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65章 もう一人

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65章 もう一人



 しばらくしてガドルがアラムとモスと共に、多くの兵士も引き連れてやってきた。

「シーク殿、犯人を見つけたというのは·······こやつか?」

 足元に転がっている男と、(すでに姿を消しているレイが押さえつけている)ドラゴンに目線を落とす。

「こいつの名はドルフで、ドラゴンはチャギ。 やはりドゥーレクの仕業でした。 もう一人の犯人の顔も見たので、すぐに捕まえます」
 
 
 気を失っているのでビリッと軽く雷を流すと、ドルフがビクッとして目を覚ました。
 抱き起してやろうと手を伸ばすと「ヒィィィ」と情けない声を上げる。


 よっぽど痛かったのだろう。


 面倒なので兵士に任せて、縄で縛られた後、捕縛魔法を解いた。
 ドラゴンのチャギは捕縛魔法も解かずに、そのまま兵士に抱えられていった。


 今度はドラゴンも捕まったので逃げ出す事はないだろう。

 城の牢に収容するという事で、ガドルも一緒についていくことになった。





「さて······」

 犯人が連れて行かれたというのに、野次馬が帰らない。 俺たちを遠巻きに見てはいるが聞きたいことが山盛りあるような顔で見ている。


「どうするか······」


 その時、とりあえず中へと、スタンリー兄弟が俺たちを店の中に押し込んだ。

「シークさん······天龍さんとそちらの狼さんの、あの姿を見た者たちが目の錯覚ではないと······もう一度見れることを期待して帰りません。 ですからほとぼりが冷めるまで、しばらくここで御待ちください。 私たちが何とかします」

 そういって出て行った。



 お店の中を見回すと、けっこう繁盛しているのか大きな店構えの鍛冶屋だ。 普通は農具や武器が所狭しと並べてあるものだ。 しかし、この店は整頓された陳列棚に整然と並べてあり、高価そうな物はショーケースに並べられていた。



 俺たちは出された椅子に落ち着く。

「なぁなぁ、一瞬凄いものを見た気がするのだが、あれは何だ?」

 我慢できずにマルケスが聞いてきた。 フィンとスーガまでが興味津々だ。
 もう隠しても仕方がないだろう。

「あれはレイとフェンリルの大きくなった姿だ。 実は俺もレイのあの姿は始めて見たんだ」

 ほ~~~~やっぱりと、三人は感嘆の声を出す。


「レイは寮の建物よりデカかったんじゃないか? 50メルク···いや、60メルクはあったぞ」
「いやいや、もっとあんたんじゃないか? スーガはあんなにデカくなることを知っていたのか?」


······いやいや、いくらなんでも、そこまでデカくはないだろう······


 アラムとモスは何が?何が?とヨシュアに聞いている。 ガドルと兵士を呼びに行っていてレイとフェンリルの大きくなった姿を見ていない。

 ヨシュアの説明を聞いて、見られなたった事を悔しがっていた

 スーガは姿を消しているキリルと目を合わせているようだ。


「文献では読んだことはあるが、キリルの大きな姿はまだ見たことがない。 俺も見たのは初めてだ。 キリルはチャギくらいの大きさだろうが、それでもかなりも大きさに見えたな」

 スーガは肩に乗っているであろうキリルに向かって、今度見せてくれと話していた。



「レイも凄かったが、フェンリルも凄かったな! 肩までの高さが屋根の高さより上だったぞ。 6~7メルク···いや、もっとあったよな」
 フィンが手を上の方にあげて、大きさを示す。 もちろん届かないが背伸びをして大きいアピールをする。


 ちょっと待て!! レイのデカさに隠れていたけど、フェンリルってそんなにデカかったっけ? たしか高さが2メルクほどだったと思ったが······


「おう! あれだけデカいとチャギと戦ってもいい勝負だろうな」
「さすが! 霊獣だな! いやぁ~~カッコよかたなぁ~~」


 フェンリルは関心がなさそうに外を向いて座っていたが、盛大に尻尾が振られていた。


 ······褒められて嬉しいんだ。


 そのときスタンリー兄弟が戻ってきた。

「なかなか納得してくれないのでまいりましたよ。 とりあえずドラゴン型の花火の試作品という事で納得してくれました」
「俺たち副業で花火も作っているんです。それで信じてくれたのですが···」
「これから、ドラゴン型の花火を頑張って作ります」
「もう野次馬は散っていったので、大丈夫ですよ」


 二人が交互に話してくれる。 本当に仲の良い兄弟だ。

 花火というのも面白い。 いつの日か戦いになれば、人ならぬ者たちの恐ろしい姿を目の当たりにすることになるかもしれない。 しかし、それは今ではないと考えていた。


 俺たちはスタンリー兄弟によくお礼を言って店を出た。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


「それで、どこに行くんだ?」
 
 実は、鍛冶屋の店内で表の騒ぎが収まるまで待ってにいる間に、毒を飲ませた犯人を見つけておいた。

 国内にいてくれてよかった。 少し遠いが、街はずれの場末の賭博場にいる。 すでに見張っているので逃げられる事はない。

 俺はみんなを引き連れて、こっちだと歩き出した。


「そんなにゆっくりしていて大丈夫なのか?」
「もう逃げられないさ」
「······お前、少し怖いぞ」

 みんなが微妙に引いているのが分かった。 きっと悪そうな顔をしていたのだろう。

「気にしない、気にしない、ハハハ」


 顔には気をつけよう。


 賭博場には多くの人が各テーブルに分かれて、色々な賭けをしている。 一喜一憂して大変な騒ぎだ。
 奥の方のテーブルに目当ての男を見つけた。



 俺たちはゆっくりと近づく。

 何げななくその男が顔を上げた。 そして、俺とスーガが並んで真っ直ぐ自分の方に向かってくるのに気がつく。

 暫らくはただじっと見つめていたが、そのうち何かに気がついたのか、驚いて目を見開き、ジリジリと下がっていく。

 身をひるがえして逃げ出そうとしたところに『捕縛魔法』をかけると、両手両足が締め付けられた状態でガッシャンガラガラ! と、イスやテーブルをひっくり返して頭からズッコケた。


 ヨシュアたちが走ってその男を立たせると、頭と肩から血が出ていたが気にしない。


 恐怖で顔を引きつらせている男に、俺は顔を近づけた。

「彼を覚えていますか?」

 捕縛魔法で体が動かない男の髪を掴んで、スーガの方に顔をグイッと向けた。

「あなたは間違えて彼を死なせるとこだったのですよ。 本物は俺なんだよ!!」

 男はビクッ!として恐怖で顔が引きつり、ズボンがじわっと濡れてきた。

 そ···そんなに怖かった? まぁ、悪いのはドルフで、本当に悪いのはドゥーレクだ。 一般人なので雷は許してやろう。




 凄い人だかりができている。

「道を開けろ!」

 マルケスの一言でザザッ! と道ができた。


 ヨシュアたちが男を抱え、俺たちは悠々と店を出て行った後、犯人を兵士に引き渡した。





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