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108章 戦争が終わって
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108章 戦争が終わって
ガドルの遺体が入った棺とアニエッタを、巨大フェンリルに乗せてアニエッタの実家まで送り届けた。
山の谷間に家がポツポツと数十件だけがある小さな村だった。
どうやら虫は人の多い街を集中的に攻撃したようだ。
幸いこの辺りは被害を受けていないようなので、胸を撫で下ろす。
アニエッタが教えるこじんまりした家の庭に降りた。
虫に見つからないように、いつもは滅多に閉めないという鎧戸をピッタリと閉めて、明かりが外に漏れないようにしているようだ。
アニエッタが走って家の中に入っていった。
しばらくするとアニエッタと共に、プラチナの美しい髪の男女が松明を持って出てきた。 アニエッタの両親だそうだ。
人竜族の属性は遺伝しないようなことを聞いたことがあったが、全てがそうではなさそうだ。 アニエッタの曾祖父のガドルの血が強いのかもしれない。
その後ろから、黄色い髪の30代半ばの男性が出てきた。
アニエッタの祖父でメッサーラという名だそうだ。
老化が始まっていることから、150歳は越えているのだろう。
石棺を見て、3人は押し黙る。
俺は石棺の蓋を開けた。
「申し訳ありません」
俺は頭を下げたが、それだけ言うのがやっとだった。
自分がもっと早くにドゥーレクを倒していればと、ずっと心を痛めていた。
3人は石棺を覗き込む。 底には、眠るように横たわるガドルの姿があった。 凍らせているのでまるでガラスで覆っているようにも見える。
「謝ったりなさらないで下さい、シーク様。 この度は父を送り届けて下さってありがとうございました」
メッサーラとアニエッタの両親が、逆に俺に深く頭を下げた。
「父はもしかしたら予感があったのかもしれません。 先日、数年ぶりにここを訪ねてきて、色々な話をしていきました。
多くは懐かしい思い出話なので、父にしては珍しい事だと話していたのです」
アニエッタも知らなかったようで、話を聞いて驚いている。
「そして父が······」
メッサーラは俺とアニエッタを見比べる。
「アニエッタはシーク様にお任せするようにと······」
「「!!······」」
俺とアニエッタは顔を見合わす。 こんな時に不謹慎だが嬉しかった。 ガドルの心遣いに感謝した。
俺はコホンと咳払いをする。
「ガドル先生は国葬になります。 それまでここに安置をお願いします」
「あぁ···そうですか。 わかりました。 ご配慮に感謝しますと王様にお伝えください」
◇◇◇◇◇◇◇◇
アニエッタを実家に残し、俺たちは戦場だったドワーフ山脈の道に戻った。
到着した頃には太陽が昇っていて、俺たちが朝日の中を飛んでいると、下から地を揺るがすような大きな歓声が起こった。
フェンリルの上から手を振ると、更に歓声が大きくなった。 みんなが全身を使って喜びを表し、手を振り返す。
そうだ。
戦いは終わったんだ。
開戦してから丸一日も経っていないのだが、何日も何年も戦っていた気がする。
人間と妖精と魔物が一丸となって戦った。 自分たちの世界を自分たちの手で勝ち取ったのだ。
それからは忙しかった。
先ずは全員の回復。
そして攻撃で崩してしまったドワーフ山脈の道を元に戻し、ゴブリン、トロール、エルフをそれぞれ魔法陣から住処まで送り届けた。
◇◇◇◇
それから5日後、ガドルの国葬が行われた。
王城内の広い教会の祭壇一面に美しい白い花が飾られ、石棺の氷の中に眠るようなガドルが安置されている。
傭兵はもちろん、国中の多くの人たちが訪れた。 それだけではなく、アンドゥイ国や西側諸国の人たち、そして多くの魔物や妖精たちまでもが参列した。
メッサーラを先頭にアニエッタ一家が白い喪服に身を包み、葬儀に参列する数千の人々も故人を悼んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
戦後処理はもちろんニバール国主導だった。
レンドール国の主要な役職の者のほとんどが操られていたり、洗脳されていたことが判明したが、全面的に非を認めたレンドール国の無条件降伏となった。
しかし、ニバール国王は、首謀者のドゥーレクとジャークが死んだので、大きなペナルティは与えず、今までドワーフ山脈があるために盛んでなかった交易に力を入れる事と、平和条約の締結が行われた。
そして、偽の国王は操られていただけなので彼も被害者という事で家へ返された。
そしてシークがレンドール国王子マージェインである事をニバール国が保証し、この先も支援協力を惜しまないと約束してくれた。
ガドルの遺体が入った棺とアニエッタを、巨大フェンリルに乗せてアニエッタの実家まで送り届けた。
山の谷間に家がポツポツと数十件だけがある小さな村だった。
どうやら虫は人の多い街を集中的に攻撃したようだ。
幸いこの辺りは被害を受けていないようなので、胸を撫で下ろす。
アニエッタが教えるこじんまりした家の庭に降りた。
虫に見つからないように、いつもは滅多に閉めないという鎧戸をピッタリと閉めて、明かりが外に漏れないようにしているようだ。
アニエッタが走って家の中に入っていった。
しばらくするとアニエッタと共に、プラチナの美しい髪の男女が松明を持って出てきた。 アニエッタの両親だそうだ。
人竜族の属性は遺伝しないようなことを聞いたことがあったが、全てがそうではなさそうだ。 アニエッタの曾祖父のガドルの血が強いのかもしれない。
その後ろから、黄色い髪の30代半ばの男性が出てきた。
アニエッタの祖父でメッサーラという名だそうだ。
老化が始まっていることから、150歳は越えているのだろう。
石棺を見て、3人は押し黙る。
俺は石棺の蓋を開けた。
「申し訳ありません」
俺は頭を下げたが、それだけ言うのがやっとだった。
自分がもっと早くにドゥーレクを倒していればと、ずっと心を痛めていた。
3人は石棺を覗き込む。 底には、眠るように横たわるガドルの姿があった。 凍らせているのでまるでガラスで覆っているようにも見える。
「謝ったりなさらないで下さい、シーク様。 この度は父を送り届けて下さってありがとうございました」
メッサーラとアニエッタの両親が、逆に俺に深く頭を下げた。
「父はもしかしたら予感があったのかもしれません。 先日、数年ぶりにここを訪ねてきて、色々な話をしていきました。
多くは懐かしい思い出話なので、父にしては珍しい事だと話していたのです」
アニエッタも知らなかったようで、話を聞いて驚いている。
「そして父が······」
メッサーラは俺とアニエッタを見比べる。
「アニエッタはシーク様にお任せするようにと······」
「「!!······」」
俺とアニエッタは顔を見合わす。 こんな時に不謹慎だが嬉しかった。 ガドルの心遣いに感謝した。
俺はコホンと咳払いをする。
「ガドル先生は国葬になります。 それまでここに安置をお願いします」
「あぁ···そうですか。 わかりました。 ご配慮に感謝しますと王様にお伝えください」
◇◇◇◇◇◇◇◇
アニエッタを実家に残し、俺たちは戦場だったドワーフ山脈の道に戻った。
到着した頃には太陽が昇っていて、俺たちが朝日の中を飛んでいると、下から地を揺るがすような大きな歓声が起こった。
フェンリルの上から手を振ると、更に歓声が大きくなった。 みんなが全身を使って喜びを表し、手を振り返す。
そうだ。
戦いは終わったんだ。
開戦してから丸一日も経っていないのだが、何日も何年も戦っていた気がする。
人間と妖精と魔物が一丸となって戦った。 自分たちの世界を自分たちの手で勝ち取ったのだ。
それからは忙しかった。
先ずは全員の回復。
そして攻撃で崩してしまったドワーフ山脈の道を元に戻し、ゴブリン、トロール、エルフをそれぞれ魔法陣から住処まで送り届けた。
◇◇◇◇
それから5日後、ガドルの国葬が行われた。
王城内の広い教会の祭壇一面に美しい白い花が飾られ、石棺の氷の中に眠るようなガドルが安置されている。
傭兵はもちろん、国中の多くの人たちが訪れた。 それだけではなく、アンドゥイ国や西側諸国の人たち、そして多くの魔物や妖精たちまでもが参列した。
メッサーラを先頭にアニエッタ一家が白い喪服に身を包み、葬儀に参列する数千の人々も故人を悼んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
戦後処理はもちろんニバール国主導だった。
レンドール国の主要な役職の者のほとんどが操られていたり、洗脳されていたことが判明したが、全面的に非を認めたレンドール国の無条件降伏となった。
しかし、ニバール国王は、首謀者のドゥーレクとジャークが死んだので、大きなペナルティは与えず、今までドワーフ山脈があるために盛んでなかった交易に力を入れる事と、平和条約の締結が行われた。
そして、偽の国王は操られていただけなので彼も被害者という事で家へ返された。
そしてシークがレンドール国王子マージェインである事をニバール国が保証し、この先も支援協力を惜しまないと約束してくれた。
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