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四葉のクローバー

漢の責務

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ザシコとの密談の次の日、いつもの日課である母の入院している病院へと行った。母の顔色は薬などが効いているおかげなのか、少し良いように思えた。しかし、病院内に鳴り響くナースコール、唸り声、その他の雑音は僕に不安を与えた。午後に兄貴が到着すると、親父が

「先に帰ってろ」

と言った。冷たいように聞こえるが、大体察しはつく。部屋が狭くなるからだ。千円を渡され、

「それでなんか買い食いして帰ってろ。な?」

僕はその千円を握りしめ、食事処へは寄らず、菜央さんが自殺した場所にあるお地蔵様の所へと寄った。というのも、前回は横槍が入ったせいで、ちゃんと拝めなかったこともあり、後ろめたさがあったからだ。花を買うお金はないけど、せめて気持ちだけでも伝えたかった。
駅に着き、徒歩でお地蔵様へと向かっていると、遠目から老夫婦がお地蔵様の前で拝んでいる様子が見えた。僕はそっと近づき、眺めていると、老人が

「何か御用かね?」

と尋ねてきた。

(しまった!不審者に思われる!!)

僕はその場をどう取り繕うかと考えたが、発した言葉は違った。

「僕は二木と申します。そのお地蔵様に拝みに来ました。ある女の子の供養なものも兼ねてです」

老夫婦は僕の肩を掴み

「菜央の友達なのか!?」

とその顔は驚きと喜びと哀しみが混じったような、何とも言い表し難い表情だった。

「いえ、直接は関係はありませんが、菜央さんの親友の方と友達で、色々とありまして、一応無関係ではありません。奈央さんの事はその友達からお聞きしております。残念でなりません」

僕はそう言って頭を下げた。果たしてこの言葉がこの方々に理解してもらえるのだろうか。僕なら間違いなく疑う。友人の友人、つまり他人で一回も会ったことがない輩がわざわざそのような事をするだろうか?いや、九割の人はしないだろうし、そのような発言を怪しく思うであろう。しかし、ご老人方は違った。そして思わぬ言葉を発した。

「もしかして、その友達とのいうのは『雪見ちゃん』のことかい?」

「!?はい!!」

「そう……」

「あの子、まだ気にしてたのね……」

「ええ、自分のせいだとずっと責めておりました」

「あの子はまだ若く、まだまだ人生は長い。このままでは身が持たんじゃろに……」

「僕は、彼女を救ってあげたいんです!もし、彼女を責め続けている方がいるとしたら、彼女の盾となり守りたい。菜央さんの性格は雪見から聞きました。彼女が仮に雪見に声をかけるとしたら『馬鹿じゃないの!』。そういうと思うんです!菜央さんのせいで雪見が苦しむなんて……双方が悲しすぎる……あんまりだと思うんです!!」

僕は思いの全てをぶちまけた。

すると御老婆が

「ついておいで、アンタには『温かみ』がある。仏壇で拝んでくれんか?老婆の頼みじゃ」

僕はポカーンとしてしまったが、老爺が背中をポンと叩いて促した。家に行くまでは奈央さんの話ばかり話していた。

(やっぱり雪見の言う通り、愛されキャラだったんだなぁ)

そう思いながら話を聞いた。

家の外装は、いかにも昭和の主屋という感じだったが、中は意外と綺麗だった。居間には菜央さんの遺影と仏壇と「ある物」が置いてあった。僕は無理を言ってお二人に土下座で頼み込んだ。

「この物を少しの間だけお借りできないでしょうか?今日会ったばかりの訳もわからない男ですが、約束は守る自負はあります。雪見を、菜央さんを救いたいんです!!どうか、どうかお借りする事はできないでしょうか!」

御老人達は顔を見合わせ

「顔を上げなさい」

と言い、『その物』を手渡してくれた。そして

「雪見ちゃんを救う。漢なら一度言った事は貫き通せ!いいね?」

僕はもう一度土下座をして

「ありがとうございます!救って必ず返しにきます!」

老夫婦の自宅を後にして、『その物』を握りしめて駅まで走った。何故走ったのかは分からない。でも、この逸る気持ちを走る以外に放出する術が見当たらなかった。
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