87 / 146
いざ、ユグドリアへ
85話:勇治と千夏 その1
しおりを挟む
「勇治!」
息を切らせながら走り寄ってきた夏美が、勇治の前で急ブレーキをかける。
しばらく苦しそうに膝に手をついていたが、少し経って息が整うと軽く咳ばらいをして勇治を見た。
「夏美、来てくれたのか」
勇治はそう言った後、その後ろから遅れて出てくるであろう少女の登場を待った。
しかし、どれだけ身を乗り出してみても、千秋の姿はどこからも現れない。
「おい、夏美。ち~たんはどこだ?」
聞かれて、夏美は気まずそうに横を向く。
「――千秋はちょっと用事で」
「用事? 俺の一大事だってのに、どんな用事なんだ」
不愉快そうな顔をした勇治は、顎で夏美に指図する。
「おい、ちょっと電話してみろよ。向こうも俺の声を聞きたいはずだ。しばらく会えなくなるんだし」
「どうだろ、意外とけろっとしてるかもよ」
「そんなはずないだろ、ち~たんには俺がいなきゃだめなんだよ」
その言葉を聞いた途端、夏美の中で堪えていたものが爆発したようだ。
「いい加減にしてよ!」
あまりの大声に、美園達が心配そうな顔でこちらに視線を向けてきた。
「お、おい。なんだ、どうした夏美」
「あんたが気の毒だから言いたくなかったけど、千秋には本命の彼氏がいるから」
「――は?」
「同じクラスの久辻君って子よ」
一瞬白目を剥きかけた勇治だが、すぐに体制を立て直す。
「……ふ、ふん。なるほど、ち~たんもやるな。俺に焼きもちを焼かせようと遊び相手を作るなんて」
「悪いけど、2人は結婚の約束をしてる」
「けっ……けっ……けっけっ……結婚?」
見る間に勇治の動揺が激しくなる。目が泳ぎ出し、動悸も早くなる。
「な、なるほど。じゃあおれは2番手だな、ハハ」
大したことない、と顔に笑みを浮かべようとするが勇治の顔は般若のように歪んだ表情になる。
「4番目よ」
「よ…4番目?」
「2番手が一学年上の木下くん、3番手がテニスコーチの虹川先生、その後が勇治よ」
「―――――」
勇治の思考は完全にストップした。
そんな勇治の目を覚まそうと、夏美は今まで黙っていたことを次々に暴露し始める。
「千秋言ってたわよ、勇治にモデルファミリーのお金が入ったらキリンを買ってもらうって」
「――キリン? ……ああ、確かに話の流れでそんなこと言ったかもな。でもそんなの冗談に決まって…」
「千秋は本気よ。周りに自慢してまわってる。勇治は自分の言うことならなんでも聞く、キリンも買ってくれるって」
「……キ――キリンかぁ、いくらくらいすんのかな」
勇治は遠い目をした。
「千秋は勇治が好きなんじゃなくて、勇治の財力が好きなのよ。お菓子を買ってくれて、おもちゃも買ってくれて。要はお金目当てなのよ」
「お金目合ってって、それじゃあまるで……」
「パパ活よ」
ドスン!
確信をついた夏美の言葉が強烈で、勇治はさすまたで腹を突き刺されたくらいの衝撃を受けた。
息を切らせながら走り寄ってきた夏美が、勇治の前で急ブレーキをかける。
しばらく苦しそうに膝に手をついていたが、少し経って息が整うと軽く咳ばらいをして勇治を見た。
「夏美、来てくれたのか」
勇治はそう言った後、その後ろから遅れて出てくるであろう少女の登場を待った。
しかし、どれだけ身を乗り出してみても、千秋の姿はどこからも現れない。
「おい、夏美。ち~たんはどこだ?」
聞かれて、夏美は気まずそうに横を向く。
「――千秋はちょっと用事で」
「用事? 俺の一大事だってのに、どんな用事なんだ」
不愉快そうな顔をした勇治は、顎で夏美に指図する。
「おい、ちょっと電話してみろよ。向こうも俺の声を聞きたいはずだ。しばらく会えなくなるんだし」
「どうだろ、意外とけろっとしてるかもよ」
「そんなはずないだろ、ち~たんには俺がいなきゃだめなんだよ」
その言葉を聞いた途端、夏美の中で堪えていたものが爆発したようだ。
「いい加減にしてよ!」
あまりの大声に、美園達が心配そうな顔でこちらに視線を向けてきた。
「お、おい。なんだ、どうした夏美」
「あんたが気の毒だから言いたくなかったけど、千秋には本命の彼氏がいるから」
「――は?」
「同じクラスの久辻君って子よ」
一瞬白目を剥きかけた勇治だが、すぐに体制を立て直す。
「……ふ、ふん。なるほど、ち~たんもやるな。俺に焼きもちを焼かせようと遊び相手を作るなんて」
「悪いけど、2人は結婚の約束をしてる」
「けっ……けっ……けっけっ……結婚?」
見る間に勇治の動揺が激しくなる。目が泳ぎ出し、動悸も早くなる。
「な、なるほど。じゃあおれは2番手だな、ハハ」
大したことない、と顔に笑みを浮かべようとするが勇治の顔は般若のように歪んだ表情になる。
「4番目よ」
「よ…4番目?」
「2番手が一学年上の木下くん、3番手がテニスコーチの虹川先生、その後が勇治よ」
「―――――」
勇治の思考は完全にストップした。
そんな勇治の目を覚まそうと、夏美は今まで黙っていたことを次々に暴露し始める。
「千秋言ってたわよ、勇治にモデルファミリーのお金が入ったらキリンを買ってもらうって」
「――キリン? ……ああ、確かに話の流れでそんなこと言ったかもな。でもそんなの冗談に決まって…」
「千秋は本気よ。周りに自慢してまわってる。勇治は自分の言うことならなんでも聞く、キリンも買ってくれるって」
「……キ――キリンかぁ、いくらくらいすんのかな」
勇治は遠い目をした。
「千秋は勇治が好きなんじゃなくて、勇治の財力が好きなのよ。お菓子を買ってくれて、おもちゃも買ってくれて。要はお金目当てなのよ」
「お金目合ってって、それじゃあまるで……」
「パパ活よ」
ドスン!
確信をついた夏美の言葉が強烈で、勇治はさすまたで腹を突き刺されたくらいの衝撃を受けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
(続)人斬り少女は逃がさない
tukumo
ライト文芸
短編小説
人斬り少女は逃がさない
なんとも中途半端で続きを書きたくなったので数話連続小説として帰ってきた
あ、作者の気まぐれで投稿頻度は早かったり遅かったりするのはご愛嬌ということで良ければ緩利と読んでみて下さいまし~by tukumo
この夏をキミと【完結】
友秋
ライト文芸
それはナツノキセキ。
きっと、忘れられない夏になる――。
ちょっぴり気の弱いエース、市原崇と、
ちょっぴり俺様なキャッチャー、緒方篤。
幼なじみバッテリーは、高校最後の夏に挑む。
そしてもう一人の幼なじみ、木原夏菜子。
篤の夢は甲子園。
崇の夢は、篤を一日も長く野球をすること。
夏菜子の夢は――?
幼なじみ三人組にとって高校生活最後の夏は、忘れられない季節になった。
淡く切ない初恋を夏の風に乗せ、三人の掛替えの無い輝かしい青春の時が、始まる。
がむしゃらに、熱く。
二度とは戻らない、輝かしい時を。
*この作品は、かれこれ8年前、私が初めて書いた小説になります。
個人的に大事にしている作品なのでこちらに残しておくことにしました。
孤高の女王
はゆ
ライト文芸
一条羽菜は何事においても常に一番だった。下なんて見る価値が無いし、存在しないのと同じだと思っていた。
高校に入学し一ヶ月。「名前は一条なのに、万年二位」誰が放ったかわからない台詞が頭から離れない。まさか上に存在しているものがあるなんて、予想だにしていなかった。
失意の中迎えた夏休み。同級生からの電話をきっかけに初めて出来た友人と紡ぐ新たな日常。
* * *
ボイスノベルを楽しめるよう、キャラごとに声を分けています。耳で楽しんでいただけると幸いです。
https://novelba.com/indies/works/937842
別作品、ひなまつりとリンクしています。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】
まぁ
恋愛
【1分先の未来を生きる言葉を口にしろ】
天野玖未(あまのくみ)飲食店勤務
玖の字が表す‘黒色の美しい石’の通りの容姿ではあるが、未来を見据えてはいない。言葉足らずで少々諦め癖のある23歳
須藤悠仁(すどうゆうじん) 東日本最大極道 須藤組若頭
暗闇にも光る黒い宝を見つけ、垂涎三尺…狙い始める
心に深い傷を持つ彼女が、信じられるものを手に入れるまでの……波乱の軌跡
そこには彼の底なしの愛があった…
作中の人名団体名等、全て架空のフィクションです
また本作は違法行為等を推奨するものではありません
シャウトの仕方ない日常
鏡野ゆう
ライト文芸
航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス。
その五番機パイロットをつとめる影山達矢三等空佐の不本意な日常。
こちらに登場する飛行隊長の沖田二佐、統括班長の青井三佐は佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』に登場する沖田千斗星君と青井翼君です。築城で登場する杉田隊長は、白い黒猫さんの『イルカカフェ今日も営業中』に登場する杉田さんです。※佐伯瑠璃さん、白い黒猫さんには許可をいただいています※
※不定期更新※
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※影さんより一言※
( ゚д゚)わかっとると思うけどフィクションやしな!
※第2回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる