その壁にあっさりとかき消された。

「な、なんだと!?俺のヘルハウンドのヘルブレスが!」

 男子生徒が驚愕する。

「よし、次はアイスアローでヘルハウンドを攻撃じゃ!」
「はい!」

  今度はこちらの番じゃった。
 ミーフィアがアイスアローの呪文を唱える。

「ミスったな!うちのヘルハウンドはアイスアローごときじゃ倒せねぇぜ。
 よし、ヘルハウンド、もう一回ヘルブレスだ!
 さっきのはきっとまぐれだ!」

 男子生徒がもう一度、ヘルハウンドに指示をだす。わしはにやりと笑った。

「ふっ、それはどうかのう」
「アイスアロー!」

 ミーフィアがアイスアローを発動させると、巨大な氷の矢が出現する。

「なんだ!?そのでかさは!」

 放たれた巨大な氷の矢を喰らったヘルハウンドはその場に倒れる。

「い、一撃で!?」

 そう、ミーフィアはその魔力の高さゆえか、低級の魔法でも普通の人の数倍威力がある。
 本来はヘルハウンドを倒せないアイスアローの魔法でも、倒せてしまうのじゃ。

「よし、あとはあの生徒だけじゃ」
「はい!」
「く、くそぉ!」

 ミーフィアと男子生徒は同時に攻撃魔法の詠唱をはじめた。
 しかし、唱える速度も正確さもミーフィアのほうが数段上じゃった。

 戦う前からわかっておった。

 このような視界の悪い森では、主人と使い魔がわざと離れて挟撃や不意打ちをしかけるのはとても有効な手だ。
 だがこの生徒はそれをまったくやる気配がなく、使い魔とかたまって動いていた。

 おまけに戦ってる間も使い魔に命令してばかり。

 おそらく自身はあまり魔法が得意じゃないのだろう。

 ヘルハウンドは確かに強力な使い魔じゃが、それでは使い魔が倒されてしまってはどうにもならない。

「ファイヤーアロー!」

 ミーフィアの魔法が先に完成した。

 見事な炎の矢が出現する。

「ち、ちくしょー!」

 それをまともに喰らった男子生徒の胸元で人形がぱりんっと割れる音がした。
 気絶した男子生徒は、魔法陣で森の外に転送される。

『ミーフィアの攻撃でコールギスの<身代わり人形>が破壊されました。コールギスは脱落です。生き残ってる生徒はのこり49名です』

 森に先生の声が響く。

 ミーフィアはファイヤーアローを放ったときの姿勢のまま呆然としていた。

「か、かったの……?」
「うむ、ミーフィアちゃんの勝利じゃ」

 わしは笑顔で頷いた。

「クロトさん……」

 ミーフィアがうるっとした瞳でわしを見た。

「クロトさんのおかげです!ありがとうございます!」

 ミーフィアがわしに抱きついて、その場をくるくるまわりだす。
 ああ、いい感触じゃ。

「いやそれは、ミーフィアちゃんがまじめに魔法を勉強してたからじゃよ。だから最後の打ち合いでも魔法を先に撃てたんじゃ」

 魔力のコントロールに問題があっただけで、ミーフィアの魔法の腕は同世代でも優秀な方じゃった。
 普通に魔法を発動させられるようになったいま、そう同級生たちには負けたりせんじゃろう。

 同時に撃ったとしても、今のミーフィアなら勝てたはずじゃ。

 自分に自信がなかったせいか低級魔法がメインのようじゃが、これからはもっと高位の魔法も勉強していくといいと思う。
 十分にやっていける才能があるはずじゃ。

「はい!でも、クロトさんのおかげです!」

 ミーフィアちゃんの感動はなかなかおさまらないようで、しばらくそのやわらかい胸にぬいぐるみのように抱きしめられることになった。


 ミーフィアの感動がおさまると、わしらは再び移動を開始した。
 その間にも何名かの脱落が放送され、残り生徒は30名となっていた。

 最初は人数がおおいせいか減るのもはやい。これからは誰かに勝った生徒がほとんどとなるので、なかなか手ごわくなるはずじゃった。

 ふと、わしの耳が妙な気配をとらえる。

「ぬっ?」
「どうしたんですか?クロトさん」
「あっちの方に10人ぐらいの気配があるのう」

 10人はいるのに、戦う音はまったく聞こえない。

「手を組んでるってことでしょうか」

 模擬戦のルール的には手を組むのもありだった。
 しかし、同時にサバイバルマッチでもある。
 最後には戦わなければいけないということもあり、大人数の集団を作るのはむずかしい。
 10名という数は、正直言って異常な数だった。

「ちょっとわしが見てくる。隠蔽魔法をつかうから、ミーフィアちゃんも隠れておいてくれるか?」

 ミーフィアはその言葉にちょっと心細そうな顔をしたが首を縦にふった。

「はい、わかりました」
「うむ、良い子じゃ」

 わしはミーフィアちゃんと自分に隠蔽魔法をかけると、人数がいる方へ足音を消してはしりだした。
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