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松編 ③

19 フィグの所存

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「王、昨日は大変申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げ報告をしたソルト。

「いくらとら様が無事だったとはいえ側近としてあるまじき失態。また、自分の心情に勝てず報告を怠りました」

「まず、お前の報告を聞く」

「はっ、とら様を拐った主犯格はソルベ領地に住むアドベでソルベ様の親族の者です。とら様は最高位護衛を連れて私の元へ来る途中アドベと遭遇し拐われました。腕の痣から強引に連れ去ったのは間違いないです。それと待ち伏せされていた可能性が高いです。先に捕まった護衛と合わせても5人、その後3名追加で捕まえました。とら様の不規則な訪問とお出掛けになる確率なども考慮し拐うのはかなり至難です。この護衛の数からしても異世界人と知り何としてでも手に入れようとしたと考えられます。と申しますのは、とら様からの証言で異世界人と確認を取ってきたそうです。文字を見せ字が読めるかどうか試したそうです。それととら様の見た目でなんとなく異世界人わかったようだと仰ってました」

「松君さんの状態は」

「はっ、服の一部を破られていました」

「それ以外は」

「両腕を捕まれていましたので少し痣に。それより、本人は特に問題ないと仰いましたが精神的な恐怖が強いと思われます。ケアが必要かと。以上です」

 拳を握りしめながら報告をした。自分が居なかったばかりにと悔しさでいっぱいだった。

「クラム、アドベは」

「まぁ、一応口は聞けますね。ソルベ様に会わせろと仰ってます」

「ソルト、その服を全て持ってこい。それで今は松君さんはどうしてる」

「はっ、最高位を3名付け私の部屋で療養中です」

「そうか…引き続き療養を。クラム、準備でき次第ソルベとライムを呼べ」

「はっ」

「ソルト、よくやった。後は俺に任せろ」

「王っ…私は…」

「よくやったと言った。やまとがお前が側近で良かったと感謝していた。それより松君さんの精神的ケアに必要なものはあるか?」

「元々とら様は警戒心が強くある程度の事は穏便に過ごそうとそつなくこなせる方。そんな方に予想外の事が起こると弱さを表に出すのは難しいです。思っている以上に精神的ダメージが大きいと思います。できれば最高位護衛は今後も顔の知れたもの、後はソルベ様の領土の服を着る方をとら様の目につかないようにしたいです。後、やまと様とできるだけ過ごせるようお願いできますか」

「わかった。やまとも松君さんを心配していた。すぐにやまとの部屋へ移動させる準備をする。ソルト、お前の松君さんに対する心は知っている。お前に必要なものはあるか?」

「…いいえ。より安全に過ごせるようとら様をお守りします。では、失礼致します」

 バタン

「王、いかがですか?」

「言うまでもない」

「ソルトさんよく耐えてくれましたね。王」

「わかっている」

 フィグは今の報告を聞きソルトを同行させる事にした。そして、ソルベと会うため三人の王の部屋にソルト、クラムと共に向かった。部屋に入ると先に待っていたのはソルベとライムだった。

「「説明を」」

 クラムが事情を説明すると二人は何も言わず最後まで聞いた。その次にフィグとソルベが話をした。

「まず、こちらの証言は最高位護衛とソルトと被害者でもある松君さんからとれている。状況、対応共にアドベにした行動は正しかった」

「松君さんには会えないか?」

「今はやまとの部屋で療養中だ。数日後なら可能かもしれないが今は何よりも療養を優先させる。その後は松君さんにも予定があるから聞いてみないとわからない」

「そうか…」

「アドベは一応こちらでも調べさせてもらった。ソルベの親族らしいが心当たりは」

「ある、俺の伯父だ。服飾の統括をしている。それなりに顔も広く地位も高い。初めに会った時の視察は正統性があるし問題はない。次に松君さんに会ったのは…お茶をしたかっただけだし正統性を本人は主張するだろうな」

 誰もがお茶なんかではないと思ったがソルベは自領土の民を庇わなければならなかった。それも三人の王の誰もがわかっていた。そもそもフィグの領土のしかも側近や護衛が行き来する通りに別の領土の者が入って良いわけがなかった。迷い込んだにしては不自然で何度か下見をし松を待ち伏せていたとしか考えられない状況。恐らく自分の権力を使い視察とでも言って毎回入ったに違いないとフィグは思っていた。フィグはソルトが持ってきた松の破れた服を見せた。

「ライムはこの証拠をどう見る?」

「そうだな、破られて引きちぎられた跡にかなりの力が入っている。首もとから一気にとその後更に強引に破られたのかな?まるで強姦の為に破られたかのようだ」

 この場のライムの立場は公平性や解決へと導く役だが三人には当たり前の光景だった。もめ事はどの領土で起きても必ず三人で解決するのが前提にあり友好関係を保てている証でもだった。なので周りからは軽く見られる話し合いや決断も中身はしっかり把握できていて信頼しているからこそ成り立っている状況。ちなみにこういった犯罪が絡む場でのアイコンタクトは三王のなかで暗黙の了解でなしとなっている。
 
「刑はこちらで決めるがいいか?」

「不本意だがそうする。うちの側近が間に合わなかったら松君さんは手遅れだった。もしそうなっていたら俺は何に変えてもアドベを許さなかった」

「わかってるよ。そう、怒るなよ」
「俺たちもお前達の気持ちは知ってる」

「アドベ本人を呼べ」

 ソルベがそう言うと皆は別部屋に移動した。

 ただただ、広いだけの部屋に3ヶ所の扉があり各領土のカラーの扉と紋章が入っていて扉前には門番が。ここは最後の審判で身柄引き渡す部屋でもあった。ドアの向こうは同じナグマ国だが別の領土になる。一歩でも向こうへ足を踏み入れればもはやフィグが関与することは難しい。
 
 捕らえられたアドベ達は手を後ろにして縄で繋がれていた。三人の王の前に跪く。顔は腫れあがり包帯をしていた。ソルベがアドベの前にしゃがむと発言を許された。

「そ、ソルベ様…私は何も…」

「痛そうだな、誰にやられた」

「そいつです!そこの護衛は無抵抗の私を殴ったんだ。護衛も私も何もしていないのに!」

 ソルトを指さし罵倒したがソルトは無表情で状況を聞いていた。

「なら、この服は何で破れたんだ?」

 アドベ曰く、松とお茶をしたいと言ったらフィグの護衛が先に手をだし自分の護衛を殴ったといった。もみ合いになり松を安全な場所へ保護しようとしたら、拐われたと勘違いされ松が暴れたのでその時服が破れたそうだ。そうこうしているうちにソルトが来て体の大きな自分達が襲っていると勘違いをして一方的に殴られたと言う主張だった。

「そうかそうか、それは酷い仕打ちをされたな」

「ソルベ様!ソルベ王とフィグル王との関係を揺るがす出来事!こんなにも理不尽な事をされたとなれば…」

「「となれば?」」

 ライムとソルベの二人の王に声を揃えて言われ口ごもるが続けた。

「一国が揺るぎます!信用できません!やはり、ソルベ様がナグマを統一すべきです!!」

「ありがとう~アドベ、お前の俺に対する気持ちはわかった。安心しろ、しっかり罪は償わせてやる。フィグル、アドベは任せてくれ。うちの大切な領土民だ、丁重に扱わせてもらう」

 一方的な言い分だったがフィグは手枷を外させるように護衛に命令した。あっさりと向こうの領地に進むアドベに一瞬ピクリと腕が動くソルトだったが何もしなかった。連れていかれたアドベは一安心してソルベと出ていった。ライムが部屋に残る。

「悪かった。いないソルベに代わり謝る」

 深々と頭を下げた。

「いい」

その謝りにソルトは驚いたが、だからといって刑が重くなるかもわからずモヤモヤした気分だけ残った。クラムはそれを諭すようにフィグとライムに話しかけた。

「ソルベ様、怒っていらっしゃいましたね」

「かなりな」

「あんなに怒っていらっしゃるのは久しぶりですね。余程気に入らなかったのですね。いっそ王が魔物送りにした方が楽だったかもしれませんよ」

「だな。フィグル、ソルベに任せてもらえてありがたい。事が拗れれば間違った噂が飛び交い摩擦が起きる。そちらは実感が無い形になるが厳しい処分をさせるからどうか俺たち二人に免じて許してほしい」

「ああ」

 ソルトに話しかけたような言い方だった。フィグは返事をしてクラムとソルトに部屋から出るよう言った。部屋を出たソルトにクラムが話しかけてきた。

「ソルトさん、安心してください。呆気なく終わったと思うかもしれませんがソルベ様は初めから許すつもりはありませんでしたよ」

「なぜわかるんですか?」

「それは、ソルベ様が松君様の服を作ったからです」

「?」

「あの服は二人の王が松君様にプレゼントした物でして思い入れも強いです。そんな服を破られたんです当然です!」
 
「確か、お二人は服飾にたけていらっしゃいましたよね?やまと様と王の婚儀の服も全て二人が手掛けていたはず」

「その通りです!実に美しい服を作りましてうちのビタさんの尊敬する二人です!そうじゃなくて、あの二人にとって服は子供のように大切なのです。ですから、服を見たときのあのお顔は王がやまとさんに何かあった時に似てました」

「そうですか」

「それに、松君様と二人の王はご友人です。ソルトさんが出会うちょっと前に知り合ってます。そんな方を傷つけられたのです。ソルト様と同じ気持ちですよ。初めから服など証拠を出さずとも二人はわかっていました。王が服を見せたことにより二人を煽られたのですよ。勿論、ソルトさんの為に」

「!?」

 後は任せろと言ったにも関わらずフィグは簡単にアドベを解放したのが気になっていた所だった。フィグは二人の王が何をされたら怒るか熟知していたのだった。あの服を見せれば二人が激昂しソルトの敵は必ず取ってくれるとわかっていたのだ。

「そうだったんですか…」

「直接手が下せないソルトさんには辛いですが三国の為にしていただいた事として納めてもらえると我々としてもありがたいです」

「クラム様…私はまだまだですね」

「いいえ、松君様をお守りしたんです。それ以上ないですよ。早く行ってさしあげて下さい」

「はい…」

 刑が重くなる事には安堵したがそれよりも松との昨日の出来事に素直に喜べないソルトがいた。 
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