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番外編
招かれざる猫
しおりを挟む「スワロフ様~いいんですか~?」
本を読むふりをしながら俺はニオを目で追いかけている。楽しそうにするニオを見て嬉しくなるはずが全く嬉しくない。
近くにいるディーもきっと俺と同じ考えだ。ただ、俺とディーの違いは俺はニオの愛しの人でニオは愛しの人が俺のずなのだが…
「良い訳ない」
そんな愛しの人が俺よりも、この家の主の俺よりも夢中になっている奴がいた。
「みゃーみゃー」
「可愛い~」
そう、毛玉の生き物「猫」を招き入れたのだ。全くもって不本意だったがニオの喜ぶ顔が見たくてつい入れたのがいけなかった。
「ディー…嫉妬で倒れそうだ」
「何で入れたんですか。俺も全然構ってもらえない~つまんない~」
「仕方ないだろ」
先日、前の館にあった本が全部焼失してしまい、街の古本屋に行くことにした。
街へ行くと悪魔共が驚いて道を開けた。この間の天使との戦いで死んだと思われていたようだ。数匹の悪魔が恐る恐る店や建物から覗いては逃げていく。
古本屋は扉が閉まっていたが蹴り破り中へ入ると店主が快く招き入れてくれた。
「いいい、いらっしゃいませ!スワロフ様!!」
「本をよこせ」
「ごごご無事で何よりです!!只今お持ちいたします!!」
「あんなクソ天使に殺られるか」
「も、勿論ですとも。スワロフ様に敵うものはおりません~」
「引っ越しでもするつもりだったか?綺麗にまとめてあるじゃないか」
「あ、いえこれは。整理整頓を…」
「そうか、そうか、俺とニオの新居に新しい本が欲しい。その箱の本を全部よこせ。こんなのもまだ隠し持っていたか…」
「ああ~それは…」
大量の本を買い込み荷馬車に積み入れているとニオの足に一匹の猫がすり寄ってきた。
「可愛い~」
迷い猫は飼わない主義、色は白だし何よりも俺は猫が嫌いだ。ほとんどの悪魔は役に立たない猫は飼わない。
母猫を探すも見つからず、首輪もしていないから誰かに飼われているわけでも無さそうだった。
主印もついていないか、何よりもニオに懐いている。
これはまずい……
「……に、ニオ」
「どうしよう、離れない。母親もいないみたい」
「そうだな」
「……可哀想」
「そうだな…さて、帰るか」
ニオは全然奴を離さない。猫なんぞ館で飼えない。引っ掻くし何処に行くかわからないし気まぐれだ。かといって嫌いな者に主印も付けれないから配下にも置けない。
モノを見るとしれっとしている。
こういう時は執事が助け船を出すものなのに。
「ニオ、生き物を飼うのは大変だし親がきっとどこかにいるよ。さぁ、離して帰ろう」
「……この猫、置いていったらどうなるんだろ」
「……。」
「さぁ、獣か悪魔に食べられて死ぬんじゃないですか?」
「モノ!!」
余計な事を言うな!!
ほら見ろ、ニオの顔がどんどん曇っている。
やめろ、そんな顔で見るな。
俺は飼わない、飼わないぞ!
ちょっとニオの喜んだ顔がみたい…がダメだ!
「スワロフ…ダメ…だよね」
「生き物を飼うのは大変だ…」
「わかってる。俺、ちゃんと最後まで面倒みるからさ。1人で迷い込んだなんて俺みたいでさ…大切にするから。飼うの駄目かな?」
ぐぅ……
「スワロフ…」
うぅ……
「だー!!わかった。わかったからそんな顔するな」
花が咲いたように喜ぶニオの顔が可愛かった。
こんな可愛い顔が見れるなら猫ぐらいいいかもな~なんて思ったりした。
きゃっきゃ、嬉しそうにする横でモノが冷たい目線を送る。
「後悔なさいませんように」
「……。」
そして館で飼う事になって今に至るのだがニオが猫に夢中過ぎて俺など見向きもしない。街で買った鈴を付け二つの器に餌と水をやる。食べているだけなのにじっと見て嬉しそうに笑う。
俺が食事をしても一切嬉しそうにしないし、そもそもじっとなんて見てくれない。
「ディーどうしたらいい」
「飽きるの待つしか無いんじゃない?」
「何年かかるんだ、その間に俺は嫉妬で死ぬ」
「では死んでしまいますね」
いつの間にか背後に現れたモノがお茶を用意する。机に置かれたお茶はニオの分もある。気を引きたくて声をかけた。
「ニオ~お茶飲もう」
「あ~今は大丈夫」
ピキっと青筋をたてるも無理やり猫から離すのを我慢した。
「だから後悔なさいませんようにと言ったじゃないですか」
「あの時、お前が気を効かせて……」
「スワロフ~」
久しぶりのニオからの声かけに説教の途中だが喜んで返事をすると猫を抱えて近寄るニオ。
「名前、白いからシロにしよかな~」
「安易ですね」
モノの一言にキッと睨みを効かせてた。スワロフはすぐニオを優しく見ていいんじゃないかと頭を撫でた。えへへと嬉しそうにしたニオはまた猫と遊ぶのに夢中になった。
ため息をつきお茶を飲むとまた本を読む振りをしてニオを目でおった。ディーは諦めてスワロフの隣で居眠りをする。
□□□
どこへ行くにも一緒に行動をするニオは猫にハーネスをしてスワロフに誘われ一緒に町に出掛けた。前回スワロフが頼んでいた本が届きそれを取りにきたのだった。それ以外は特に用事もなかったのでニオの提案でシスの店に顔を出した。
スワロフと共に店の中に入るも姿は見えなかった。するとニオは地下の部屋を思い出し下りていく。地下の壁には使用中と書いてありシールドがしてあった。どうやら除印中のようで誰かに話ながら仕事をしていた。
「スワロフ、仕事中みたいだね」
「ああ」
邪魔してはいけないと思いニオは帰ろうとしたがシロがみゃーみゃーと鳴き出した。シスがその声に気がつきシールドから抜けると二人が立っていたので驚いた。
「ニオ!スワロフ様!」
「シス、勝手にごめん。お店が開いてて、使用中なのわかったから帰ろうとしてた所。仕事の邪魔するつもりなかったんだ。またにするね」
腕の中の猫をみて目を見開いていた。
「い、いやいいが。もう少しかかるから良かったらその椅子に座って待っててくれ。お礼も言いたい」
「わかった」
近くの椅子に腰掛け座るとスワロフはどこからか本を取り出して読み始めた。ニオはシロと遊んでいた。
半分ぐらい読み終えた辺りでシスが部屋から出てきた。中の人は裸で薄い羽織を一枚羽織っているだけだった。何となく見てしまったニオだがその姿に目を反らした。
そんなニオを見逃す訳もなくニヤリと笑い、また一つ嫉妬心を貯めたスワロフだった。
男が着替えるとお代を払いフードを被り足早にその場を去って行った。途中、チラリとニオを見るも足を止めず入り口とは別の扉から静かに出ていく。
「シス、お疲れ様!」
「ああ、すまない待たせて」
シスとは天使との戦い以来会っていなかったのでその時の状況などをお互いに話をした。スワロフの魔方陣のお陰で店が無傷だった事、無事を願っていたが天使が街を制圧していないことから勝ったとわかったと話した。
「ニオ、主印使ったんだな」
「う、うん」
恥ずかしそうにするニオを見て無理やり付けられたのではないと安心した。
「ニオ、その猫の親は見つからないのか?この町で迷子の猫なんて初めて聞く」
「そうなの?」
スワロフを見るが長い年月過ごす彼には猫と関わりがなく気にもしていなかったのでわからなかったが確かに迷い猫は初めてだった。
「言われてみればそうかもしれない」
「主印はついてないんですか?」
「ない、だから飼い猫ではないと思って連れてきた」
顎に手をやり考えるシス。ちょっと借りると言ってシロをニオから取り上げた。体を調べるも普通の猫だった。だが、普通の方がおかしいのだ。悪魔の町に来て何故無事でいられるかの方が疑問だった。
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