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松編 ③

11 松 ①

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「これ、お願いします」

「はい」

 はぁ~まさかあいつが10年前の事をソルトに話すとは思わなかった。

 鼻を両手を覆い会社のデスクで深いため息をついた。

 俺の弟の龍空はこれだと決めると相手のことなど構わず行動を起す所がある。行動力のある龍空は社交的で好かれることも多く友達の中でもリーダーシップをとるようなタイプだった。俺はどちらかというとそういうのが苦手だったからそんな俺に一番に懐く龍空が可愛いと思っていた。

 兄弟仲は良好だったと思う。喧嘩もするが時間がたてば仲直りもするし本当に普通だと俺は思っていた。

 だか俺は中学の頃弟に襲われかけた。正確には襲うという感覚ではなく好意の行き過ぎだと思う。1回目は。

 俺が寝ている間に龍空が部屋に侵入してベッドで寝ている俺にキスをした。口の異物感に気がついた俺は動揺した。

「んっ…」

「虎、もちょい口開けて。しずらい」

「あ…んっん」

「ちゅぴっ…ん…ふぅ…」

 口の中に何か入って…うご…いてる?
 何か、苦しい…気持ち悪い

「……んんー!!何してんだ!」

「しー!!俺も初めて」

「そうじゃない、お、お前、何してんだ」

「キス」

「俺でするな!」

「虎としたくて。どんな感じか試したかった。好きならしていいってやってた」

 何言ってんだ。

「それは、お互いの了承があってからだ。寝込みを襲って兄にするもんじゃない。忘れてやるから早く寝ろ!」 

「せっかく、この日の為に起きてたのに」

「何してんだよ!」

「静かにしてよ!皆起きる!ねぇ、虎もっかいキス」

「ふざけんな!」

 俺は龍空の手により両手をふさがれていた。寝ぼけてうまく抵抗できない俺を良いことに2回目のキスを無理やりしようとしてきたが流石に嫌で頭突きをして力任せにベッドの下に投げ落とした。

「うぅ、虎が虎が…うわーん」

 音に驚く両親は俺が龍空をいじめたと思い叱ったが俺が被害者だった。泣きながら本気なのにと言ったが俺は相手にしなかった。

 とまぁ、こんな感じで昔から龍空は龍空だった。それっきり龍空はキスをしてこなかったが何度か探りを入れられることはあった。好きなタイプや付き合ってるやつはいるか等々。兄弟で話すには俺には気持ち悪い内容だった。

俺もいい加減鬱陶しくなり龍空が高校生になったある日これ以上辞めてほしくてしっかり話し合おうと部屋に誘った。

「龍空、俺は彼女いるしこの先お前の何度も聞いてくる質問の答えに応えられない。男と付き合うつもりはない。ハッキリ言ってその質問は鬱陶しい。俺の為を思ってか知らんが彼女の悪口いうのもなしだ。だから、恋愛の話や俺の好きなタイプを聞くのやめろ。別にお前の事は嫌ってないけど何て言うか…疲れる」
 
「………。」

 これでわかったよな?

 下を向く龍空は落ち込んでいるように見えたが違った。いきなり俺を押し倒しキスをしてきた。そして俺は弟に犯されかける。必死で抵抗してなんとか逃れたが龍空がまだ成長期の途中で力が俺よりも弱かったのが助かった。前よりも力が強くなってたせいなのか高校生になったからなのか龍空の顔が男っぽく見えたのが怖かった。

「お前、今のは洒落にならない。本気で頭冷やせ」

「そんなのわかってる!虎に彼女いるのぐらい知ってる!どいつもこいつも適当なやつばっか選びやがって!キスしたぐらいでビビんなよ、バカ!」

 龍空は怒って俺の部屋から出ていった。次の日、少し機嫌が悪かったがいつも通りだった龍空。

で、それから龍空は俺への質問やら恋愛に対してあまり口出しをしなくなったが愚痴は治らなかった。これぐらいはいっかと思っていたが龍空がフラれると俺の部屋に来ては気が済むまで話をして帰っていくようになった。

 あいつはあいつでいろんな奴と付き合っていた。俺への当て付けだと思うが俺と同じで付き合うやつ全員長続きしなかった。そしていつも俺のせいだと責任を押し付けた。

 そんな事があって俺はそれから男性恐怖症だ。龍空のせいにしたくなくてそれをずっと隠してきたがソルトには何故かバレていた。不思議な事に襲われた龍空といても全然平気なんだが他の男は男だと考えると襲われるということが頭をよぎって身構えてしまう。これは、現在進行形で辞めたくても俺の体が勝手に自己防衛が働くからどうしようもない。
 
 あいつの性格からして昔の発言を覚えているか微妙だがもし覚えていて俺が男と付き合わないと宣言してるのにソルトとの関係を知ったら昔と言ってた事が違うと言って癇癪を起しかねない。そうなったら最悪だ。それに俺の今までの失態をベラベラと話しそうでマズイ。

 やっぱり正直に話すべきか。

「はぁ~…マズイ」

「大丈夫ですか松永さん。トラブルですか?」

「あ、大丈夫です」

 全然大丈夫じゃない、何考えてるかわかんないうえにもし、またアパートに来てソルトが異世界人ってバレたら…

 マズイ、非常にマズイ。

 駄目だ、朝から仕事が手につかない。
 集中しろ。早く終わらせるんだ。

 こんな時ソルトが携帯持っててくれたらな~

 俺はそんなことを思いながら仕事していた。しかしこれよりももっと最悪な事が起こっていた。
俺が居ない間に龍空はソルトを外に連れ出していた。俺はこの時の出来事は今までの人生で一番焦ったんじゃないかと思う。気がつけば周りなんか気にせずに大声を出していた。

 反対側は遅延か。やけに人が多いと思ったらこれは帰るのに時間かかるかもしれないな。まぁ、今日は早いから人混みさえ抜ければ大したことないか。

 ウ゛ゥ゛ ウ゛ゥ゛

 龍空?  
 改札でるまでちょっと待て、掛け直すから

なかなか着信が切れずそのまま電話を取る。

『虎!ねぇ、今何処!!』

「何?落ち着け龍空。今帰ってる途中ですごい人だから良く聞こえない」

『俺ら駅周辺にいるんだけどそうたが気分悪くなって!タクシーつかまらないし』

「俺ら?ちょっと待て、今お前何て言った。そうたと居るって言ったのか!!外だしたのか!何やってんだ!」

『わかってる!』

「それより、どこに居る!」

『えっと、何かの商業ビルと店との間にいる』

「俺が行くまで絶対そこ動くな!」

『うん』

「あと、病院に連絡も絶対するな。他の人の目につかないようにしろ。駅には着いてるからすぐ行く」

「うん、わかった」

 俺は電話を切りダッシュで改札口をでた。何を考えていたかというとソルトの無事をひたすら願っていた。もし、あいつに何かあったら龍空を許せる気がしないと思うぐらい焦っていた。

人混みを掻き分け龍空の説明した建物付近を探した。あいつの髪の色が目に入りソルトを見た時の安心と慈愛はこの時はじめて感じた。今まであまり自分の中になかった感情だったが嬉しかったような気がした。体調の悪そうなソルトは俺に大丈夫だと見せるように笑って見せたが余計痛々しかったのを覚えてる。

「どこにいても探しだしてやるから安心しろ」

とりあえずは動けるまでこの状態で後は無事に帰宅できることだけを考えてた。

 龍空に気を使えたのはソルトが無事にアパートについて体を休めてからだった。龍空は連れ出したことを謝ったが俺はそれをあまり責める気にはなれなかった。あいつはもしかしたら外にでたかったのかもしれない。そんなことがふと頭によぎる。

俺がもっとうまい解決法方を見いだせていたならこんな不自由な時間を作ることはなかったかもしれない。反省すべきは俺だった。

「大丈夫か?」

「はぃ、すみません。大変ご迷惑を…りく様は?」

「帰った、悪かったてさ」

「いいえ、謝られる事は。それよりとら様、私の方こそすみません。外に出でてしまった上にまたご迷惑を」

「楽しかったか龍空の大学」

「ご存知なんですね。はぃ、楽しかったです」

「なら、お前こそ謝る必要ないだろ」

「……ですが」

 松はソルトを抱き寄せた。
 
「迷子にならくて良かった」

「はぃ、とら様の魔石が近付くのがわかりましたから途中から安心しました」

「そっか。これ、お前といるときはやっぱりつけといて正解だな。フィグさんにマジで感謝」

「はぃ、あの時といいそのアクセサリーには助けられています」

「龍空にお前との関係を聞かれたよ」

「はぃ、ご友人です」

 ジロリと睨む松。
 ビクッとするソルト。

「でも、こちらではそう紹介をされましたので…」

「わかってる。初めから俺がソルトをきちんと紹介すれば良かった。ただ、いきなりでどうやって言えばいいかわからなくて、悪い」

「いえ、私達には事情がありますしそれは気にしていません。それにこちらでは私が異世界人だと知られればとら様といられなくなるのはわかってます。危険だということも…あと、許可なくりく様と手を繋いでしまいました。すみません」

倒れたのにも関わらず自分との約束を破ってしまったことを気にして謝るソルト。

「そうじゃなくてさ。はぁ~」

「?」

 やっぱりちゃんと龍空に話すべきだよな

 ソルトと結婚したって
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