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ユグドリアの王子
30話:教室からの監視
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何がモグラ男だ。
つかさは苛立った気持ちを抑えるように、教室の窓から中庭の様子を見降ろしていた。
うまい具合に3階にあるつかさのクラスから、中庭が丸見えだった。当然ながら美園がそこをお気に入りのスポットにしていることは確認済み。
いつもなら女友達と楽しそうにお喋りをしているが、ここのところ勇治や夏美と合流してつかの間の休息を楽しんでいるようだ。
数か月ほど前までは学校で美園と勇治が並んでいる場面など見ることはなかった。つかさの登場により2人の間に妙な結束力が生まれたようだ。
美園たちはつかさの監視の目を逃れようと、自然と開けた場所に集まるようになり、結果、中庭が3人の密会場所となったのだ。
広々とした中庭でなら何を言っても聞き耳を立てられない。花壇にさえ注意していれば大丈夫、美園たちはそう思っているようだ。
「毎回、花壇に隠れてると思うなよ。無能どもめ」
モグラ男と呼ばれたことがよっぽど腹にきたのか、つかさの口調は荒くなる。
『ザザ…ザザザ……でしょ…どっかにつかさの情報源があるのよ。あたしたちをモデルファミリーから蹴落としたい奴と協力してんじゃない?』
つかさの耳に取り付けてあるイヤホンから、美園の声が流れてきた。
『それなら別県のモデルファミリー候補か』と勇治。
『仮にそうだとしても、元になる裏情報を入手しないことにはリークすることもできないじゃない』と夏美。
「感度良好」
中庭の音声は3階の教室にいるつかさのところにまでしっかり届いていた。
事前にしかけておいた盗聴器が役立っているようだ。
つかさは、クラスメートに怪しまれないように時々鼻歌を歌いながら、音楽を聞いているふりをしてさらに聞き耳を立てた。
『俺とち~たんのことを知ってるのは俺の家族しかいない』
『ちょっとお兄ちゃん、あたしのこと疑ってる?』
『そんなわけないだろ。俺の醜態がバレれば、お前も破滅だ』
『――よく分かってるじゃない。てゆうか、それが理解できてるならもっと利口になりなさいよ。妹に迷惑かけないでよ』
『うるせぇ』
つかさは思わずプっと吹き出してしまう。
不審がられただろうか、と焦って周囲を見渡すが、誰もこちらを気にする風もない。
軽く咳払いしたつかさは、今度こそ注意を払ってイヤホンの音に集中する。
『じゃあ一体誰なんだよ、あいつにち~たんのこと教えたのは』
『2人のことを知ってるのって、うちの家族以外に誰かいたっけ?』
『俺たち以外? そりゃち~たん本人と、あとは……』
しばらく間が開いたのち、夏美の声が流れてきた。
『――ちょっと、何よその目は』
どうやら勇治は夏美に白羽の矢を立てたようだ。
『お前か? お前じゃないならお前の親か?!』
『バカなこと言わないで! 小学生の妹が高校生とラブラブだなんて世間にバレたらうちだって大打撃なのよ! それに親は知らないわ。あたしとあんたが付き合ってるって思ってるわよ。もしバレて見なさい。あんた唯じゃすまないわよ」』
妙に凄みのある声で囁いた夏美。彼女の背後に柔道5段の大巨漢男の姿が重なって見えたのであろう、勇治はすぐに考えを改めた。
『だったら誰なんだよ一体』
『知らないわよ、あいつのことだからハゲタカ親父がどっかから情報引っ張ってきてるんでしょ』
『ハゲタカ親父にモグラ息子、ろくでもない家族ね』
美園が吐き捨てるように呟いた。
「情報元があるってのは正解なんだけど、見当違いのことばっか言ってるねぇ」
つかさはにんまり微笑んだ。
ザザザザ……とノイズ音が大きくなったと同時に、予鈴が鳴り出し美園たちは中庭から去って行った。
その様子を上から確認したつかさは、大きくため息をつく。
「はぁ。……にしてもモグラ男ってあんまりだろ。こんなイケメンなのに」
窓ガラスに映った自分を見て、手櫛でざっと前髪を整える。やっぱりイケメンだ。つかさは一人納得した。
「俺がモグラなら、お前らは何なんだよ。あ?」
腹立ちまぎれに想像してみる。
勇治はクロヒョウのように俊敏な見た目をしているが、中身はダチョウ。やばくなったら真っ先に逃げる、そんなタイプだ。
夏美はモデル体型で鶴のようだが、金に目がくらんで世良田一家に協力している姿からいうと調子のいいオウム。
美園はどうだろう。整った鼻筋に大きな瞳。栄子を見て確信したが年をとっても老けるタイプではない。喜怒哀楽が顔に出るタイプで、表情の変化が目まぐるしい。
「ウサギか」
できるだけ滑稽で醜いものを連想しようとしてみるのだ、でてきたのはつぶらな瞳のウサギだった。しかも耳も垂れていて毛もフワフワだ。とっても可愛い。
「あ~、何考えてんだ俺」
つかさは頭の中からロップランドイヤーを追い払い、スマホを取り出し新情報入手に勤しんだ。
つかさは苛立った気持ちを抑えるように、教室の窓から中庭の様子を見降ろしていた。
うまい具合に3階にあるつかさのクラスから、中庭が丸見えだった。当然ながら美園がそこをお気に入りのスポットにしていることは確認済み。
いつもなら女友達と楽しそうにお喋りをしているが、ここのところ勇治や夏美と合流してつかの間の休息を楽しんでいるようだ。
数か月ほど前までは学校で美園と勇治が並んでいる場面など見ることはなかった。つかさの登場により2人の間に妙な結束力が生まれたようだ。
美園たちはつかさの監視の目を逃れようと、自然と開けた場所に集まるようになり、結果、中庭が3人の密会場所となったのだ。
広々とした中庭でなら何を言っても聞き耳を立てられない。花壇にさえ注意していれば大丈夫、美園たちはそう思っているようだ。
「毎回、花壇に隠れてると思うなよ。無能どもめ」
モグラ男と呼ばれたことがよっぽど腹にきたのか、つかさの口調は荒くなる。
『ザザ…ザザザ……でしょ…どっかにつかさの情報源があるのよ。あたしたちをモデルファミリーから蹴落としたい奴と協力してんじゃない?』
つかさの耳に取り付けてあるイヤホンから、美園の声が流れてきた。
『それなら別県のモデルファミリー候補か』と勇治。
『仮にそうだとしても、元になる裏情報を入手しないことにはリークすることもできないじゃない』と夏美。
「感度良好」
中庭の音声は3階の教室にいるつかさのところにまでしっかり届いていた。
事前にしかけておいた盗聴器が役立っているようだ。
つかさは、クラスメートに怪しまれないように時々鼻歌を歌いながら、音楽を聞いているふりをしてさらに聞き耳を立てた。
『俺とち~たんのことを知ってるのは俺の家族しかいない』
『ちょっとお兄ちゃん、あたしのこと疑ってる?』
『そんなわけないだろ。俺の醜態がバレれば、お前も破滅だ』
『――よく分かってるじゃない。てゆうか、それが理解できてるならもっと利口になりなさいよ。妹に迷惑かけないでよ』
『うるせぇ』
つかさは思わずプっと吹き出してしまう。
不審がられただろうか、と焦って周囲を見渡すが、誰もこちらを気にする風もない。
軽く咳払いしたつかさは、今度こそ注意を払ってイヤホンの音に集中する。
『じゃあ一体誰なんだよ、あいつにち~たんのこと教えたのは』
『2人のことを知ってるのって、うちの家族以外に誰かいたっけ?』
『俺たち以外? そりゃち~たん本人と、あとは……』
しばらく間が開いたのち、夏美の声が流れてきた。
『――ちょっと、何よその目は』
どうやら勇治は夏美に白羽の矢を立てたようだ。
『お前か? お前じゃないならお前の親か?!』
『バカなこと言わないで! 小学生の妹が高校生とラブラブだなんて世間にバレたらうちだって大打撃なのよ! それに親は知らないわ。あたしとあんたが付き合ってるって思ってるわよ。もしバレて見なさい。あんた唯じゃすまないわよ」』
妙に凄みのある声で囁いた夏美。彼女の背後に柔道5段の大巨漢男の姿が重なって見えたのであろう、勇治はすぐに考えを改めた。
『だったら誰なんだよ一体』
『知らないわよ、あいつのことだからハゲタカ親父がどっかから情報引っ張ってきてるんでしょ』
『ハゲタカ親父にモグラ息子、ろくでもない家族ね』
美園が吐き捨てるように呟いた。
「情報元があるってのは正解なんだけど、見当違いのことばっか言ってるねぇ」
つかさはにんまり微笑んだ。
ザザザザ……とノイズ音が大きくなったと同時に、予鈴が鳴り出し美園たちは中庭から去って行った。
その様子を上から確認したつかさは、大きくため息をつく。
「はぁ。……にしてもモグラ男ってあんまりだろ。こんなイケメンなのに」
窓ガラスに映った自分を見て、手櫛でざっと前髪を整える。やっぱりイケメンだ。つかさは一人納得した。
「俺がモグラなら、お前らは何なんだよ。あ?」
腹立ちまぎれに想像してみる。
勇治はクロヒョウのように俊敏な見た目をしているが、中身はダチョウ。やばくなったら真っ先に逃げる、そんなタイプだ。
夏美はモデル体型で鶴のようだが、金に目がくらんで世良田一家に協力している姿からいうと調子のいいオウム。
美園はどうだろう。整った鼻筋に大きな瞳。栄子を見て確信したが年をとっても老けるタイプではない。喜怒哀楽が顔に出るタイプで、表情の変化が目まぐるしい。
「ウサギか」
できるだけ滑稽で醜いものを連想しようとしてみるのだ、でてきたのはつぶらな瞳のウサギだった。しかも耳も垂れていて毛もフワフワだ。とっても可愛い。
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