トワイライトコーヒー

かぷか

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三部 

トワイライト 09 

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 結婚生活も堅気生活もすっかり慣れたそんな日だった。美日下はお店でプレゼントを貰って帰ってきた。小さな箱を開けると指輪が入っていた。

「マリッジ書いてあるな」

「本当だ、でも俺結婚してるけど。指輪も店でしてるけどな。永遠の愛…」

 そうリングの内側に書いてある文字を見た。軽く美日下が指に合わせようとしたが楝が止めた。どの指にも美日下には大きいサイズに見えた。

「貰ったのどんやな奴や?店の人か?」

「ううん、女の人だったみたい…」
     
「みたいて、見てないんか?」

「うん、俺はあんまり店に出ないから店の子が変わりに貰ったみたいで可愛い女の子だったって。お店にたまに来る人らしいけど俺はまだ確認してないからわからなかった」

「…そうか、これ預かってええ?」

「うん…」

「店でどんな子やったかもっと詳しく聞いてくれへんか?ストーカーやったら怖いから」

「はい」

 次の日お店の人にもう一度詳細に聞いてみることにした。

「毎回テイクアウトしていく子なんですけど週に1.2回くるかな?可愛らしいこで女の子っぽいって言った方がいいのかな」

 店はテイクアウトを始めてから中に入らず新たに改装された窓のカウンターから買えるようになっていた。たまにそちらを手伝う事はあるがそれも数える程しかなく自分がそこまでその子の気を惹くとは思えなかった。確かに覗けば自分の姿はわからなくないがわざわざ覗いて見るには見ずらいと思った。

「貰ったプレゼントの中身が指輪だったんでちょっと怖くなって…」

「え!?ヤバいですね。ごめんなさい、勝手に受け取って。警察行きます?」

「いえ、今のところ何もないので。とりあえずどの子か知りたいのと次来た時にでも確認します」

「わかりました。見かけたらすぐ呼び出しますね」

「お願いします」

 その間楝の提案で送り迎えが毎日に変わり二週間ぐらいたった時だった。店の子から携帯で来ましたと連絡がありすぐに店の防犯カメラを店長に見せてもらった。

「わかる?」

「うーん…全然知らない子です。声かけていいですか?」

「だめだよ、危ないから!」

「大丈夫です、テイクアウトのカウンター越しで話しますから」

「それなら…でも気をつけてね」

「はい」

 カウンターへ行きコーヒーを出すタイミングで変わってもらった。

「お待たせしました」

「……。」

「あの…君かな?プレゼントくれた子。違ったらごめんね。お礼言わないとと思って」

「あ…え、その…」

 コーヒーをもらわず走って逃げてしまった。

「あの子?」

「そうだと思います、逃げたのが証拠ともいえますよ?」

「確かに…でも、どうしようかな。これで来なくなればいいけど…」

 そこから女の子は暫く顔を見せなくなった。これで終わりかなと楝にその様子を話し一先ずは落ち着いてくれたと美日下は通常に戻った。

「明日から送り迎えは大丈夫です」

「けど、、まだわからんから…それに指輪てよっぽどや」

「うーん、そうかもなんですけど…特に付きまといもないですし、ストーカーでもなさそうなのでもし、また来たら事情を訪ねてみます。進展がない以上ずっと送り迎えも、楝さんの仕事もありますし」

「…それは、何とでもなるし送り迎えはまだ暫く続ける」

「…わかり、ました」

 一段落ついたと美日下は思っていたが楝は違うことを考えていた。妙な感覚に楝は情報を集めることにした。自分でやっていくと決めた決心を覆す行動に躊躇いながらも今はそれどころではないと携帯で連絡をした。

「俺やけど…」

「はい、どうされました」

「すまん…結局こうして頼って迷惑かけてもうてるわ。なかなか、完全に堅気になんの難しいな」

「いえ、こちらは問題ないです」

「帰って来たっていう情報ないか?」

「…まさか」

「俺もまさか思ったんやけど美日下のバイト先に指輪渡した女がおるんやけど多分女はダミーや」

「間違いないですか?」

「確定ではないがほぼ決まりやな。ただ情報あったら回して欲しいけどええか?」

「それは勿論です。それより大丈夫ですか?近い所にいるとは思います。そんな回りくどいことするくらいですから」

「せやな」

「誰か向かわせます」

「いや、そこまでは。指輪調べたけど普通のやったし…今のところそれ以外何も起こってない」

「そうですか。それはそれで気持ち悪いです。何かわかったらすぐ連絡します。ですがくれぐれも気をつけて下さい。あなたは一般人です」

「わかってる。すまんな、忙しいのに」

「謝らんでください。では」

 ガチャン

「はぁ…結局、裏で話つけなあかんのか。堅気やとホンマ情報入らんしいつまででも誰かが足を引っ張ってくる…」

 ヤクザを辞めた今でもそれは付きまとうことだとわかってはいた。楝は着替えると今日は遅くなると美日下に連絡した。

 メインの道路から抜けて左に入り路地にずれていいくと鉄骨の細いビルがいくつも建っていた。会社名の無い社名版、何の変哲もないビルに入った。専用エレベーターと書いてありボタンを押すと監視カメラが動いた。乗り込みボタンを押すと目的の階で止まり鉄のドアの前に着いた。コード式インターホンにアクセスした。

「はい」

「俺入れる?」

 少し間があった。

 ここは紹介者がいないと入れない会員制ラウンジ。奥には闇カジノが併設されている。基本的には予約制で限れた人しか入れないようになってた。

「入れます。ラウンジもカジノも許可がでました」

「太っ腹やな」

 堅気になった楝にとってこういった場所の出入りは警戒されやすいが勝手知った場所でもありすんなり入れた。部屋に入ると何人かの女性が近寄ってきた。

「きゃー斎藤さん久しぶり!」
「嘘!斎藤さん!?待って、私も見たい!」

「あー静かにな」

 近寄る女の子達は久しぶりの楝に興奮した。数年間姿を見せなかったのと何となく噂は広がっていてなにかと話題に事欠かない人物だけに店も少しざわついた。楝は辺りを見渡したが目的の人物は居なかった。

「今日おらん?」

「最近来てないよね」
「うん、見てない」

 すると支配人が向かって来た。

「お久しぶりです、まさかここに来てもらえるとは思いませんでした。今日は奥も空いてますから、良かったら一杯奢らせて下さい。プライベートですか?」

「半々かな」

 女の子達を解散させると離れた半小部屋に案内された。ガラス張りで周りの音は聞こえるがこちらの声は聞こえないようになっていた。ボトルから氷の入ったグラスにお酒を注ぐ。綺麗な琥珀色のお酒を楝に差し出した。一口飲んだ。

「これで人少ないんやな、しかも若い子多いな」

「はい。最近は若くて羽振りいい人多いですね。こっちも心配になるぐらい持ってますから驚きます。VIPはマナーがあるんでいくら積んでもそれなりの方しか入れませんけどそれでも増えましたね」

「大分雰囲気も変わったな…」

 また一口飲むと店の景色を見ていた。

「はい。ところで辞めたって本当ですか?」

「ホンマやで」

「勿体ないといったら変ですけど、今は何されてるんですか?」

「堅気や。けど意外と難しいな。なりたてなれるわけやないし、どうやっても足は引っ張られるから」

「そうですか、斎藤さんくらい行き着いたらちょっとやそっとじゃ周りが逃してくれないというか騒がれてしまいますしね。お察しします」

「VIPまだ入れてくれるなんて思わんかった。てっきり門前払いか捕まると思ってたけどな。誰が面倒見るて入れてくれたんや」

「加成さんです」

「そうか…」

「ここは一応安全区域内ですから基本何されてても問題ないです。ルールさえ守ってもらえれば犯罪者も堅気も変わりません。この店を知ってる者だけ入れるのは今も同じです。それよりこっちに戻ったりしないんですか?」

「残念なことに1ミリも思わん。華やかやし欲にまみれて楽しいし、ギリギリを探してるのも嫌いやないけど今の生活以上のもんは手に入らんからな」 

「そうですか、復活楽しみにしてたんてすけど」

「あはは、ないな。ここ来たんはそれを奪われるくらいならて来ただけや、すまんな。小林さん探してたんやけどおらんみたいやな」

「はい、半年ぐらい前から雲隠れ中です。少しいろんな所に首を突っ込み過ぎたようで」

「そうか、あの人も危ないからな。会ったら気をつけなあかんで言うといてな。ヤクザと関わるとろくなことにならんからな」

「ふふ。はい、伝えておきます」

 お酒を飲むと自分にとって息をするように当たり前のこの雰囲気だった場所が今は大分違うように思えた。

「おらんなら仕方ないか…支配人も元気そうで良かった」

「私は変わりませんよ。と言いたいですけどお店は大分変わりまして景気の荒波を感じてます。この間まで来ていた人らが急にいなくなったと思ったら飛んだなんて話は結構ありますね。ケツもち自体も飛ぶことも多々あって斎藤さんほどツケが回収できる凄腕の人がいないので苦労してます。そのせいかルールーも少しずつ厳しくなりつつありますね、昔ならではのルールーが通用するのはなくなりつつあります。不確定ですからね、信用なんて言葉が安っぽく聞こえる時代です」

「そうか…」

「すみません、せっかく来ていただいたのに。私でお役にたてることありますか?」

「俺んところの見てない?」

「3ヶ月前に来てます。そちらもお久しぶりでしたから声掛けさせてもらいました。少し雰囲気が変わったようで…重要人物には入ってなかったんで保証なしで入れましたけど帰った後に一応報告したら少し事が大きくなりまして…」

 気まずそうに話す支配人に首を振ってそれ以上は話さなくて言いと訴えた。ハッっと気がつき直ぐにその話から話題を戻した。つい、昔の名残で楝に他の情報を流しそうになった。必要以上に堅気が聞いて良い話の一線を越えるのは良くなかった。

「そこまで羽振りは良くなかったですけど、VIPまで入ってうちの子一人持ち帰ってます」

「その子に会えんか?」

 支配人は近くのボーイに耳打ちした。そしてVIPから人を呼んできた。

「すまんな」

 支配人が質問をした。

「何を話した?」

「はい、刺青の話です。後はホテルに行ってまた遊ぼうって言われて帰られました」

「そうか…」

「大した情報出せなくてすみません」

「いや、そんなことない」

「あと、最近は結婚しても指輪はめない人増えたって言ってて。君はどっちって聞かれました、相手にあわせますって話したら優しいねって」

「そうか、ありがとう」

 男は帰っていった。

「変わってるかもしれませんが番号わかりますけど電話します?」

「そこまでは。辞めた言うてんのに、のこのこここに顔出してる時点であかんからな」

「堅気でもここは来ますから」

「俺は昔のコネやし、いつまでも使える思ってないよ」

「違いますよ、人脈です。ちなみに加成さんの許可無しでも入っても大丈夫です」

「首飛ぶで」

「はは、どうでしょう。それくらい貴方は慕われてましたよ」

「…そら、どうも。やめて魅力無くなったぐらい言われんのかと思った」

「あはは、確かに前のような雰囲気はないですけど堅気としてはいい感じですよ」

「なら良かったか」

 立ち上がるとチップを置いて出口に向かった。見送る支配人はカメラにわからないように楝に然り気無く独り言のように話した。

「店を出た後に手配出されてます。最後に目撃されたのはKラウンジで一週間前と聞いてます」

「そうか…ありがとうな」

「またいつでも来てください」

 楝は手を振って店を出た。タクシーに乗り込み小雨がぱらつく明け方のマンションに帰った。着信が残っていた。脱衣場に移動して着信のあった番号に電話をかけ直す。自分の酒臭さに敏感に反応した。

「悪い、こんな時間に」

「いえ。どうやって来たかはわかりませんけど来てます。東京の何人かそれらしい人を見かけたらしいです。最新は5日前にバーにいたそうです」

「こっちもカジノに3ヶ月前に来てるのわかった。店出た後に手配されてた言うてたわ。最後は一週間前にKラウンジ」

「はい。派手な場所で顔を見られてますから自分が追われてないか下調べの可能性も。三日前から足取りが掴めてないです。撹乱なのか場所がバラバラでわざとしてるようにも思いますけど…一つ言えるのはそっちに近い場所にいるってことです」

「ああ」

「追われてるって事はもうわかってますから何してくるかわかりません。既に捕まってれば良いですけど…まだなら十分用心してください」

 電話が切られるとその場で服を脱ぎ捨て熱いシャワーを長めに浴びて美日下のいるベッドに横たわった。

「ん…お帰りなさい」

「起こしたか、すまん」

「ううん、大丈夫」

 後ろから抱きつき美日下の首にキスをした。

「美日下…」

 無言で振り向いた美日下は眠気眼で楝を見た。頬を触ってやると楝は顔を近づけキスをした。何度もそうする楝の気の済むまでキスをさせた。

 朝になり美日下は仕事の為準備をして昨日遅く帰宅した楝を覗いて寝ているのを確認してから部屋を出た。
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