上 下
108 / 110

108章 戦争が終わって

しおりを挟む
 108章 戦争が終わって


 ガドルの遺体が入った棺とアニエッタを、巨大フェンリルに乗せてアニエッタの実家まで送り届けた。 
 山の谷間に家がポツポツと数十件だけがある小さな村だった。

 どうやら虫は人の多い街を集中的に攻撃したようだ。
 
幸いこの辺りは被害を受けていないようなので、胸を撫で下ろす。


 アニエッタが教えるこじんまりした家の庭に降りた。 

 虫に見つからないように、いつもは滅多に閉めないという鎧戸をピッタリと閉めて、明かりが外に漏れないようにしているようだ。

 アニエッタが走って家の中に入っていった。



 しばらくするとアニエッタと共に、プラチナの美しい髪の男女が松明を持って出てきた。 アニエッタの両親だそうだ。

 人竜族の属性は遺伝しないようなことを聞いたことがあったが、全てがそうではなさそうだ。 アニエッタの曾祖父のガドルの血が強いのかもしれない。

 その後ろから、黄色い髪の30代半ばの男性が出てきた。
 アニエッタの祖父でメッサーラという名だそうだ。 

 老化が始まっていることから、150歳は越えているのだろう。 


 石棺を見て、3人は押し黙る。

 俺は石棺の蓋を開けた。


「申し訳ありません」


 俺は頭を下げたが、それだけ言うのがやっとだった。

 自分がもっと早くにドゥーレクを倒していればと、ずっと心を痛めていた。



 3人は石棺を覗き込む。 底には、眠るように横たわるガドルの姿があった。 凍らせているのでまるでガラスで覆っているようにも見える。



「謝ったりなさらないで下さい、シーク様。 この度は父を送り届けて下さってありがとうございました」

 メッサーラとアニエッタの両親が、逆に俺に深く頭を下げた。


「父はもしかしたら予感があったのかもしれません。 先日、数年ぶりにここを訪ねてきて、色々な話をしていきました。
 多くは懐かしい思い出話なので、父にしては珍しい事だと話していたのです」

 アニエッタも知らなかったようで、話を聞いて驚いている。


「そして父が······」

 メッサーラは俺とアニエッタを見比べる。

「アニエッタはシーク様にお任せするようにと······」
「「!!······」」

 俺とアニエッタは顔を見合わす。 こんな時に不謹慎だが嬉しかった。 ガドルの心遣いに感謝した。



 俺はコホンと咳払いをする。

「ガドル先生は国葬になります。 それまでここに安置をお願いします」
「あぁ···そうですか。 わかりました。 ご配慮に感謝しますと王様にお伝えください」



   ◇◇◇◇◇◇◇◇



 アニエッタを実家に残し、俺たちは戦場だったドワーフ山脈の道に戻った。

 到着した頃には太陽が昇っていて、俺たちが朝日の中を飛んでいると、下から地を揺るがすような大きな歓声が起こった。

 フェンリルの上から手を振ると、更に歓声が大きくなった。 みんなが全身を使って喜びを表し、手を振り返す。 




 そうだ。

 戦いは終わったんだ。


 開戦してから丸一日も経っていないのだが、何日も何年も戦っていた気がする。


 人間と妖精と魔物が一丸となって戦った。 自分たちの世界を自分たちの手で勝ち取ったのだ。




 それからは忙しかった。 

 先ずは全員の回復。

 そして攻撃で崩してしまったドワーフ山脈の道を元に戻し、ゴブリン、トロール、エルフをそれぞれ魔法陣から住処まで送り届けた。



 ◇◇◇◇



 それから5日後、ガドルの国葬が行われた。


 王城内の広い教会の祭壇一面に美しい白い花が飾られ、石棺の氷の中に眠るようなガドルが安置されている。

 傭兵はもちろん、国中の多くの人たちが訪れた。 それだけではなく、アンドゥイ国や西側諸国の人たち、そして多くの魔物や妖精たちまでもが参列した。


 メッサーラを先頭にアニエッタ一家が白い喪服に身を包み、葬儀に参列する数千の人々も故人を悼んだ。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇



 戦後処理はもちろんニバール国主導だった。

 レンドール国の主要な役職の者のほとんどが操られていたり、洗脳されていたことが判明したが、全面的に非を認めたレンドール国の無条件降伏となった。


 しかし、ニバール国王は、首謀者のドゥーレクとジャークが死んだので、大きなペナルティは与えず、今までドワーフ山脈があるために盛んでなかった交易に力を入れる事と、平和条約の締結が行われた。


 そして、偽の国王は操られていただけなので彼も被害者という事で家へ返された。

 そしてシークがレンドール国王子マージェインである事をニバール国が保証し、この先も支援協力を惜しまないと約束してくれた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。 聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。 ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。 孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。 でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。 住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。 聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。 そこで出会った龍神族のレヴィアさん。 彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する! 追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

処理中です...