トワイライトコーヒー

かぷか

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三部 

四十一夜

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「何でバレたんや…木嶋がチクったんか」 

「バレますよ…だって連絡先言うてないですから親父の所にかけますて」

「くそ…そこは気使って誰かから誰かに」

「そんなんしたら余計バレますし、相手も面倒臭いですて…木嶋さん怒ってはりましたし。怖かったですよ。これで済んでまだ良かったですって」

「あー!!折角何か掴めるとこやったのに!こんな時に何で東京なんや!」

 天馬は勝手に楝のいる事務所へ行き喧嘩を売るような真似をしてきたことが木嶋の電話で親父にバレたのだった。本人はそんなつもりは無かったのだが一歩間違えれば内部抗争になりかねない出来事で大目玉を食らった。そして、組の出禁2週間をくらい尚且つその間関西の出入りも禁止されたのだった。仕方なく東京の仲の良い事務所にお邪魔して礼儀を学ぶ事になった。

「清美?俺やけど2週間関西出禁になった。ほんでこっちの事務所で礼儀学んでこいって舎弟と飛ばされたんやけどそれより観光したい。遊びたい、どっか行こうや」

 全く反省の色のない天馬は2週間東京で遊ぶ事に決めた。舎弟はまた大目玉を食らうのが嫌で自分は事務所に顔だして来ると行って別れたのだった。

 清美とは天馬の高校の同級生で東京の組に入った友達だった。

「久しぶり!元気そうやん!」

「そっちも!なぁ、どっかでゆっくり酒飲んで話聞いてくれ」

 積もる話しもあり二人は居酒屋へ。必然的にお互いの組の話しになった。

「やっぱりお前ん所の実家凄かったんだな。春見組の話すると知ってる人結構いた」

「へー関西ならともかく関東まで名前知ってる人おんねや」

「若頭と同級生って話したら結構ましに扱ってくれて、天馬様々だった」

「はは、お前が東京行く言うた時はびっくりしたけど頑張ってんねや。それより清美と敵対したないから何かあったらすぐ言うてきてな」

「ありがとう、今のところ大丈夫。春見ん所とは敵対してる組やないし山科の傘下に入ってる小さい組やから。こっちは山科組一強って言ってもおかしくないぐらい凄い強いよ」

「あー俺の兄弟組やな。加成組長やろ。やっぱりそんな凄いんか…」

「山科組自体はもうそれはそれは俺が縮み上がるくらい凄いし体制も全然違う。うちみたいにのんびりしてない。たまに偵察というか監視みたいな人が定期的に来るけどめっちゃ厳しい」

「ほんなら、そこにおる斎藤って知らん?若頭なんやけど」

「知ってるよ!知り合い?噂しか知らないけど山科組の組長の右腕。三人いる若頭の中でも一番若くてかなり頭がきれるって話。俺のエリアは斎藤若頭のエリアやないけど斎藤さんのエリアの所は情報とかもかなり厳しく管理されてるって聞くし本人も抜き打ちでくるとか」

「へぇ、もっと詳しく知らん?」

「詳しくか…嗅ぎ回るみたいなのはできないからな…天馬の方が詳しいんじゃない?それか誰か紹介したほうがいい?」

「せんでええ。何となく気になっただけやから危ないことせんでええよ。明日も事務所行くからそっちで調べる」

「そっか。てか、なんで二週間も出禁になった?」

「あ…まぁ、兄弟組の事務所に乗り込んでそれが親父にバレた」

「え゛!?」

「聞きたいことあっただけやのにさ、でも行ったけど本人おらんくて…」

「まさかそれが加成組長の所で斎藤さんの事務所ってこと、、それは流石にヤバい…天馬にしかできないよ。飛ばされるだけで良かったやん」

「あの人なら教えてくれそうやと思ったのに。本人に会えるなら会いたかったけどやっぱりダメやったわ。けどこっち来たら来たで楽しいかも。てか、東京の人シュッとしてんな。可愛い子もいっぱいや」

「誘惑多いけど俺はなかなか遊ぶ暇ないから。今日も天馬迎えに行くって話をしたから来れた。どこに泊まんの、事務所?」

「無理、どっかホテル泊まる」

「そっか、もし泊まる所無かったら俺の所に来てもいいよ」

「ありがとう!ホテル寂しなったら行くわ。てか、久しぶりに羽目外そうや」

 二人は居酒屋を出ると夜の女の子のお店へ。そして楽しい一時を過ごし明け方解散したのだった。

ピピ ピピ

「うるさい」

ピピ ピピ

「…誰?」

「石崎です」

「げ!」

「げ!はこっちです。なにサボってるんですか。ちゃんと事務所行って反省してください。また、叱られますよ。今日は東京の事務所回るんですから、絶対来てください!」

「わかった…けど午後からな」

「今ーすーぐーでーすー!10時前には駅の◯◯ビル前におってくださいよ!」

 ガチャ

 電話が一方的に切れると仕方ないと熱いシャワーを浴びて歯磨きをして服を着替えると一応それなりにはなったが酒がまだ残っていた。駅がすぐ近くのホテルだったため地下鉄に乗ったが迷ってしまい四苦八苦し、やっとの思いで目的地の出口へ出たが階段の所で二日酔いと寝不足でしゃがみこんだ。

「あ゛ぁ…無理。今太陽浴びたら死ぬ」

電話をかけ石崎をここまで呼ぼうとした時だった。

「大丈夫ですか?駅員さんか救急車呼びましょうか?」

 辛くて振り向けなかったが一人の若い男性に声をかけられた。

「あぁ…大丈夫です。二日酔いですから…ほっといてくれれば」

「あ、はい…」

 男はいなくなったので天馬は電話を掛けた。

「石崎?しー、静かに。頭痛い。今、階段におる」

「どこのですか?」

「どっかの。階段上る途中で息絶えた。二日酔いで階段登りきれん、コンビニで薬と水買ってきてくれ。あー何かここに数字書いてるわ…」

 場所を伝え電話をきると頭を押さえた。頭痛に悩まされつつ石崎を待っているとそっと手を肩に置かれた。

「大丈夫ですか?あの…これ置いときます。今、自販機で買ったんで変なのじゃないですから。もし、体調悪くなったらすぐ救急車か駅員さん呼んで下さい」

 さっきの男がスポーツドリンクを渡してくれた。

「…ありがとう、ございます」

 片手で受け取ると男は階段を上がっていった。それとすれ違いに石崎が降りてきた。

「大丈夫ですか?はい、薬とお水。ドリンクも一応買いましたけど…」

「あー薬だけくれ」

 スポーツドリンクで飲むと一息ついた。

「事務所まで歩けますか?」

「おぶってくれ」

「嫌です。どうせなら女の子がええです」

「女子思えばええやろ。そういやさっきの人、手、綺麗やったな」

「誰です?」

「知らん、これくれた」





「はぁはぁ…降りて、くださ、い」

 事務所の前に来ると汗だくになりながらおぶった天馬を下ろした石崎。組員が頭を下げて待っていた。扉を開けられると中にいた組員も頭を下げた。

「お疲れ様です!」

「あーあーあー、やめて。大きい声…」

「すみません、皆さん。若頭は二日酔いです…」

 そう言うと皆は黙った。天馬の春見組は加成の兄弟組として関東では知る人ぞ知る組だった。規模は違えど楝と同じ立ち位置の天馬、権力はそこそこあったのだった。

「とりあえず……」

「天馬さん、斎藤若頭の情報聞くんでしょ」

「あーそうそう、それ教えて欲しい」

「斎藤の事務所の一つはここから30分ぐらいの所にあります」

「へー近いな」

「はい、行った所でいないので会えることはないですけど。後はその周りに加成組長のビルが何軒かあります」

「もっと内部わからん?」

「内部というと?」

「弱みなり、何かやろうとしてるとか。あと、加成の動きとか活発になってない?ピリピリしてるとか」

「今のところ静かですよ。斎藤は関西にいるんでこっちには情報入ってないですね。強いていえば斎藤若頭がいない時にあの人の縄張りで問題起こすと一気に攻め込まれるんで暗黙で手を出さないようになってます。そもそも、誰もしないですけどね。弱みは特には…女と遊んでるとかあれば情報入るんですけど若頭やる前ならともかく、なってからは一切ないですね。忙しくてそれどころやない思いますよ」

「確かに会いに行った時も暫く予定つまってる言うて忙しいみたいやったしな」

「あそこは加成の精鋭部隊って有名ですから、誰も関わり持ちませんよ。敵に回したら怖いですから。加成組長より下手したらヤバいって噂です」

「精鋭部隊…何がヤバいんや」

「なんや地雷があるとかでそれ踏んだ奴ら全員島送りか行方不明なってるとか…まぁ、噂ですけど。何か特別知りたいことでもあるんですか?」

「何って言われると困るんやけど、、」

 何を隠してるか知りたいのだがその何かが抽象的すぎて聞くに聞けなかった。ならば加成の失態の話を聞いてみたが関東でもその話は話題にはなったが関西ほど騒がれていないことに驚いた。火消しに回ったと言うよりかは加成の権力の強さはそれぐらいでは揺るがないと冷静な人達もいて傘下ではそこまで騒がれた様子はなかったと言った。その後の組の体制がどんなものか聞いてみたが特に活発な動きもなく、やはり今は全体的に休戦状態なのではと思ったが何か心に引っ掛かる部分はあった。そしてそれ以上の情報はなく二日酔いもあり組事務所で寝転んで終わったのだった。


 階段に座る天馬。
 さっきから考え事をしていた。

 何で手を引け言うたんや、考えろ天馬。

 親父が得すること…斎藤家の縄張りぐらいしかないけどそれをくれる話なんか?これ以上ない手土産てなんや…和菓子?手出しせんのと何の関係があるんや…わからん。
 
「おっと、見つけた」

 顔も見ずに通りすぎる手をガシッと握った。

「君やろ?ペットボトルくれたん。急に掴んですまん。お礼言いたかっただけや」

「えっ、あ…そんな大したことは…もう、大丈夫ですか?」

 手をパッと離し立ち上がった。

「助かった、ありがとう。仕事終わり?」

「あ、はい。バイトですけど今から家に帰ります」

「飯おごるよ」

「いえ、全然大丈夫です」

「ほんなら、そこでお茶しよ」

「え?」

 手を引っ張り相手の断る間もなく勝手に店に入店したのだった。

「何飲む?」

「あーっと…そしたらラテで」

「そんなんでええの?もっと頼んだら?甘いのとか」

「じゃあ…これかな」

 天馬はお金を払うと適当な席に座った。

「ごちそうしてくださって、ありがとうございます」

「お礼なんていらんよ。俺の方が言わなあかんのに。ありがとうな」

「いえ。えっと、そしたらいただきます」

 一口飲むとその後にケーキを食べた。天馬はそれを見るとにっこりして自分も手をつけた。

「昨日、東京にきたばっかりで飲み過ぎたんや。まさか階段のところで息絶えるとは…しんどかったから助かりました」

「そうですか。こちらにはお仕事ですか?」

「はい。二週間の出張で来ました。人多いし知らん場所やから疲れます」

「知らない場所に来るのは大変ですよね」

「東京の人って優しいんやな、もっと冷たい思ってました。我関せずで」

「あー…人によるかもです。体調悪そうだったので何か病気かと思って声掛けました」

「なら、なんで戻ったんですか?」

「辛そうだったので水分とった方がいいかなって」

「やっぱり優しいやん。君が優しいだけ?」

「いえ、そんなことは。普通だと思います」

「えーっと名前聞いてもええですか?」

「はい、佐野です」

「俺、春見。けど、佐野さんだけやで声をかけてくれたん」

「そうですか」

 二日酔いの天馬にペットボトルを差しだしたのは美日下だった。お茶をご馳走してもらうことになるとは予想もしておらず何か話すべきかなと美日下は話題を考えた。

「関西の方なんですね」

「うん、東京は何回か来たことあるんやけど日帰りとか多くて、出張で来たんは2回目かな。友達がこっちおってそいつと久しぶりに会うて楽しくて飲んだんやけど可愛い子が多いからお店何軒も回ってしまった。こっちの夜の店凄いな」

「そう、ですか」

「あんまりこういう話しない?」

「しない…ですね」

「そうか、男なら皆好きや思ったけど偏見か。ならこっちの人はどこで遊ぶん?遊べる場所聞きたい」

「俺は…休みの日はカフェ行ったり買い物ぐらいしか…ないですね」

「夜は遊ばんの?」

「はい。遊んだり飲みにとかもないです。次の日バイトですから」

「若いのにそのまま帰るんか!?」

「えーっと。はい」

「一人暮らし?」

「今は…そんな感じです。なので自炊や家事してます」

「そうか~俺は実家暮しやからな。そう思うと大変か。時間も取られるし遊ぶのに金かかるし、バイトならなおのことか」

「はい、あの、明日もバイトなのでそろそろ。ごちそう様でした」

「あー待って!途中まで一緒に帰ってええ?駅よくわからんくて」

「はい、勿論です」

 駅に着くと天馬と途中まで同じ方向だとわかり車両に一緒に乗り込んだ。そこまで混んではいなかったがそれでも人がいたので距離が近くなった。

「カフェの匂いまだ残ってる」

「そうですか…」

「俺、酒臭い?」

「大丈夫ですよ。とれてます」

「良かった」

「俺はここで乗り換えなんでこのまま乗ってもらえば着きます。ご馳走さまでした」

「こちらこそ、お世話になりました。ほんなら、バイバイ」

 別れた後、ホテルに着いた天馬は手を見ていた。

「引き止めた方が良かったやろか…」
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