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インセット編
9 治療中 ②
しおりを挟む城に戻り部屋に着くといつものようにシルバが書斎で仕事を片付けていた。レオは部屋に入るなり真剣な様子でソファーに深く腰掛け大きなため息をついた。その様子からすると余り良い結果ではないことはわかった。
「レオ?」
「はぁ~あんなソード初めて見た。まるでもぬけの殻だ」
「………。」
「討伐も、魔の森も、菓子屋にすらいってないってよ」
「そう」
「なんていうか……見た目はソードなんだがかなり幼く感じだ。体感、7.8歳ぐらいか」
「……。」
「手合わせも無理やり誘ったが構えすらしなかった。あの二人もお手上げみたいだ。ただ、今治療で人に預けてるんだと。んで、久しぶりにあのうちに帰ってきてたらしい」
「治療…誰にですか?」
紹介した数名の医者からの報告では改善見込みがない、もしくは時間がかかると言われた。また、前のように剣を握る事ができなくなる可能性があると報告を受けたがそれはレオには言わないでいた。レイやロキもその結果は知っていたが二人もその話しはレオにはしていないと察した。
あの二人が手放しで預けれる相手は余程の人物だと考えたが検討すらつかなかった。
「さぁな。結婚相手は師範になれないって言われたんだと。かなり落ち込んでたが前より良くなったとも言ってたな」
「そう…なら良かった」
□□□
書斎に入り今までの資料をきちんと整理をするソード。ずっと籠りっぱなしで二人も声をかけるべきか悩んでいたが流石に夕食は一緒にしたいと思った。
コンコンコン
「んー」
「飯、食うだろ?」
「うん」
返事はするが動かない。暫く待ったがなかなか来ないソードに今度はロキが呼びに来る。
「ソード、ご飯」
「うん」
返事は行かないと言っているように聞こえたロキはソードの顔を覗きこみ無理矢理目を合わせた。
「ソード、駄目だよ食べないと」
「うん…」
ロキに手を引っ張られ名残惜しそうに部屋をでた。ソードを連れて来てほっとしたが三人で食事をするもずっと何かを考えてるようだった。何を聞いても「うん」と答えるだけで会話にはならない。
ソードはインセットとの会話はできるがインセット以外だとまだうまく話せないでいた。
食べ終えた自分の食器を洗うとまた書斎へ走って行った。大好きなお菓子も食べずに。
二人は自分達の存在を無視されているような感覚になるがへこたれている場合ではなかった。
「ロキ、今から書斎へ行く」
「はい、俺もそう思ってました」
書斎へ行くとソードは黙々と作業をしていた。今まで書いてきた膨大な資料が部屋に広がる。ソードにしかわかり得ない暗号のような紙をひたすら組み合わせまとめていく。年代別なのか季節別なのかすらわからないがテキパキこなしていた。
二人は扉を開けたままそれを見ていた。
「ソード、整理整頓か?」
「うん」
レイは一枚手に取り紙を見ると魔獣の絵が書かれているものだった。
「これをか?」
「うん」
紙を置く場所が足りなくなると二人にも紙を持たせた。
「ロキ、これとこれ一緒に持って。レイはそれ返してこれ持ってて」
二人は久しぶりにソードが頼み事をしてくれた事に嬉しく思った。些細な出来事だったがこうやってソードの力に少しでもなれただけでも進歩だった。
深夜まで作業を進めると急に眠たくなったのかその場で目を閉じて寝てしまった。ロキが抱き上げ寝室へと連れていきベッドに置いた。
ソードの横にはレイとロキ。
複雑だったがインセットが連れて行った後のソードは少なからず外を眺めるだけではなくなった。
「何をしたんですかね」
「さぁな、ただ前よりかは進歩があると思う。…悔しいが認めざる得ない。それに、約束通りソードが帰ると言ったから連れてきたんだと思う」
「はい、また行ってしまうんですかね」
「ああ…治療中って書いてあったしな。俺達も俺達なりに何かできる事をしよう。俺はソードを治す薬が作れないか考えてみる」
「はい、俺も学校へ行き似た症状の子がいないか調べてみます」
「あと強制的に三人の時間は取ろう。これは無くしちゃいけない気がする」
「はい、そうですね!」
二人も考えがまとまり目を閉じて眠りについた。
目が覚めると隣にはレイとロキがいた。何か忘れているような気がしたが思い出せず考えるのをやめてそれよりも書斎に行こうとした。
ベッドから出ようとするとレイが目を開き手を握り行くのを阻止した。少しムッとするソードだが起きたロキが「お風呂行かないと」といい強制的に連れて行った。
三人で入る事はあまりないが二人ともが万が一で確認したかった事があったが心配は心配に終わり安堵した。
「ソード今日も資料整理すんの?」
「うん」
「終わりそう?」
「うーん、まだ。ブレイクが迎えに来きてくれるまでにやらないと」
「「……わかった」」
1ヶ月後、約束通り迎えにきた。
嬉しそうにインセットに駆け寄るソードに二人は胸が痛くなる。
「ソードは任せろ。ソードが帰りたいと言ったらまた連れてくる」
「「わかった」」
「ソード、二人に挨拶は?」
「レイ、ロキ、行ってきます」
「ああ」
「ソード、気をつけて」
そうしてまた二人は消えていった。
「レイさん…」
「耐えろ。必ずまた帰ってくるから」
「ソードがいない生活がこんなに苦しいなんて」
「そうだな…俺達は次帰って来た時もいつものように迎えるぞ」
「はい」
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