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二つの領土
5 ソルトと側近バレンシア ①
しおりを挟む「初めまして、ジーバル所属ソルベ様第一側近デイゼルバレンシアグラフと申します」
「同じくジーバル所属ソルベ様第三側近モルゼットチリジードアースです」
「ナグマ所属とら様専用第一側近、ヒマイラリヒソルトヤーロックです。お二方の事は事前の情報により存じ上げておりますがお話は初めてですね。よろしくお願い致します」
丁寧に頭を下げ相手に敬意をはらった。ここはナグマ城内にある来客専用控え室。
「こちらこそ宜しくお願い致します。それにしてもナグマ城は広いですね。案内がなければ迷いそうです」
「はい、私も初めはそうでした」
「ヒマイラ様は今回の配列準備を全て一人でなさっていると聞きました」
「ソルトで構いません。こちらへ」
二人はソルトに案内されながら賑わう城内を通りすぎ静かな角部屋に入るよう言われた。ドアの前には最高位護衛二人が番をしているだけ。警備護衛ではなく最高位護衛が番をしているのに少し違和感を覚えつつもドアを開けられ部屋に入った。部屋の中には三人以外は誰もいない。ソルトは椅子に二人を腰かけさせた。
「お疲れのところすみません、デイゼル様、モルゼット様」
「いえいえ、これぐらいの距離なら大したことはないです。私もバレンシアで結構です。こちらはチリでよいです」
「かしこまりました。では、バレンシア様、先程のご質問にお答えします。配列準備の把握は今回だけではないです。私はとら様専用ですから当然全てを把握しておく必要があります。早速ですがどこまで今回の事をお知りでしょうか?知っている情報を全てご提示できませんか?」
「かしこまりました」
なるほど
これはこれは手強そうな相手です。やはりソルベ様の直属側近でないと門前払いは確実でしたね。本日松君様と会えるなどと期待は持っていませんでしたが、わざわざ誰もいない部屋に案内されたのはその為ですか。松君様に関する話全て他領土には城内口外禁止ですか。返答によってはその場で帰されるもありますね。さすがクラム様に次ぐ側近。
ソルベ様が護衛側近に私を指定した理由がわかりました。我が主に信用されるのは大変嬉しいことです。では、その信頼勝ち取ってみせます!
「チリ、お願いします」
「はい、では私から。松君様はやまと様のご友人で国の重要人物です。ナグマ城初の調教師とういう特殊な職業につかれておりアイコンタクト、文字、魔石使い等全てに制限が課されているためこちらによるそういったものは全て禁止。また、ソルト様以外そのお世話を禁止していると聞いております」
「付け足しで私が。ナグマご出身に身分はクラム様よりも上でやまと様の次に地位の高い方。松君様には許可がないと触れられることは許されません。それは貴方も例外ではない。そんな松君様の発言は絶対と言ったところでしょうか」
「他には?」
「我が領土の大犯罪者アドベによりひどい目に遭わされた方です。この場をお借りして同じ領土民として大変申し訳ないことをいたしました事、心より謝らせていただきます」
ソルトの目が冷たくなる。
「では、とら様の印象は?」
「まだ、会ったことが…」
「そうですね、かなり用心深い方だと思います。ですから我々がその信用に至るかソルト様が見極めていただきたいです」
「そのつもりです」
「ジーバルからナグマ城に帰る頃には会話ができるぐらいにはなりたいですね」
「必要ないです」
「それは手厳しいですね」
「ですが今回無事に側近を許されたあかつきには特別に許可をだします。当然とら様が良いと仰られたらですが。では、さっそくですが側近に相応しいかお相手をお願いします」
「はい」
「お願いします!」
【チリ、全て気を抜くなよ】
【はい、すごい圧を感じます。流石ナグマの側近ですね】
部屋をでると二人は稽古場に案内された。そこは普段なら何人かの最高位護衛が剣を振っているのだが今回は貸し切りとなっていた。
ソルトの他にはいつも松の最高位護衛を務める数人と補欠要因が二人。どの人が手合わせ相手なのか見ているとソルトが練習用の剣を握った。
「では、私と手合わせをお願いします」
「ソルト様!」
「何か?」
「最高位護衛の我々が相手をするのではないのですか?」
「私とです。そのほうが相手方も私も余計な時間がかからないです。それにこれは最高位護衛とら様試験と同じですから貴方達では意味がないです」
ソルトが上着を脱ぐとバレンシアも脱いだ。
「バレンシア様、私が先に」
「いえ、チリ。私が先に相手をします。私もソルト様と同意見です。時間短縮ですよ。全くナグマの男は手っ取り早くていい」
合図が始まると二人は剣を振った。
………………………
「良かったですね、ひとまず合格が出て。明日はどんな訓練ですかね?落とされないといいですね!」
「はぁ…見ろよ、おかげでアザだらけだ。先にお前に頼めば良かった」
「ソルト様、強かったですね~」
「強いってもんじゃない、俺はジーバルの第一側近だぞ」
それに最後のアイコンタクトは規則破りだ。
【とら様についての情報を包み隠さず話してください。異世界人だとどなたまで知っているのですか?】
「はぁはぁ…」
【木剣でも斬ることはできますよ】
【ソルベ様は勿論、その伴侶。ソルベ様の直属の側近が5人いるが全員知っている。それ以外の側近は知らない。後はやまと様と同じく淫乱な能力があると聞いた。我々は内密護衛で松君様の護衛候補として訪問したと知られてはいけない。後は知らない!】
【まだです。ライム様の方は】
【知らない】
「うぐっ」
【ライム様と側近。私が知ってるのはこれだけだ。恐らく我々と同じ情報だと思う】
【私の質問には必ず速やかかつ正直にお答えいただくようお願い致します】
【了解した】
剣を下ろすソルト。
「ありがとうございました。大変お強かったです。明日もよろしければきてください」
松君様の側近と侮っていた。領土の情報を脅し取ろうとは、いざとなれば規則など関係ないと言うことか。しかも、こんなにもソルト様が強いとは思わなかった。第一関門突破したのなら明日からは通常業務だからゆっくりできるだろう……と思っていた俺は甘かった。
「バレンシア様、チリ様、お話が」
呼び出された俺達はソルト様から重要説明を聞いた。まず、ここではジーバルの制服を着ないよう指示された。本来なら当然侮辱的な行為だが松君様の側近とあらば察しはつきそれについては問題ない。次にいわれたのが松君様への接近範囲だ。基本ソルト様より3歩ほど離れた場所が定位置。護衛より少し内側になり隣に歩くことは許されないらしい。あくまでも隣はソルト様でお一人で彼を守るようだ。当然安易に近寄ることは一切許されず万が一、体に触れなければならない事があれば必ず触れる前に声掛けをするようにと言われた。ソルト様が解散といえば護衛共々その場から速やかに離れる。
まるで腫れ物にでも触る感覚だ。我々は微塵も信用などされてないのかもしれない。
「チリ様、それでは間に合いません。もっと速く俊敏に動いてください」
「はい!」
「バレンシア様、考え事をしていますととら様を守れませんよ」
「申し訳ございません」
一瞬たりとも気を抜けない毎日の稽古、厳しいのはわかるが誰に対しての防御壁なのだ。最高位護衛達は当たり前のように配列準備をする。
もしかしたら松君様の能力に関係するのだろうか。当然我々はどんな淫乱な能力でどういった仕事をされているのか知らされていない。全て内密になっていて謎だらけの松君様だ。おそらくソルベ様も殆ど知らないのだと思う。なぜならナグマに来る前にもし不意に予期せず松君様の秘密裏を知ってしまったら消されるかもしれないから覚悟しろと言われてきた。
異世界人の松君様とは一体どんな人物なのだ。
「すみません、最高位護衛の皆さん。お聞きしたいことがあるのですが。皆さんはどうやって最高位護衛に抜擢されたのですか?」
「我々はクラム様規定の最高位護衛になった後ソルト様監修のもと最終先行を幾度と無く重ね最終的にソルト様より選ばれました」
「ちなみにですが最終審査とは手合わせですか?」
「はい、あと面接が」
普通だな。
「手合わせは先ほどのようなものですか?」
「はい、そうです。それよりも最後の面接の方が緊張致しました」
「お前も?俺もだ、あの面接は…あ、いえなんでもありません」
面接の方が重要なのか、内容は教えてはくれんだろうな。
「そうですか、失礼な質問をしてしまい申し訳ないです」
「いえ、厳しいですがその分喜びの方が大きいですから頑張りましょう」
なんとも感じの良い護衛達だな。面接が重要というのは人格もそれなりにある方でないと無理ということか。
やはりソルト様に疑問に思うことは直接聞くべきだな。影でこそこそしていてもあの方なら見抜いてしまわれるだろう。
「ソルト様、お話が」
私はチリと二人で稽古後のソルト様に話しかけた。
「松君様なのですが護衛をするにあたってですがどうしても知りたいことがありまして」
「なんでしょう?」
「調教師様とはどういったご職業なのでしょうか?少しだけでも教えてはもらえないでしょうか?もしその職業を狙う輩がいるのでしたら我々はそこを重点的にお守りしたいと思います。例えば背後だったりです」
ソルト様は何かを考えているようだった。
「調教師ですか…そうですね。詳細には明かせませんが最終的には人を至福させる職業です。ですからそれを求めてくる輩は多いです。皆さん幸せになりたいですから」
至福…余計にわからなくなったぞ。幸せを与える職業は色々あるが至福とはなんだ。
「お気づきになられない方がよろしいかと思います」
「それは、我々が無能だから気がつかないという事でしょうか?」
「チリ、やめなさい」
にこりと笑われたソルト様はどこか恐ろしげに見えた。
「いえ、無能ではないです。無謀になるなと言うことです」
「どういう…」
「チリ様、私こそ大変失礼致しました。不愉快にさせるつもりはないです。ですがこれ以上は申し上げられません。チリ様は大変お強いですから心強いです。もう少ししたら訓練が終わります。頑張ってください」
そう言いソルト様は軽く一礼をして立ち去っていった。もうすぐ終わるのか、何を見定められ何を試されているのか全くわからない。チリと一緒に次の日も稽古をこなした。
10日ほど経ったある日ソルト様が我々に話しかけてきた。
「バレンシア様チリ様」
今度は何を言われるのかと思った。
「罵倒されるのをどうお考えですか?」
「不快です」
「私も好きではありません」
「では、想い人やお付き合いしている方はいらっしゃいますか?お答えできる範囲で構いません」
余談??
「いえ…私は特定の方はおりません」
「私もです。強いて言えばソルベ様をお慕いしてますが側近としてです」
一瞬顔が曇ったように見えたが…
「では何か特殊な性癖がおありですか?」
「無いです!」
「私も、無いです!」
なんなんだ、この質問は。余談にしてはかなりはっきりとした質問で淡々としている。まるで尋問に近い。
「そうですか、それは良かったです。近々とら様がやまと様に会いに来られます。その護衛を一緒にしていただけませんか?」
「よろしいのですか!」
「光栄です!」
やっと実践らしく松君様の護衛ができる。まだ一度も会えずどうなることかと思ったがお姿が近くで見られるとあれば良い機会。どういう護衛をすべきか感覚を掴みたい。それにもしかしたらこれが最終関門なのかもしれない。
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