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四葉のクローバー

伝えなきゃいけない事

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僕はポケットから『腕時計』を出した。雪見は怪訝そうな顔をして覗き込んだ。だが、すぐに『あの時の腕時計』だと思い出したようだった。そして僕は雪見に『腕時計』を渡して独り言のように語り始めた。

「僕の友達にね、名前は言わないけど面白いやつがいるんだ。そいつは今までの人生で会ったこともないような性格でさ。本当に面白くて面白くて。そんな奴が神妙な顔つきでタバコふかしながら悲しそうな顔で語ったんだよ。その内容は後から菜央さんの事だと分かったんだけどさ」

僕は雪見の顔を見てニカッと笑った。彼女は『腕時計』を握りしめて瞳を潤わせながら僕を見て、こう言った。

「続けてくれる?」

僕はその要望に答えた。

「実は電車に飛び込む前に会った人物がその友達だったんだ。それでさ、そいつが菜央さんに一目惚れしたらしく、アプローチしまくったらしいんだ。言い忘れてたけど友達は話も面白い奴だから、菜央さんは笑ってたらしいよ。本人談だから盛ってるかもしれないけどね(笑)。別れる間際……彼女はこう言ってたらしいよ。『今まで嫌なことばっかりだったけど、嬉しいことが二つから三つになった』って。僕は雪見の話を聞いて、嬉しいことって『雪見と出会ったこと』、『雪見からのメールが来た事』だったんじゃないかな?」って思ってる。

その言葉を聞いた瞬間、雪見は嗚咽して膝から崩れ落ちた。そう思ったことがなかったんだろう。今まで自分のせいで菜央さんが死んだ。自責の念に駆られる毎日だったのかもしれない。そこは僕には分からない。むしろ知らない方がいい事もあると思う。雪見に声をかけようとした瞬間、「パキパキッ」という音がした。右手を見ると鎖が全て粉々になって消えていた。勿論雪見に繋がれている鎖も。そして足に絡みついていた川名の鎖も砕けていた。するとザシコが耳元で

「どうやら小娘の本音を言葉ではないが感情を引き出せた、それが鎖の粉砕に繋がったみたいじゃの。それとバイク小僧の話を小娘に伝える事がバイク小僧の鎖の破壊の条件だったみたいじゃ」

「なるほど。というより鎖の件忘れてたわ」

「お主らしいの」

僕は跪いて雪見の肩をポンっと叩いた。涙で赤くなっている彼女に

「帰ろっか」

と優しく諭した。涙を拭いながら

「ゔん」

と言って立ち上がり、僕達は再び歩き出した。歩きながら僕は大切なことを思い出した。

「雪見、『腕時計』持ってる?」

「うん」

「自分のも?」

「もちろん!つけてるよ!」

「そっか。余計なお世話かもしれないけど、菜央さんの時計……見てみてくれる?」

「??分かった見てみる!………動い……てる??」

「菜央さんのご遺族から預かった時に許可をもらったんだ。『時計を動かしてもいいですか?』って。そしたら『雪見ちゃんのためにも菜央のためにもお願いします』って逆に頼まれちゃったよ。菜央さんが亡くなった苦しみと同じくらい親友が苦しんでるのはご遺族からも辛いんだろうなぁ。だからというわけじゃないけど、雪見のその時計、動かしたら?菜央さんに置いていかれちゃうよ?」

雪見は瞳を閉じて何かを考えた後、深呼吸をして

「私、頑張らなきゃね」

そう自分に言い聞かせるように前を向いて言って、一歩一歩踏み締めるように歩き出した。その姿は巣立ちをするような鳥に見えた。

「あの小娘、一皮も二皮も剥けたの」

ザシコが何故か嬉しそうにニコニコしていた。
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