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28章 重力操作魔法

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28章 重力操作魔法



 午後からの訓練が始まった。


 フィンの本来の武器は弓だ。 そこで弓の名手であるギブブがフィンを教えるという。 それも普段使っている短弓と違って2メルク以上もある太くて大きな弓を持っていた。 

 流れるような美しい形状の弓には、ドラゴンの模様が這うように描かれ、下側に出っ張りがついている。

「これを射れるようになってもらう」
「こ···これをですか?」

 ギブブに渡された弓はとても重く、持ち上げるのもやっとだ。 

 ギブブが見本を見せた。

 ブオン! と、低い音を残して飛んでいった大きな矢は、観客席の上段に突き刺さった。

「弦を引いてみろ」
 ギブブに言われてフィンが試すが、びくともしない。
「まずは、弦を引けるようになってもらおうか」

 それからというもの、小柄なフィンはひたすら筋トレの毎日が続いた。



 マルケスとスーガは他のBクラスの連中と共に相変わらずアージェスにコテンパンにされては俺に回復され、再びぶちのめされるのを繰り返すのだ。


 そしてフェンリルはザラに今は風魔法を習っている。

 風魔法は風を起こしたり、竜巻を出したりするだけでなく、空を飛ぶこともできるし、風を使って探索、感知などもできるようで、フェンリルはいちいち感心していた。




 俺はと言うと、今日は待ちに待った訓練だ。

「以前の授業で話した通り、空を飛ぶには風魔法と重力操作魔法の2種類ある。 そのうちの重力操作魔法はレインボードラゴンと、ブラックドラゴンにしか扱えんのじゃ」

「はい!!」
 俺は直立不動で答える。 嬉しくて舞い上がりそうだ。


 今から舞い上がるんだけどね!


 ガドルは俺の張り切りように少し苦笑いだ。

「ではレイ殿、重力操作魔法をシークに加護してもらるか?」
「うん·········できたよ」

「ふむ···シーク殿、よいか、わしの言う事をよく聞いて、先走りせんようにするのじゃぞ」
「はい!! わかっています!」



 おれはもう、ワクワクだ。 早く飛びたい! 早く飛びたい!! 早く飛びたい!!!



「では、先ずは50メルクだけ浮いてみなされ」
「はい!」『重力操作魔法!』

 スッと浮いた。 何の抵抗もなく空中に止まる事ができた。

「わぁ! 凄い! 先生、浮きました!!」

 レイも飛んで来て、飛べた! 飛べた! と喜んで俺の周りを飛び回っている。

「ふむ···では、わしの頭の高さまで浮いてみるがよい」

 少し念じるとスッと浮き上がった。 フワッとした浮遊感が体を包む。

「ではそのまま少し前へ」

 思い通りに動く。 そんなまどろっこしい事をしてないで早くもっと飛びたい!!

「先生! もう少し飛び上がってもいいですか?」
「高くはダメじゃぞ。 少しだけならいいじゃろう」


 こんなの簡単だ! 思い通りに飛べるのだから、もう大丈夫だろう!

 少しなんて言わず、俺は思いっきり飛び上がった。 みるみる闘技場が小さくなっていく。


「わぁ! 凄い!」と、思った時、少し体が傾いたと思ったら、そちらの方向に吸い寄せられるように飛んでいく。
 おっと! と思って角度を変えようとしたら、もうどっちが上でどっちが下か分からなくなった。 
 バランスを取ろうと思えば思うほど方向感覚がバラバラになっていく
 えっ?! えっ?! と思う内にどんどんと制御不能になる!


 ど···どっちが空でどっちが地面?


 地面が一瞬見えたから向きを変えようと思ったが、余計に訳もわからずグルグル回り出す!


 止まればいいのにそんな事はパニックになった俺には思いつくこともできなかった。


「わぁ~~~っ!!」

 気づくと地面に向かっていた。

「わぁ~~~っ!!」

 その時、ドン! と、何かの上に乗っかった。

「フェンリル!!」

 風魔法を使ってフェンリルが飛んできて、受け止めてくれた。 あわてて重力操作魔法を解く。
 

「バカ野郎!! 地面に激突するつもりか!!」
「あ···ありがとう」


 死ぬかと思った······


「自分がどこにいるか確認しながら、ゆっくりと浮いてみろ」
「お···おう!」

 ゆっくりとフェンリル先生の背中から浮き上がる。

「自分がどこにいるのか分からなくなれば止まればいいことだ。 なぜそんな事も分からんのだ!」


 そうか、止まればいいんだ。


 俺は少し飛び上がっては止まり、横に移動しては止まった。

「できるじゃないか」

 そこにレイが飛んできて、俺の胸の中に飛び込んできた。

「マー!! 大丈夫?」
「ごめんごめん、 もう大丈夫だから。 先生の所に戻ろう」


 下に降りると、珍しくガドルが鬼の形相で腕を組んで立っている。


 やってしまった······


「すみませんでした」
「何でもできるからと慢心しておると、痛い目に合う事がわかりましたかな?
 レイ殿の加護は尋常ではござらん。 この先、もっと危険を伴う魔法を身に付けていただこうと思っておるのにそんな事ではいつか周りに大きな被害がでることになるかもしれませんぞ」

 おれはシュンとした。 自分だけでなく周りに迷惑にもなるのだ。 これからは先生に言われた事はきっちりと守ろうと心に誓った。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇


 そうやって10日ほど過ぎた頃、スーガが実家に帰ると言い出した。


「随分進化が進んできましたので、顔が変わる前に一度ここを離れたいと思います」
「ふむ。 それも良いかもしれんの」

 ガドルも賛同する。 人竜族の宿命なのか? きっとみんながこうやって過ごしてきたのだろう。

 本当にこの10日ほどで髪の色がずいぶん薄くなってきている。 茶色くなってきているので[地]属性かもしれない。





 スーガの里帰りと入れ替わりに、ヨシュアたちが戻ってきた。 

 彼らに訓練の事を秘密にするのもどうかと思い、打ち明けると当然午後からの訓練を受けたいと言いだした。

 ガドルたちに相談すると、ヨシュアたちにアージェスの訓練はハードすぎるという事で、Aクラスの傭兵がヨシュアたちの指導を手伝ってくれる事になった。

 しかし、さすがお喋りなヨシュアたちだ。 俺たちが訓練を受けているということが瞬く間に広がった。


 そこでAクラスの手の空いた者たちが総動員され、希望者に訓練を行う事となった。


 闘技場の裏手にある広場で行う事になったのだが、相変わらずアージェスの訓練(?)がハードすぎて、Bクラスのケガ人が続出する。

 回復魔法ができるのは俺とガドルだけなので、時折回復をしに裏手の広場まで赴いていたのだが、数が多いので時間がかかる。 そこでガドルがケガ人の回復役を連れてくる事にしたそうだ。




 その日の昼に俺とレイとフェンリルがガドルの家に招かれた。


 初めて彼女を見た時は心臓が破裂するのではないかと思うほど高鳴った。


「わしの孫(本当は玄孫(やしゃご)らしい)の、[アニエッタ]で、回復魔法を使える。 人竜族で竜生神じゃ」
「アニエッタと申します。 よろしくお願いします」


 美しいプラチナの髪をサラリと落としながら優雅に頭を下げた。

 透き通るような白い肌にクリっとした可愛いブルーの瞳が美しい女性で、水色のシンプルなワンピースがこれまた肌の色と瞳の色にマッチしていてとても似合っている。

 こんなに美しい女性がいるのかと思うほど俺のハートは鷲づかみされた。


 そしてアニエッタの肩にとまる真白なドラゴンが姿を現した。



「初めまして[ミンミ]です。 レイさん、こんにちは」
「こここここ······こににちゅわ」

 ミンミに可愛らしくウインクをされて、レイが変な挨拶になっている。


 気持ちは俺と一緒か?


「シークです。 よろしく」

 俺は出来るだけ平常心を保つのに苦労した。

「フェンリルだ」

 フェンリルはつっけんどんに名前だけを言う割には、尻尾が盛大に振られている。


 今までの女性への態度とはえらく違うぞ。


「おじいさまから皆様のお話は聞いていました。 お会いできて嬉しいわ」
「ふむ、訓練をしたいという者人数が増えてきたのじゃが、相変わらずアージェスも訓練の指導がハードすぎて、わしとシーク殿が何度も回復に向かうのも時間の無駄じゃから、回復役を連れてきたのじゃ。
 シーク殿とは訓練の場所が別だが、一度会わせておいた方がよいと思ってな」





 そうか·········アニエッタさんは競技場の外に行くのか······



······俺も外でやりたい······





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