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四葉のクローバー

ザシコのじゃれ合い

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鈍い地響きがこだまする。その度、刺してある風車が倒れていく。ここは恐山。さまよえる魂が集う場所。




「おいおいおい~さっきまでの気迫はどうしたぁ!怖気付いたか?怖気付いちゃったか~?分っかるぅ~!俺つえ~もん。どれくらい強いかっていうとぉ~こ~ぐ~らぁ~いぃ~!!!!!」

《秘鬼 鬼火降槍(ヒキ オニビコウソウ)》

天邪鬼の身体中から放出された青白い炎が空へ集まり、槍のような形になってザシコに降り注いだ。一本の槍を避けても次の槍が降り注ぐ。そして降り注いだ槍は、まるで磁石に引きつけられるように横からもザシコを襲う。ザシコの剣捌きとスピードで、全ての槍を絶妙に交わし、攻撃は殆ど受けてはいなかった。しかし、高部(天邪鬼)に近づくことができずにいた。

「くっ、本来ならこんなに操れるはずがない。本当に何人の魂を喰らったというのだ!しかもちゃんと計算して動かしておる。少しはやれそうじゃの」

「へいへい、俺退屈だよぉ?俺から攻撃しに行っちゃおうかぁ?あっ、そうだ。おーいガキ~!暇だからさぁ、先にお前のご主人様達食べるね!」

「貴様、死ぬか?」

ザシコがそう発した瞬間、天邪鬼が悲鳴を上げた

「がぁぁぁぁぁぁぁ、な、なんだ、槍!?俺様の槍か!!うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドスドスドスドスドスドスドス

ザシコを標的に攻撃していた槍が天邪鬼へと次々と刺さった。

ザシコが逃げている様に見せかけつつ巧に槍を引きつけ、天邪鬼へと少しずつ間合いを詰めて近づいていた。そして頃合いを見計らって、一気に近づき、梅雨の刃先のみで槍の方向を変え、天邪鬼へと矛先を向けたのだ。

「ヴァ、ヴァカな!四方八方から来る炎の槍を刃先だけで変えただと!?はっ!おもしれぇ、これからだぜ!」

ズバババババッ

「これからだぜ!」と天邪鬼が喋っている最中、奴の顔をあっという間に切り刻んだ。

『闘舞 無様切梅(トウブ ブザマセツバイ)』 

「ただ切られたいお前さんにはこれで十分じゃ。さあ立て、食った魂をこの刀で供養してやろうぞ」

そういうとザシコは足を肩幅まで広げ、短刀を逆手に取った。


一方、雪見の介抱のおかげでみるみる内部の傷も外部の傷も治癒していた。身体はまだ痛みが残るので少し雪見と話をした。

「雪見はザシコを認識できるんだね!」

「うん、真人君が高部君にボコボコにされている時に服を引っ張られて、そしたら可愛い女の子がいて、そこからは作戦を聞かされて……です、はい」

「ん~なるほどね。それにしても、もうちょっとやれる気がしたんだけどなぁ。ボコボコにされるのは分かってたけど、此処までくるとぐうの音もでないな笑」

「本当だよ!死んじゃうんじゃないかって……もう馬鹿」

雪見は僕のほっぺを突いた。

「いや、でも治し方は任せろって言ってたけど……ほら……」

しばらく二人は恥ずかしそうに黙りこくってしまった。

「あ、ああそうそう、これからのことなんだけどいいかな」

僕は何とかこの状況を打開しようと話を再開させた。

「う、うん、真人君が回復するまでザシコちゃんが戦ってくれてるんだよね?でもザシコちゃん、あんなに体格差があるのに大丈夫かな……」

手を口に当てて心配そうに遠くを見つめる雪見に

「大丈夫さ。何で?って聞かれたらうまく答えられないけど、それでもザシコはやってくれるんだよ」

「ふふっ、そうなんだ」

「だからこっちはこっちで頑張らないとね」

「うん、そうだね!」

「だから、雪見……君に酷なことを伝えなきゃならないんだ。まず、ここってどこだと思う?」

雪見は改めて周りをキョロキョロ見渡し、仄暗い灰色の空を眺めた後に言った。

「禍々しい感じとか、風車とかどこか寂しい感じ……地獄?とも違うような……」

「ここはね、仮想の恐山なんだ。青森県にある恐山とは違うみたい」

「そう……なんだ……でも何で恐山?」

「僕は一度ここに来たことがあるんだけど、この恐山は三途の川みたいな位置付けなんだよ」

「三途の川……」

雪見は大体は理解していたみたいだった。察しが良いのか《この後の展開》まで予想している気がしていた。でも、口に出さなかったのは、《その展開》を望んでいなかったせいかもしれない。どちらにしろ答えは雪見しか判り得ない。

「雪見、身体もかなり癒えたみたいだから、ザシコの所まで行こうか」

雪見に介助をしてもらって、バキバキになった身体を起こしてもらった。そして、先程の話の続きをした。

「いててて!ふぅ~。いいかい雪見、高部には地獄に行ってもらう」

「えっ?……」

雪見はあまりの衝撃的事実に固まってしまったが、僕は振り向きはせず、歩み続けた。どうやら雪見の『想像していた展開』とは違ってた様だった。
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