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ユグドリアに到着
96話:天使を演じた子ども
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天使のように愛らしい誠がいじめられていた。
それが原因で学校では笑顔を見せず、家族にもそのことを話せずずっと苦しんでいた。
スマホ画面の向こうには、一家の知らない誠の姿があった。
「あたし、誠がそんなことになってるなんて全然知らなかった。なんてひどい姉だったんだろう」
美園が動揺したように、両腕を抱え込む。
「美園だけが悪いんじゃない。それを言うなら家長である俺の責任だ。もしも今回のことを知ってたら学校に直談判に行くなり、相手の親と話し合うなりしてたさ」
そう言い切った元樹に、栄子が反論する。
「嘘おっしゃい」
「え?」
「嘘をつかないでって言ってるの」
栄子は感情を押し殺したような低い声を出す。
「もしいじめが分かってても、私たちは何もしなかったわ」
「そんなことないだろ、みんな誠にために動いてたさ」
「やらなかったわよ! だってそんなことしたらモデルファミリーのイメージに傷がつくもの」
「いや、それは……」
「私たちは誠のことより、お金のことが大事だったのよ。そんな最低な家族なのよ!」
栄子が金切り声をあげてスマホを元樹に投げつける。
その瞳から大粒の涙がぽろぽろこぼれ落ちていく。
「お…おい、栄子。落ち着け」
「落ち着けるわけないじゃない! 誠ちゃんがこんなに苦しんでたのに私たちはモデルファミリーのことに必死で、あの子のこと聞き分けのいい天使だと思ってたなんて」
興奮しきった栄子の声音はトーンアップし、この場にいるメンバーの胸を突き刺していった。
「前につかさ君が言ってたわ、この年で聞きわけがいいなんておかしい、って。本当にそうよ。あの子はただ我慢してただけなのよ、私たちのために。ううん、私たちのために、じゃなく私たちのせいで何にも言えなかったのよ!」
その言葉を聞いて、美園も勇治も黙り込む。
栄子だけではない、みんながそう思っていたのだ。誠は誰からも好かれる天使のような子だと。
けれど、それは誠の本当の姿ではなかった。誠が家族に心配をかけまいと、その役割を必死に演じていただけなのだ。
お金のためにモデルファミリーを目指していた世良田一家だが、その裏でお金以上に大切なものを傷つけていたことに、今ようやく気付いたのである。
今まで頑張って来た時間は何だったのだろう。
家族のために偽装家族を演じ、輝かしい未来が開けると思っていたあの時間。
今となって虚しさしか残らないというのに。
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「美園だけが悪いんじゃない。それを言うなら家長である俺の責任だ。もしも今回のことを知ってたら学校に直談判に行くなり、相手の親と話し合うなりしてたさ」
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「嘘おっしゃい」
「え?」
「嘘をつかないでって言ってるの」
栄子は感情を押し殺したような低い声を出す。
「もしいじめが分かってても、私たちは何もしなかったわ」
「そんなことないだろ、みんな誠にために動いてたさ」
「やらなかったわよ! だってそんなことしたらモデルファミリーのイメージに傷がつくもの」
「いや、それは……」
「私たちは誠のことより、お金のことが大事だったのよ。そんな最低な家族なのよ!」
栄子が金切り声をあげてスマホを元樹に投げつける。
その瞳から大粒の涙がぽろぽろこぼれ落ちていく。
「お…おい、栄子。落ち着け」
「落ち着けるわけないじゃない! 誠ちゃんがこんなに苦しんでたのに私たちはモデルファミリーのことに必死で、あの子のこと聞き分けのいい天使だと思ってたなんて」
興奮しきった栄子の声音はトーンアップし、この場にいるメンバーの胸を突き刺していった。
「前につかさ君が言ってたわ、この年で聞きわけがいいなんておかしい、って。本当にそうよ。あの子はただ我慢してただけなのよ、私たちのために。ううん、私たちのために、じゃなく私たちのせいで何にも言えなかったのよ!」
その言葉を聞いて、美園も勇治も黙り込む。
栄子だけではない、みんながそう思っていたのだ。誠は誰からも好かれる天使のような子だと。
けれど、それは誠の本当の姿ではなかった。誠が家族に心配をかけまいと、その役割を必死に演じていただけなのだ。
お金のためにモデルファミリーを目指していた世良田一家だが、その裏でお金以上に大切なものを傷つけていたことに、今ようやく気付いたのである。
今まで頑張って来た時間は何だったのだろう。
家族のために偽装家族を演じ、輝かしい未来が開けると思っていたあの時間。
今となって虚しさしか残らないというのに。
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