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松編 ③

8 松の世界にお邪魔します ⑧ ソルト

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 二度目の外へ。相変わらず日差しは強く慣れない騒音に気分は下がる。龍空はソルトのテンションが低く本当に慣れてないのだとわかり歩く速度をゆっくりにした。キョロキョロするソルト。

「あの、絶対私を一人にしないでください。本当に帰れなくなりますので…」

「わかってるって。約束する」

「何処に行かれるんですか?」 

「ねーもう少し親しく話してよ」

「では、何処に行くの?」

 ぎこちない返答に龍空は少し笑った。

「んー人がいない所~あんまり思い付かないんだよね。平日だし…あ、俺の学校行こうよ。あそこなら限られた人しかいない」

「わかりました」

 バスに乗り込み大学前で降りた。さほどバスの中は混んでる様子もなくソルトは安心した。流れる景色を見ながら少し緊張する。

そんな姿を見て龍空はいろいろ話しかけた。質問する度にどこか違う国から来たのではないかと疑うほどソルトは何も知らなかった。

「ねぇ、こっち初めて?」

「はい、初めてです。この国の出身ではないです。両親もです」

「だよね、海外の人っぽいもんね。でも名前はこっちだし言葉とか流暢だしどっかで習ったの?」

「自然とわかるようになってました。きっと本来は違うんでしょうね。文字は読めませんので数字ならわかります」

「そっか、文字難しいよね。こっちなんて3種類あるし」

「はい、今勉強中です」

 とら様のお部屋からどんどん離れていってしまい不安で一杯ですが万が一にも備え道を記憶しておく必要があります。

ところでりく様の学校へ行くと仰いましたがそこで何をするのでしょうか??

「俺も勉強中~国際文化で学んでんだけどさ、そうたみたいなタイプ初めて。その歳で仕事してるならさ大学とか行った事ないよね?1日体験したら楽しいかなって」

「ありがとうございます」

 そうだったんですね。やはり、りく様はとら様と同じく優しい方です。りく様といたら一生退屈はしなさそうです。
少し気分もいいようなのでこれならご迷惑をかけず過ごせるかもしれないです。


 大学に着き校内に柵に囲まれた学内。周りは緑に溢れ自分と同じぐらいの歳の人たちが楽しそうに会話をしながら歩いていた。

 この柵内は守られていて安全だということでしょうか。木々に囲まれていますし少し他よりも特別な場所ですね。とは言え危険なものがあればお守りするのは当然です。


 図書館や教室、ホールなど一通り案内するとカフェに行った。席に座ると注文をする。ソルトは何が何だかわからず適当に指をさした。龍空はそうたの反応が気になる様子だった。

「どう?どう?」

「私と同じぐらいの歳のかたが沢山いますね。それに皆さん自由に学ばれて楽しそうです」

「そうたも一緒の大学だったら楽しいのに」

「そうですね。ですが私には大切な仕事がありますので投げ出すことはできないです」

「そっかー」

「やりがいと責務があり好きな仕事です」

「すごー俺、何やってもダメなんだよ。飽きちゃうから。俺も好きな仕事見つかるといいな~」

「自分の分析ができてるなら大丈夫だと思いますよ」

 二人の頼んだものができたようで龍空は取りに行った。そして、ゆっくり時間がながれる大学の雰囲気にソルトはちょっといいなと思った。 

「それ、前から気になってたけど食べる勇気無くて頼まなかったやつ」

「そうですか」

 ソルトの前には野菜に生クリームとアイスがのっていた。一口食べる。龍空が興味津々に見つめる。

「うーん、食べれなくはないです。美味しいかどうか聞かれるとクリームパンの方が私は好きです」

「一口いい?」

「はぃ」

 龍空も一口食べた。確かに食べれなくは無いが一緒にする必要もないなと思う味だった。

「何か不思議な味~」

「はぃ、そうですね。ただ、りくさんが気になっていた物を注文できたのは良かったです」

「何で?」

「前から気になってたんですよね。次は頼まなくて済みますから」

 にこりと笑うソルトに龍空もおかしくて笑った。

「そうた、いいね。面白い。俺の分けてあげる」

「ありがとう、とってもおいしいです」
 
「龍空、もう新しいやつかよ」

 ソルトの後ろから喧嘩ごしに声をかけられた。振り向くと機嫌の悪そうな男がソルトをチラリと見て龍空に目を向けた。

「違う、これは兄貴の友達!」

「どうだか、お前の遊び好きはバレてるからな」

「だったら何だよ」

「お前マジで最低。謝罪もなしかよ」

 ソルトは龍空を見ると心当たりがある様子。苦い顔をしていた。

「りくさん、理由はわかりませんが彼を傷つけたなら謝りましょう」

「そうた…」

「しっかりしないと、後回しはよくありません。今しかないですよ」

「……うん。ごめん。傷つけて」

 うーん。
 相手の方も許すとすんなり言わないのでりく様は相当なお怒りをかってしまったのですね。

 もしこれで相手の方が怒りを納めてくださらなかったらりく様をお守りしなければ。逆上して襲ってくる可能性もありますので倒します。

素手でなんとかなりそうですがあの鞄の中身が気になるところです。私のように武器を隠し持っているかもしれません。随分大きな鞄を背負っていますが一つや二つではないとみました。

わざわざ、あのように声をかけてきたのです。返り討ちも考えられます。まずは人気のない場所への誘導です。

「ちゃんとわかってんのかよ」

「ここではお互い本音で話せませんからどこか静かな場所でお話しされた方がいいと思います。それに周りの方は楽しい時間を過ごしていますから巻き込まないようにした方が」

「わかった。話すきあるなら一応聞いてやるよ」

「りくさん、彼とっても優しいじゃないですか。しっかり話し合って謝りましょう」

「うん」

 誘導は成功しました。ですが、乗ってきたとも考えられなくはありません。ここなら人目につかず何かあっても気がつかれる事は少ないです。なるべく人を近づけないようにしなければ。それに魔法や魔石は使えませんので殺る時は一瞬で仕留めなければいけません。

 仕留めたあとの処理はりく様にお伺いをたてますか。

後は二人の様子を見てから考えましょう。状況は常に変わります。安心してください、りく様に危害を加える輩はソルトが退治いたします。

 あの男、鞄を下ろしましたね。
 何かを取り出すつもりですか。

「りくさん!」

「ん?」

 武器を出すと思い私はりく様を庇いました。

「わ!なになに」

 龍空の前に片手を広げた。
まるでボディーガードのような仕草。

 ふぅ、どうやら水を取り出しただけのようです。紛らわしい。ですが、まだわかりません。今のところ敵意はないですね。

「どうぞ、続けてください」

「おい、龍空。隣のやつなんだよ。話しにくい」

「あぁ、ごめん。兄貴の友達なんだ。海外から来ててちょっとこっちの文化に慣れてないから気にしないで」

「へーそうなんだ…」

「それより、、、ごめん。本当に悪かったって思ってる…」

 話が進み始めました。りく様、頑張ってください!話し終わるまで私がお守りします!

 周りは他に盗み聞く者も今のところいませんね。少し離れ静観して見守りましょう。

「ふん。まぁ、俺で最後にしろよな。マジでろくなやつにならねーぞ(めちゃくちゃキョロキョロしてる)」

 あれは、小動物ですか。
 魔物は出ないと聞いてますから害はないです。

「うん。俺の話し聞いてくれてありがとう(そうた、どうしたんだろう…なんかソワソワしてる)」

 あちらには年配の方がいますね。あれはすぐに殺れますから後回しです。

「これ、お前に借りてたやつ返すから(スゲー気になって話が入ってこない)」

 上からの見張りなどもありませんね。

「うん(俺、何を謝るんだっけ)」

 元カレがリュックから何かを取り出した。

 何ですか!?
 あんなものは見たことないです!
 もしや、許すと見せかけての報復武器では!

 いけませんりく様!!
 私が確認してからにしてください!

「りくさん!!」

 バシ!!!
 
「イテ!なんだよ!!」

「りくさん、大丈夫ですか?」

「ちょ、何してんの!?」

手首を最大限の弱さで叩いただけです。

「危険物かと」

「違うよ、貸してた充電器だよ」

「じゅおでんき、ですか?」

 聞きなれないですがとら様に今日確認をとってもらいます。

「うん。そうた海外の自衛隊みたいなところで働いててこっちの物が全然わかんないんだよ。大学も初めてだから案内してた。本当にわざとじゃないから許してやって。ごめんね」

「びっくりした~マジかよ。殺されるかと思った」

 やはりこの方には気がつかれてましたか、あなどれない相手ですね。少しでもガードする仕草を見せたら殺るつもりでしたから警戒しておいてよかったです。しかし、この方はりく様に手を出すわけではなかったので安心いたしました。

「失礼しました。慣れなくて、お気を悪くしたなら謝ります」

「まぁ、それなら仕方ないっていうか。龍空、まだムカついてるけどお前が謝るの初めて見たし反省してるっぽいからもういい。じゃあな」

 男は手首を押さえながら帰って行った。
 下を向く龍空。

「りくさん、がんばりましたね。許してくれたかはわかりませんが彼の忠告は有難く聞き入れましょう。人を傷つけると自分も傷つくのを覚えておきましょう。…さっきから偉そうな事を言ってすみません」

「…ううん。ありがとう。俺、そうたいなかったらこんな風にできなかった」

「いいえ、こちらこそ学校を案内してもらえて楽しかったです」
 
「そうた、本当は虎とどんな関係?」

「えっと、とらは…」

 好きな人だと言いかけてやめた。

「友人…です」
  

 龍空はその言葉を聞いて歩きながら話し出す。

「………俺ね、虎が好きなんだ。小さい頃からずっと。でも虎はそんな俺が嫌だって鬱陶しいって言って相手にしてくれなかった。家族だし諦めなきゃいけないのわかるけどさ…てかもうとっくに諦めた。次にいきたいけどいつも虎の反応が気になってわざと悪い事したり。本当はしたくないのにいつのまにかそれが癖になってた」

「とらはりくさんを気にかけてるし心配してます。だから怒ると思うんですよ」

「わかってる、でもついあんな感じになる」

「りくさん、とらはとっても素敵な人だから気にかけて貰いたい気持ちはわかります。ですが自分の気持ちを傷つけるのは少しずつやめていきましょう。後悔が増えてしまいますから」

「…そぅ…だよね。俺も次に進みたい。そうた、帰ろ。俺、虎に謝るから」

「はぃ、きっととらは優しいですから許してくれます」

 バスに乗り元来た道を帰るが途中から渋滞が始まる。まだ帰宅にはラッシュには時間あった。

「進みませんね」

「ネットで調べてみる」

 龍空が調べると車両故障があり点検中の為復旧未定とのこと。
時間をかけてバスは停留所に止まり二人が降りると駅前には人が溢れていた。かなりの混雑に龍空はソルトを迷子にさせられないと思い手をつないだ。ソルトは手を繋がれ龍空を見失うことはないが人混みにむせ返りそうだった。できるだけ人を避けようとしたがそれでも人が多かった。だんだんと人酔いしていく。ソルトの握る手が重くなる。振り返ると顔色の悪いソルトが目に写る。無理やり手を引っ張り何とか今より人がいない場所へずれた。

「すみません」

「大丈夫?」

「少し、人酔いしたみたいです。暫く座っていれば大丈夫だと思います」

 周りを見渡してタクシーを拾おうにも長蛇の列。龍空は他のタクシー乗り場を探そうとしたが手を強く握るソルトから離れられなかった。「絶対に一人にしないで下さい」という約束を思い出した。

最悪な事に帰宅ラッシュと重なる時間帯になり今度は別のルートから人が集まる。運休が解除されても行き場の無い人で群がっていた。ソルト達がずれた横道にまで人が溢れた。無理やりソルトを移動させるが波のように人が押し寄せる。龍空に引っ張られるが限界が近かった。龍空はとっさに店と建物の間に連れ込んだがソルトはずるりと腰から崩れた。

「そうた!大丈夫!?今、助けるから」

 返事の無いソルトに不安と焦りを感じる。顔色は悪く目を閉じていた。何とかしないとと思い急いで助けを求め電話をかけた。なかなか出ない相手に焦る。

 カチャ

「虎!ねぇ、今何処!!俺ら駅周辺にいるんだけどそうたが気分悪くなって!タクシーつかまらないし、わかってる!えっと、何かの商業ビルと店との間にいる。うん、うん、わかった」

「そうた、今虎が来るから」

 それでも返事はなく冷や汗をかくソルトに龍空は焦った。ハンカチで汗をふき様子を伺うがぐったりするソルト。松を待っている時間が長く感じた。幸い電話をしたとき既に松は駅にいて自分達の場所から近いようだった。

 龍空は今か今かと松を待っていた。

 ざわざわと周りの音が嫌でも耳に入る。


「とら様…」

 ソルトがか細くそう呼ぶ。

「虎?どこ?」

 見渡すと松らしき人物が焦った様子で走ってきた。龍空はホッとして手を振るが松は迷わずソルトの前にしゃがみハグをした。

「ソルト、遅くなった。もう、大丈夫だから」

「…とら様…すみません」

「俺の顔みれるか?」

「はぃ…」

 うっすら目をあけて目の前にいる松を確認すると笑った。松はソルトの耳を手で押さえ話しかけた。

「俺とお前しかいない」

騒音はかき消され松の脈打つ音だけになる。

「はぃ…」

「二人だけだ。俺に抱きつけ」

「はぃ…りくさんを叱らないで下さい…私が勝手に出たんです」

「いいから」

 30分ほどそうしていると少しずつだが顔色が良くなってきた。ハグをする手に力がでてきた。深く深呼吸をさせ耳元で何かを囁いた。ソルトは嬉しそうに返事をすると松はイヤフォンをつけさせた。ゆっくり立ち上がり松に手を引かれアパートへ歩いた。その後ろを龍空はついていった。やっとの思いで部屋につきソルトを直ぐ休ませる。部屋に入ったがさっきから一言も話さない龍空。

松は着替えを終え水を飲む。

電話では少し怒り口調の松だったが部屋に着くも怒られることはなかった。

「今日、どこ行った?」

「俺の大学…」

「それから?」

「それだけ。学内のカフェ行って話して帰る所だった」

「ふーん」

 少し間ができた後、松は台所へ行き晩御飯の支度にとりかかった。龍空は正座した膝の上で拳を握っていた。

「お前も食べる?」

「……そんな気分になれない」

「どんな気分だよ」

「………。」

 黙々と松が準備をしていると龍空が口を開く。

「虎…ごめんなさい」

 一瞬手が止まるが続けた。

「そうたに無理させて、ごめんなさい」

「こいつが行くって言ったんだろ」

「……。違う。俺が脅して連れてった」

「ふーん、どういう事?」

「俺が、虎の合鍵無断で作って部屋に入った。そうたがシャワーから丁度出てきて、服をかえして欲しかったら俺のお願い聞いてって言った」

「……。」

「で、1個目は話し聞いてって。で2個目は遊びに行こうって誘った。そうたはお金も携帯もないから行けないって。あと、人酔いするから迷惑かけるって。それと虎の約束は破れないって、だから俺は虎の許可がおりたら行ってくれると思って虎に電話をかけるふりして勝手に許可が出たって言った。そしたら、いいよって」

「………。」

「そうたは、自分を絶対一人にしないでくれって言ったから、俺の知ってる場所で迷子にならない所へならいいかって」

「あーだから大学」

「んで、帰りに渋滞に巻き込まてあの状態になった」

「そっか、お前なりに考えてたんだな」

「虎…怒んないの?」

「怒っても仕方ないだろ」

「……。」

「何て言ってた?」

「大学?楽しかったって」

「なら、いいや」

「………虎。そうた何なの?全く何も知らなかったんだけど、音楽も知らないし。それにさっきの虎…」

 松はため息をついた。

「俺の友達」

「そんなわけ無い!」

 虎があんな焦って走りながら来るなんて。きっと駅からずっと走ってきたんだ。額に汗かいてた。

「じゃなかったら何なんだよ」

「………別に。いや、俺…」

「別にならいいだろ。言っとくけどあいつは俺のだ」

「俺のって何」

「……俺のだよ」

「……。俺が好きになったらダメな相手?」

「絶対にダメな相手」

「虎はズルい。いつも俺の好きになる相手が駄目だって言う」

「………俺を好きだったんじゃないのか?」

「もう、いい。折角諦めれると思ったのに!そうたにごめんなさいって言っといて。じゃあ、帰る」

 龍空は鍵を置いて部屋を飛び出していった。松はまたため息をつき夕御飯の続きをした。
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