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69章 ドゥーレクとブラックドラゴン

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 69章 ドゥーレクとブラックドラゴン



 鳴り物入りで登城した私に待っていたのは、こなし切れないほどの雑用だった。


「頭がいいのだから、これくらいの雑用なら簡単にできるだろう」
「頭がいいのに、こんな仕事をさせて申し訳ないな」
「頭がいいのだからもう少し要領よくできないのか? これも頼むよ」

 私以外に二人が合格しているのだが、二人ともそれぞれの指導文官について回って、丁寧に仕事を教えてもらっている。

 しかし私には指導文官はいない。 

 いや···いるにはいるのだが、私に物を教えるなどと、恐れ多いのだそうだ。

 ていのいいイジメ? または官学に行っていない私を馬鹿にしているといったとこか。



 しかし私はめげなかった。 もともと仕事をしながら勉強をして育ってきた。

 雑用の中にも学ぶことは多くある。

 手が空いた時に他の仕事を無理やり手伝う。 捨てる用紙に書いてあるものをこっそりと読み取る。 資料の整理整頓を率先してすることで、置き場所はもちろん、内容も頭に入ってくる。 等々······


 うるさい指導文官がいない代わりに自由が利く。

 私は知らない間に多くの仕事を覚えていき「あれはどこに行った?」「この場合はどうすればいいんだ?」と、先輩方が私に色々聞きに来るようになるのに、そう日にちは掛からなかった。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 そうしているうちに2年が過ぎた。

 いまだに馬鹿にしている者もいるが、随分私を受け入れてくれる人が増えてきた。



 そんな時、私は今まで一度も休暇を取らず、働き続けてきたせいで疲れがたまったのか、体調を崩してしまった。



 今、城の敷地内に宿舎があり、そこで寝泊まりしているのだが、実は爺さんと暮らした町外れの借家を今でも借りている。

 家主に頼んで、時々掃除をしてもらい、壊れているところは修理を頼んだ。 きれいな家とは言えないが、本に囲まれたこのボロ屋がなぜか落ち着く。 


 ただ、この2年間はほとんど帰っていない。 それでもこの家を置いておきたかった理由がもう一つある。


 母は人竜族だった。 もちろん母親から教えてもらったわけもなく、人竜族の文献を見つけたのだ。 父親は知らないが私も人竜族だろう。 


 この国は国王様と王妃様が人竜族なので臣下たちは人竜族という言葉は知っているが、知っているからといって理解しているかといえばそうではないみたいだ。

 国王様の美しいプラチナの髪と、王妃様の透き通るようなスカイブルーの髪は憧れの的だが、ただ髪の色が違うだけと思っている人も多い。

 そのため、進化をするときや、万が一ドラゴンを生むときには、城から離れていた方がよいのではと考えた。



 今回は体が完全に治るまで、ゆっくりと休むように言われたので、遠慮なくそうさせてもらうことにした。

 半笑いで、そのままもう来なくてもいいぞと聞こえよがしに陰口を言ってきた者がいたのは、この際無視する。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 町はずれの自分の家に帰ってから3日目。 私はドラゴンを生んだ。


 それも黒?!······ブラックドラゴンを生んだのだ。



 ドラゴンについての文献は少なく、あまり詳しく載っている本はないのだが、出てくるのは『ブラックドラゴンは世界を破壊する』という文字だった。


「別に私は世界を欲しいとも破壊したいとも思わないのだが、まさかお前が勝手に世界を壊したりしないよな、ジャーク」

 ブラックドラゴンにジャークと名付けた私は意味のない『世界を破壊する』という文字を一笑に付した。



 それから20日ほど、ジャークと過ごした。

 ドラゴンについて私は何も知らない。 もちろん魔法についても本で読んだだけで、実践については誰も教えてくれるはずもなかった。


 ジャークは私のいい先生だった。


 色々な魔法が載っている本を読み漁り、ジャークに聞きながら少しずつ魔法を習得していった。

 室内で出来るものから、郊外まで行って広い場所でしないといけないような強い放出系魔法もある。 力は抑えているが、なかなかの威力だ。

 補助魔法の操作系魔法は、こっそり街中で通りすがりの人にかけてみた。

『意識操作魔法』『服従魔法』『記憶操作魔法』『行動制限魔法』等々、人の感情を簡単に変えられる。


 おもしろい!


 たまたま街中で言掛りをつけてきた酔っ払いがいた。 しかし意識操作をすると私にペコペコ謝ってきた。 

 ちょっと怖そうな傭兵にちょっと魔法をかけると、丁寧な態度で私の家まで送ってくれる。

 金持ちそうで横柄な態度の男は、道端でうずくまっている爺さんに、懐にあるお金を全額恵んで嬉しそうに帰っていった。



 何でも思いのままだった。 出来ないことは何もない。


 魔法って凄い! 



 世界が自分中心に回りだす音が聞こえた。



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