トワイライトコーヒー

かぷか

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三部 

四十夜

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 何かと目の届きにくい関西でも加成の失態の情報は流れ、勢いが鈍い今がチャンスと縄張り争いの問題は加速しつつあった。この問題を解決させたく楝を送り出している最中加成はあることを考えていた。

「斎藤をどう思う」

「番犬」

「はは、それは背中の話か?」

「見たことないので知りません」

「意外だな、知らなかったとは。その犬はもはや番犬以上で俺の右腕といっても過言ではない。野生に返すのは惜しいが首輪を外す時がきたか」

「外すんですか?」

「従順でよく仕込まれた犬は首輪など無くても飼い主の元へ帰る」

「それは飼い主の躾が良かったからじゃないですか」

「…そうだ。忠実に俺の指示に従ってきた。だが本当の主人は美日下だろ?」

「どうでしょう…主人と飼い犬のような関係には見えませんけど。だとしたら最近はその主人の元には帰ってないみたいです」

「そうか、一時は美日下の為にしか動かないと思っていたが今はそれなりに考えているか。抑止力も必要なくなったな…」

 加成はそういうと何かを考えている様子だった。その間に加成の携帯が鳴る。

「…わかった」

 そう言うとすぐに切った。
 フッと笑う加成。

「ここまで来るともはや夫婦だな。俺の考えてる事が言わずもわかるとは…それにタイミングも絶妙に良い。…安心しろ、美日下をどうこうする予定はもう必要なくなった」

 そういうとベッドから降りて部屋のパソコンを開いた。
 
「やはり関西に戻るか…どこまでも俺の筋書き通りに進んでくれる」

 開いた画面の地図を見る。そして自分のエリアの拡大予定地の色を変えた。誰かに呼び出されたのか着替え終えると足早に部屋を出ていった。

□□□□□


「ここも、手だすなやて…どうしたんや親父は急に」

 運転手付きの車に舎弟を一人乗せて春見組の若頭の春見天馬が窓を開けて店を覗いていた。

「天馬さん、斎藤家の縄張り自体手出すなって事ですか?」

「うーん。いや…他も全部や。全体的に今は休戦みたいな雰囲気やな。まぁ、たまにこういう時あるけどそれにしてもうちの場合急にって感じはあるな。何で親父は教えんのや。親子かてこれは無理言われたら余計知りたくなるやないか…」

「斎藤若に会ってからな気がします」

「お前もそう思うか?」

「何かあれで親父が閃いてましたから二人だけにわかる事があるのかもしれません」

「けど斎藤家やぞ。荒木、山本が何か裏で動いたんか?いや、そんなんする意味ない。けど斎藤楝が来たってことは斎藤家を持ち直すんか…あの家に義理でも返しに来たのか、そもそも加成の命令で何かあるんか…」

「関東の内部事情はこっちに全部は入ってこないですからね。噂で聞いたあっちで起きたでかい失態が原因ですかね?」

「かもしれんな…けど全然違う気もするし検討もつかんわ。今、加成の傘下がえらい厳しいらしくて斎藤家の縄張り荒らしてた奴ら全員ケジメつけさられたらしいわ。木嶋が乗り込んできたんやってさ。兄弟組か加成どっちにつくんやみたいな。半端な所は傘下も外して敵対する言うてるらしい」

「てことは加成組長もそれに目を瞑らんくなったって事ですよね。確かに内々でそんなんされたら組長的にも示しつかんし、今までが緩かったとも言えます。でも結果うちへの圧力にはなってますからうちとしても見逃せん話です」

「サービス期間は終わりやっちゅうことか」

「うちとの抗争ですかね?」

「どうやろうな…それなら斎藤楝送り込んできたのもわかる。けど、潰しにきたんやなくて挨拶にきた言うたんやぞ。おかしないか?抗争しに来るのに仲ようしたいって」

「はい。単純に言葉の意味のままなら傘下厳しくして徹底教育する話になったってだけともとれますね」

「厳しくなった分、はみ出た奴等が俺らん所に流れてくる思うけど…どっちにも良い顔してた奴らは手を出した以上どっちかにつかなあかんから迷てる思うわ」

「加成の組に残るって事ですか?」

「天秤かけたらお前ならどっち行く?」

「そら、関西に住んでるなら関西の強い春見ですよ!」

「けど、親父もそない積極的やなかったら?」

「え、仲良い組裏切るんですか?今まで汚れ仕事頼んでたのに。そんな手のひら返すような真似、親父ならうちこいって拾いそうですけどね」

「そこや…拾うには拾うんやけどそない積極的には見えん。手、出さんようにしてると言うか。不味いもん拾わんようにしてる感じやな。何でこんな厳しくなったんや。加成強にしたいのはわかるけど…」

「歯向かう組はいらないとか?」

「結局はそうやけど、ある程度今までみたいに見逃してもええはずや。それに親父もみかぎるような真似…」

「どっちもが拾わないならあぶれた組は消滅ですね。食っていけませんから。生き残るならどっちかに食われるしかないですよ」

「……そうなんやけど…モヤモヤする」

「なら、どうしますか?」

「うーん、このまま待ってんのも除け者みたいにされてる気がして嫌や。俺も話の中心に行きたい。絶対斎藤楝が何か知ってると思うんや。あの人が関西に来てから動きが変わった。直接聞きに行ってくるわ」

「え!今からですか!?」

「なんや、別にええやろ」

「ダメですよ。親父の許可なしに勝手に行くやなんて向こうに喧嘩売った思われますよ!てか、売ってます!ホンマに買われたらどうするんですか?」

「そら、うちも買うやろ」

「はぁ…良くないですよ。目立ちたがるの。第二の成清になりたいんですか?」

「あんなんと一緒にすな!斎藤楝の事務所行くぞ!」

「ちょっと、天馬さん!」


 楝の事務所

 マンションの一角にある事務所はここが事務所だとは外からは全くわからなくなっていてひっそりと静まりかえっていたが防犯カメラはいくつかついていた。

「ホンマに行くんですか?」

「行く」

「俺ら二人だけてヤバイですよ。親父にちゃんと許可取ってからやないと」

「お前と運転手が喋らなバレへん。それに」

 ピンポーン

「もう、押してもうたわ」

「天馬さん!」

 防犯カメラにピースをした。

「ちょっと!!煽らんでくださいよ!」

「誰もおらんかもしれんやろ?」

「居たらどうするんですか!」

『はい』

「春見天馬やけど斎藤若頭おりませんか?」

 ぶち

「切られましたよ、帰りましょうよ。今ならおとがめないですよ」

 腕を引っ張る舎弟。

 ぶち

『約束はありますか?』

「ないです、どうしても聞きたいことあって来ました」

『今、居ません。ご用件をお聞きします』

「立ち話もなんなんで中入れてもらってお茶だしてもらえると嬉しいんですけど。せっかく来たんで」

『少々お待ちください』

「俺らが言うことじゃないですよ!」

「…1分待って開けてくれんかったら帰るか」

 カチャ…

 静かにゆっくりと扉が空いた。

「開きましたよ…」

「開いてもうたわ…」

 二人は少し緊張しながら事務所へと入った。

 部屋に入ると机と椅子が置いてあった。奧は目隠しのカーテンがかかっており人の気配はあるものの誰が何をしてるかまではわからないようになっていた。舎弟に案内され椅子に座るように促され腰かけた。二人が椅子に座ると舎弟がお茶を入れもう一人が別のドアをノックすると奧の扉から木嶋が現れた。

「木嶋です。先日お会いしてますので挨拶は省略させていただきます」

「春見組の若頭、春見天馬や。こっちは石崎」

「はい、存じ上げております。斎藤は予定がありましてしばらく戻って来ないです。ご用件をお聞きします」

 勢いで来てまさか相手にしてもらえるとは思わなかったが入った以上タダで帰るわけにはいかなかった。

「いつ会えますか?」

「当分難しいです。予定がつまってますから」

「本人に直接聞きたかったんやけど…ほんなら連絡先教えてもらえませんか?」

「できません。俺から伝えておきますからご用件を仰ってください」

 舎弟は木嶋と目が合うとびくっとした。

「天馬さん、皆さんお忙しいですから…」

「はぁ…しゃあないか。急に来てすんません」

 天馬が席を立った。

「すみませんがそれだと俺も困ります。入れた以上はご用件をお伺いしないと」

 舎弟がドアの前に移動した。

「監禁するんやないやろな?」

「ないです。ただ、このクソ忙しい時にわざわざおいでくださったのには理由があると思いまして俺もそれなりに若頭に報告義務があります。どうぞ、お茶でも飲んでゆっくりしてください」

 木嶋の青筋のたった顔に天馬はゆっくり椅子に座りお茶をすすった。舎弟も同じくお茶をすすった。嫌な雰囲気の中天馬は口を開いた。

「え…っと、話は親父に何話したか聞きたいだけや」

「春見組長にですか?いつのどの話ですか?」

「挨拶にきた時に何でうちが一番やったんか」

 無表情の木嶋。

「そのままです、組長に今後もよろしくという挨拶にお伺いをしました。順番はうちの若頭が決めたので真意はわかりません」

「ほら、直接聞かなわからん話やん。そっから親父の様子が変わったから…気になって」

「どんな風にですか?」

「手…だ、えっと、仲良くしろ的な感じです」

「そうですか。うちとしてもそうして欲しいですから挨拶に行って良かったです」

「態度が変わった理由が知りたいんや」

「それは、直接組長に聞いたらよろしいんではないですか?」

 正論が帰ってきた。

「聞いたけど親父が俺に教えてくれんかったんや!親子でも話せんいうから気になって、斎藤若頭なら教えてくれる思ったんや。だから来た」

「……。」

 静まりかえる事務所。カチャカチャとキーボードを叩く音だけが響いた。

「みんなだけ知ってて俺だけ知らんなんて除け者みたいやん」

 木嶋は返事に困った。そんなことを言われてもいろいろと事情があり話せないことばかり。知りたいから聞きにきたとはあまりにも単純すぎたのだった。なんなら裏でしてる店の嫌がらせの落とし前をして欲しいと思っていたぐらいだった。

「わかりました。そう、伝えておきます。返事がありましたらこちらから連絡します」

「はい。よろしくお願いします。絶対教えて下さい」

 天馬は立ち上がるのを見て木嶋は舎弟に目で合図しドアから退せた。天馬の舎弟が深々とお辞儀をして部屋から出ていった。ドアが閉められ鍵がかけられ木嶋は仏頂面をした。

「…つ…くっ…ククク、あはは。あー無理や!はぁはぁ、あははは」

「斎藤さん…危うくバレるところでしたよ」

「すまん、笑い止めるの必死やったんや。お前よう笑わんかったな…あかん、おもろい」

「とりあえず、こちらの動きが何か読まれたとか情報盗みに来たとじゃなくて良かったです。けど、これ以上騒がれると厄介です。何か隠してると探られます」

「挨拶行った時も単刀直入に聞いてきたからもしやと思ったがまんまやったな。探られたら確かに厄介やけど…あいつの親父に話してどっか飛ばしてもらえ。何であそこと敵対してんねやってぐらいわかりやすいな」

「笑い事じゃないです。あいつらのせいで仕事増えてるんですよ。斎藤さん舐められてますよ」

「けど、お前が圧かけたからやりやすくなった」

「何も知らないとはいえ、あまりにも無計画すぎてあれが本当に春見の若頭で成清さんと争ってた人ですか?」

「らしいな、あはは」

 珍しく木嶋が怒るので楝は愉快で仕方がなかった。
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