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9章 回復魔法

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9章 回復魔法


 池がある中央の広場に出ると、一つの横穴から凄い勢いで土煙がふきだしていた。

 穴の前に行ったが、土煙で中が見えない。

『風!!』

 中に充満していた土煙がこちらに噴き出し、思わず目を覆い隠す。

 目を開けると、通路の奥にある広まった場所に山のように岩が崩れ落ちているのが見えた。

 逃げ出してくるドワーフたちをかきわけ、急いで駆け込むと、多くのドワーフが瓦礫の下敷きになり、うめき声と助けを求める声で充満している。

 上からは、いまだにパラパラと瓦礫が落ちてきていて、いつ再び崩れ落ちてくるかわからない状態だった。

『岩! 岩! 岩! 岩!!········』

 壁から天井にかけて岩を積んでいき、全体を補強した。 これで崩れ落ちてくる心配はない。

『消えろ! 消えろ! 消えろ!!······』

 重なり積まれた瓦礫が崩れ落ちないように、上から順に岩を消し、最後に下の方の大きな岩をまとめて消した。



 そこには凄惨な光景が広がっていた。

 一面血の海で、岩に押し潰されグチャグチャになっている者や、腕や足が千切れて吹き飛んでいる者など、目を覆いたくなるような光景だった。


『俺に回復魔法が使えれば······』

 後ろからドワーフたちが助けに駆けこむが、俺はその悲惨な光景に身動きができず、立ち尽くしていた。

 キュイ!キュイ!

 レイがやけに鳴いているが今の俺の耳には入らなかった。

『······どうにかできないのか······』

 キュイ! 

 レイが俺の腕をつつき、ハッと我に返った。

『どうした? レイ······あっ! もしかして、俺は回復魔法が使えるのか?』

 キュイ!!

 すると、手から水が流れ出る。

 思い出した! 湧き水で頭を洗った時、すぐに痛みが引いた事を。

『水か?!!』

 キュイ!!

『フェンリル!! ありったけの桶やナベを持ってこさせろ!!』

 それだけ言うと俺はケガ人に向かって走り出した。

 一番近くにいた腕をケガしているドワーフの腕をつかみ『水!』と唱え傷口にかけた。
 すると、見る間にキズが治っていく。

『いける!!』

 フェンリルに言われて運んでこられた桶に水をためた。

『フェンリル! この中にケガをした部分をつけるように言ってくれ!!』


 次々に水をためていく。 その様子を見ていたドワーフはもっと大きな体ごと入れるような大きな器を運んできた。

 全身傷だらけの(ほとんど潰れている)者もみんなで抱えて回復の水につける。 頭部や顔をケガしている者には、手桶で水をかけたり、濡らしたタオルで拭いたりしている。

 残念だが、すでに死んでしまった者には効き目がない。 手の空いている者は死体を部屋の隅に並べていった。



 ほとんどのケガ人が水につかった。 成り行きを見守る。
 すると、血で真っ赤に染まっていた回復水が、少しずつ透明に戻って行く。 

 回復水が完全に透明になったとき、一人のドワーフが立ち上がった。

「なおったぞい!! かんぜんになおったぞい!!」

 一人のドワーフがそう叫んだのを皮切りに、あちらこちらで治ったと小躍りしている。

 ただ、いくらなんでも千切れた腕や足までは再生しない。 傷口や痛みがなくなっただけでも良かった。

 次々にお礼を告げに俺の所にケガをしていたドワーフが集まってきた。

 人差し指と中指がなくなっているドワーフが俺の元に来た。

「ありがとうごぜいやす!! ゆびが2ほんくらいなくてももんだいないでやす。 ほんとうにありがてえでやす!」

 そう言って見せた指の傷口が少し盛り上がっている。 傷口がふさがったときに皮膚が盛り上がっただけかとも思ったが、試してみる価値はある。

 そのドワーフの手をつかんで回復水が入った桶につっこむ。

「もうだいじょうぶでやすよ?」
『フェルリン、このままつけておくように言ってくれ。 大回復水!! 大回復水!!』

「このまま浸けておけといっている」
「へい」

 不審そうにしながらも、言われたとおりにじっとしているドワーフが、目を見張り出した。
 
 ただ盛り上がっていただけと思っていた指がどんどん伸びてくる。 2本の指の形ができてきて、最後には爪までちゃんと生えてきた。

 周りには人だかりができていたが、驚きすぎて誰も声も出さずに固唾をのんで見守っている。

『指を動かせるか?』
「指を動かしてみろ」
「へ······へい」

 手を開いたり閉じたり、自由に動いた。

「うごくでやす!! ゆびがはえてきたでやす!! カゴシャサマ!! ありがとうごぜいやした!!」
「「「わぁ~~~~~っ」」」

 まわりから歓声が起きた。

 傷口が治って水から出していた者たちは再び水に千切れた手や足を突っ込む。
 俺は『大回復水!! 大回復水!!』と、それぞれの桶に大回復水を足していった。



 最後に両足が切断されていたドワーフが立ち上がり、飛びはねてみせる。 再び歓声が起こり、みんなで飛び跳ねながら抱き合った。

 これで息があったドワーフは全て元通りの体になった。


 ずっと横から見ていたグノームが、俺の前に膝をついた。 他のドワーフたちも一斉にひれ伏す。

「なんと御礼を申し上げてよいのかわかりません。 ドワーフと土の精霊は、貴方様に忠誠を誓います。 他になにかお望みはございますでしょうか? 何でもおっしゃってください」

 望みと言われても、別になにもない。

『腹減った』
「腹がへったとよ」

「えっ?······」一瞬グノームは呆気に取られていたが、ニッコリと笑い「すぐに」と、ドワーフに視線を送ると、数人が走って出て行った。


『あっ! こんな時に不謹慎かな?』
「なにがだ?」
『沢山のドワーフが死んだのに······』

 十数人のドワーフが犠牲になった。

「お前知らないのか? ドワーフは地の妖精だ。 死んだら土に返る。 会えなくなるのは寂しいが、元の世界に戻れることは喜ばしいことなんだ」


 知ってる訳ないだろうが!······



 その日の晩餐は贅を尽くされ、これでもかというほど豪勢な料理が並んだ。 
 ゴブリン村の時とは次元が違う······いや······あれはあれで美味しかったけどね。

 酒もある。 どうやって作ったのか聞いてみた。 難しくて理解は出来なかったが、咀嚼して吐き出したのではないことは明らかだったので、ありがたくいただいた。

 ドワーフの酒は美味い。 料理も凄く美味い!!
 レイも嬉しそうにバクバクと食っている。 趣味でそんなに食うなよ。 


 まぁ、嬉しそうだからいいか。


 よく見ると女性がいない。 こっそりと聞いてもらおうと思ったら、フェンリルに笑われた。 聞かれるとまずいと思ったのか、心の中で話してきた。

『バカめ! ここにいる半分は女だ。 俺にも見分けがつかんが、ドワーフは男も女も見た目は同じだという事は常識だぞ』

『そんな常識は、記憶にない!』
「ハハハハハハ! 便利な記憶だな」

 そうなのかと思って周りを見たが、やはり見分けがつかなかった。


 ちょっとショック。




 崖の下で記憶を失って倒れていた時からずっと野宿だったが、初めてまともなベッドに寝た。 バネが効いていて物凄く快適だ。 
 なぜかフェンリルにまでベッドを用意してくれている。 


 狼なんて床で十分なのに······


「これからどうするんだ?」

 気持ちよさそうにベッドで丸まっているフェンリルが聞いてきた。

『う~ん······このままここで暮らすのも悪くないが、そうもいかないしなぁ···とにかく人間の街に行きたいな。 俺の事も何か分かるかもしれないし、記憶を取り戻すきっかけがみつかるかもしれないし······ふぁ~~~~』

 大あくびが出た。 今日は特に疲れた。 魔法を使いすぎたせいかもしれない。 体がだるい。

 そう考えているうちに、俺はすでに眠りについているレイを抱いて眠っていた。



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