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17章 審査員

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17章 審査員


 結界が解けると、さっき以上の歓声が巻き起こっていた。 いつの間にやら観客の数もずいぶん増えていて、マルケスたちも立ち上がって喜んでいる。

「シーク様の勝利!! おめでとうございます!!」

 ギルクも少し興奮気味だ。

 今度は両手を高々と上げると、再び大歓声が起こった。



 審査員たちが審査員席から降りてきて、舞台に上がってきた。

 ザラが嬉しそうに駆け寄る。

「シーク! おめでとう! 余裕だったね」

 俺は、頭を掻いた。 フェンリルがいなければヤバかったかもしれない。

「シーク殿、おめでとうございます。 Sクラス、合格でございますな」
「ありがとうございます」

 ガドルも満面の笑みを浮かべてくれている。

 俺は憮然としている小柄の女性と顔色の悪い男性を見た。 なぜか二人とも俺をにらんでいるように見える。


 やっぱり顔色の悪い男性は、やはりどこかで見た事がある気がする。


 俺の前に審査員5人がずらりと並ぶ。

「シーク殿、紹介しましょう。 こちらがゴブリンキングのギブブ殿ですじゃ」

 顔色の悪い男を指した。

「あっ! 思い出した! ホブゴブリンのゴブブさんに似ているんだ!」

 思わず声を出して言ってしまった。

「ゴブブ? 奴を知っているのか?」
「あ······はい······ゴブリン村でお世話になったので······知り合いですか?」

 なんだか高圧的で少し怯む。

「ゴブブは兄だ」
「えっ?!」
「いまだにゴブリン村でくすぶっているのか」

 ちょっと半笑いで、バカにしているように見えた。

「そういえば、ゴブリンに世話になったと言っておられましたの。 ギブブ殿のお兄さんにお会いになっていましたか」

 ガドルがそう言ったのを聞いて、ギブブは一段と不機嫌そうだ。

 なんで?

 俺がそんなギブブを気にしていると、ガドルが笑い出した。 

「フォッフォッフォッ! ギブブ殿はシーク殿がギブブ殿の召喚したゴーレムを一瞬で倒されたので、少々ご機嫌が斜めですな」

 それが原因?

「えっ! すみません」

 しかし、ゴブリンキングってそんな事もできるんだ。

 知らなかった

 俺が謝ると、ギブブは少しばつが悪そうに下を向いた。
 ガドルがフォフォフォと笑う

「いやいや謝ることはありませんぞ。 倒されるために出したのじゃから、気にされますな。 そしてこちらがアージェスですじゃ」

 小柄な女性は、真っ黒で長い髪を、右上で一つにまとめている。
 女性用の鉄の胸当てをしている以外はレースがあしらわれたピンクの可愛い服で、足首で絞られたパンツもレースがついていておしゃれだ。
 20代半ばくらいでパッチリした目が可愛らしい。

 アージェスはまとめた髪をいじっている。

「よろしく なっ!!」

 ガキン!!

 どこから出したのか、身の丈ほどある大剣を頭上から突然振り下ろしてきたが、俺は反射的に剣を抜いて受け止めた。 しかし、俺の手にはいつもの剣ではなく、でかい大剣が握られている。

 いつもと違う感覚に驚いた。

『レイ?』
『大剣には大剣じゃないと。 折れるとマーに当たるから』

 ペロリと舌を出す。

「よく受け止めたな」

 アージェスはニッコリと笑って剣を背中に戻すと、大剣が小さくなって普通に背中に担いでいた鞘に収まった。
 俺の剣も、普通サイズに戻っている。

 俺の剣は分かるけど、アージェスの剣はどうなっているのだろう?

「アージェス、満足ですかな? それでは、宣言いたしますぞ」

 というより、ガドルの方が満足そうに見えた。



 ガドルに促され、ギルクが二本の旗を高々と上げると、会場がシンと静まり返った。


「シーク殿! Sクラス、合格!!」


 どうやったのか、会場中にガドルの声が響き渡った。


 再び会場が割れんばかりの歓声に包まれた。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇



 一旦、審査員たちと控室に戻る。

「改めて、シーク殿、おめでとうございます。 明日、資格証を取りに来て下され。
 寄宿舎に入れるのも明日からになりますが、シーク様は今どちらにお住まいですかの?」

「フェンリル商団にお世話になっています」
「そうですか。 あの男は強欲じゃが悪い男ではないので安心ですのぉ。 レイ殿とフェンリル殿もお疲れじゃったのう」

「本当にこのバカの世話は手を焼く」

 フェンリルは大きくため息をつく。


······フェンリル、ありがとう······

 声には出さないが、心の中でささやいた。


 聞こえてる?


 フェンリルを見ると、少し照れているように見えた。 可愛い奴め!


 ギブブとアージェスは例のごとく驚いている。

「フェンリル? あのフェンリル?」

 アージェスは俺とフェンリルを見比べる。

「そうですじゃ」
「なぜ? ······なぜ霊獣が人竜に従っている?」

 アージェスは投げ捨てるようにフェンリルを見た。

 その言い方が気に入らなかったのか、フェンリルは牙を剥いてアージェスを睨む。

「お前の知った事か!」


 ガルルルル!


 フェンリルとアージェスは顔を突き合わせてにらみ合っているので、俺は間に割って入った。


「まあまあ、そういう事になってしまったんです。
 ところでアージェスさんは人間ですよね。 という事は、人間最強ということですか?
 他にもSクラスの人って沢山いるのですか?」

 クルリと俺に向き直った時には満面の笑みを浮かべていた。

 アージェスは機嫌が直ったようだ。 ものすごく鼻高々な顔をしている。

「よく気がついたな。 この国のSクラスの人間は、私ともう一人だけだ」

 という事は、人竜族は俺を入れて4人、ゴブリンキングが1人、人間が2人の7人しかSクラスっていないのか。

 傭兵資格を取っていない実力者もいるだろうが、そう多くはないだろう。


 もう一人って誰だろう?


 それを聞こうと思ったら、ハッ! と、何かに気付いたギブブが違う事を聞いてきた。

「シーク殿。 ゴブリン村に行ったという事は、もしかしてゴブリンたちに加護を与えていただけたのですか?」
「多分······そうなっていると思います」

 そうか、兄弟と言っていたからやっぱり心配だったんだな。

 ギブブが突然ひざまずいた。

「ありがとうございます。 あそこには私の家族がおります。 今、各地で起こっている異変から護っていただけたことを感謝いたします」


 たまたまそうなっただけだけど、結果的にそうなったのだから、そういう事だよな。


「そうなって良かったです。 立ってください」

 キブブを抱え起こす。

「ギブブとやら、もう一つ驚くことがあるぞ」

 フェンリルがなぜか嬉しそうに言う。

「驚く事とはなんですか?」
「あそこの村の者たちは、霊獣の肉を食った」

「えっ?······えぇ~~~~~っ!! では······」
「確実に進化しているな」
「進化······ではゴブブも······」

 すごく複雑な表情をしている。 喜んでいるのか、悔しがっているのか、よく分からない。


「ささ、もうよろしいですかな? シーク殿はこれからどうされますかな? ご希望なら宿舎の一室を開けてもらう事も可能ですが」

「いえ、 とりあえず戻ります」

「わかりました。 それでは解散しますか。 外でみんながシーク殿を待っていると思いますので、行ってあげて下され」



「ありがとうございました!」



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