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64章 レインボードラゴン

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 64章 レインボードラゴン


 俺が空から降り立つと、スタンリー兄弟がすぐに駆け寄ってきた。

「シークさん! こいつが例の火魔法の奴じゃないですか?」

 
 スーガが炎攻撃を受けた事は噂になっているらしいが、その事と赤い髪の男を関連付ける者は少ない。 人竜族の彼らだから知っていたのだ。
 そして、赤い髪を見て、スタンリー兄弟がこいつを捕まえようとしたそうだ。


「そんな危険な事······無事でよかったです。 でも、ありがとうございました」

 彼らが喧嘩を吹っかけてくれたおかげで奴の隠形が切れたのだろう。 一歩間違えれば大変な事になっていたが、こいつを捕まえる事ができたのは、スタンリー兄弟がのおかげだ。




 この赤い髪の男の仕業かどうかを確かめなければならないので、男に近づいて肩に手をついた。『記憶掌握魔法』

―― ドゥーレクの前にひざまずいている。

「ドルフ。 ニバール国に天龍の竜生神がいる。 手段を選ばず何としても殺せ。
 しかし、一筋縄では行かないだろう。 私が与えた隠形魔法を、常に使うのを忘れるな」(こいつの名前はドルフというのか)
「はっ!」
―― 場面が変わる。


―― ニバール国の街はずれ。 一人の男を呼び出し、小さな小瓶を渡した。

「端正な顔立ちの長身で、金髪の男がいる。 そういう男はこの国には一人しかいないから間違える事はないだろう。 そいつを探し出し、分からないようにこれを飲ませろ」
「これは何ですか?」
「毒だ。 飲ませたらすぐに身を隠せよ。 これは報酬だ」

 巾着袋を投げて渡す。 中身を確認してニンマリ笑ってから、その男は建物の陰に消えていった。

「人間相手なら油断するだろう。 失敗した時の保険だな」
―― 場面が変わる

 
――「もうすぐこの辺りを通るはずだが······チャギ、分かるか?」(ドラゴンの名はチャギと言うのか)

 緑の体で翼が真っ赤なチャギは風探索魔法を使って探しているようだ。

「もうすぐ予定の場所に来る。 あっ! あそこ!」

 かなり遠くに十数人の団体が見える。 その中にフードを被った男が見えた。(あれがシークだな)

 ドルフはそこに向かって両手を高く挙げてから、勢いよく振り下ろした。
 
 ズドドドドン!!

 火柱が高く立ち上がり、周りの木々は煙と共に炎を上げて燃え上がる。

「やったか!······あっ! マズい!」(スーガの結界が見えた)
 隠形魔法で岩陰に隠れた ――



 ドルフが犯人なのが確定した。 黒幕はドゥーレクだが、こいつは俺を怒らせた!

 マヌケな事に俺と間違えて、大切な仲間を二度も危険な目にあわせたのだ!



 俺は肩に手を置いたまま男の顔を覗き込んだ。

「お前は二つ、大きな間違いをした。 わかるか?」
「放せ! 俺に何をした!」
「質問に質問で返すなよ」

 俺が肩に置いた手にグッと力を入れると、ドルフは痛みで顔を歪める。

「俺が誰だかわかるか?······俺はシーク。 天龍の竜生神だ」

 それくらい分かっている的な顔でにらんでくる。

「お前が攻撃したのは俺じゃなかったんだよ」
「なんだと?!」

 ちょうどその時スーガたちが遠くの街角から姿を現した。

「見えるか?」

 ドルフの顔を無理やりスーガの方に向ける。

「えっ?!」
「お前が攻撃したのは彼なんだよ。 毒を盛ったのもな!」
『雷魔法!』
「ぐわぁぁぁぁっ!!」

 掴んだ肩から死なない程度の雷魔法を流した。 ドルフは激痛に身もだえする。

 痛みで倒れそうになるドルフを支えてやる。

「そして、もう一つの間違いは、俺を怒らせたことだ!」『雷魔法!』
「ぐわぁぁぁぁっっわぁぁぁぁっ!」


 その時、突如空から、巨大なドラゴンが現われた。 

 チャギだ!

 緑色の体に真っ赤な翼の、長さが20メルクはある巨大なドラゴンで、ドルフを助けに姿を現したのだろう。 一直線に鋭い爪を俺に向けて向かってくる。

 しかしその前に立ちはだかったのはフェンリルとレイだった。
 フェンリルは俺を護るように巨大な姿になったのだが、それ以上に驚いたのはレイだ。


 巨大だと思っていたチャギが小さく見えるほど······3倍以上はありそうな超巨大な七色に輝く天龍になったのだった。




 巨大なレイは、翼を羽ばたかせる事もなく一瞬でチャギの元までいき足で掴んだかと思った瞬間、2頭とも小さくなった。


 今の出来事が夢かと思うほど本当に一瞬の出来事だった。


 レイはチャギを足で押さえ込んでいる。

「マー、呪文封じ魔法と捕縛魔法で大人しくさせたからもう大丈夫だよ」



 ······えっと······



 フェンリルはあわてて元の姿に戻る。

「我の出番が······」と、小さな声で言うのが聞こえた気がしたのは気のせいか?



 俺は事の顛末を呆気に取られて見ていたのだが、俺の雷魔法をかけ続けられていたドルフはいつの間にか気を失っていたようで、手を離すとドサッと崩れ落ちた。


······驚いて、雷魔法を止めるのを忘れていた······死んでないよな······


 気づけば遠巻きに人だかりが出来ていた。 それをかき分けてマルケス、スーガ、フィン、ヨシュアが走ってきた。

「お···おい······い···今のは?······」

 4人も驚いて俺とレイとフェンリルを見比べている。

「うん······とにかく野次馬をどうにかしてもらえるか?」


 俺も少し動揺していた。



 レイのあんな巨大な姿をこんなところで見る事ができるとは思っていなかったからだ。 イメージが違いすぎて頭がついていかない。

 御父様の部屋でガドル先生が描いた絵をいつも見ていたが、レインボードラゴンがあんなに大きいとは思いもしなかった。


「お···おう」

 4人が野次馬をさらに遠ざける。

 マルケスたちが「さっきのは何だ?!」と野次馬から質問攻めにあっているようだが、俺たちも分からんと一蹴している。


 あのう······と、恐る恐るスタンリー兄弟のうちの、水色の髪の兄が俺の元に来た。

「よろしければ、こいつを私達の店にでも入れておきませんか?」
「兄さん、武器が置いている店内に犯人を入れるのはマズくないか?」

 親切にそう言ってくれたが、慌てて弟が兄の腕をつかむ。
 それを聞いて俺はクスッと笑ってしまった。 いや、彼らの気持ちが嬉しかったからだ。



「ありがとうございます。 でも、もう直ぐ兵士が来てくれると思いますので大丈夫です」




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